食道癌の症状と治療法と術前化学療法

食道癌の基本と治療

食道癌の基礎知識
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発生部位

食道癌は胸部中部食道に約50%発生し、次いで胸部下部、胸部上部の順に多く見られます。

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組織型

日本人の食道癌は約90%が扁平上皮癌で、腺癌は約7%です。近年は食道胃接合部腺癌が増加傾向にあります。

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予後

食道癌はI期で5年生存率78.4%ですが、進行すると予後が悪化し、IV期では8.7%まで低下します。

食道癌の発生メカニズムと解剖学的特徴

食道癌は食道の粘膜にある細胞ががん化することで発症する悪性腫瘍です。食道は咽頭と胃をつなぐ管状の臓器で、解剖学的には頸部食道、胸部食道(上部・中部・下部)、食道胃接合部領域に分けられます。2022年に改訂された食道癌取扱い規約第12版では、従来の腹部食道(Ae)の概念がなくなり、新たに食道胃接合部領域(Jz)が規定されました。

食道の壁構造は内側から外側に向かって粘膜(粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板)、粘膜下層、固有筋層、外膜に分かれています。食道の周囲には気管、心臓、大動脈、肺などの重要臓器が近接しているため、がんが食道壁を超えて進展すると、これらの臓器への浸潤が起こりやすいという解剖学的特徴があります。

食道癌の組織型は日本人では扁平上皮癌が約90%を占めており、欧米に多い腺癌は約7%程度です。しかし近年、逆流性食道炎に関連したバレット食道からの腺癌が増加傾向にあります。また、食道癌は多発がんの形態をとることもあり、同時に食道内の複数箇所に発生することがあります。

食道癌の症状と早期発見のポイント

食道癌は初期段階では自覚症状がほとんどないことが特徴です。しかし、がんが進行するにつれて様々な症状が現れます。早期発見のために注意すべき症状として、以下のものが挙げられます。

  1. 胸の違和感: 飲食物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛む、熱いものを飲み込んだときにしみる感じがするといった症状は、早期発見のために重要なサインです。これらの症状は一時的に消失することもあるため、継続的な観察が必要です。
  2. 嚥下困難(飲食物のつかえ感): がんが大きくなると食道内腔が狭くなり、食物が通過しにくくなります。初期には固形物のみがつかえる感じがありますが、進行すると軟らかい食べ物しか通らなくなり、さらに進行すると水分さえも通過しなくなります。
  3. 体重減少: 嚥下困難により食事量が減少し、体重が減少することがあります。
  4. 胸や背中の痛み: がんが食道壁を超えて周囲組織に浸潤すると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。
  5. 咳や嗄声(声のかすれ): 食道癌が気管や気管支を圧迫したり、声帯を調節している反回神経に浸潤したりすると、咳や声のかすれが生じることがあります。

これらの症状は食道癌以外の疾患でも生じることがあるため、これらの症状がある場合は、消化器内科などの医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。特に、リスク因子(喫煙、過度の飲酒、熱い飲食物の摂取など)を持つ患者では、軽微な症状でも注意が必要です。

食道癌の診断と病期分類の最新動向

食道癌の診断は、まず問診と身体診察から始まり、内視鏡検査、画像検査、病理検査へと進みます。診断プロセスの最新動向について解説します。

内視鏡検査の進化

上部消化管内視鏡検査は食道癌診断の基本です。近年、通常の白色光観察に加え、狭帯域光観察(NBI)やヨード染色法などの特殊光観察が普及し、早期食道癌の発見率が向上しています。特にNBIは微細な血管構築の変化を観察でき、表在性食道癌の診断に有用です。また、拡大内視鏡を併用することで、より詳細な粘膜表面の観察が可能となっています。

画像診断の発展

食道癌の進展度評価には、CT、MRI、PET-CTなどの画像検査が用いられます。特にPET-CTは原発巣の評価だけでなく、リンパ節転移や遠隔転移の検出にも優れており、病期診断の精度向上に貢献しています。また、超音波内視鏡(EUS)は食道壁の層構造を詳細に観察でき、壁深達度診断に有用です。

病理診断と分子マーカー

内視鏡下生検による病理診断は食道癌確定診断の基本です。近年は従来の形態学的診断に加え、分子生物学的手法を用いた診断も進んでいます。例えば、HER2過剰発現の評価は、標的治療薬の適応決定に重要です。また、PD-L1発現状況の評価は免疫チェックポイント阻害薬の効果予測に役立ちます。

病期分類の更新

食道癌の病期分類は、TNM分類に基づいて行われます。2022年に改訂された食道癌取扱い規約第12版では、腹部食道(Ae)の概念がなくなり、新たに食道胃接合部領域(Jz)が規定されるなど、解剖学的定義に変更がありました。この変更により、特に食道胃接合部癌の診断と治療方針決定がより明確になりました。

早期診断の重要性

食道癌は早期発見・早期治療が予後改善に直結します。I期の5年生存率は78.4%ですが、IV期では8.7%まで低下します。そのため、リスク因子を持つ患者に対する定期的なスクリーニング検査が推奨されています。

食道癌の術前化学療法と標準治療の変遷

食道癌治療は近年大きく進化しており、特に術前化学療法の分野で重要な進展がありました。切除可能な進行食道癌に対する治療戦略の変遷について詳しく見ていきましょう。

JCOG9907試験と術前化学療法の確立

日本では長らく、JCOG9907試験の結果に基づき、シスプラチンと5-FUを併用する術前CF療法が標準治療とされてきました。この試験では術前化学療法が術後化学療法よりも生存率を改善することが示され、術前治療の重要性が確立されました。

