労働災害の種類と分類を医療従事者向けに解説

労働災害の種類

労働災害の基本分類
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業務災害

業務中の負傷・疾病・死亡

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通勤災害

通勤途中の負傷・疾病・死亡

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第三者行為災害

第三者の過失による災害


労働災害は労働安全衛生法において「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう」と定義されています 。労働災害には主に業務災害、通勤災害、第三者行為災害という3つの種類があり、それぞれ異なる認定基準が適用されます 。医療従事者にとって労働災害の正確な理解は、患者への適切な対応や院内の安全管理において不可欠な知識です 。

参考)https://om.lakeel.com/column/detail17

労働災害の業務災害に関する認定基準

業務災害とは、労働者が就業中に業務を原因として負った負傷や疾病または死亡を指します 。業務災害の認定には「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの重要な要件があります 。業務遂行性とは、災害発生時に事業主の支配・管理下にあったことを意味し、業務起因性とは業務が原因となって災害が発生したことを指します 。具体的な事例として、手術中の針刺し事故や放射線被曝、患者対応中の暴力による負傷などが医療現場での業務災害として挙げられます 。

参考)労働災害の種類|労災保険給付の種類や申請手続きを解説|労働災…

近年注目されているのが精神障害の労働災害認定で、2024年度には仕事上の強いストレスが原因でうつ病などの精神障害となり労災認定された人が1,055人と過去最多を記録しました 。精神障害の労働災害認定には3つの要件があり、発症前6か月以内に業務による強いストレスを受けたこと、うつ病や適応障害などの精神疾患として診断されること、業務外のストレスや個人の要因で発症したといえないことが必要です 。

参考)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250625/k10014844151000.html

労働災害の通勤災害における特徴

通勤災害とは、通勤による労働者が被った負傷、疾病、障害または死亡をいいます 。通勤災害の対象となる「通勤」とは、住居と就業場所との間の往復、単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動、就業場所から他の就業場所への移動を合理的な経路および方法で行うものを指します 。医療従事者の夜勤交代時の通勤や、緊急呼び出しによる病院への移動も通勤災害の対象となる可能性があります 。

参考)通勤災害とは?業務災害との違いや労災の手続き方法を解説

通勤災害と業務災害の重要な違いは、給付内容にあります 。業務災害に対する治療費は全額労災保険から支給されますが、通勤災害の場合は一部負担金として、初回の労災保険からの休業給付の額より200円が控除されます 。また、業務災害では事業主に直接的責任がありますが、通勤災害では雇用者に直接的責任がないため、補償ではなく「療養給付」と呼ばれます 。

参考)業務災害と通勤災害の違い

労働災害の第三者行為災害の特殊性

第三者行為災害とは、労働者本人や事業者の過失ではなく、第三者の故意または過失によって引き起こされた災害のことを指します 。医療現場では患者やその家族による暴力、外来受診者による器物破損に巻き込まれての負傷、病院敷地内での交通事故などが該当します 。動物が原因となる災害も第三者行為災害として扱われ、ペット同伴での受診時にペットに咬まれた場合や、訪問看護中にクライアントのペットに負傷させられた場合なども含まれます 。

参考)第三者行為災害とは?定義や具体例、労災申請の方法などを解説

第三者行為災害における損害賠償請求額と労災保険の給付の支給調整方法には、「求償」と「控除」の2種類があります 。被災者が第三者から損害賠償を受けた場合、労災保険からの給付額が調整される仕組みになっており、医療機関としては適切な報告と手続きが重要です 。

参考)第三者行為災害【労災補償課】

労働災害の事故の型21分類システム

厚生労働省では、労働災害の発生メカニズムを物と人とが組み合わせれた接触現象として「事故の型」を21種類に分類しています 。事故の型は「墜落・転落」「転倒」「激突」「飛来・落下」「崩壊・倒壊」「激突され」「はさまれ・巻き込まれ」「切れ・こすれ」「踏み抜き」「おぼれ」「高温・低温物との接触」「有害物等との接触」「感電」「爆発」「破裂」「火災」「交通事故(道路)」「交通事故(その他)」「動作の反動・無理な動作」「その他」「分類不能」に分けられます 。

参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo20_1.html

2024年の労働災害統計では、転倒が最も多く全体の34.1%を占め、墜落・転落が18.5%、動作の反動・無理な動作が14.3%と続いています 。医療現場では特に転倒事故が多発しており、濡れた床での滑り、段差での躓き、患者移乗時のバランス崩れなどが主な原因となっています 。また、針刺し事故は「切れ・こすれ」に、重い患者の移乗による腰痛は「動作の反動・無理な動作」に分類され、医療従事者特有の労働災害パターンが見られます 。

参考)【わかりやすく】労働災害(労災)とは?定義や種類、発生する原…

労働災害の業務上疾病と職業病の分類

業務上疾病は労働災害の重要な構成要素であり、厚生労働省の「職業病リスト」では8つの主要カテゴリーに分類されています 。最も多いのは負傷に起因する疾病で、令和4年の調査では7,081件中5,959件が腰痛となっています 。医療従事者では、重い患者の移乗作業による腰痛、長時間の立位作業による下肢静脈瘤、針刺し事故による感染症などが代表的な業務上疾病です 。

物理的因子による疾病では、放射線科やリハビリテーション科での電磁波や放射線被曝、手術室での長時間の紫外線照射による皮膚障害などがあります 。化学物質による疾病では、消毒薬や薬品による接触性皮膚炎、麻酔ガスによる呼吸器疾患なども含まれます 。特に注目すべきは、医療従事者の精神障害が増加傾向にあることで、過重労働による適応障害やうつ病の労災認定件数が年々増加している現状があります 。