舌から血が出る原因と対処法
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舌から血が出る主な原因は?外傷や血豆から病気まで
舌から血が出る、という症状に気づいたとき、多くの方は驚きや不安を感じるでしょう 。しかし、その原因は多岐にわたり、一過性で心配のないものから、専門的な治療を要する病気のサインまで様々です。原因を正しく理解し、適切に対処することが重要です 。
最も一般的な原因は、物理的な外傷です 。
- 食事中の刺激: 食事中に誤って舌を噛んでしまうことは、誰にでも経験があるでしょう 。また、硬いおせんべいや揚げ物、熱い食べ物や飲み物によって舌の粘膜が傷つき、出血することがあります 。
- 歯や矯正器具による刺激: 尖った歯や欠けた歯、適合の悪い入れ歯や矯正器具が慢性的に舌に当たることで、粘膜が傷つき出血の原因となることがあります 。
次に多いのが、口内炎や血豆(けつまめ)です。
- 口内炎: ストレスや疲れ、栄養不足(特にビタミンB群)などが原因でできる口内炎は、悪化すると表面がただれ(びらん)、出血を伴うことがあります 。
- 血豆(口腔内血腫): 舌を強く噛んだ際などに、粘膜の下で内出血が起こり、血の塊である血豆ができることがあります 。これは通常、数日から2週間程度で自然に吸収され治癒します 。まれに、「アンギナ・ブローザ・ヘモラジカ(Angina Bullosa Hemorrhagica: ABH)」という、明らかな外傷なく突然血豆ができる良性の疾患もあります 。
その他、口腔内の乾燥(ドライマウス)によって粘膜の保護機能が低下し、些細な刺激で傷つきやすくなることや 、細菌・ウイルス感染 、特定の薬剤の副作用なども原因として考えられます。これらの原因の多くは、口腔環境を整え、安静にすることで改善が見込めます。しかし、長引く場合や繰り返す場合は、背景に別の問題が隠れている可能性も考慮すべきです。
舌からの出血で考えられる病気とは?舌癌の初期症状についても解説
舌からの出血が続く場合や、他に気になる症状がある場合は、単なる傷や口内炎ではなく、何らかの病気が原因である可能性を疑う必要があります。特に注意したいのが「舌癌」です 。
最も注意すべき「舌癌」
舌癌は口腔癌の中でも最も発生頻度が高いがんで、初期段階では痛みなどの自覚症状が乏しいことが多いのが特徴です 。そのため、口内炎と勘違いして放置され、発見が遅れるケースも少なくありません。以下の症状が見られる場合は、速やかに専門医の診察を受けてください。
- 2週間以上治らない口内炎や潰瘍: 通常の口内炎は1~2週間で治りますが、それ以上続く場合は注意が必要です 。
- 硬いしこり: 舌の表面や内部に、指で触れると硬く感じるしこりができます 。初期は痛みを伴わないこともあります。
- 粘膜の色の変化: 舌の粘膜が部分的に白くなる「白板症(はくばんしょう)」や、赤くなる「紅板症(こうばんしょう)」は、前癌病変(がんになる前の状態)の可能性があります 。
- 原因不明の出血: 噛んだ覚えがないのに、同じ場所から繰り返し出血する場合も危険なサインです 。
- その他の症状: 進行すると、持続的な痛み、口臭の悪化、舌の動かしにくさ(構音障害)、食事の飲み込みにくさ(嚥下障害)などが現れます 。
舌癌の主なリスクファクターとして、喫煙、過度のアルコール摂取、口腔内の不衛生な状態が挙げられます 。これらの習慣がある方は、特に注意深い自己チェックが必要です。
日本口腔外科学会では、口腔がんのセルフチェック方法について分かりやすく解説しています。
口腔がんセルフチェック – 公益社団法人 日本口腔外科学会
良性腫瘍である「血管腫」
血管腫は、血管組織が異常に増殖してできる良性の腫瘍です 。口腔領域では舌、唇、頬の粘膜によく発生します 。
- 見た目の特徴: 表面は平滑で、赤紫色や暗紫色の隆起として観察されます 。指で圧迫すると色が薄くなり、圧迫を解くと元の色に戻るのが特徴です。
