精神薬の一覧と分類効果副作用解説

精神薬の一覧と分類

精神薬の主要分類
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抗精神病薬

統合失調症の治療に使用される薬物群で、ドパミン受容体に作用

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抗うつ薬

うつ病治療薬として開発され、セロトニンやノルアドレナリンに作用

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気分安定薬

躁うつ病の気分の波を安定させる効果を持つ薬物群

精神薬の法的分類と向精神薬指定

精神薬は医薬品医療機器等法において「向精神薬」として厳格に分類管理されています。向精神薬は依存性や乱用の危険性に応じて第1種から第3種まで段階的に分類され、取り扱いが規制されています。

第1種向精神薬には最も厳格な管理が必要な薬物が指定されており、主要なものとして以下があります。

  • モダフィニル(商品名:モディオダール)- 覚醒促進作用
  • メチルフェニデート(商品名:リタリン、コンサータ)- 中枢興奮作用
  • セコバルビタール(商品名:アイオナール)- 催眠鎮静作用

第2種向精神薬は中程度の管理が必要で、以下のような薬物が含まれます。

  • フルニトラゼパム(商品名:サイレース、ロヒプノール)- 催眠鎮静
  • ブプレノルフィン(商品名:レペタン、ノルスパン)- 鎮痛作用
  • ペンタゾシン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)- 鎮痛作用

第3種向精神薬には最も多くの精神薬が分類され、日常的な精神科診療で処方される多くの薬物が含まれています。これには多数のベンゾジアゼパム系薬物やバルビツール系薬物が該当します。

第1種及び第2種向精神薬の取り扱いには記録義務があり、譲り受け、譲り渡し、廃棄の際は詳細な記録を2年間保存する必要があります。第3種向精神薬については記録義務はありませんが、適切な管理が推奨されています。

精神薬の抗精神病薬一覧と効果

抗精神病薬は統合失調症の主要な治療薬として開発され、幻覚や妄想などの陽性症状の改善に優れた効果を発揮します。現在使用される抗精神病薬は、開発された時期と作用機序により定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬に大別されます。

定型抗精神病薬は古典的な抗精神病薬で、主にドパミンD2受容体を強力に遮断することで効果を発揮します。

フェノチアジン系

  • クロルプロマジン(商品名:コントミン、ウインタミン)
  • プロクロルペラジン(商品名:ノバミン)
  • ペルフェナジン(商品名:PZC)

ブチロフェノン系

ベンズアミド系

  • スルピリド(商品名:ドグマチール)
  • スルトプリド(商品名:バルネチール)

非定型抗精神病薬は1990年代以降に開発された新しいタイプの抗精神病薬で、ドパミン受容体以外にもセロトニン受容体など複数の受容体に作用することで、効果と副作用のバランスが改善されています。

非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬と比較して錐体外路系副作用(パーキンソン症状、ジストニア、アカシジア)の発現が少ないとされていますが、体重増加や糖尿病などの代謝系副作用に注意が必要です。

抗精神病薬は統合失調症の治療だけでなく、その鎮静作用を利用して興奮状態の患者や不眠症状に対しても使用されることがあります。また、少量では抑うつ状態の治療にも応用されています。

精神薬の抗うつ薬種類と特徴

抗うつ薬うつ病治療薬として開発された薬物群で、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の濃度を調節することで抗うつ効果を発揮します。開発された時期と作用機序により、以下のように分類されます。

三環系抗うつ薬は最も古いタイプの抗うつ薬で、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。

  • アミトリプチリン(商品名:トリプタノール)
  • イミプラミン(商品名:トフラニール)
  • クロミプラミン(商品名:アナフラニール)
  • アモキサピン(商品名:アモキサン)

三環系抗うつ薬は抗うつ効果が高い一方で、コリン作用による口渇、便秘、眠気などの副作用が多く、現在では第一選択薬としては使用されにくくなっています。

四環系抗うつ薬は三環系の副作用を軽減するために開発されましたが、効果も若干弱くなっています。

  • マプロチリン(商品名:ルジオミール)
  • ミアンセリン(商品名:テトラミド)

SSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬は1990年代以降に普及した新しいタイプの抗うつ薬で、副作用が少なく現在の抗うつ薬治療の主流となっています。

SNRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、セロトニンとノルアドレナリンの両方に作用することで、より広範囲な症状の改善が期待できます。

  • ミルナシプラン(商品名:トレドミン)
  • デュロキセチン(商品名:サインバルタ)- 慢性疼痛にも効果

NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬は独特の作用機序を持つ抗うつ薬です。

  • ミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)- 鎮静作用が強く、食欲増進効果もある

抗うつ薬の効果発現には通常2-4週間を要し、十分な効果を得るためには継続的な服薬が必要です。また、うつ病以外にも強迫性障害、パニック障害、社交不安障害などの不安障害の治療にも使用されます。

