脊髄後角 どこと機能解剖の整理
脊髄後角 どこと脊髄断面での位置
脊髄後角は、脊髄断面を蝶形の灰白質とその周囲の白質に分けて見たとき、背側に突出した灰白質の「角」に相当する領域である。
一般に背側(後方)に位置し、腹側にある脊髄前角が運動ニューロン主体であるのに対し、後角は一次求心性神経からの感覚入力を受ける神経細胞が主体となっている。
組織学的には、Rexedの層構造でいうI〜VI層が脊髄後角に対応し、特に表層のI・II層が侵害受容刺激や温度情報の処理に特化している点が重要である。
脊髄の後根から入った感覚線維は、後角の表層〜深層でシナプスを形成し、一部は同側の後索を上行し、一部は交叉して外側脊髄視床路などを形成する。
この「後根進入帯(dorsal root entry zone)」から後角表層までの浅い領域は、神経障害性疼痛に対するDREZotomyの主要なターゲットでもあり、術中には2〜3mm程度の深さで灰褐色の後角組織が白質から識別されると報告されている。
臨床現場で「脊髄後角 どこか」を意識する際には、単に背側の灰白質というだけでなく、後根進入部・後索・側索との立体的な位置関係をイメージすることが重要となる。
脊髄後角 どことRexed層・痛覚伝導路
Rexed laminae I〜VIから成る脊髄後角は、感覚モダリティ別に入力がある程度層状に分かれており、表層のI層とII層(substantia gelatinosa)は温痛覚と侵害受容性入力の処理に特化している。
非髄鞘C線維や小径有髄Aδ線維の多くはI・II層に終止し、一方で大径有髄Aβ線維は主にIII〜V層のいわゆる「deep dorsal horn」に終止することが示されている。
この層構造により、同じ「痛み」でも鋭い痛みと鈍い痛み、局在の明瞭さなどが異なる形で処理され、のちの外側脊髄視床路・脊髄網様体路・脊髄視床路旧系など多様な上行路に分配される。
外側脊髄視床路では、末梢の侵害受容器で一次ニューロンが刺激を受けた後、脊髄後角(二次ニューロン)でシナプスを形成し、ここから交叉して対側の外側索を上行し視床(三次ニューロン)へ至るという教科書的な流れが確認されている。
後角ニューロンにはprojectionニューロンだけでなく多数の興奮性・抑制性介在ニューロンが存在し、そのサブセットは30種類近くに及ぶ可能性が指摘されており、痛みの「質感」や「情動性」を作り出す高次な情報処理の場となっている。
参考)脊髄後角|キーワード集|実験医学online:羊土社 – 羊…
また、substantia gelatinosaにはオピオイド受容体やサブスタンスPが高濃度に存在し、脊髄レベルでの痛みのゲート調節機構(ゲートコントロール理論)の解剖学的基盤と考えられている。
参考)https://researchmap.jp/atsushi.doi/published_papers/32934618/attachment_file.pdf
痛覚伝導路と下行性疼痛抑制系のレビューとして、脊髄後角V層WDRニューロンと脊髄網様体路の関係をまとめた日本語総説があり、臨床神経生理学的な観点からも後角の位置づけが詳しく述べられている。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/69/3/69_3_159/_pdf
ゲートコントロール理論と脊髄後角での感覚伝達を考察した国内論文では、各層の入力特性と介在ニューロン群の役割が図表とともに整理されており、実践的な疼痛評価にも応用しやすい。
脊髄後角 どこと神経回路・ニューロン多様性
脊髄後角の神経細胞は、大別すると脳へ投射するprojectionニューロンと、局所回路を形成する介在ニューロンに分けられ、数の上では介在ニューロンが圧倒的多数を占める。
近年のトランスクリプトーム解析や遺伝学的標識技術により、介在ニューロンは少なくとも約30のサブタイプに分かれ、それぞれが特定の感覚モダリティや入力線維と対応した精緻なネットワークを構成していることが示唆されている。
この複雑さにより、例えば同じ侵害刺激でも「焼けるような痛み」「刺すような痛み」「締め付けられる痛み」など主観的なバリエーションが生まれうると解釈されている。
脊髄後角ニューロンのin vivo記録研究では、侵害刺激後にc-fos陽性細胞が後角表層に集中的に出現することが報告され、活動依存的な可塑性や「痛み記憶」の形成に後角が深く関与することが明らかになっている。
一部の実験では、椎間板成分を末梢神経周囲に移植することで、脊髄後角にc-fos陽性細胞が増加し、神経障害性疼痛様の行動変化が誘導されることが示されており、椎間板ヘルニアと慢性疼痛のメカニズム理解にも直結する知見といえる。
参考)https://igakkai.kms-igakkai.com/wp/wp-content/uploads/2001/KMJ27(1)059-065.2001.pdf
さらに、脊髄後角の一部領域では微小囊胞(microcyst)形成やgliosisが観察されることがあり、これは慢性疼痛症例の手術標本でしばしば確認される組織学的変化として報告されている。