- 症状: 通常は痛みを伴いませんが、大きくなったり、誤って噛んでしまったりすると出血することがあります。内部で血液が固まり、「静脈石」という硬いしこりを形成することもあります 。
良性ではありますが、出血を繰り返す場合や、食事や会話の邪魔になる場合は、レーザー治療や外科的切除の対象となります。
舌から血が出たら何科を受診?病院へ行くべき症状の目安
舌から血が出たとき、どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません 。原因によって専門とする科が異なるため、症状に合わせて適切な医療機関を選ぶことが早期解決につながります。
まずは「歯科」または「口腔外科」へ
舌のトラブルで最初に相談すべきなのは、口の中の専門家である「歯科」または「口腔外科」です 。
- 🦷 歯科・口腔外科が適しているケース:
- 歯が当たって痛い、入れ歯が合わないなど、原因が口の中の構造物にある場合 。
- 口内炎、血豆、舌のしこり、色の変化など、舌そのものに異常が見られる場合 。
- 舌癌が疑われる場合の精密検査(視診、触診、生検)と診断 。
口腔外科は、歯科の中でも手術を伴うようなより専門的な診断・治療を行う診療科で、総合病院や大学病院に設置されていることが多いです。一般的な歯科医院で診断が難しい場合や、舌癌などの手術が必要な場合に紹介されることもあります 。
「耳鼻咽喉科」も選択肢に
舌は喉にもつながっているため、「耳鼻咽喉科」も舌の病気を専門としています 。
- 👂 耳鼻咽喉科が適しているケース:
- 出血に加えて、喉の痛みや違和感、声のかすれ、飲み込みにくさなどの症状がある場合。
- 舌の付け根(舌根部)など、口の奥の方に異常があると思われる場合。
- 舌癌の診断や治療(手術、放射線治療など)も耳鼻咽喉科の専門領域です 。
口内炎や舌の症状は、歯科口腔外科と耳鼻咽喉科のどちらでも対応可能ですが、症状の範囲によって適切な科を選ぶとよいでしょう 。
こんな症状はすぐに病院へ!
以下の症状が見られる場合は、緊急性が高い可能性があるため、診療時間外であっても救急外来を受診することを検討してください 。
- ⚠️ 出血がなかなか止まらない
- ⚠️ 出血量が多い
- ⚠️ 呼吸がしにくい、息苦しさを感じる
- ⚠️ 激しい痛みを伴う
また、原因が特定できない場合や、他の全身症状を伴う場合は、かかりつけの「内科」で相談することも一つの方法です。
舌からの出血を止める応急処置と日常生活でのセルフケア・予防法
舌から突然出血すると慌ててしまいますが、まずは落ち着いて応急処置を行いましょう。そして、再発を防ぐためには日頃からのセルフケアが非常に重要です。
もし出血したら?家庭でできる応急処置
- 圧迫止血: 清潔なガーゼやティッシュなどを出血している部分に当て、指で5分以上しっかりと圧迫します。舌を軽く噛むようにして圧迫するのも効果的です。
- 冷却: 氷片を口に含んだり、冷水で口をすすいだりして、血管を収縮させることで止血を促します。
- 安静: 止血後も、しばらくは会話や食事を控え、患部を安静に保ちましょう。
これらの処置でほとんどの出血は止まりますが、30分以上圧迫しても止まらない場合や、出血量が多い場合は速やかに医療機関を受診してください。
再発を防ぐためのセルフケアと予防法
舌からの出血は、生活習慣を見直すことで予防できる場合があります 。
- 口腔内を清潔に保つ 🧼: 毎食後と就寝前に丁寧な歯磨きを心がけ、細菌の繁殖を防ぎましょう。歯ブラシは、粘膜を傷つけないよう柔らかめのものを選ぶのがおすすめです 。デンタルフロスや歯間ブラシの併用、定期的なうがいも効果的です。
- 食生活の改善 🥗:
- 刺激物を避ける: 熱すぎるもの、辛すぎるもの、酸味が強いもの、硬い食べ物は粘膜を傷つける原因になるため、出血があるときや口内炎ができているときは控えましょう 。
- 栄養バランス: 粘膜の健康維持に不可欠なビタミンB群(レバー、豚肉、卵、納豆など)やビタミンC、鉄分を意識して摂取することが大切です 。
