総胆管結石症の症状と治療薬
総胆管結石症は、胆管内に結石が存在する疾患です。胆嚢結石症と異なり、総胆管結石症は無症状であっても治療対象となります。これは、総胆管結石が急性胆管炎や急性膵炎を引き起こす危険性が高く、重症化すると生命を脅かす可能性があるためです。本記事では、総胆管結石症の症状、診断方法、そして治療薬を含めた治療法について詳しく解説します。
総胆管結石症の主な症状と発症メカニズム
総胆管結石症の症状は多岐にわたりますが、典型的な症状としては以下のものが挙げられます。
- 上腹部痛(胆道仙痛):心窩部(みぞおち)や右季肋部(みぞおちの右側)に強い痛みが生じます。特に食後30分から2時間の間に起こることが多く、脂肪の多い食事後に悪化する傾向があります。
- 発熱と悪寒:結石により胆管が閉塞し、細菌感染が起こると急性胆管炎を発症し、38℃を超える高熱を伴うことがあります。
- 黄疸:胆管が閉塞されると、胆汁の流れが阻害され、皮膚や白目が黄色く変色します。
- 吐き気・嘔吐:上腹部痛に伴って、吐き気や嘔吐が生じることがあります。
- 急性膵炎の症状:総胆管の出口(十二指腸乳頭)は膵管と同じため、結石が膵臓にも炎症を起こすことがあります。この場合、上腹部痛が背中に放散し、持続的な痛みとなります。
発症メカニズムとしては、総胆管結石は以下の2種類に大別されます。
- 原発性総胆管結石:総胆管内で直接形成された結石
- 二次性総胆管結石:胆嚢内から総胆管に落ちてきた結石(より一般的)
総胆管は通常5〜6mm程度と細いため、小さな結石でも胆汁の流れを阻害し、症状を引き起こす可能性があります。特に危険なのは、急性閉塞性化膿性胆管炎による敗血症・菌血症で、意識障害やショック状態を伴う場合は緊急処置が必要となります。
総胆管結石症の診断方法と血液検査での特徴的所見
総胆管結石症の診断は、症状と血液検査、そして画像検査を組み合わせて行われます。
血液検査での特徴的所見。
- 肝胆道系酵素(AST、ALT、ALP、γGTP)の上昇
- ビリルビン値の上昇(特に閉塞性黄疸の場合)
- 細菌感染を伴う場合は白血球数増加とCRP値上昇
- 急性膵炎を合併している場合は膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)の上昇
画像検査。
- 腹部超音波検査:最初に行われることが多い非侵襲的検査ですが、総胆管結石の検出感度は高くありません。
- CT検査:胆管の拡張や周囲の炎症所見を評価できますが、X線透過性の結石は描出されないことがあります。
- MRI/MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影):非侵襲的に胆道系を詳細に評価できる優れた検査ですが、4mm以下の小結石の診断能は約70%にとどまります。
- 超音波内視鏡(EUS):小さな結石の検出に最も感度が高く、特に他の検査で診断が困難な場合に有用です。
- 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP):診断と治療を同時に行える検査ですが、侵襲性が高いため、現在では主に治療目的で行われます。
診断の流れとしては、まず非侵襲的な腹部超音波検査やMRCPを行い、結石が疑われる場合は超音波内視鏡で確認することが多いです。ERCPは治療を前提とした場合に実施されます。
総胆管結石症の内視鏡的治療と外科的治療の選択基準
総胆管結石症の治療は、内視鏡的治療と外科的治療に大別されます。現在の日本では、内視鏡的治療が第一選択とされていますが、患者の状態や結石の状況によって最適な治療法が選択されます。
内視鏡的治療。
- 内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)。
- 内視鏡を用いて十二指腸乳頭部を電気メスで切開し、胆管の出口を広げる方法
- 結石を取り出すための通路を確保する目的で行われる
- 全身麻酔ではなく、鎮静剤・鎮痛剤を使用して実施
- 内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)。
- 乳頭部をバルーンで拡張する方法
- ESTと比較して乳頭機能をより温存できる可能性がある
- 結石除去術。
