PROBEAT(日立ハイテク)の機能とスポットスキャニング照射技術の特長

PROBEAT(日立ハイテク)の機能

PROBEATの主要機能概要
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スポットスキャニング照射技術

陽子線を精密制御し、がんの形状に合わせた高精度照射を実現

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動体追跡照射システム

呼吸で移動する臓器を追跡し、リアルタイムで照射位置を調整

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画像誘導位置決めシステム

3D/3D、3D/2Dモードで患者の正確な位置決めを支援

日立ハイテクの陽子線治療システム「PROBEAT」は、がん治療において最先端の技術を結集したシステムです。この治療システムは国内外で10施設以上の導入・治療運用実績を持ち、医療従事者から高い評価を受けています。PROBEATは単なる陽子線照射装置ではなく、複数の高度な機能を統合した総合的な治療ソリューションとして設計されており、患者の安全性と治療効果の向上を同時に実現します。

システムの核となる技術は、従来の二重散乱体方式に加えてスポットスキャニング照射技術を標準搭載していることです。この技術により、複雑な形状のがんに対しても精度の高い照射が可能となり、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることができます。さらに、患者ごとに準備が必要だった照射治具(コリメーターやボーラス)が不要となり、治療準備時間の大幅な短縮を実現しています。

また、PROBEATは画像誘導位置決めシステムを標準装備しており、治療直前の患者の体内状態を三次元で撮像できるコーンビームCT(CBCT)を搭載しています。このシステムにより、アイソセンターでの正確な位置決めが可能となり、治療のスループット向上にも貢献します。

PROBEATの高精度スポットスキャニング照射技術

スポットスキャニング照射技術は、PROBEATシステムの中核をなす革新的な機能です。この技術は、細い陽子ビームを患者の体内で三次元的に制御し、腫瘍の形状に合わせて精密に照射する仕組みです。

従来の二重散乱体方式と比較すると、スポットスキャニング技術には以下の優位性があります。

  • 複雑形状への対応: 不規則な形状のがんでも、その輪郭に沿って正確に照射できます
  • 正常組織の保護: 周囲の健康な細胞への影響を大幅に削減します
  • 治療効率の向上: 陽子ビームの利用効率が高く、不要な放射線の発生を抑制します
  • 準備時間の短縮: 患者専用の照射治具が不要となります

スポットスキャニング技術では、陽子ビームのエネルギーを調整することで、線量放出ピークを体内の任意の位置に設定できるという特徴があります。これにより、がん細胞のある深さに集中的に陽子線を当てることができ、その手前や奥の正常組織への影響を最小限に抑制します。

さらに、強度変調陽子線治療(IMPT)との組み合わせにより、より高精度な治療が実現されています。IMPTは腫瘍内の線量分布を細かく制御する技術で、腫瘍の一部分だけに集中的に照射したり、重要な臓器を避けながら照射したりすることが可能です。

PROBEATの動体追跡照射システムの革新性

動体追跡照射技術(RGPT:Real-time Gated Proton Therapy)は、PROBEATの画期的な機能の一つです。この技術は北海道大学と日立が共同開発したもので、呼吸によって移動する肺や肝臓などの臓器に対する高精度な治療を可能にします。

動体追跡システムの仕組みは以下の通りです。

  • マーカー留置: 腫瘍近傍に金属製のマーカーを留置します
  • リアルタイム監視: X線透視により、マーカーの位置を連続的に監視します
  • 照射制御: マーカーが所定の範囲内にある時のみ照射を実行します

この技術の最大の特徴は、最短33ミリ秒という極めて短い時間間隔でマーカー位置を把握し、照射制御を行うことです。従来の呼吸同期照射では、呼吸周期に合わせた比較的長時間の照射許可信号で制御していましたが、動体追跡技術では瞬時の位置変化に対応できるため、より正確な照射が実現できます。

また、スポットスキャニング照射技術との融合により、世界初となる動体追跡照射技術とスポットスキャニング照射技術の両方を搭載した陽子線治療システムが完成しました。これにより、移動性臓器に対しても精密な形状適合照射が可能となっています。

動体追跡技術は特に以下の症例で威力を発揮します。

PROBEATのコーンビームCT画像誘導システム

画像誘導位置決めシステムは、治療の精度と安全性を向上させる重要な機能です。PROBEATに搭載されているガントリー搭載型コーンビームCT(CBCT)は、治療直前の患者の体内状態を三次元で撮像し、正確な位置決めを実現します。

