外転神経根性麻痺の原因と診断
<% index %>
外転神経根性麻痺の症状と複視と内斜視
外転神経(第Ⅵ脳神経)は外直筋を支配し、眼球を外側へ向ける外転運動を担います。外転神経麻痺が起こると外直筋が十分に働かず、患側眼が内方に偏位しやすく、結果として内斜視と水平性の両眼性複視が前景に出ます。
両眼性複視の特徴として、片眼を遮閉すると複視が消失し、開眼すると再び複視が出現します。加えて、麻痺筋(外直筋)の作用方向、つまり患側への側方注視で複視が増悪しやすい点は、診察室での「気づき」を強く助けます。
臨床では患者が無意識に頭部を回旋させ、複視が軽くなる視線方向を探す頭位異常(代償姿勢)が観察されることがあります。頭位異常は「症状の訴え」よりも先に視診で拾えることがあり、問診・診察の効率を上げます。
一方で、外転障害に見える所見が「共同性斜視」など別機序の内斜視で説明できる場合もあり、片眼遮閉での眼球運動評価など基本に立ち返る必要があります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0d48742e18aeb053ffa988833adef36520e2b2e7
鑑別の観点では、動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺はいずれも複視を起こし得るため、「複視の方向(水平・垂直・回旋)」と「最もつらい注視方向」を丁寧に確認します。
複視に加えて眼瞼下垂や瞳孔異常があれば、外転神経単独よりも動眼神経を含む複合病変を疑い、病変局在と緊急度の再評価が必要です。
外転神経根性麻痺の原因と脳幹内と脳槽部
外転神経麻痺の原因は、外転神経の解剖学的走行に沿って整理すると理解しやすく、検査計画も立てやすくなります。代表的には「脳幹内」「脳槽部」「Dorello管」「海綿静脈洞」「上眼窩裂」「神経筋接合部」「筋」などに分けて捉えます。
脳幹内(橋)レベルの障害では、外転神経核や神経線維束の障害パターンが問題となり、脳梗塞・脳出血・腫瘍・脳膿瘍・脱髄性疾患などが原因として挙げられます。ここが障害されると外転神経麻痺「だけ」でなく、水平注視障害や他の脳神経核障害が併発し得るため、神経診察で「単独かどうか」を厳密に見る価値が高いです。
脳幹内病変が疑われる場合、CT・MRIで診断が比較的容易とされ、発症様式(急性か亜急性か)と合わせて緊急度を判断します。
脳槽部(くも膜下腔を走る区間)は、外傷、糖尿病などの神経虚血、血管性圧迫(動脈瘤を含む)、腫瘍性病変、炎症性疾患、頭蓋内圧亢進など、多彩な原因が並びます。臨床的にはこの領域の病変は外転神経単独麻痺として現れることがあるため、「単独だから安全」と決めつけない姿勢が重要です。
意外に見落としやすい論点として、脳動脈の解離性動脈瘤は症状が強い例だけでなく、軽微な頭痛~無症状に近い経過で偶発的に見つかる例があるとされます。頭痛が軽いからといって血管病変を最初から除外すると、外転神経麻痺の背景疾患の探索が遅れる可能性があります。
また、外転神経麻痺が「神経虚血」由来とされる場合でも、画像で虚血を直接証明できないことが多く、他疾患の除外が診断の骨格になります。
外転神経根性麻痺のDorello管とGradenigo症候群
外転神経は頭蓋底でDorello管を通過するため、錐体尖端部や周辺構造の炎症・腫瘍の影響を受けやすいと整理できます。Dorello管レベルの代表的な臨床像として、Gradenigo症候群(中耳炎・外転神経麻痺・三叉神経痛)が知られています。
Gradenigo症候群では、中耳炎が錐体尖端部へ波及し、外転神経に炎症が及ぶことが機序として説明されます。臨床ではCTで錐体尖端部の膿瘍形成が確認されることがあるため、耳症状や側頭部痛、顔面痛の情報を問診で確実に拾い、画像検査の部位選択に反映させます。
近年は感染由来だけでなく腫瘍浸潤によるGradenigo症候群が多い可能性も示されており、「抗菌薬で説明できない経過」や「体重減少・鼻咽頭症状」などがあれば、より広い鑑別が必要です。
頭蓋底腫瘍の観点では、外転神経は蝶形骨洞と密接するという特徴があり、斜台部の髄膜腫・脊索腫などに加え、上咽頭腫瘍でも外転神経麻痺が出現し得ると整理されます。とくに上咽頭腫瘍は複合神経障害として現れることが多いとされ、外転神経「単独」に見えるかどうかの再チェック(V1/V2領域の感覚、Horner徴候など)が診療の質を上げます。