術前DCF療法の登場

近年、より強力な抗がん剤であるドセタキセルをCF療法に加えた3剤併用化学療法(DCF療法)の有効性が示されました。国立がん研究センターが主導した臨床試験では、DCF療法がCF療法と比較して生存期間を有意に延長することが証明され、2024年には米国臨床腫瘍学会(ASCO)でもその長期追跡結果が報告されました。この研究成果は世界的医学誌「The Lancet」にも掲載され、国際的にも高く評価されています。

化学放射線療法との比較

同じ臨床試験では、欧米の標準治療である化学放射線療法(CF+RT療法)とCF療法の比較も行われましたが、CF+RT療法はCF療法に対する生存期間の延長を示せませんでした。さらに、CF+RT療法は食道癌以外の他病死を誘発している可能性も示唆されました。これは、放射線治療が肺や心臓などの周辺臓器に後発的な副作用をもたらす可能性があるためと考えられています。

食道胃接合部腺癌に対する新たな試み

近年増加している食道胃接合部腺癌に対しては、2023年からJCOG2203(NEO-JPEG)試験が開始されました。この試験では、術前化学療法+手術+術後化学療法の、手術+術後化学療法に対する優越性を検証することを目指しています。

個別化治療への展望

今後の課題は、患者個々の腫瘍特性に基づいた最適な治療法の選択です。例えば、HER2過剰発現食道癌に対する分子標的薬の併用や、PD-L1発現状況に基づく免疫チェックポイント阻害薬の適用など、バイオマーカーを用いた治療選択が進んでいます。

この術前DCF療法の確立は、日本発の研究成果が世界の食道癌治療の潮流を変えるターニングポイントとなりました。今後も継続的な治療法の改良と個別化が進むことで、食道癌患者の予後改善が期待されています。

食道癌のSSIリスク管理と術後合併症対策

食道癌手術は消化器外科手術の中でも特に侵襲が大きく、術後合併症のリスクが高いことで知られています。特に手術部位感染(Surgical Site Infection: SSI)は重要な合併症の一つです。ここでは、食道癌手術におけるSSIリスク管理と術後合併症対策について詳述します。

SSIの定義と分類

SSIは手術創部および手術操作が及んだ領域に発生する感染症と定義されます。食道癌手術では、表層切開創SSI、深部切開創SSI、臓器/体腔SSIの3つに分類されます。特に縦隔炎や膿胸などの臓器/体腔SSIは重篤化しやすく、在院日数の延長や医療費の増加、さらには死亡率の上昇にもつながります。

食道癌手術におけるSSIリスク因子

食道癌手術後のSSI発生に関連する主なリスク因子には以下のものがあります。

  1. 患者関連因子:
  2. 手術関連因子:
    • 長時間手術(3時間以上)
    • 出血量の増加
    • 開胸・開腹アプローチ(vs. 低侵襲手術)
    • 再建臓器(胃管 vs. 結腸)
    • 吻合部位(頸部 vs. 胸腔内)

SSI予防のための対策

食道癌手術におけるSSI予防には、周術期の包括的なアプローチが重要です。

  1. 術前対策:
    • 術前栄養状態の最適化(必要に応じて栄養サポートチーム介入)
    • 喫煙中止の推奨(少なくとも術前4週間)
    • 血糖コントロールの最適化
    • 適切な術前抗菌薬予防投与(手術開始30-60分前)
  2. 術中対策:
    • 厳格な手術室環境管理と無菌操作
    • 低侵襲手術の適用(適応例では胸腔鏡・腹腔鏡手術)
    • 手術時間の短縮と出血量の最小化
    • 適切な創閉鎖技術の使用
  3. 術後対策:
    • 創部管理の最適化
    • ドレーン管理の適正化(早期抜去の検討)
    • 早期離床と呼吸リハビリテーション
    • 術後栄養サポート

その他の主要な術後合併症と対策

SSI以外にも、食道癌手術後には様々な合併症が発生する可能性があります。

  1. 吻合部縫合不全:

    発生率は5-20%と報告されており、重篤化すると致命的となります。予防には適切な再建臓器の血流評価、緊張のない吻合、術後の適切な栄養管理が重要です。ICG蛍光法による血流評価が近年普及しています。

  2. 肺合併症:

    肺炎、無気肺、呼吸不全などが含まれます。予防には術前からの呼吸リハビリテーション、禁煙指導、術後の早期離床と積極的な呼吸理学療法が有効です。

  3. 反回神経麻痺:

    特に頸部操作を伴う手術で発生リスクが高まります。嚥下障害や誤嚥性肺炎の原因となるため、術中の神経同定と愛護的操作が重要です。術中神経モニタリングの導入も有用とされています。

  4. 乳び胸:

    胸管損傷により胸腔内に乳び液が貯留する合併症です。予防には術中の胸管同定と結紮が有効ですが、発生した場合は絶食・中心静脈栄養や胸腔ドレナージなどの保存的治療が基本となります。

食道癌手術後の合併症は患者の予後に大きく影響するため、これらのリスク管理と予防策を徹底することが重要です。また、合併症発生時の早期発見と適切な対応も予後改善に不可欠です。

食道癌患者の術後QOL向上と長期フォローアップ戦略

食道癌治療は生存率の向上だけでなく、患者のQOL(Quality of Life)維持・向上も重要な目標です。特に根治的治療後の長期生存者が増加する中、術後のQOL管理と適切なフォローアップ戦略が注目されています。

術後QOLに影響を与える主な要因

食道癌術後のQOLに影響を与える主な要