生物学的同等性試験とジェネリック医薬品の評価方法

生物学的同等性試験とガイドライン

生物学的同等性試験の基本
🔬

試験の目的

先発医薬品に対するジェネリック医薬品の治療学的同等性を保証するための重要な評価方法

📊

評価パラメータ

主にAUC(血中濃度-時間曲線下面積)とCmax(最高血中濃度)を用いて同等性を評価

📋

ガイドライン

2020年3月に改正された「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に基づいて実施

生物学的同等性試験の定義と目的

生物学的同等性試験(Bioequivalence試験、BE試験)とは、同一有効成分を含有する標準製剤(主に先発医薬品)に対する試験製剤(ジェネリック医薬品)の臨床上の有効性および安全性の同等性を評価するために実施される重要な試験です。この試験は、ジェネリック医薬品が製造販売承認を取得するための必須条件となっています。

BE試験の主な目的は、先発医薬品とジェネリック医薬品のバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)を比較することにあります。バイオアベイラビリティとは、医薬品が体内に吸収され、作用部位に到達する割合と速度を指します。両製剤間でバイオアベイラビリティに有意差がなければ、臨床効果も同等であると判断されます。

BE試験は、ジェネリック医薬品の開発だけでなく、新薬開発時の製剤処方や剤形変更、ライフサイクルマネジメントの一環として行われるOD錠(口腔内崩壊錠)などの剤形追加の際にも実施されます。このように、医薬品開発の様々な段階で重要な役割を果たしています。

生物学的同等性試験の評価方法とパラメータ

BE試験では、一般的にクロスオーバー法を採用します。これは、同一被験者に先発医薬品とジェネリック医薬品を一定期間をおいて交互に投与し、それぞれの血中濃度推移を測定する方法です。被験者内変動を最小限に抑えることができるため、製剤間の差を正確に評価できます。

評価の主要パラメータは以下の2つです。

  1. AUC(Area Under the Curve): 血中濃度-時間曲線下面積で、体内に吸収された薬物の総量を反映します。
  2. Cmax(最高血中濃度): 投与後に到達する最高の血中濃度で、薬物の吸収速度を反映します。

これらのパラメータは対数正規分布することが知られているため、それぞれを対数変換し、平均値の差の90%信頼区間が、log(0.80)~log(1.25)の範囲内にあるとき、生物学的に同等と判定されます。この評価方法は、細かな違いはあるものの、世界的に共通して用いられています。

BE試験の実施には、以下のような条件が設定されています。

  • 被験者: 原則として健康成人を対象とします
  • 例数: 統計学的に有意な結果を得るために十分な例数(通常12~24例程度)
  • 投与条件: 絶食条件または食後条件(製剤特性により異なる)
  • 測定: 適切な採血時間と回数、高感度かつ特異的な分析法

これらの条件を厳密に管理することで、信頼性の高い試験結果を得ることができます。

生物学的同等性試験ガイドラインの改正ポイント

2020年3月19日に「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正について」(薬生薬審発0319第1号)が発出されました。この改正では、国際協調や技術開発の向上等、時代の流れに対応したガイドラインの見直しが行われました。主な改正ポイントは以下の3つです。

1. 食後条件のBE試験の追加

従来、BE試験は製剤間差を評価する感度を上げるために絶食条件下で行われてきましたが、改正により以下の製剤については食後条件下でのBE試験も必要となりました。

  • バイオアベイラビリティを向上させた溶解性改善製剤(固体分散体、アモルファス、マイクロエマルジョン、ナノ粒子など)
  • 腸溶性製剤(食後投与時に胃から腸への移動速度が吸収に影響する可能性があるため)

ただし、用法が食前投与のみの製剤については、絶食条件下のBE試験のみで十分とされています。

2. 予試験および例数追加試験の再検討

改正前は、BE試験は予試験、本試験、例数追加試験の3段階で評価可能でしたが、改正後は本試験の位置づけが明確化され、例数追加試験は原則認められなくなりました。予試験は本試験の必要例数や体液採取間隔を含む適切な試験デザインを立案するための情報を得ることを目的とし、BEの同等・非同等の評価は本試験のみで行うことになりました。

3. 外国人を対象としたBE試験の導入と国内標準製剤使用の明確化

改正前は外国人を対象に実施されたBE試験データは原則受け入れられませんでしたが、海外で実施された臨床試験の適切性を確認できる体制が整備されたことにより、一定条件下で外国人を対象としたBE試験データも受け入れられるようになりました。ただし、標準製剤と試験製剤の溶出率に著しい差がある場合や、製剤特性により民族的差異がBE評価に影響する場合には、日本人を対象としたBE試験が必要です。

これらの改正により、BE評価がより科学的かつ合理的に行われる体制が整備されました。

生物学的同等性試験における溶出試験の役割

溶出試験は、BE試験を補完する重要な役割を果たしています。溶出試験とは、製剤から有効成分が放出される速度と程度を評価する試験で、製剤の品質管理や同等性評価に用いられます。

