石灰沈着性腱炎 原因
石灰沈着性腱炎 原因不明と内分泌疾患の関連
石灰沈着性腱炎(とくに肩の腱板に生じる石灰沈着性腱板炎)は、臨床的には「原因不明」と整理される代表疾患です。実際、日本の公的な患者向け解説でも「原因と病態」はリン酸カルシウム結晶の沈着による急性炎症と説明されつつ、発症機序そのものは確定していないニュアンスが保たれています(=“なぜ沈着するか”は決め手がない)という立ち位置です。これは医療者が患者に説明するときに、単に「分かりません」で終えるのではなく、「分かっている範囲」と「不確実性」を分けて提示する必要がある、という意味でも重要です。
一方で、“関連が報告されている背景因子”は複数あります。代表は内分泌・代謝領域で、40~60歳代の女性に多いという疫学的特徴に加え、1型糖尿病、甲状腺機能障害、エストロゲン代謝異常などとの関連が報告されています。少なくとも「使いすぎ・外傷が直接原因ではない」という整理は明確で、患者側の罪悪感(仕事で肩を酷使したから等)を減らす説明にもつながります。
また、両側発生がしばしばある点から遺伝的素因が推測されるものの、現時点で強固な裏付けはない、という整理が現実的です(“関連”と“因果”の線引きが曖昧な領域)。このため問診では、肩の負荷歴だけでなく、糖代謝・甲状腺・腎結石など既往歴の棚卸しを行い、「原因検索というより、治療抵抗性や再発リスクの背景評価」として扱うと実務に落ちやすくなります。
臨床現場では「血中カルシウムが高いから沈着する」と短絡されがちですが、少なくとも一般向けの標準的な説明では“腱板内に沈着したリン酸カルシウム結晶が炎症を起こす”ことが中核で、血清Ca異常の有無は必須条件としては扱われていません。したがって、採血異常の有無よりも、症状の相(急性・亜急性・慢性)と画像での石灰性状・位置関係のほうが、初期対応の意思決定に直結します。
石灰沈着性腱炎 原因となるリン酸カルシウム結晶と性状変化
石灰沈着性腱炎の「石灰」は、肩腱板内に沈着するリン酸カルシウム結晶によって炎症が起きる、と整理されます。日本整形外科学会の解説では、石灰は当初「濃厚なミルク状」から時間経過で「練り歯磨き状」、さらに「石膏状」へ硬く変化するとされています。臨床でこの“性状変化”を理解しておくと、同じX線上の石灰沈着でも「穿刺吸引で抜けやすい局面」と「抜けにくい局面」があることを、患者に納得感をもって説明できます。
痛みの強さは石灰の“量”だけでなく、“どこに向かって膨らむか”“どこに破れるか”に依存します。石灰がたまって膨らむと痛みが増し、腱板から滑液包へ破れ出ると激痛になりやすい、というのは典型的な病態説明です。つまり「沈着=すぐ激痛」ではなく、「腱板内での存在」→「局所の圧・機械的刺激」→「滑液包炎/破綻」という段階があり得ます。
この段階性を押さえると、同僚間の説明(外来→画像→治療選択)もブレにくくなります。例えば、石灰沈着があるのに痛みが軽い症例では、必ずしも“見落とし”ではなく、病期や滑液包への波及が限定的な可能性を想定できます。
さらに一歩踏み込むと、沈着物が“骨と似た成分”である点は患者説明で有用です。臨床サイトでは、石灰の成分はハイドロキシアパタイトで骨の成分に似る、と説明されています。これは「体にとって完全な異物ではないのに、場所が悪いと炎症を起こす」という理解につながり、抗菌薬が不要であること、感染性滑液包炎との違いなども説明しやすくなります。
石灰沈着性腱炎 原因を考える形成期・定着期・吸収期
石灰沈着性腱炎は、形成期(formative phase)→定着期(resting phase)→吸収期(resorptive phase)→再構成(post-calcific phase)という4段階を経る、と整理されます。公的解説でも、急性痛の山場は吸収期で、免疫細胞が沈着物を吸収し、腱の外に漏れ出ることで激痛を起こし得る、と説明されています。つまり“痛いから悪化している”だけでなく、“吸収が始まったから痛い(=自然軽快へ向かう局面が含まれる)”という逆説的な理解が成立します。
この視点は、夜間痛で受診した患者の不安を下げるのに役立ちます。夜間に強い痛みで眠れないほどの急性発作は典型像として知られ、病歴と画像で診断を固められます。実務的には、急性期に過度な徒手可動域訓練を強行するより、炎症の沈静化を優先し、痛みが落ち着いてから拘縮予防と筋力維持へ移る、という順序が筋道立てて説明できます。
経過の見立て(予後説明)も病期理解とセットです。臨床サイトのまとめでは、一定割合が比較的短期間で軽快し得る一方、長期に遷延するケースもあるとされ、個人差が大きい点が強調されています。したがって、医療者向け記事としては「病期モデルは便利だが、患者ごとのズレがある」ことを明記し、治療ゴールを“痛みの制御”と“機能回復”に分けて管理する姿勢が安全です。