精神薬の気分安定薬と抗てんかん薬

気分安定薬は躁うつ病(双極性障害)の治療に用いられる薬物群で、気分の波を安定させる効果があります。多くの気分安定薬は元々抗てんかん薬として開発された薬物が、気分安定作用を持つことが発見されて転用されたものです。

リチウム(炭酸リチウム)

商品名:リーマス

躁うつ病の治療において最も歴史が長く、抗躁効果、抗うつ効果、再発予防効果のすべてに優れています。ただし、治療濃度と中毒濃度の幅が狭いため、定期的な血中濃度測定が必要です。副作用として腎機能障害や甲状腺機能低下症に注意が必要です。

バルプロ酸ナトリウム

商品名:デパケン、デパケンR

元々は抗てんかん薬として開発されましたが、優れた抗躁効果を持ちます。躁状態に対しては第一選択薬の一つとされていますが、抗うつ効果は限定的です。血中濃度測定が推奨されており、副作用として肝機能障害や体重増加があります。

カルバマゼピン

商品名:テグレトール

こちらも抗てんかん薬として開発された薬物で、抗躁効果を持ちます。現在では副作用が多いため、他の気分安定薬が使用できない場合に限定して使用されることが多くなっています。

ラモトリギン

商品名:ラミクタール

比較的新しい気分安定薬で、特に抗うつ効果に優れています。躁うつ病の維持療法においても有効性が示されています。重篤な皮膚障害(Stevens-Johnson症候群)のリスクがあるため、慎重な用量調節が必要です。

抗てんかん薬としての使用

これらの薬物は精神科領域だけでなく、本来の適応である てんかんの治療にも重要な役割を果たしています。全般性発作にはバルプロ酸、部分発作にはラモトリギンやレベチラセタム(商品名:イーケプラ)が基本的な治療薬として使用されます。

気分安定薬の選択は患者の症状の特徴(躁症状優位か抑うつ症状優位か)、既往歴、併存疾患などを総合的に考慮して決定されます。多くの場合、単剤での治療が困難で、複数の気分安定薬や抗精神病薬との併用療法が行われます。

精神薬の副作用と注意点

精神薬の使用において、副作用の理解と適切な管理は治療成功の鍵となります。各薬物群には特徴的な副作用パターンがあり、患者の生活の質に大きく影響するため、医師と患者の両方が正しく理解する必要があります。

抗精神病薬の副作用

定型抗精神病薬では錐体外路系副作用が主要な問題となります。これには急性ジストニア、パーキンソン症候群、アカシジア(静座不能)、遅発性ジスキネジアが含まれます。特に遅発性ジスキネジアは口周囲や舌の不随意運動を特徴とし、長期使用により出現する可能性があります。

非定型抗精神病薬では錐体外路系副作用は軽減されましたが、代わりに代謝系副作用(体重増加、糖尿病脂質異常症)が問題となることがあります。特にオランザピンやクエチアピンでは顕著な体重増加が報告されています。

抗うつ薬の副作用

SSRIでは消化器症状(吐き気、下痢)、初期の不安・焦燥感、性機能障害が主な副作用です。また、25歳未満の若年者では自殺念慮の増加リスクがあるため、治療開始初期は特に注意深い観察が必要です。

三環系抗うつ薬では抗コリン作用による口渇、便秘、排尿困難、眠気が頻繁に現れます。また、心伝導系への影響もあるため、心疾患のある患者では慎重な使用が求められます。

気分安定薬の副作用

リチウムでは治療域が狭く、中毒症状(振戦、錯乱、けいれん)に注意が必要です。長期使用では腎機能障害甲状腺機能低下症のリスクがあります。

バルプロ酸では肝機能障害、脱毛、体重増加が主な副作用です。特に若年女性では多嚢胞性卵巣症候群のリスクもあります。

ベンゾジアゼパム系薬物の依存性

抗不安薬睡眠薬として広く使用されるベンゾジアゼパム系薬物では、身体依存と精神依存の両方が問題となります。特に短時間作用型(エチゾラム、アルプラゾラムなど)では依存性が高くなる傾向があります。

離脱症状として不安、不眠、けいれん、幻覚などが現れることがあり、急激な中止は危険です。減量は医師の指導のもと、ゆっくりと時間をかけて行う必要があります。

相互作用と禁忌

精神薬の多くは肝臓で代謝されるため、他の薬物との相互作用に注意が必要です。特にCYP酵素系の阻害や誘導により、薬物濃度が予期せず変動することがあります。

また、MAO阻害薬とSSRIの併用によるセロトニン症候群、リチウムとACE阻害薬の併用によるリチウム中毒など、生命に関わる相互作用もあるため、処方時には十分な薬歴確認が必要です。

精神薬の副作用管理には、定期的な血液検査、体重測定、心電図検査などのモニタリングが重要です。患者自身も副作用の初期症状を理解し、異常を感じた場合は速やかに医師に相談することが大切です。

精神科医療の専門情報については以下のリンクが参考になります。

厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアル