プロプラノロール 投与方法と禁忌、副作用
プロプラノロールの適応症と投与方法の基本
プロプラノロール塩酸塩は非選択的β遮断薬として広く使用されている薬剤です。その適応症は多岐にわたり、本態性高血圧症(軽症~中等症)、狭心症、褐色細胞腫手術時、各種不整脈(期外収縮、発作性頻拍の予防、頻拍性心房細動など)、片頭痛発作の発症抑制、そして小児におけるファロー四徴症等を原疾患とする右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制などが含まれます。
投与方法は適応症によって異なりますが、基本的には低用量から開始し、効果不十分な場合に漸増するという原則があります。
【本態性高血圧症の場合】
- 成人:通常、プロプラノロール塩酸塩として1日30~60mgから開始し、効果不十分な場合は120mgまで漸増
- 1日3回に分割経口投与
- 年齢、症状により適宜増減
【不整脈の場合】
- 成人:通常、1日30mgから開始し、効果不十分な場合は60mg、90mgと漸増
- 小児:通常、1日0.5~2mg/kgを低用量から開始し、1日3~4回に分割経口投与
- 効果不十分な場合は1日4mg/kgまで増量可能(ただし1日投与量として90mgを超えないこと)
【片頭痛発作の発症抑制】
- 成人:通常、1日20~30mgから開始し、効果不十分な場合は60mgまで漸増
- 1日2回あるいは3回に分割経口投与
【右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制】
- 乳幼児:通常、1日0.5~2mg/kgを低用量から開始し、1日3~4回に分割経口投与
- 症状により適宜増減
投与量の調整においては、患者の体重、年齢、症状の重症度、併用薬などを考慮する必要があります。特に小児や高齢者では慎重な投与量調整が求められます。
プロプラノロールの禁忌と慎重投与が必要な患者
プロプラノロールの使用にあたっては、以下の禁忌事項を厳守することが重要です。これらの状態にある患者には投与してはいけません。
【絶対的禁忌】
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者(気管支を収縮し、喘息症状が誘発または悪化するおそれ)
- 糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある患者
- 高度または症状を呈する徐脈、房室ブロック(Ⅱ、Ⅲ度)、洞房ブロック、洞不全症候群のある患者
- 心原性ショックのある患者
- 肺高血圧による右心不全のある患者
- うっ血性心不全のある患者
また、以下の患者には慎重に投与する必要があります。
【慎重投与】
- うっ血性心不全のおそれのある患者(心機能を抑制し、うっ血性心不全が発現するおそれ)
- 甲状腺中毒症の患者(中毒症状をマスクするおそれ)
- 特発性低血糖症、コントロール不十分な糖尿病、絶食状態の患者(低血糖症状を起こしやすく、かつその症状をマスクしやすい)
- 重篤な肝、腎機能障害のある患者(薬物の代謝・排泄が影響を受ける可能性)
- 重度でない末梢循環障害のある患者(レイノー症候群、間欠性跛行など)
- 徐脈のある患者(徐脈が悪化するおそれ)
妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、緊急やむを得ない場合以外は投与しないことが望ましいとされています。妊娠中の投与により新生児の発育遅延、血糖値低下、呼吸抑制が認められたとの報告があります。また、授乳中の女性には投与中は授乳を避けさせる必要があります。
高齢者への投与においては、一般に過度の降圧は好ましくないとされており、脳梗塞等が起こるおそれがあるため、少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与することが重要です。
プロプラノロールの重大な副作用と対処法
プロプラノロールの使用において、いくつかの重大な副作用が報告されています。これらを早期に発見し適切に対処するためには、以下の症状に注意する必要があります。
【うっ血性心不全(または悪化)】
- 主な症状:全身のだるさ、むくみ、吐き気、息苦しさ、動く時の息切れ
- 対処法:投与を中止し、ジギタリス製剤、利尿剤などによる適切な治療を行う
【徐脈】
- 主な症状:めまい、意識の低下、考えがまとまらない、息切れ、脈が遅くなる
- 対処法:投与を中止し、アトロピン硫酸塩水和物の静注やβ1刺激剤であるドブタミンの投与を検討
【末梢性虚血(レイノー様症状等)】
- 主な症状:手足の冷感、手・足の指先が白~紫色になりやがて赤くなる、指先の痛み
- 対処法:投与を中止し、末梢血管拡張薬の投与や保温などの対症療法を行う
【房室ブロック】
- 主な症状:めまい、失神、脈の乱れ
- 対処法:投与を中止し、必要に応じてペースメーカー治療を検討
【失神を伴う起立性低血圧】
- 主な症状:立ちくらみ、めまい、失神
- 対処法:投与を中止し、輸液や昇圧剤の投与を検討
【無顆粒球症、血小板減少症、紫斑病】
- 主な症状:発熱、のどの痛み、全身のだるさ、出血傾向(鼻血、歯茎の出血など)
