先天網膜剥離と症状と原因と治療

先天網膜剥離と治療

先天網膜剥離:臨床の要点
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症状は無症状もある

飛蚊症・光視症が前駆症状になり得る一方、痛みはなく、気づかれにくいことがあります。

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眼底検査+必要なら超音波

散瞳下の眼底検査が基本で、状況により超音波検査などを組み合わせます。

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治療は病態で変わる

裂孔のみならレーザー/冷凍凝固で進行抑制、剥離が成立していれば手術(バックリング/硝子体手術)が中心になります。


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先天網膜剥離の症状と視力低下

先天網膜剥離は「出生時から存在する網膜剥離」そのものを指すというより、先天異常や小児期早期からの基礎病態(例:網膜硝子体の発達異常、血管形成異常)に伴って網膜剥離へ進展する臨床像として遭遇することが多く、初診の主訴が典型的でない点が難しさになります。日本眼科学会の解説でも、網膜剥離の前駆症状として飛蚊症や光視症を自覚することがある一方、無症状のこともあるとされています。進行すると「カーテンをかぶせられたような」視野欠損や視力低下が生じますが、網膜には痛覚がないため痛みは原則ありません。

小児では、本人が症状を言語化できない・片眼性なら気づかれにくい・弱視や斜視として先に表面化する、などの事情が重なります。医療従事者側は「突然の視力低下」だけでなく、以下のような“生活上の変化”も症状として拾う必要があります。

【問診で拾いやすい症状の言い換え例】

・「急に暗い」→視野欠損(周辺から欠けることがある)

・「光がピカっとする」→光視症(牽引や裂孔関連を示唆)

・「黒い点が増えた」→飛蚊症(硝子体変化や出血を含む)

・「文字がゆがむ」→黄斑近傍の病変や剥離の進展を疑う

また、先天異常に伴う剥離では、裂孔原性の“典型的な経過”ではなく、牽引性や滲出性の要素が混在し、症状の出方が緩徐なことがあります。ゆっくり進むと「慣れ」や「片眼視」の代償で受診が遅れ、受診時には黄斑が脅かされている(macula-threatening)状況になり得ます。

先天網膜剥離の原因と家族性滲出性硝子体網膜症

「先天網膜剥離」を臨床的に掘ると、背景に“先天異常に伴う網膜剥離”があり、その代表として日本網膜硝子体学会の「網膜再建術の指針」では、主に家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)と第1次硝子体過形成遺残が挙げられています。つまり、原因を「網膜が剥がれた」という現象面だけで止めず、なぜ小児で剥離に至ったかを疾患単位で言語化できるかが、再発予防や家族説明に直結します。

FEVRは網膜血管形成不全を基盤とし、無血管領域や血管末梢の異常から、滲出・新生血管・線維血管増殖を経て牽引性網膜剥離へ進行し得る、という“進行の筋道”が臨床推論の核になります。剥離が成立してから紹介されると「原因不明の小児網膜剥離」になりやすい一方、少し早い段階で“周辺部の無血管領域”という手がかりを拾えれば、治療の目的(新生血管因子を抑える、牽引を減らす、黄斑を守る)をチームで共有しやすくなります。

【原因を疑う手がかり(診療の実感に寄せた整理)】

・片眼より両眼性の素地が疑われる所見(周辺部の左右差を含む)

・家族歴(軽症例は見逃され、家族内に“原因不明の視力不良”として潜むことがある)

・硝子体混濁・出血、乳頭牽引、鎌状の網膜襞など“牽引”を示す所見

・未熟児網膜症の既往がないのに、未熟児網膜症に似た末梢血管の異常がある

※治療の緊急度は「今、黄斑を脅かしているか」「牽引が進行しているか」で変わります。黄斑が温存されている段階で食い止められると、視機能予後の説明が現実的になります。

先天網膜剥離の検査と眼底検査

診断の出発点は、散瞳下の眼底検査で剥離の有無を確認することです。日本眼科学会の解説でも、瞳孔を大きくする点眼を行い、眼底検査で網膜が剥離しているかどうかを調べ、必要に応じて超音波検査なども行うとされています。小児や混濁がある症例では、観察条件が悪くなるほど「剥離の形」「牽引の方向」「裂孔の有無」を一度で確定しにくく、検査の組み立てが重要です。

