石灰沈着性腱炎 原因
石灰沈着性腱炎 原因と病態(ハイドロキシアパタイト)
石灰沈着性腱炎(特に肩の腱板)では、腱内にリン酸カルシウム結晶(主にハイドロキシアパタイト)が沈着し、周囲組織の炎症を介して疼痛・機能障害を起こします。石灰=「血中カルシウムが高いから沈む」と単純化されがちですが、病態の中心は局所の細胞変化と炎症反応で、明確な単一原因は未解明です(いわゆる原因不明の側面が残る)。
ただし、病態仮説は整理されており、代表は「変性(虚血・微小外傷など)に続く石灰化」と「反応性(細胞媒介性)の石灰化」です。肩の石灰沈着性腱炎の総説では、変性説(加齢に伴う腱変性・血流低下→低酸素→壊死や断裂→石灰化)と、Uhthoffらが提唱した反応性石灰化(前石灰化期→石灰化期→後石灰化期)が対立軸として説明されています。
Diagnosis and treatment of calcific tendinitis of the shoulder(Kimら)では、前石灰化期の腱細胞が軟骨細胞様に化生(metaplasia)し、石灰化期(形成期・安静期・吸収期)を経て、後石灰化期に修復・リモデリングへ向かう流れがまとめられています。
HADD(ハイドロキシアパタイト結晶沈着症)としてより広く捉えると、病態仮説はさらに拡張され、①変性石灰化、②反応性/細胞媒介性石灰化、③軟骨内骨化に似た過程、④腱由来幹細胞の誤った分化(軟骨細胞/骨芽細胞方向)など複数の経路が提示されています。
Hydroxyapatite Deposition Disease: A Comprehensive Review(Hegazi)は、これら仮説と画像所見・治療全体像を俯瞰でき、臨床で「原因」を説明する際の“言い方の幅”を与えてくれます。
臨床で重要なのは、「石灰そのもの」より「石灰がどこへ破綻し、どの程度の炎症を起こしたか」です。吸収期に石灰が滑液包側へ破れて化学刺激性の滑液包炎・滑膜炎を誘発し、急性の激痛へつながる、という理解が患者説明にも治療選択にも直結します。
石灰沈着性腱炎 原因のステージ(形成期・吸収期)と夜間痛
石灰沈着性腱炎の痛みが「突然」「夜間に強い」理由は、病態ステージで説明すると整理しやすくなります。肩の石灰沈着性腱炎のレビューでは、石灰化期は形成期・安静期・吸収期に分かれ、急性疼痛は主に吸収期に出現するとされます。
Kimらの総説では、吸収期にマクロファージや巨細胞などによる細胞媒介性の貪食が起き、急性痛が前景に立つこと、さらに石灰が滑液包炎や炎症性滑膜炎へ進展して多様な肩痛を生むことが述べられています。
形成期〜安静期は無症状〜慢性痛に留まりやすく、「健診のレントゲンで偶然見つかった」タイプがここに含まれます。一方、吸収期は炎症が強く、夜間痛・安静時痛・患側臥位困難が典型で、患者が救急受診するほどの痛みになることもあります。
画像形態もステージと関連します。総説では、吸収期は単純X線で辺縁不明瞭で“ふわっとした(fluffy)”石灰に見えやすく、形成/安静期は境界明瞭で均一濃度の石灰になりやすい、と整理されています。
Kimらの総説のこの部分は、医療者同士で「いまは吸収期っぽいから痛い」「硬そうだから穿刺しても吸えないかも」と会話する際の共通言語になります。
意外と見落とされるポイントとして、石灰沈着性腱炎は“石灰がある=常に痛い”ではありません。無症状例が一定割合あること、偶発的に発見された石灰が後から痛みを出す集団がいることは、総説の疫学としても明記されています。
石灰沈着性腱炎 原因に関わるリスク(糖尿病・甲状腺・女性)
「原因不明」とされつつも、臨床では“なりやすさ”の背景を押さえておくと、再発予防指導や併存疾患の拾い上げに役立ちます。HADDの包括的レビューでは、リスク因子として糖尿病、甲状腺疾患、エストロゲン代謝異常、HLA-A1などが表で整理されています。
肩の石灰沈着性腱炎に限定した総説でも、糖尿病や痛風がリスク因子とされる一方で、その関連は「完全には解明されていない」と慎重に書かれています。
Kimらの総説ここは説明の作法として重要で、「糖尿病だから必ず起こる」ではなく「関連が指摘され、治療反応性にも影響し得る」というトーンが安全です。
臨床的に使える知識として、内分泌疾患を伴う二次性(secondary)石灰沈着性腱炎では保存治療が失敗しやすい、という分類が総説内で述べられています。
Kimらの総説つまり、同じ「石灰沈着」でも背景が違うと治療の見通しが変わり得る、という点が“原因”の臨床的な意味になります。
