製剤薬局と調剤薬局の違い
製剤薬局の薬局製剤と調剤薬局の位置づけ
医療従事者の会話で混ざりやすいのが、「製剤」という言葉が示す範囲です。病院でいう「院内製剤(院内で調製して院内で使用)」と、薬局でいう「薬局製剤(薬局で製造し、その薬局で販売・授与)」は似ていますが、流通範囲と制度が別物です。院内製剤は“当該医療機関内のみ流通”が原則で、クラス分類や院内手続き、記録や品質確認の考え方がガイドラインとして整理されています(例:クラスⅠ~Ⅲ、倫理審査や同意の要否など)。
一方、薬局製剤(薬局製造販売医薬品)は、「都道府県知事の認可を受けた薬局が製造販売できる医薬品」として説明され、収載処方(例:業務指針に基づく品目)を前提に、薬局が“商品選択・容量・価格設定”まで担う点が特徴です。
参考)http://www.kobeyaku.org/magazine/pdf/1009.pdf
つまり「製剤薬局」とは、単に散剤や軟膏を混ぜる“調製が得意な薬局”ではなく、制度上は“薬局製剤の製造販売機能を持ちうる薬局”として理解すると混乱が減ります。
製剤薬局の許可と調剤薬局の要件
調剤薬局(保険薬局)は、保険調剤を行い、処方せんを受けて調剤・服薬指導を実施する運用が中心になります。ここで重要なのは、調剤報酬の算定や監査、疑義照会、薬学的管理の記録など、保険医療の枠組みの中での“適正な運用”です(現場感としては「処方せんを安全に回す」ことが主軸になりやすい)。
製剤薬局(薬局製剤を実施する薬局)では、これに加えて“製造販売業”としての許可・承認や文書管理が前面に出ます。薬局製剤の概説資料では、薬局製剤に必要なものとして、都道府県知事による許可証と承認書(例:製造業許可、製造販売業許可、製造販売承認)を挙げ、さらに質的要件(簡単な物理操作で製造できること等)と量的要件(管理者が完全に管理できる限度等)という考え方が示されています。
ここが意外と盲点で、同じ“薬局”でも、薬局製剤に踏み込んだ瞬間に「作った薬の責任」が一段重くなります。調剤は処方せんに基づく“調製”が中心ですが、薬局製剤は“自局ブランドの医薬品を世に出す”行為に近づくため、患者説明や販売時の情報提供も、OTC(第1類相当の販売方法)に寄った作法が必要になります。
製剤薬局の品質管理と調剤薬局の安全管理
製造と品質保証で最初に出てくるキーワードがGMPです。一般の製薬企業では、GMP省令に基づく製造管理・品質管理が厳密に求められます。
薬局製剤は資料上「GMP省令の適用外」としつつも、品質管理に万全を期すべきであり、異物混入や汚染の防止、原料の品質、同時に複数製剤を作らないなど、実務上の注意事項が列挙されています。
ここを医療従事者向けに言語化すると、次のような整理が役立ちます。
- 調剤薬局の安全管理:処方監査、相互作用・重複投与の回避、疑義照会、服薬指導、在庫管理、調剤過誤防止(ピッキングや鑑査、調剤録)など“患者ごとの適正使用”に強い。
- 製剤薬局の品質管理:原料管理、秤量・混和・篩過・分包といった工程管理、試験(確認試験・重量偏差等の考え方)、表示・添付文書・封、製造記録の整備など“製品としての再現性・均一性”に強い。
さらに院内製剤の指針では、品質確認を随時行うこと、無菌性が必要な場合の設備環境、調製記録や機器管理(バリデーション)などが明文化されています。
参考)薬局製剤
薬局製剤でも同じ発想がそのまま使える場面が多く、特に「記録が品質そのもの」という感覚(追跡性=トレーサビリティ)は、調剤中心の現場ほど後回しになりがちなので、差分として強調すると教育効果が高いです。
製剤薬局の販売と調剤薬局の説明
患者側の誤解で多いのは、「薬局で買える=市販薬(OTC)」と「処方せん薬(医療用医薬品)」の二分法だけで理解してしまうことです。実務的にはそこに“薬局製造販売医薬品(薬局製剤)”という中間的な存在が入り、処方せん不要で購入できるが、どこの店舗でも買えるわけではない、という体験差が生まれます。
薬局製剤の資料では、薬局製剤は平成26年頃から「薬局医薬品」に分類され、第1類医薬品と同じ販売方法となった旨が説明され、販売記録の保存などの運用も触れられています。
この「販売記録」「情報提供」「適正使用の確認」という要素は、調剤薬局が日々行う服薬指導に似ていますが、レギュレーションの入口が“処方せん”ではなく“OTCに近い販売”に寄るため、確認項目(使用目的、禁忌、併用、妊娠授乳、受診勧奨など)の型を改めて作る必要が出ます。
医療従事者向けの現場メモとしては、患者説明を次の一文で統一すると伝わりやすいです。
- 「調剤薬局は処方せんの薬を安全に渡す場所、製剤薬局はそれに加えて“その薬局で作った薬局製剤”も扱える場合がある場所」
この言い方なら、制度差(許可・記録)と体験差(そこでしか買えない)を同時に説明できます。
製剤薬局の独自視点:院内製剤との連携
検索上位では「薬局製剤=昔ながらの手作り薬」程度で止まることがありますが、医療提供体制の視点では、院内製剤との“役割分担”が意外に重要です。日本病院薬剤師会の院内製剤指針では、院内製剤が多様な医療ニーズに応えてきたこと、また院内製剤がきっかけとなり薬機法承認を得た医薬品も数多く存在することが述べられています。
つまり、現場の困りごとを埋めるための製剤は、長期的には標準治療の選択肢を増やす「種」になり得ます。
ここで製剤薬局の価値が出るのは、地域側で“軽症~中等症のセルフケアや生活の質(QOL)改善”に寄ったニーズを、薬局製剤で丁寧に拾える可能性がある点です。たとえば、製剤の形態(軟膏基剤、濃度、使用感)や、患者の生活導線(塗布の頻度、匂い、携帯性)に合わせた説明設計は、処方せん調剤だけでは調整しづらい領域です(もちろん、できる範囲は制度と承認の枠内に限定されます)。
また、院内製剤は流通範囲が院内に限定されますが、医療機関連携により設備の整った施設を借用して製剤することを妨げない、という考え方も指針に明記されています。
この発想を地域連携に置き換えると、病院(院内製剤の品質保証の文化)と薬局(地域の患者接点)が情報共有し、患者教育やフォローアップに反映する、という“見えにくい連携価値”が作れます。
(薬局製剤の学術的な裏付けを深掘りする場合は、各製剤の有効成分・剤形ごとに文献検索し、安定性、皮膚刺激性、使用感、アドヒアランスへの影響などを整理すると、医療従事者向け記事としての説得力が上がります。)
薬局製剤の制度・要件(定義、許可、GMPの特例と注意点)の根拠。
http://isono.biz/data/H26-2_yakkyokuseizai_gaisetu.pdf
院内製剤のクラス分類・院内手続き・品質保証の考え方(薬局製剤との比較視点に有用)。
https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20230206-2.pdf
GMP省令の概要(製造と品質管理の前提知識)。
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/pharmaceutical-raw-materials/medicine/regulation.html

病院薬局製剤 第5版