【検査の組み立て(現場の流れを意識)】

・散瞳眼底検査:剥離範囲、黄斑の巻き込み、裂孔の有無を評価

・超音波検査:角膜混濁、白内障硝子体出血などで眼底が見えにくい場合に有用

・(可能なら)広角眼底撮影/広角蛍光眼底造影:周辺無血管領域や血管末梢異常の可視化に役立つことがある

・屈折・視力・両眼視評価:小児では弱視の併存を前提に、治療計画と並行して整理する

意外と盲点になるのが、網膜剥離=「急性で痛い病気」という誤解を家族が持っていることです。実際には網膜には痛覚がないため痛みはないと明記されており、痛みがないからこそ受診が遅れる、という説明のロジックが必要になります。医療者側がこの点を明確に言語化すると、家族の納得感と治療同意の質が上がり、術後の体位制限や通院の重要性も伝わりやすくなります。

先天網膜剥離の治療と硝子体手術

治療は「裂孔だけの段階」か「剥離が成立しているか」で大きく分かれます。日本眼科学会の解説では、網膜裂孔・円孔のみならレーザー光凝固または冷凍凝固で剥離への進行を抑えられることがあり、すでに網膜剥離が発生している場合は多くが手術を要し、放置すると失明の可能性が高いとされています。先天異常に伴う剥離は、裂孔原性の“穴を塞ぐ”だけでは完結しないことが多く、牽引や増殖組織への対処が核心になります。

日本網膜硝子体学会の「網膜再建術の指針」では、未熟児網膜症や先天異常に伴う網膜剥離に対し、硝子体手術を主体として網膜の形状と機能の復元を目指し、必要に応じて水晶体除去、広汎硝子体切除、増殖組織除去、強膜バックリング、眼内光凝固・冷凍凝固、ガスあるいはシリコーンオイルによるタンポナーデを行う、と具体的に記載されています。つまり「手術」と一言でまとめず、どの要素(牽引解除、裂孔閉鎖、無血管領域への治療、タンポナーデ)を目的に組み合わせるのかをチーム内で共有することが、周術期管理の質に直結します。

【術後管理で説明が必要になりやすい点】

・眼内ガス/特殊ガス/シリコーンオイルを使用する場合、体位制限(うつぶせ等)が必要になり得る

・小児では、屈折変化・弱視治療・再手術の可能性も含めた長期フォローが前提

・“形態学的復位”と“視機能の回復”は一致しないことがある(黄斑の状態、罹病期間、合併症で変動)

参考(網膜裂孔のみの治療や手術法、体位制限の説明)。

網膜剥離|日本眼科学会による病気の解説

参考(先天異常に伴う網膜剥離に対する硝子体手術主体の方針、バックリング・タンポナーデ等の選択肢)。

https://www.jrvs.jp/guideline/jrvs_rro_guideline140328.pdf

先天網膜剥離の独自視点とインフォームドコンセント

検索上位の一般解説は「症状→検査→治療」の順に整っている一方で、先天網膜剥離(先天異常に伴う剥離)を扱う現場では、インフォームドコンセント(IC)の“設計”自体が医療安全の一部になります。日本網膜硝子体学会の指針でも、治療しなければほぼ失明に至る疾患であり、重篤な視覚障害に関わるため十分なインフォームドコンセントを得て行う、と明記されています。ここから一歩踏み込み、ICを「説明したか」ではなく「家族が運用できる形に落とせたか」で評価する視点が、再診遅れや術後トラブルの予防に効きます。

【ICを“運用可能”にする工夫(独自視点)】

・リスク説明は“確率”より“行動”に落とす。

 「悪化したら来て」ではなく、「片目を隠して見え方を比べ、昨日より暗い・欠けるなら当日連絡」など具体化する。

・術後体位制限は家庭の現実に合わせて再設計する。

 うつぶせが必要な場合、学校・保育・睡眠の体位確保をどうするかを先に一緒に決める(守れない前提で責めない)。

・“痛みがない”ことを強調しすぎない。

 痛みがない=軽い、ではない。網膜に痛覚がないため痛みはないが、放置で失明リスクが高い、という二段構えで伝える。

・長期フォローの意味を、家族にとってのメリットで表現する。

 「再発を見る」だけでなく、「反対眼や家族の軽症例を拾える可能性」「弱視介入のタイミングを逃さない」など、通院の“目的”を明確にする。

このパートの狙いは、医学的に正しい説明を“現場で実装できる説明”に変換することです。先天異常に伴う網膜剥離は、手術手技だけで完結せず、家庭・学校・福祉との接点が予後を左右しやすいため、医療従事者が言語化の型を持つほど強くなります。