参考)https://tmu.repo.nii.ac.jp/record/9424/files/toidaishi068030285.pdf
脊髄後角神経回路による体性感覚情報処理とゲートコントロール理論の関係を概説した和文総説は、理学療法やペインクリニック領域の教育資料としても有用である。
また、生化学雑誌の特集「脊髄後角神経回路による体性感覚の情報処理」では、分子レベルの受容体・伝達物質と回路構造が整理されており、薬理学的介入の理解にも役立つ。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
脊髄後角 どこと臨床症状・後角障害
脊髄後角や後根が障害されると、最も典型的には痛覚・温度覚の異常(低下・消失あるいは異常感覚・自発痛)が出現し、触覚や深部覚が比較的保たれるという解離性感覚障害のパターンがみられることが多い。
後角障害の症状は、障害レベルと範囲、左右差により多彩で、一側の限局病変では帯状の痛覚障害、広範な病変では下位レベル以遠の両側性障害など、皮膚分節分布に従った特徴的なパターンをとる。
病態としては、脊髄腫瘍・血管障害・外傷後変化・変性疾患などに加え、帯状疱疹後神経痛の一部でも後角ニューロンの脱抑制や過活動が関与すると考えられている。
興味深い点として、三叉神経領域の難治性疼痛に対して、解剖学的に「脊髄後角の相同構造」とされる三叉神経脊髄路核を凝固する外科的治療が行われており、顔面痛に対しても「後角様構造」を標的とした介入が成立している。
同様に、腕神経叢引き抜き損傷などに伴う激烈な神経障害性疼痛に対しては、後根進入帯(DREZ)を2〜3mm程度の深さで凝固して脊髄後角の痛覚ニューロン群を選択的に破壊するDREZotomyが行われ、他の感覚や運動を極力温存しつつ疼痛軽減を目指している。
術中には、背外側溝のわずかな茶褐色調や陥凹、微小血管走行、さらには刺激による誘発電位の有無などを手がかりに、脊髄後角 どこの位置をミリ単位で同定する必要があり、解剖学的理解が直接的に手術安全性と予後に影響する。
参考)Neuroanatomy, Substantia Gelat…
脊髄の病気と後角の役割について、日本語で概説した一般向け資料では、後角が痛み・温度などの感覚情報を後根から受け取り、上行路と反射回路のハブであることが端的に説明されている。
参考)脊髄の病気の概要 – 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 – …
また、「脊髄の後角障害、後根障害」を具体的な症例とともに解説した医療専門職向けページでは、分節レベルごとの症状イメージや機能予後の考え方が整理されており、ベッドサイドでの神経学的診察の補助としても有用である。
参考)脊髄の後角障害、後根障害(せきずいのこうかくしょうがい、こう…
脊髄後角 どこと下行性抑制・意外な臨床応用
脊髄後角は上行性の痛覚伝導だけでなく、脳幹からの下行性疼痛抑制系の主要な作用部位でもあり、青斑核や延髄縫線核からのノルアドレナリン・セロトニン作動性線維が後角介在ニューロンを介して侵害入力を抑制する。
この機構は、オピオイド・SNRI・三環系抗うつ薬など多くの鎮痛薬の効果発現にも関与し、薬理学的に「脊髄後角レベルでのゲートを閉じる」ことが、慢性痛治療の重要なターゲットとなっている。
また、経皮的電気刺激療法(TENS)や鍼刺激などが大径線維活動を介して後角での侵害入力を抑制するという説明は、ゲートコントロール理論の臨床応用例として広く知られているが、その実体はRexed III〜V層を中心とした複雑な介在ニューロンネットワークの再調整と考えられている。
意外な側面として、後角の虚血は後脊髄動脈系の障害で生じうるが、これは選択的に痛み・温度覚に影響し、運動機能が比較的保たれる「dissociated sensory loss」を呈することがあり、診断において「どこが障害されているか」を示す重要な手がかりとなる。
さらに、動物実験では、反復侵害刺激により後角ニューロンの長期増強様変化(LTP)が起こり、いわゆるcentral sensitizationの電気生理学的基盤となることが示されており、これは「痛みの記憶」が脊髄レベルですでに形成されうることを意味している。
このように、脊髄後角 どこかという単純な位置情報を超え、その層構造・神経回路・血管支配・可塑性を統合的に理解することが、難治性疼痛患者の評価と治療戦略立案に直結することがわかる。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
脊髄後角と疼痛抑制のメカニズムを図表入りで概説した和文スライド資料は、医療従事者向け講演会のアーカイブとして公開されており、現場教育に活用しやすい。
国際的な教科書レベルの整理としては、ScienceDirectの「Spinal cord dorsal horn」のトピックがあり、基礎研究と臨床応用をつなぐレビューとして参照価値が高い。
参考)https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/rexed-laminae