石灰沈着性腱炎 原因と鑑別診断(五十肩・腱板断裂)
診断の基本は、病歴(突然の激痛、夜間痛、肩外側の痛み、寝返り不能など)と画像(X線で腱板部の石灰沈着)です。石灰沈着性腱炎は五十肩(肩関節周囲炎)と症状が似るため、X線で石灰沈着を確認して鑑別する、というのが公的解説の重要ポイントです。必要に応じてCTや超音波で位置・大きさを評価し、腱板断裂合併の評価にはMRIが用いられる、という流れになります。
超音波の価値は、石灰そのものだけでなく“痛みの責任病変の推定”にあります。臨床サイトでは、石灰を描出したうえでプローブ圧迫で痛みが誘発されるなら、石灰が痛みの原因であると特定できる可能性が述べられています。画像所見の“存在診断”から“責任病変診断”へ一段上げる発想で、注射や穿刺吸引の適応判断にも連動します。
鑑別で注意したいのは、石灰沈着が「見つかった」ことと「症状の主因」であることが一致しない症例があり得る点です。肩痛患者の一定割合に本疾患が含まれる一方、無症状でも石灰が見つかることがある、という報告が臨床サイトで紹介されています。したがって、診断名を付けると同時に、可動域制限のパターン(関節包性か、疼痛性か)、腱板機能、頸椎由来痛などを併記し、「併存・合併」の可能性を最初から念頭に置くと過剰治療を避けやすくなります。
石灰沈着性腱炎 原因から逆算する治療(穿刺吸引・注射・リハビリ)
治療の基本は保存療法で、多くは軽快します。公的解説では、急性例では沈着石灰を破ってミルク状の石灰を吸引する方法(穿刺吸引)がよく行われ、安静、消炎鎮痛薬、滑液包内への副腎皮質ホルモン+局所麻酔薬注射などが有効とされています。疼痛が落ち着いた後は、温熱療法(ホットパック、入浴など)や運動療法(拘縮予防、筋力強化)へ移る流れが示されています。
臨床サイトでは、改善しない場合に体外衝撃波、石灰の穿刺吸引・洗浄、難治例では関節鏡下での石灰除去やacromioplastyが選択され得る、と段階的治療が整理されています。医療者が患者説明で失敗しやすいのは「一度の注射・一度の穿刺で必ず治る」という誤解を与えることなので、病期(特に石灰の性状)で反応性が変わること、再燃があり得ることを先に共有すると、クレーム予防にもなります。
ここで“原因”の理解が治療選択にどう効くかを、あえて言語化しておくと実務に役立ちます。
✅原因が外傷・使いすぎではない→「完全安静で治す」ではなく、痛みが落ち着いたら拘縮予防の運動療法が重要。
✅炎症の主戦場が滑液包に及ぶと強い痛み→局所注射の位置(滑液包)や超音波ガイドの意義が増す。
✅ミルク状~練り歯磨き状の時期→穿刺吸引で除去しやすい可能性がある(患者に“今は抜けやすい/抜けにくい”を説明)。
なお、意外な話題として「H2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)が石灰沈着性腱炎に経験的に用いられてきた」点があります。科研費の研究成果報告書では、国内でH2ブロッカー投与の有効性(疼痛改善やX線での石灰縮小)がいくつか報告されている、と背景が述べられており、作用機序の解明を目的にした研究計画が示されています。標準治療として一律推奨できる話ではありませんが、「臨床で使われてきたが、なぜ効くかは検証途上」という“原因不明疾患らしいリアル”を伝える素材になります。
参考:H2ブロッカー関連の話題(研究背景)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23592159/23592159seika.pdf
意外性をもう一つ入れるなら、「石灰沈着性腱炎は“感染ではないのに、炎症所見が強く見えることがある”」という臨床上の落とし穴です。激痛・熱感・可動域制限が強いと、患者側はもちろん医療者側も感染を疑いたくなりますが、典型例では夜間痛で発症し、画像で石灰を確認して整合させることが重要です(もちろん発熱、免疫不全、皮膚所見、著明な全身炎症反応があれば別途鑑別が必要)。この“見た目の重症感”と“多くは保存で軽快する”のギャップを埋める説明こそ、医療従事者向け記事の価値になります。
【権威性のある日本語リンク:原因と病態・治療の公的整理】
【臨床経過(4段階)と内分泌関連・治療選択の整理に有用】
【関連論文(沈着物がハイドロキシアパタイトに類似する可能性:日本の古典的病態研究の入口)】
https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/ja/list/nii_types/Journal%20Article/p/81/item/16411