- 対処法:投与を中止し、骨髄検査や血液検査を実施、必要に応じてG-CSF製剤の投与や輸血を検討
【気管支痙攣、呼吸困難、喘鳴】
- 主な症状:息苦しさ、息がゼイゼイする、息をするときヒューヒューと音がする
- 対処法:減量または中止し、必要に応じてβ2作動薬を用いるなど適切な処置を行う
これらの副作用が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診するよう患者に指導することが重要です。また、定期的な診察や検査を行い、副作用の早期発見に努めることも医療従事者の重要な役割です。
プロプラノロールの相互作用と併用注意薬
プロプラノロールは多くの薬剤と相互作用を示すため、併用時には注意が必要です。主な相互作用と併用注意薬について以下にまとめます。
【血中濃度が上昇し作用が増強する可能性のある薬剤】
- シメチジン:肝血流量を低下させ、肝の薬物代謝酵素を阻害することにより、プロプラノロールの分解が低下
- クロルプロマジン:薬物代謝酵素を競合するため、両薬剤の血中濃度が上昇
- ヒドララジン:肝血流量を増加させるため、プロプラノロールの血中濃度が上昇
- キニジン、プロパフェノン:チトクロームP450による代謝を阻害
【作用が減弱する可能性のある薬剤】
【相互に作用が増強する薬剤】
- ジギタリス製剤:房室伝導時間が延長し、徐脈、房室ブロック等が発現する可能性
- 麦角アルカロイド(エルゴタミンなど):相乗的に末梢灌流を低下させ、下肢の疼痛、冷感、チアノーゼ等が発現
- フィンゴリモド:共に徐脈や心ブロックを引き起こすおそれ
【その他の相互作用】
- アルコール:プロプラノロールの吸収、代謝が変動し、作用が減弱または増強する可能性
- ワルファリン:ワルファリンの血中濃度が上昇し、作用が増強する可能性
これらの相互作用を考慮し、併用薬の選択や用量調整を行うことが重要です。特に、徐脈や心ブロックのリスクが高まる薬剤との併用には十分な注意が必要です。また、患者に対しては、医師の指示なく他の薬剤(市販薬を含む)を使用しないよう指導することも大切です。
プロプラノロールの小児投与における特殊性と注意点
プロプラノロールは小児、特に乳幼児においても使用される薬剤ですが、成人とは異なる特殊性があり、投与には細心の注意が必要です。
【小児への投与適応】
- 不整脈治療:期外収縮、発作性頻拍の予防など
- ファロー四徴症等を原疾患とする右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制
- 乳児血管腫(ヘマンジオール®シロップとして)
【小児投与量の特徴】
- 不整脈の場合:1日0.5~2mg/kgを低用量から開始し、1日3~4回に分割経口投与
- 効果不十分な場合は1日4mg/kgまで増量可能(ただし1日投与量として90mgを超えないこと)
- 右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制:1日0.5~2mg/kgを低用量から開始
小児、特に乳幼児では体重に基づいた正確な投与量計算が極めて重要です。体重1kg当たりの投与量を基準とし、体重の変化に応じて定期的に投与量を見直す必要があります。乳児血管腫治療に用いるヘマンジオールシロップでは、専用の計算ツールが提供されており、体重、投与日数、プロプラノロールとしての1日投与量(1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日)を入力することで、適切な投与量を算出できます。
【小児投与における注意点】
- 低血糖リスク:小児、特に乳幼児では低血糖のリスクが高く、低血糖症状がマスクされる可能性があるため、食事摂取状況や血糖値に注意が必要です。
- 呼吸器症状:気管支痙攣や呼吸抑制が生じる可能性があり、特に呼吸器感染症を合併している場合は注意が必要です。
- 成長発達への影響:長期投与による成長発達への影響について十分なデータがないため、定期的な評価が必要です。
- 服薬アドヒアランス:小児では服薬コンプライアンスの確保が難しい場合があり、保護者への適切な指導が重要です。
小児への投与においては、ベネフィットとリスクを慎重に評価し、最小有効量で治療を行うことが原則です。また、成人と比較して薬物動態が異なる可能性があるため、効果と副作用の発現に特に注意を払う必要があります。
乳児血管腫治療においては、治療開始前に心臓、肺、血糖値などの評価を行い、治療中も定期的なモニタリングが必要です。専用ピペットを用いた正確な投与量の測定と、保護者への適切な投与方法の指導も重要なポイントです。
乳児血管腫治療におけるヘマンジオールの投与量計算ツール(マルホ医療関係者向けサイト)
プロプラノロールの小児投与においては、小児科医と循環器専門医の連携が望ましく、特に乳幼児では入院下での治療導入を検討することも重要です。
以上、プロプラノロールの投与方法と禁忌、副作用について詳細に解説しました。この薬剤は有効性が高い一方で、適切な患者選択と慎重な投与管理が求められます。医療従事者は、患者の状態を十分に評価し、適切な用量設定と副作用モニタリングを行うことで、安全かつ効果的な治療を提供することが重要です。