ラムゼイ・ハント症候群の症状
ラムゼイ・ハント症候群の顔面麻痺の特徴
ラムゼイ・ハント症候群の最も顕著な症状が顔面麻痺です。この麻痺は通常、顔の片側にのみ現れ、突然発症することが多いんです。多くの患者さんは起床時に自分の顔が動かないことに気づくケースが多く見られます。 ハント症候群の診断において最も特徴的なのが耳介帯状疱疹の存在です。耳介や耳の後ろ、外耳道に発赤を伴う小水疱が生じ、激しい痛みを伴うのが典型的です。 参考)https://www.maruho.co.jp/m/medical/famvir/pdf/seminars/05.pdf ラムゼイ・ハント症候群は内耳にも影響を及ぼし、第8脳神経症状として難聴やめまいを引き起こすことがあります。これらの症状は、ウイルスが顔面神経だけでなく、近接する聴神経にも波及することで発生します。 参考)耳帯状疱疹 – 19. 耳、鼻、のどの病気 – MSDマニュ…
顔面麻痺の具体的な症状としては、目を完全に閉じることができない、笑顔が左右非対称になる、口角が下がる、額のしわが寄らないなどがあります。これらは顔面神経の機能障害によって引き起こされるもので、患者さんによって麻痺の程度には差があります。軽度の違和感から完全な動きの喪失まで様々です。
ラムゼイ・ハント症候群の耳介帯状疱疹の出現パターン
この発疹は水ぼうそうと同じ水痘帯状疱疹ウイルスによるもので、神経に沿って分布する特徴があります。顔面神経の感覚枝の分布に沿って耳介および外耳道内部に小水疱が発生し、時には口の中や軟口蓋、舌にも出現することがあります。
福山市の医療機関による詳細な症状解説によれば、この耳介帯状疱疹が顔面神経麻痺に先行することもあれば、同時に現れることもあり、発症時期には個人差があるとされています。
興味深いのは、稀に皮疹を伴わない「無疱疹帯状疱疹(zoster sine herpete)」と呼ばれるケースも存在し、これがベル麻痺と誤診される原因となっている点です。このため、耳痛や耳周囲の違和感がある場合は、発疹が見えなくても慎重な診断が必要です。ラムゼイ・ハント症候群の聴覚・平衡感覚症状
具体的な症状としては、耳鳴り(耳の中でブーンという音がする)、聴力低下、回転性めまいやふらつき、吐き気や嘔吐などが挙げられます。特にめまいは患者さんの日常生活に大きな影響を与える可能性があり、歩行困難や転倒リスクの増加につながることもあります。
症状 | 頻度 | 日常生活への影響 |
---|---|---|
耳鳴り | 頻繁 | 集中力の低下、睡眠障害 |
聴力低下 | 中程度 | コミュニケーションの困難 |
めまい | 比較的多い | 歩行困難、転倒リスクの増加 |
87歳の高齢女性の症例報告では、耳の痛みを伴う水疱性病変に加えて、顔面神経麻痺と聴力低下が同時に発症し、早期の抗ウイルス療法が必要だったケースが紹介されています。このように聴覚障害を伴う場合は特に迅速な治療開始が求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11850981/
ラムゼイ・ハント症候群のその他の随伴症状
主要な三主徴(耳介帯状疱疹、顔面神経麻痺、第8脳神経症状)に加えて、ラムゼイ・ハント症候群では様々な随伴症状が現れることがあります。これらは患者さんの生活の質に大きく影響を与える可能性があるんです。
味覚障害は比較的よく見られる症状で、舌の前3分の2の味覚を司る神経の障害によって生じます。2021年に発表された研究によると、ラムゼイ・ハント症候群患者の約15%が味覚障害を経験することが報告されています。
その他の随伴症状としては、口の乾燥(唾液分泌の減少)、顔面の痛みやしびれ感、全身倦怠感などがあります。これらの症状は顔面神経の広範囲な機能に関連しており、主要症状と比べて見過ごされがちですが、患者さんのQOL(生活の質)に重大な影響を及ぼします。
随伴症状 | 出現頻度 | 特徴 |
---|---|---|
味覚障害 | 約15% | 舌の前方部分の味覚低下 |
口の乾燥 | 比較的多い | 唾液分泌の減少 |
顔面痛 | 頻繁 | 神経痛様の痛み |
稀なケースではありますが、8歳の小児例でラムゼイ・ハント症候群に水痘帯状疱疹ウイルス脳炎を合併した報告もあり、発熱や意識障害などの中枢神経系症状にも注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10906755/
ラムゼイ・ハント症候群の診断方法と検査
ラムゼイ・ハント症候群の診断は、特徴的な症状の組み合わせと臨床所見に基づいて行われます。早期発見が予後を大きく左右するため、医師による迅速かつ正確な診断が極めて重要なんです。
初診時の問診では、症状の発症時期と進行状況、過去の水痘罹患歴、最近の体調変化や疲労状況、服用中の薬剤、他の神経症状の有無などが詳しく聴取されます。これに続いて、顔面の動きや感覚、耳介部の状態などを詳しく観察する身体診察が行われます。
顔面神経機能の評価には「柳原法」という評価方法が一般的に用いられています。これは患者さんに額のしわ寄せ、軽い閉眼、強い閉眼、片目つぶり、口笛、イーッと歯を見せる、口をとがらせる、頬を膨らませるなどの動作をしてもらい、各部位の動きを点数化するものです。各項目を4点満点で評価し、合計40点満点で重症度を判定します。
皮膚症状の観察も診断において非常に重要で、耳介(耳の外側部分)、外耳道、鼓膜、軟口蓋、舌などの部位を重点的にチェックします。
診察項目 | 確認内容 | 診断での重要性 |
---|---|---|
顔面の動き | 表情筋の対称性、眼瞼閉鎖能力 | 麻痺の重症度評価 |
耳介部の観察 | 発疹や水疱の有無、分布 | ハント症候群の確定診断 |