- バスケットカテーテルやバルーンカテーテルを用いて結石を把持し、十二指腸内へ引き抜く
- 大きな結石の場合は機械式砕石バスケットで結石を破砕してから除去
外科的治療。
- 胆管切開結石摘出術。
- 胆管を切開して結石を摘出し、切開部を縫合閉鎖する方法
- 胆道鏡を用いて結石を確認することが多い
- 主に二次性総胆管結石(胆嚢から落ちてきた結石)に対して選択される
- 総胆管胃(腸)吻合術。
- 胆管を切断して結石を摘出した後、肝臓側の胆管を小腸や十二指腸と吻合する手術
- 主に原発性総胆管結石に対して選択される
- 総胆管は小腸と吻合する方が食べ物や腸液の逆流が少なく、術後トラブルが少ない
治療法の選択基準。
- 患者の全身状態:高齢者や合併症のある患者では、侵襲の少ない内視鏡的治療が選択されることが多い
- 結石の大きさと数:大きな結石や多数の結石では、外科的治療が有効な場合がある
- 胆嚢結石の有無:胆嚢結石を合併している場合は、内視鏡的総胆管結石除去後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う二期的治療が主流
- 解剖学的特徴:胃切除後など解剖学的に内視鏡アプローチが困難な場合は、外科的治療が選択される
現在の日本では、内視鏡的治療の確実性と安全性が評価され、多くの施設で第一選択とされています。特に高齢者や合併症のある患者では、全身麻酔を必要としない内視鏡的治療が身体的負担が少なく推奨されています。
総胆管結石症の治療薬とウルソデオキシコール酸の効果
総胆管結石症の治療において、薬物療法は補助的な役割を果たします。主な治療薬としては以下のものがあります。
1. ウルソデオキシコール酸(UDCA)。
- 胆汁酸製剤の一種で、胆石溶解効果がある
- 主にコレステロール胆石に対して効果を発揮
- 総胆管結石治療後の再発予防として使用されることがある
- 通常、600mg/日を6〜12カ月間内服する
ウルソデオキシコール酸の総胆管結石症に対する効果については、明確なエビデンスが確立されていません。一部の研究では、総胆管結石除去後の再発率がUDCA内服群で6.6%、非内服群で18.6%と、非内服群でやや再発率が高い傾向が示されていますが、統計学的有意差は認められていません。
現時点では、日本胆道学会による総胆管結石治療後の再発予防に関する臨床研究が進行中であり、その結果が待たれています。総胆管結石治療後にUDCAを投与するかどうかについては、明確な基準はなく、個々の患者の状態や再発リスクを考慮して判断されています。
2. 抗菌薬。
- 急性胆管炎を合併している場合に使用
- 胆道感染に効果的な広域スペクトルの抗菌薬が選択される
- 重症例ではメロペネムやシプロフロキサシンとメトロニダゾールの併用などが考慮される
3. 鎮痛薬・鎮痙薬。
- 胆道仙痛に対して使用
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痙薬が用いられる
薬物療法単独では総胆管結石を完全に治療することは難しく、内視鏡的治療や外科的治療と組み合わせて用いられることが一般的です。特に急性胆管炎を合併している場合は、抗菌薬による初期治療が重要となります。
総胆管結石症と急性胆管炎の合併症と緊急対応
総胆管結石症は、適切な治療が行われないと重篤な合併症を引き起こす可能性があります。特に急性胆管炎を合併した場合は、迅速な対応が求められます。
主な合併症。
- 急性胆管炎。
- 総胆管結石により胆管が閉塞し、細菌感染が起こると発症
- 典型的な症状はCharcot三徴(右上腹部痛、発熱、黄疸)
- 重症化すると敗血症やDIC(播種性血管内凝固症候群)に進行する危険性がある
- 高齢者では症状が非典型的で、いきなり意識障害として現れることもある
- 急性膵炎(胆石性膵炎)。
- 総胆管結石が十二指腸乳頭部に嵌頓すると、膵液の流出が阻害され発症
- 持続的な上腹部痛と血清アミラーゼ・リパーゼの上昇が特徴
- 重症化すると多臓器不全を引き起こす可能性がある
- 肝膿瘍。
- 胆管炎から進展して肝臓内に膿瘍を形成することがある
- 高熱と右上腹部痛が持続し、CT検査で診断される
- 閉塞性黄疸。
- 総胆管結石により胆汁の流れが完全に阻害されると発症