もう一つ、医療者向けに押さえたいのは「患者が求めている原因は、しばしば“生活習慣のせいか?”という問い」だということです。現時点で確立した単一原因がない以上、断定を避けつつ、①年齢帯、②女性に多い傾向、③糖尿病・甲状腺など代謝/内分泌背景、④局所の低酸素・細胞変化という多層モデルで説明すると、納得度と医学的妥当性が両立しやすくなります。
石灰沈着性腱炎 原因を確かめる診断(X線・超音波)
診断は「石灰の確認」と「炎症の程度・合併病変の評価」に分けると臨床で迷いが減ります。肩の石灰沈着性腱炎の総説では、診断は病歴・身体所見に加え、単純X線が基本で、超音波は石灰の評価に有用、MRIはルーチンではないが腱板状態や周辺病変評価に役立つと整理されています。
超音波の“読みどころ”は、石灰の硬さ(形成/安静期)と泥状化(吸収期)をある程度反映する点です。総説では、形成/安静期は高エコーと明瞭な後方音響陰影が出やすい一方、吸収期は高エコーが減り、音響陰影も減弱または消失する、と述べられています。
Kimらの総説この違いは、穿刺洗浄(barbotage)の成否予測や、保存治療で経過を見るかの判断材料になります。
HADDのレビューでは、単純X線で「雲状(cloud-like)/不整な軟部陰影」、CTで高吸収域として詳細に描出、MRIで低信号域と周囲浮腫、超音波で高エコー焦点と音響陰影、とモダリティ別に特徴が整理されています。
Hegaziのレビュー医療従事者向けの記事では、整形外科・放射線科・リハ間で共通の言葉にしやすい部分です。
鑑別で注意すべきは、急性期の発赤・熱感・強い疼痛が感染性関節炎と似ることです。総説でも、石灰沈着性腱炎は局所熱感や発赤を伴うことがあり、感染性関節炎との鑑別が必要と明記されています。
石灰沈着性腱炎 原因に合わせた治療(穿刺洗浄・体外衝撃波)※独自視点
独自視点として強調したいのは、「原因=石灰ができた理由」だけでなく、「原因=いま痛い理由(吸収期の炎症)」に合わせて治療を“選ぶ”発想です。総説では、急性例は保存治療に反応しやすい一方、慢性例は反応が乏しく手術が必要になることがある、とされ、治療は保存→介入→手術の順で考える枠組みが提示されています。
保存治療の柱は、鎮痛薬(NSAIDs等)と安静、必要により肩峰下滑液包へのステロイド注射です。総説では、保存治療の成功率が30〜80%と幅がありつつ、吸収期やインピンジメント所見がある場合に肩峰下ステロイド注射が疼痛軽減に有効と述べられています。
介入として、超音波ガイド下barbotage(穿刺・洗浄・吸引)は「石灰を抜く」以上に「減圧と洗浄で炎症環境を変える」治療として位置づけると説明が通ります。総説では、18Gまたは22G針で生食+リドカインを用いて洗浄吸引を繰り返し、最後に滑液包周囲へステロイド+リドカインを追加する手技が具体的に記載され、約70%で満足できる結果とする報告にも触れています。
さらにエビデンスの例として、腱板石灰沈着性腱炎に対してbarbotage+ステロイド注射が、ステロイド注射単独より臨床・画像結果が良好だったランダム化比較試験が報告されています(de Witteら)。
Calcific tendinitis of the rotator cuff: a randomized controlled trial(PubMed)この論文は患者説明というより、院内で「次の一手」を合意形成する材料になります。
体外衝撃波(ESWT)は、非侵襲で慢性例の選択肢になり得ます。総説ではESWTが疼痛軽減に有効で、長期追跡で治療失敗により手術へ移行する患者が一定割合いること、石灰が消失/吸収/不変に分かれることが述べられています。
Kimらの総説ここでの“意外な情報”は、「ESWTをしたら必ず石灰が消える」ではなく、反応にはばらつきがある点です(それでも手術前に検討し得る選択肢として位置づく)。
手術は、少なくとも6か月以上の保存治療で改善しない場合に検討、という実務的なラインが総説に示されています。
Kimらの総説また、完全除去にこだわりすぎると腱損傷を増やし得るため「減圧が重要」という考え方も記載されており、術式説明や術後リハ計画にも影響します。
診断と病態ステージの全体像(画像の読み方・鑑別の注意点)が整理されている参考。
HADDとして病態仮説(複数経路)とリスク因子(糖尿病・甲状腺・エストロゲン等)が表でまとまっている参考。