この領域の診療では、「耳鼻科的な症状が弱い」ことが逆に落とし穴になります。患者が複視だけを主訴に来院しても、耳痛や耳漏、鼻症状、顔面痛といった随伴症状を系統的に確認し、Dorello管周辺の病変を拾い上げる設計が安全です。
参考:外転神経の走行別に原因疾患(Dorello管、Gradenigo症候群、頭蓋底腫瘍など)がまとまっており、鑑別の枠組み作りに有用

外転神経根性麻痺の海綿静脈洞と上眼窩裂
海綿静脈洞は眼球運動に関わる脳神経が密集するため、ここで病変が起きると外転神経麻痺に加えて複数の脳神経症状が同時に出やすい領域です。原因としては巨大動脈瘤、Tolosa-Hunt症候群、腫瘍、血管炎、サルコイドーシス、感染などが挙げられます。
上眼窩裂でも腫瘍や真菌などの感染症が原因となり得るため、免疫状態や副鼻腔症状、眼窩周囲痛の情報は見逃せません。
医療従事者向けに強調したいのは、「外転神経麻痺=眼科だけ」ではない点です。原因の中には感染・炎症・腫瘍・血管病変が含まれ、しかも部位によっては進行で視機能だけでなく生命予後に影響し得るため、赤旗所見の有無で検査と連携を切り替える必要があります。
赤旗所見の例としては、強い頭痛や眼窩痛、複数の脳神経障害、急性の神経学的所見の付随などが臨床的に重要になります(病変の局在が海綿静脈洞〜頭蓋底に寄るほど「単独で済まない」可能性が上がるためです)。
診療現場で実務的に役立つ工夫として、外転神経麻痺を見たら「目の症状」だけで終えず、以下を最低限チェックすると拾い上げ能力が上がります。
- 眼痛・顔面痛(特に三叉神経領域の痛み)
- 感覚障害(V1/V2領域)
- 眼瞼下垂や瞳孔所見(動眼神経・交感神経の関与示唆)
- 発熱・副鼻腔症状・免疫抑制(感染・真菌のリスク)
- 進行速度(時間〜日単位で悪化するか)
これらは海綿静脈洞や上眼窩裂を含む複合病変の可能性を上げる情報であり、結果的に画像検査の設計(脳幹だけでなく頭蓋底・副鼻腔まで含める等)に直結します。
参考:外眼筋(外直筋を含む)と脳神経(動眼・滑車・外転)および複視・麻痺性斜視の説明があり、症状の言語化に有用
外転神経根性麻痺の独自視点:Ocular neuromyotoniaとDuane症候群
検索上位の解説は「原因疾患の列挙」や「複視の説明」が中心になりがちですが、臨床では“外転神経麻痺に見えるが別物”を知っているかで、誤診や不要な精査の回避につながります。その独自視点として、Ocular neuromyotoniaとDuane症候群は一度は押さえておく価値があります。
Ocular neuromyotoniaは、特定の外眼筋(群)の収縮が不随意あるいは特定の注視をきっかけに持続する異常眼球運動です。特徴的な臨床像から臨床診断が可能で、「知らないと診断できないが、知っていれば一目で気づける(snap diagnosis)」タイプの疾患として言及されています。
外転神経麻痺のように「動かない」病態だけでなく、「動きが固定されてしまう・発作的に偏位する」病態が紛れ得ることを知っておくと、患者の訴え(“一定ではなく波がある”など)を診断に活かせます。
Duane症候群は、外転神経が外直筋を適切に制御できず、動眼神経が外直筋を支配することで生じる先天性の疾患として説明されます。片眼の外転障害を示し、内転時の瞼裂狭小や眼球後退、いわゆる偽眼瞼下垂など、外転神経麻痺とは異なる「同時所見」が重要な手がかりになります。
医療従事者がこの鑑別を知っていると、後天性の外転神経麻痺と同じ流れで不必要な“緊急の原因検索”に進む前に、発症時期(幼少期からの違和感の有無)や特徴的所見で整理できる場合があります。
さらに「外転神経麻痺に見える内斜視」という落とし穴も提示されており、片眼遮閉で側方視を評価して外転制限が消えるなら、麻痺ではなく共同性の内斜視を疑うべきとされています。現場では忙しさから「外転制限=外転神経麻痺」と短絡しやすいので、基本手技の徹底が安全側に働きます。
| ポイント | 外転神経麻痺 | Duane症候群 | Ocular neuromyotonia |
|---|---|---|---|
| 見え方の軸 | 外転障害+内斜視+水平性複視が中心 | 外転障害に加え、内転時の瞼裂狭小・眼球後退など特徴所見 | 外眼筋の収縮が持続する“異常運動”として出ることがある |
| 臨床での落とし穴 | 単独麻痺でも頭蓋底・血管病変が隠れることがある | 後天性麻痺と誤認して過剰精査になり得る | 知らないと麻痺や斜視の別分類に吸い込まれる |