- 皮膚や白目の黄染、暗色尿、灰白色便などが特徴
緊急対応。
- 急性胆管炎に対する初期対応。
- 胆道ドレナージ。
- 急性胆管炎の重症例では、緊急の胆道ドレナージが必要
- 内視鏡的胆道ドレナージが第一選択
- 内視鏡アプローチが困難な場合は経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)や超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-BD)が考慮される
- 急性胆嚢炎合併例への対応。
- 急性胆嚢炎を合併している場合は、胆嚢ドレナージも考慮
- 経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)、内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)、超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD)などの方法がある
- 急性胆嚢炎と総胆管結石を合併している場合は、両方にアプローチ可能なETGBDが第一選択とされることが多い
- 結石除去のタイミング。
- 急性胆管炎の場合、まずはドレナージを優先し、感染が落ち着いてから結石除去を行うことが多い
- 感染胆汁を圧入して菌血症や敗血症のリスクを高めないよう注意が必要
総胆管結石症、特に急性胆管炎を合併した場合は医療緊急事態であり、適切な抗菌薬治療と早期の胆道ドレナージが生命予後を改善する鍵となります。重症例や合併症を伴う場合は、消化器内科医、消化器外科医、集中治療医による集学的アプローチが重要です。
総胆管結石症の予防と再発防止のための生活指導
総胆管結石症は、適切な治療後も再発のリスクがあります。特に二次性総胆管結石(胆嚢から落ちてきた結石)の場合、胆嚢結石が残っていると再発の可能性が高まります。ここでは、総胆管結石症の予防と再発防止のための生活指導について解説します。
1. 胆嚢摘出術の検討。
- 総胆管結石と胆嚢結石の両方がある場合、総胆管結石治療後に胆嚢摘出術を受けることが推奨されています
- 胆嚢結石が残っていると、再び総胆管に石が落ちてきたり、胆嚢炎を起こしたりするリスクがあります
- 一般的な治療法は「内視鏡的総胆管結石除去術 → 外科的胆嚢摘出術」の二段階アプローチです
2. 食生活の改善。
- 脂肪の多い食事を控える
- 過食を避け、規則正しい食事時間を心がける
- アルコールの過剰摂取を避ける
- 食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取する
- 水分を十分に摂取し、胆汁の濃縮を防ぐ
3. 体重管理。
- 肥満は胆石形成のリスク因子となるため、適正体重の維持が重要
- 急激な減量は胆石形成のリスクを高めるため、緩やかな減量を心がける
- 定期的な運動習慣の確立
4. 薬物療法の継続。
- 医師の指示に従い、ウルソデオキシコール酸などの薬物療法を継続する
- 特に高リスク患者(胆石の家族歴がある、胆管拡張がある、胆管に炎症や狭窄がある等)では重要
5. 定期的な検診。
- 総胆管結石症の治療後は、定期的な超音波検査やMRI検査による経過観察が推奨される
- 早期発見・早期治療により、重篤な合併症を予防できる
6. 危険因子の管理。
- 脂質異常症の適切な管理
- 糖尿病のコントロール
- 長期間の禁食(経静脈栄養)を避ける
7. 症状の早期認識と対応。
- 右上腹部痛、発熱、黄疸などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診する
- 特に高齢者では症状が非典型的なことがあるため、体調の変化に注意する
総胆管結石症の予防と再発防止には、これらの生活習慣の改善と医学的管理を組み合わせたアプローチが効果的です。特に胆嚢結石を合併している場合は、胆嚢摘出術の検討が重要となります。また、定期的な検診により、無症状の段階で結石を発見し、重篤な合併症を予防することが可能です。
総胆管結石症は適切な治療と生活習慣の改善により、良好な予後が期待できる疾患です。症状がある場合はもちろん、無症状であっても早期の治療介入が重要であることを理解し、医師の指示に従った管理を行うことが大切です。