CBCTシステムの主な特徴。

  • 3D/3Dマッチング: 治療計画時のCT画像と治療直前のCBCT画像を三次元で比較照合
  • 3D/2Dマッチング: X線透視画像との二次元比較も可能
  • 6自由度自動マッチング: 患者の位置ずれを自動検出し、補正値を算出
  • アイソセンター位置決め: 治療ビームの中心となる点での正確な位置決めを実現

さらに、PROBEATには2軸CBCTという革新的な技術も搭載されています。この技術は直交する二対のX線撮像系を同時使用することで、従来のCBCTよりも撮像時間を35%短縮します。これは以下の場合に特に有効です:

  1. 撮像時間の短縮が必要な場合(患者の負担軽減)
  2. 患者固定具との干渉によりガントリ回転角度が制限される場合

また、将来のアダプティブ治療(適応放射線治療)に向けた技術開発も進んでおり、広い視野サイズ(φ60cm以上のhalf-fan)と高画質化を追求した次世代CBCTの開発が行われています。これにより、体幹全体での位置照合と、治療計画の正確な再計画が可能となる見込みです。

PROBEATの呼吸同期システム連携機能

呼吸同期システムは、PROBEATに接続可能なオプション機能として提供されています。この機能は、患者の呼吸パターンに同期して照射タイミングを制御する技術です。

呼吸同期システムの動作原理。

  • 体表動作検知: 胸部や腹部の動きをリアルタイムで監視します
  • 呼吸位相検出: 吸気・呼気の位相を正確に把握します
  • ゲート信号生成: 所定の呼吸位相でのみ照射許可信号を出力します
  • 照射制御: 許可信号がオンの間のみ陽子線照射を実行します

この技術により、呼吸による臓器の移動が大きい患者でも、安定した位置での照射が可能となります。特に肺がん肝臓がんの治療において、周囲の正常組織への影響を大幅に削減できます。

筑波大学陽子線医学利用研究センターとの共同研究により実用化されたこの技術は、従来から多くの医療機関で活用されており、呼吸性移動を伴う臓器の治療において優れた成果を上げています。

さらに、PROBEATでは呼吸同期システムと動体追跡技術を組み合わせることで、より高度な移動性臓器治療が実現できます。呼吸同期で大まかな照射タイミングを制御し、動体追跡でリアルタイムの位置補正を行うことで、極めて高精度な治療が可能となっています。

PROBEAT独自の治療効率最適化技術

PROBEATには、医療現場の効率性を重視した独自の技術が多数搭載されています。これらの技術は、治療の質を維持しながら、医療従事者の負担軽減と患者の待ち時間短縮を実現します。

運転員不要システムは、PROBEATの特筆すべき機能の一つです。従来の陽子線治療システムでは、専門の運転員が必要でしたが、PROBEATでは自動化技術により、医療技師や放射線技師だけで治療運用が可能となっています。これにより、人件費の削減と人材確保の課題解決に貢献しています。

分散保守システムも画期的な機能です。システム各部の状態を常時監視し、治療運用に影響しないタイミングで予防保守を実施します。これにより、突発的な故障による治療中断を最小限に抑制できます。

また、遠隔保守支援システムにより、日立とお客様施設間でリアルタイムの技術サポートが可能です。故障発生時には、遠隔診断により迅速な原因特定と復旧指示が行われ、主要予備品の戦略的配置と組み合わせることで、速やかな復旧を実現します。

治療効率の向上では、PROBEAT-M1という小型化システムも注目されます。従来システムと比較して設置面積を約70%に縮小しながら、高機能を維持した画期的なシステムです。都市部の限られた敷地でも導入可能で、導入費用と期間を大幅に削減できます。

さらに、照射野の大型化技術により、国内最大級の最大250mm×250mm(有効直径換算で約280mmφ相当)の照射が可能です。これにより、大きながんに対するパッチ照射(複数回に分けた照射)を極力減らし、治療効率の向上と患者負担の軽減を実現しています。

これらの技術革新により、PROBEATは単なる治療装置を超えた、総合的な治療ソリューションとして医療現場に貢献しています。

日立ハイテク公式のPROBEAT製品情報
PROBEATのリアルタイム動体追跡技術に関する国際論文
スポットスキャニング照射技術の詳細技術資料