- 生活習慣の見直し 🚭:
- 禁煙・節酒: タバコやアルコールは口腔粘膜を直接刺激し、舌癌のリスクを高めることが知られています 。摂取を控えることが最大の予防策です。
- ストレス管理と休養: 過労やストレスは免疫力を低下させ、口内炎などの原因になります 。十分な睡眠とリラックスできる時間を確保しましょう。
- 定期的な歯科検診 👨⚕️: 虫歯や合わない詰め物・入れ歯のチェック、歯石の除去など、プロフェッショナルなケアを定期的に受けることで、口の中の物理的な刺激源を減らし、口腔トラブルを未然に防ぐことができます。
特に同じ場所から繰り返し出血する場合は、歯並びや詰め物などに問題がある可能性があります 。根本的な原因を解決するためにも、一度歯科で相談してみることを強くお勧めします。
舌からの出血と全身疾患の意外な関係|糖尿病や肝硬変のリスク
「舌からの出血」と聞くと、口の中だけの問題だと思いがちです。しかし、実は全身の健康状態を映し出す重要なサインである可能性があり、特に医療従事者としては見逃せない視点です。糖尿病や肝疾患、血液疾患といった全身疾患が、口腔内の症状として現れることがあります。
肝硬変と舌根部静脈瘤
あまり知られていませんが、重度の肝疾患、特に肝硬henが進行し門脈圧亢進症をきたすと、食道や胃に静脈瘤ができるのと同様に、舌の付け根(舌根部)にも静脈瘤が形成されることがあります 。これは「舌根部静脈瘤」と呼ばれ、非常にまれな病態です。普段は無症状ですが、咳などの些細な刺激で破裂し、吐血と間違われるような突然の口腔内出血を引き起こすことがあります 。原因不明の口腔内出血で、消化管や気道からの出血が否定された場合、舌根部の観察が診断の鍵となるケースが報告されています。
糖尿病と口腔トラブル
糖尿病は、全身の血管や神経に障害をもたらすだけでなく、口腔内の健康にも大きな影響を与えます。
- 免疫力の低下と感染症: 高血糖の状態は、体の免疫機能を低下させます 。これにより、歯周病菌やカンジダ菌などの細菌や真菌が繁殖しやすくなり、歯肉からの出血だけでなく、舌の感染症や炎症による出血も起こりやすくなります。
- 血管の脆弱化: 糖尿病は血管をもろくするため、少しの刺激でも粘膜下で出血しやすくなります 。突然、舌に血豆(Angina Bullosa Hemorrhagica)ができる患者の背景に、糖尿病が隠れていることもあります 。
- 口腔乾燥(ドライマウス): 唾液の分泌が減少し口が乾くと、粘膜の保護作用が弱まり、傷つきやすく出血しやすい状態になります 。
したがって、治りにくい口内炎や原因不明の出血を繰り返す患者に対しては、糖尿病の可能性も視野に入れた問診が重要となります。
血液疾患と薬剤の影響
血液が固まる機能(凝固能)に異常がある場合も、舌からの出血が見られます。
- 血液疾患: 血小板減少症、血友病、白血病などの疾患では、全身的に出血しやすい傾向(出血傾向)が現れます。歯磨き程度のわずかな刺激で歯茎や舌から出血し、血が止まりにくくなります。
- 薬剤の副作用: 心疾患や脳血管疾患の治療・予防のために、抗凝固薬(ワーファリンなど)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)を服用している患者さんは、血液がサラサラになっているため出血しやすくなります。歯科治療や手術の際には、これらの薬剤の服用状況を必ず確認する必要があります。
このように、舌からの出血は、口腔内の局所的な問題だけでなく、全身疾患を早期に発見するきっかけにもなり得ます。患者が訴える症状の背後にある可能性を多角的に考察し、必要に応じて内科など他科との連携を図ることが、医療従事者には求められます。
こちらの文献は、大量飲酒者の歯肉出血の症例報告ですが、消化管以外の出血源を考慮する重要性を示唆しています。
Gingival Bleeding in a Heavy Drinker – PMC
