漿液性虹彩炎と診断と治療と合併症

漿液性虹彩炎と診断と治療

漿液性虹彩炎の要点(医療従事者向け)
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臨床像の核

前房セル・フレアを軸に、散瞳で虹彩後癒着を防ぎつつ、原因(感染性/非感染性)を早期に切り分ける。

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見逃しやすい落とし穴

ヘルペス性前部ぶどう膜炎は高眼圧を伴い得て、ステロイド単独だと遷延することがあるため、鑑別と検体戦略が重要。

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合併症の管理

続発緑内障・白内障・黄斑浮腫などは「炎症そのもの」と「治療(ステロイド)」の両面で起こり得るため、眼圧・水晶体・黄斑を系統的に追う。


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漿液性虹彩炎の症状とセルとフレア

漿液性虹彩炎は、臨床的には「前部ぶどう膜炎(虹彩炎〜虹彩毛様体炎)」の枠で捉えると意思決定が速くなります。

主所見は細隙灯での前房内炎症(セル、フレア)で、血液房水関門の破綻により蛋白漏出(フレア)と炎症細胞(セル)が前房に出現する、という病態理解が基本です。

症状は羞明、霧視、視力低下、眼痛(鈍痛が多い)などが中心で、前房炎症や毛様体炎症に紐づけて問診すると解釈がブレにくいです。

セルの記載は主観になりやすいため、国際標準であるSUN分類に準じて「1mm×1mmスリット光の1視野あたりの細胞数」でグレード化すると、チーム内共有と治療調整が楽になります。

例えば前房細胞は0、0.5+、1+、2+、3+、4+で定義され、治療開始の目安にも直結します。

「漿液性」という語が入ると軽症の印象が先行しがちですが、実臨床では虹彩後癒着や眼圧変動など“前眼部の機械的合併症”が早期から出るため、軽視は禁物です。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9497926927e7351eeee1b8a0da682a6d147c646e

漿液性虹彩炎の鑑別とヘルペスと高眼圧

漿液性虹彩炎で最初に決めるべき軸は、感染性(特にヘルペス)か、非感染性(自己免疫・全身疾患関連など)かです。

ヘルペス性前部ぶどう膜炎は片眼性に急性発症しやすく、豚脂様角膜後面沈着物・高眼圧・角膜浮腫・虹彩萎縮などを伴うことがあり、臨床像だけでも強く疑える場面があります。

さらに重要なのは、ヘルペスが原因の虹彩毛様体炎では「ステロイド点眼の単独投与では効果がなく、慢性化していくことがある」とガイドライン内で明記されている点で、見逃しやすい落とし穴です。

鑑別が難しい場合、前房水を用いたPCRによるウイルスDNA検出や、特異抗体測定が有用とされています。

CMVでは角膜内皮炎でcoin lesionと呼ばれる特徴的角膜後面沈着物がみられることがあり、臨床推定の精度を上げます。

高眼圧を伴うケースではPosner-Schlossman症候群なども鑑別に上がり得ますが、CMV虹彩毛様体炎は臨床的に同症候群と区別困難なことがあり、結局PCRが決め手になることがあります。

漿液性虹彩炎の治療とステロイド点眼と散瞳

前部ぶどう膜炎に対する局所治療の基本は、ステロイド点眼で炎症を抑え、散瞳薬で瞳孔管理(虹彩後癒着の予防)を行う、の二本柱です。

日本眼科学会のガイドラインでは、前房細胞が1+以上で0.1%ベタメタゾンリン酸エステルNaまたはデキサメタゾンリン酸エステルNaを1日4〜6回で開始し、同時に散瞳薬(トロピカミド+フェニレフリン合剤を1〜6回/日、場合によりアトロピン1回/日)併用が提示されています。

線維素析出や前房蓄膿など炎症が強い場合には点眼回数を増やし、改善を確認しながら漸減、必要に応じて低力価ステロイド(例:フルオロメトロン)へ切り替える流れが推奨されています。

散瞳が「眩しさ・調節麻痺」につながる機序(自律神経作用で瞳孔径と調節力が変化する)を患者説明に落とすと、アドヒアランスが安定しやすいです。

一方で、感染性ぶどう膜炎では原因微生物の検索と治療を並行しつつ、ステロイド点眼と散瞳薬で早期消炎を図る、と整理されています。

つまり“ステロイドは禁忌”ではなく、“原因治療の同時並行(順序と監視が重要)”という捉え方が安全です。

漿液性虹彩炎の合併症と虹彩後癒着と緑内障

合併症は「炎症そのものによるもの」と「治療(とくにステロイド)に伴うもの」を分けて監視すると、見落としが減ります。

炎症が強い前部ぶどう膜炎では虹彩後癒着が起こり得て、治癒後も瞳孔変形が残存することがあるため、初期から散瞳で予防する意義が大きいです。

眼圧変化も頻出で、ぶどう膜炎に続発する緑内障(眼圧上昇)は治療で正常化する例が多い一方、周辺虹彩前癒着など構造要因が絡むと改善しにくいこともあります。

ガイドラインでも、続発緑内障の原因として瞳孔ブロック(虹彩後癒着)、周辺虹彩前癒着による隅角閉塞、房水流出路の機械的閉塞/機能障害、さらにステロイド副作用による眼圧上昇が挙げられています。

またステロイド点眼は、白内障進行やステロイド緑内障の発症・進行に注意するよう明確に記載されています。

臨床運用としては「眼圧」「水晶体」「黄斑(OCT)」をセットで追うと、合併症が“起きてから対応”になりにくいです。

漿液性虹彩炎の独自視点と検体戦略

検索上位の一般解説では「ステロイド点眼+散瞳」で終わりがちですが、医療従事者向けには“検体をいつ、どの順で取るか”を事前に決めておくことが実務上の差になります。

特に、片眼性・高眼圧・角膜後面沈着物(色素を伴うことも)・角膜浮腫など「ヘルペスを疑う所見」が揃うときは、漫然とステロイドを増やす前に前房水PCRでHSV/VZV/CMVを同定できるか検討する価値があります。

CMV虹彩毛様体炎はPosner-Schlossman症候群と区別困難になり得るため、隅角所見や経過だけに頼るより、早期にPCRへ寄せる方が意思決定コストが下がります。

もう一つの“意外な盲点”は、治療効果判定を症状だけで行うと過小評価が起きやすい点です。

SUNの炎症グレードを使うと、「2段階改善」など客観的に“改善/悪化”を定義でき、漸減の速度や再診間隔の安全域を作りやすくなります。

さらに、レーザーフレアセルメータは前房フレア/セルの定量に用いられ、細隙灯所見と高い相関があるとされており、可能な施設では“治療反応の見える化”として有用です。

参考:ぶどう膜炎の診断・治療(ステロイド点眼、散瞳、感染性/非感染性、合併症、SUN分類などの標準化)が体系的にまとまっています。

日本眼炎症学会 ぶどう膜炎診療ガイドライン(PDF)

参考:血液房水関門、セル/フレア、虹彩後癒着、眼圧変化など、前眼部所見の病態生理と説明に使える基礎が整理されています。

日本アイバンク協会 ぶどう膜炎(PDF)