BE試験ガイドラインでは、以下のような場合に溶出試験が活用されます。

  1. 生物学的同等性試験の免除: 一定条件下では、ヒトを対象としたBE試験の代わりに溶出試験による評価が認められることがあります。例えば、有効成分の含量が異なる製剤間の同等性評価や、軽微な処方変更時の同等性評価などが該当します。
  2. 製剤の品質確認: 製造工程の変更や製造スケールの変更時に、溶出挙動の同等性を確認することで、製剤の品質が維持されていることを確認します。
  3. ロット間の一貫性確認: 異なるロット間で溶出挙動を比較することで、製造の一貫性を確認します。

溶出試験では、通常、pH1.2、pH4.0、pH6.8などの複数のpH条件で試験を行い、各時点での溶出率を比較します。溶出挙動の類似性は、「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に規定された判定基準に基づいて評価されます。

溶出試験は、ヒトを対象としたBE試験に比べて簡便かつ低コストで実施できるため、製剤開発の初期段階や品質管理において重要なツールとなっています。ただし、溶出試験だけではバイオアベイラビリティを完全に予測することは難しいため、必要に応じてヒトを対象としたBE試験が実施されます。

生物学的同等性試験の国際比較と日本の特徴

生物学的同等性試験は世界各国で実施されていますが、規制要件には国によって違いがあります。日本と他国(特に台湾)のBE試験における違いを比較してみましょう。

日本と台湾のBE試験の違い:

  1. 試験目的の違い:
    • 日本: 主に先発医薬品に対するジェネリック医薬品の治療学的同等性を保証するために実施
    • 台湾: ジェネリック医薬品の評価だけでなく、剤形・処方・製造工程・製造者などの変更時にも実施
  2. BE試験免除条件の違い:
    • 日本: 使用時に水溶液である静脈注射用製剤(IV)のみ免除可能
    • 台湾: 静脈注射剤、特定の経口液剤、血管外注射製品、吸入薬、局所製剤、眼科・耳鼻科用製剤など、より広範囲の製剤で免除可能
  3. 国際データの受け入れ:
    • 日本: 2020年の改正により、一定条件下で外国人を対象としたBE試験データも受け入れ可能になった
    • 台湾: 米国FDAやICHのガイドラインを参照し、国際的基準との整合性を重視

日本のBE試験ガイドラインは、2020年の改正により国際協調が進みましたが、依然として日本特有の厳格な要件も維持されています。例えば、日本では標準製剤として日本で承認され流通している製剤を使用することが明確に規定されており、製剤の品質と同等性に対する高い基準が設けられています。

このような国際比較を通じて、各国の規制の違いを理解することは、グローバルな医薬品開発において重要な視点となります。

生物学的同等性試験における臨床的意義と将来展望

生物学的同等性試験は単なる規制上の要件ではなく、患者さんに安全で有効な医薬品を提供するための重要な科学的プロセスです。BE試験の臨床的意義と今後の展望について考察します。

臨床的意義:

BE試験によって先発医薬品とジェネリック医薬品の同等性が確認されることで、医療現場では安心して後発医薬品を使用することができます。これは医療費の削減にも貢献し、限られた医療資源の有効活用につながります。

また、BE試験は医薬品の剤形変更や処方変更時にも実施されるため、患者さんの服薬アドヒアランス向上や特殊な患者集団(高齢者、小児など)のニーズに対応した製剤開発を科学的に支える役割も果たしています。

将来展望:

  1. モデリング&シミュレーションの活用: 生理学的薬物動態(PBPK)モデルなどのコンピュータシミュレーションを活用することで、BE試験の効率化や被験者負担の軽減が期待されています。
  2. バイオマーカーの活用: 従来の血中濃度測定に加え、薬理効果を直接反映するバイオマーカーを活用することで、より臨床効果に即した同等性評価が可能になるでしょう。
  3. リアルワールドデータの活用: 市販後の大規模データベースを活用することで、BE試験では捉えきれない長期的な有効性・安全性の同等性を評価する取り組みも始まっています。
  4. 国際協調のさらなる進展: ICH(医薬品規制調和国際会議)などの場での議論を通じて、BE試験の国際的な調和がさらに進むことが期待されます。

これらの新たなアプローチにより、BE試験はより科学的かつ効率的に発展していくでしょう。同時に、BE試験の本質である「患者さんに同等の治療効果を提供する」という目的を見失わないことが重要です。

医療従事者は、BE試験の意義と限界を正しく理解し、患者さんに適切な情報提供を行うことが求められています。ジェネリック医薬品の普及が進む中、BE試験に関する正確な知識は、エビデンスに基づいた医薬品選択の基盤となるのです。

厚生労働省「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」の詳細はこちら
日本ジェネリック製薬協会による生物学的同等性試験ガイドラインの改正ポイント解説