システマティックレビューとメタアナリシスの違い
システマティックレビューの定義と方法
システマティックレビューとは、明確に設定された研究課題に対して、系統的で明示的な方法を用いて適切な研究を同定、選択、評価するレビュー手法です。この手法は、根拠に基づく医療(EBM)の実践と診療ガイドラインの作成において重要な役割を担っています。
システマティックレビューの実施には、PICOフレームワーク(患者/母集団、介入、比較、アウトカム)を用いてリサーチクエスチョンを明確化することから始まります。文献検索では、PubMedやCochrane Libraryなどの複数のデータベースを用いて網羅的な検索を行い、選択基準と除外基準を厳密に設定します。
参考)若手研究者のためのシステマティックレビューの書き方指南
文献の質評価では、バイアスリスク評価が不可欠です。ランダム化比較試験(RCT)にはCochrane Collaborationのリスクオブバイアスツールを用い、観察研究にはNewcastle-Ottawa Scaleなどの評価ツールを使用します。システマティックレビューの報告には、PRISMAチェックリストとフローチャートの活用が推奨されており、これにより透明性と再現性が確保されます。
メタアナリシスの統計的解析手法
メタアナリシスは、複数の独立した研究から得られた定量的データを統計学的に統合する手法です。この手法の最大の特徴は、各研究のサンプルサイズに応じて重み付けを行い、効果量(エフェクトサイズ)を統合することにあります。
効果量の統合方法には、固定効果モデル(fixed effect model)とランダム効果モデル(random-effects model)の2種類があります。固定効果モデルは「真の値はただ1つである」と仮定するのに対し、ランダム効果モデルは「真の値は幅があるもの」と考えます。一般的には、ランダム効果モデルのほうが保守的な結果になるため推奨されています。
メタアナリシスの結果は、フォレストプロットと呼ばれる視覚的なグラフで表現されます。フォレストプロットでは、各研究の効果量が四角形のマーカーで示され、そのサイズが重みを表します。マーカーから左右に伸びるエラーバーは信頼区間を示し、最終行には統合効果がひし形のマーカーで表示されます。
システマティックレビューとメタアナリシスの包含関係
システマティックレビューとメタアナリシスの関係を理解する上で重要なのは、メタアナリシスがシステマティックレビューの一部であるという点です。広義には両者は同義として用いられることもありますが、狭義にはシステマティックレビューの中で統計的方法を用いてデータを統合する部分がメタアナリシスとなります。
参考)https://waidai-csc.jp/updata/2018/11/EZRmeta.pdf
システマティックレビューには、定性的システマティックレビューと定量的システマティックレビュー(メタアナリシス)の2種類があります。定性的システマティックレビューでは、研究や除外された研究の数、対象者の特性、バイアスリスクの評価などを記述的にまとめます。一方、定量的システマティックレビューでは、定性的評価に加えて異質性(heterogeneity)を検討し、統計学的に効果指標を統合します。
Cochrane共同計画は、質の高いシステマティックレビューを提供する国際的なプロジェクトであり、無作為化比較試験を中心に世界中の臨床試験を収集・評価し、メタアナリシスを用いて結果を統合しています。Cochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)は、この計画の中核をなすデータベースで、治療や予防効果をオッズ比の形で提供しています。
参考)https://www.ncn.ac.jp/library/image/cochrane.pdf
システマティックレビューにおける異質性とバイアス評価
システマティックレビューとメタアナリシスにおいて、異質性(heterogeneity)の評価は極めて重要です。異質性とは、複数の研究を統合した際に各研究の結果に見られるばらつきのことを指し、研究デザイン、対象者の属性、介入方法、実施環境などの違いから生じます。
参考)5 研究間異質性
異質性の評価には、統計学的指標としてI²値やτ²(タウ二乗)が用いられます。I²値が25%未満であれば低い異質性、50%程度であれば中程度、75%以上であれば高い異質性と解釈されます。異質性が高い場合には、サブグループ解析やメタ回帰などの追加分析により、その要因を探る必要があります。
参考)メタ分析とは何か:複数研究を統合して結論を導く統計的手法
バイアスリスク評価においては、選択バイアス、実行バイアス、測定バイアスなど複数の種類のバイアスを系統的に評価します。選択バイアスは、実験群への割り付けが無作為化されていない場合に生じ、実行バイアスは治療実施過程での盲検化が不十分な場合に発生します。これらのバイアスを適切に評価し、システマティックレビューのプロトコルと論文の方法セクションに明記することで、透明性と再現性が確保されます。
参考)徹底解説:システマティックレビュー執筆方法 バイアスとその対…
エビデンスレベルにおけるシステマティックレビューの位置づけ
医学研究におけるエビデンスレベルの階層では、システマティックレビューとメタアナリシスが最も高いレベルⅠに位置付けられています。これは、個別のランダム化比較試験(レベルⅡ)や観察研究(レベルⅣ)よりも、より信頼性の高いエビデンスとして扱われることを意味します。
参考)エビデンスレベルをわかりやすく!医療研究デザインで結果の信頼…
この高いエビデンスレベルの理由は、システマティックレビューとメタアナリシスが複数の研究を統合することでサンプルサイズが大きくなり、統計的検出力が向上するためです。さらに、個々の研究で見られる不確実性や不一致を解決し、研究結果の一般化可能性を判断できる点も重要です。
ただし、システマティックレビューとメタアナリシスを理解せずに結論を受け入れるのは危険であると指摘されています。質の低い研究を統合しても意味のある結論は得られず、出版バイアスや選択バイアスなどの問題を適切に評価する必要があります。そのため、PRISMAガイドラインに従った透明性の高い報告と、厳密なバイアスリスク評価が求められます。
<参考リンク>
システマティック・レビュー | 疫学用語の基礎知識
システマティックレビューとメタアナリシスの定義について、日本疫学会が監修した信頼性の高い解説が掲載されています。
効果量の算出方法や固定効果モデルとランダム効果モデルの違いについて、具体的な論文を例に詳しく解説されています。
エビデンスレベルをわかりやすく!医療研究デザインで結果の信頼性を判断
エビデンスレベルの階層について、各研究デザインの特徴とともにわかりやすく説明されています。