聴力検査 | 簡易的な聴力評価 | 第8脳神経症状の評価 |
平衡機能 | 立位や歩行時のバランス | めまい症状の客観的評価 |
発症から7~10日後には、ENoG(誘発筋電図検査)という検査が行われることがあります。これは顔面神経を電気刺激して筋電図として記録し、左右を比較することで予後診断を行う重要な検査です。
参考)耳鼻咽喉・頭頸科|顔面神経麻痺|順天堂大学医学部附属順天堂医…
製薬会社による実践的治療ガイドでは、ラムゼイ・ハント症候群における診断上の問題点として、顔面神経麻痺が皮疹に先行した症例や無疱疹帯状疱疹がベル麻痺と診断されている場合があることが指摘されています。
ラムゼイ・ハント症候群の原因と発症メカニズム
ラムゼイ・ハント症候群の原因は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化です。このウイルスは、子どもの頃にかかる「水ぼうそう」の原因でもあります。
参考)ラムゼイハント症候群
水ぼうそうにかかった後、ウイルスは完全には消えず、顔の神経(膝神経節)に潜んでいることがあります。通常であれば症状を引き起こすことはありませんが、ストレスや疲れ、寝不足、免疫力の低下などが引き金となって、潜伏していたウイルスが再活性化することがあるんです。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E8%80%B3%E6%80%A7%E5%B8%AF%E7%8A%B6%E7%96%B1%E7%96%B9
再活性化したウイルスは神経に炎症を生じさせ、腫脹した神経が周りの骨で圧迫されることで顔面神経麻痺を起こします。さらに、その周りの神経にも波及し、耳介の発赤・水疱形成や耳痛、難聴、めまいなどを合併する特徴があります。
免疫力が低下する要因としては、ステロイドの使用、化学療法、がんの発症、高齢、糖尿病などの基礎疾患が知られています。実際に、糖尿病と悪性腫瘍の既往歴がある患者さんで、ウイルス血症を起こして汎発性帯状疱疹を合併したハント症候群の症例も報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi/57/1/57_1_7/_pdf/-char/ja
ラムゼイ・ハント症候群の治療方法
ラムゼイ・ハント症候群の治療は、抗ウイルス薬とステロイドの併用投与が基本となります。治療の成否を左右する最も重要な要因は治療開始のタイミングで、症状発現から72時間以内の早期治療が極めて重要とされています。この期間内に治療を開始することで、ウイルスの増殖を抑制し、神経へのダメージを最小限に抑えることができます。
参考)Ramsay Hunt症候群 —重症例を減らすためには何が必…
抗ウイルス薬としては、経口投与の場合、バラシクロビルで3,000mg/日、またはアメナビルで400mg/日を7日間投与するのが標準的です。重症例では入院の上、点滴投与が行われることもあります。
参考)https://koshii-c.sakura.ne.jp/facial_paralysis.html
ステロイドについては、プレドニゾロン総量600mg程度を約1週間で漸減投与する方法が一般的です。ステロイドの明確なエビデンスは限定的ですが、その免疫抑制作用による副作用よりも抗炎症作用による効果の方が大きいため、広く使用されています。
治療薬 | 標準投与量 | 投与期間 |
---|---|---|
バラシクロビル | 3,000mg/日 | 7日間 |
アメナビル | 400mg/日 | 7日間 |
プレドニゾロン | 総量600mg程度 | 約1週間で漸減 |
国立感染症研究所の報告によれば、発症10日以降に麻痺の程度や電気診断学的検査をもとに予後を推定し、予後不良と診断されれば手術やリハビリテーションを行う場合もあるとされています。
治療開始が遅くなると、後遺症が残る可能性が高くなるため、早期受診と早期治療開始が何よりも重要です。
参考)【質問】ラムゼイハント症候群(ハント症候群)の原因や治療、予…
ラムゼイ・ハント症候群の予後と後遺症
ラムゼイ・ハント症候群の予後はベル麻痺と比較して不良で、後遺症が残ることが多いことが知られています。ベル麻痺は予後良好な疾患で約7割は自然治癒し、適切な治療を施行すれば90%以上が完治するのに対し、ハント症候群は自然治癒が約30%、治療を行っても70%前後しか完治しないとされています。
参考)顔面神経麻痺後遺症の治療
ハント症候群の回復はベル麻痺よりも遅い傾向があり、後遺症として顔面の筋肉の不随意運動(病的共同運動)、顔面のこわばり、持続的な聴力低下、神経痛などが残る可能性があります。特に難聴や神経痛などの後遺症が加わる場合もあり、本症の予後は一般に信じられているほど楽観できるものではないとの指摘もあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/69/6special/69_6special_756/_pdf
予後に影響を与える主な因子としては、治療開始時期、麻痺の重症度、患者の年齢、基礎疾患の有無などが挙げられます。発症からどれくらいの時間が経過してから治療を開始したかが、後遺症の有無を大きく左右します。
項目 | ベル麻痺 | ハント症候群 |
---|---|---|
自然治癒率 | 約70% | 約30% |
治療後の完治率 | 90%以上 | 約70% |
回復速度 | 比較的速い | 遅い傾向 |
後遺症 | 少ない | 比較的多い |
横浜市立市民病院の顔面神経麻痺後遺症治療によれば、後遺症を予防するために、発症直後の急性期、回復期、後遺症期の3つの時期に分けたそれぞれのリハビリテーションが重要とされています。