ペニシリン系抗生物質一覧と種類別特徴解説

ペニシリン系抗生物質一覧と分類

ペニシリン系抗生物質の概要
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基本分類

天然ペニシリン、広域ペニシリン、抗緑膿菌ペニシリンの3つに大別

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作用機序

細菌の細胞壁合成を阻害し殺菌的に作用

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臨床的重要性

グラム陽性菌感染症の第一選択薬として広く使用

ペニシリン系抗生物質の基本分類と特徴

ペニシリン系抗生物質は、1928年にアレクサンダー・フレミングによって発見された最初の抗生物質であり、現在でも多くの感染症治療において重要な役割を果たしています。β-ラクタム環を持つ抗菌薬として、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用します。

臨床的には以下の4つのカテゴリーに分類されます。

  • 天然ペニシリン系:ペニシリンG(PCG)、ペニシリンV
  • 広域ペニシリン系(アミノペニシリン):アンピシリン(ABPC)、アモキシシリン(AMPC)
  • 抗緑膿菌ペニシリン系:ピペラシリン(PIPC)
  • β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤:アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)、ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)

各分類は抗菌スペクトラムと耐性菌への対応能力が異なり、適応症に応じた使い分けが重要です。

ペニシリン系抗生物質の主要薬剤一覧表

以下に主要なペニシリン系抗生物質の詳細な一覧を示します。

天然ペニシリン系

  • ペニシリンG(PCG)
  • 商品名:注射用ペニシリンGカリウム
  • 薬価:20万単位351円/瓶、100万単位485円/瓶
  • 特徴:グラム陽性菌、連鎖球菌に有効
  • ステルイズ(持続性ペニシリン)
  • 薬価:60万単位4,536円/筒、240万単位10,025円/筒
  • 特徴:筋注用の持続性製剤

広域ペニシリン系

  • アンピシリン(ABPC)
  • 商品名:ビクシリン
  • 薬価:カプセル250mg 22円/カプセル、注射用1g 481円/瓶
  • 特徴:経口・注射両剤型あり、腸球菌にも有効
  • アモキシシリン(AMPC)
  • 商品名:サワシリン(先発品)、各種ジェネリック
  • 薬価:サワシリンカプセル250mg 15.3円/カプセル
  • 特徴:経口吸収良好、ヘリコバクター・ピロリ除菌にも使用

抗緑膿菌ペニシリン系

  • ピペラシリン(PIPC)
  • 商品名:ペントシリン
  • 薬価:注射用1g 329円/瓶、2g 555円/瓶
  • 特徴:緑膿菌を含む幅広いグラム陰性菌に有効

配合剤

  • アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)
  • 商品名:ユナシン
  • 薬価:錠剤375mg 60円/錠、細粒10% 75.3円/g
  • ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)
  • 商品名:ゾシン、タゾピペ
  • 薬価:後発品1g 332円/瓶、2g 579円/瓶

ペニシリン系抗生物質の適応症と使い分け

ペニシリン系抗生物質は感染部位と起炎菌に応じて適切な薬剤選択が重要です。

第一選択となる主要疾患

  • 梅毒:梅毒は100%ペニシリン感受性のため、第一期・第二期にはアモキシシリンなどが使用されます
  • 咽頭炎:細菌性の場合は溶連菌が起炎菌となるため、バイシリンGを10日間程度使用します
  • 肺炎:肺炎球菌による定型肺炎では、感受性を確認した上で大量投与(1,200万〜2,400万単位)で対応可能です

感染部位別の使い分け

  • 中耳炎・副鼻腔炎:第一選択は抗菌薬非使用ですが、症状が強い場合はアモキシシリン(パセトシン)を使用
  • 尿路感染症:単純性膀胱炎では広域ペニシリンが有効
  • 皮膚軟部組織感染症:MSSAによる感染では抗ブドウ球菌ペニシリンを選択
  • 緑膿菌感染症:菌血症、肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症にピペラシリンが有効

耐性菌への対応

β-ラクタマーゼ産生菌に対しては、β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤(ABPC/SBT、PIPC/TAZ)の使用が推奨されます。特にピペラシリン/タゾバクタムは「SPACE」と呼ばれる院内感染で問題となるグラム陰性桿菌(アシネトバクターを除く)に活性があります。

ペニシリン系抗生物質の副作用と注意点

ペニシリン系抗生物質の副作用は、過敏反応から重篤な臓器障害まで多岐にわたります。

過敏反応

  • 発疹、蕁麻疹:5%以上で報告
  • アナフィラキシー:真のアレルギーは投与例の0.5〜5%に発生
  • 重症薬疹:中毒性表皮壊死融解症(TEN)、Stevens-Johnson症候群が0.1%未満で発生

過敏反応の既往がある場合は、ペニシリン系およびβ-ラクタム系(セフェム系、カルバペネム系)の使用を避けることが推奨されます。

臓器別副作用

  • 消化器系
  • 下痢、悪心、食欲不振(0.1〜5%未満)
  • 偽膜性大腸炎(0.1%未満)
  • 抗菌薬関連下痢症(CDAD)
  • 血液系
  • 無顆粒球症溶血性貧血(0.1%未満)
  • 好酸球増多、血小板減少(0.1〜5%未満)
  • 腎機能
  • 急性腎障害(0.1%未満)
  • 間質性腎炎
  • 肝機能
  • AST、ALT上昇を伴う肝機能障害
  • ピペラシリンでは胆汁うっ滞性黄疸

特殊な副作用

  • 中枢神経毒性:ペニシリンGの大量投与時、特に腎機能低下患者でけいれんを誘発
  • 電解質異常:点滴製剤に含まれるカリウム(1.7 mEq/100万単位)による高カリウム血症
  • ビタミン欠乏症ビタミンK欠乏による出血傾向、ビタミンB群欠乏による神経症状

ペニシリン系抗生物質の薬価比較と医療経済性

ペニシリン系抗生物質の薬価は、先発品と後発品で大きな差があり、医療経済の観点から重要な検討事項です。

経口薬の薬価比較(250mg換算)

  • サワシリン(先発品):15.3円/錠・カプセル
  • アモキシシリン後発品:10.4円/カプセル(約32%削減)
  • ビクシリン:22円/カプセル
  • ユナシン錠375mg:60円/錠

注射薬の薬価比較(1g換算)

  • ペニシリンG 100万単位:485円/瓶
  • ビクシリン注射用1g:481円/瓶
  • ペントシリン注射用1g:329円/瓶
  • ピペラシリンNa後発品1g:332円/瓶(先発品より約40%削減)
  • ゾシン1g:約800円/瓶(推定)

コスト効果分析の観点

長期投与が必要な疾患(慢性感染症、感染性心内膜炎など)では、後発品の選択により医療費を大幅に削減できます。特に、ピペラシリン/タゾバクタムの後発品使用により、1日あたりの薬剤費を約40%削減可能です。

投与方法による経済性

  • 経口薬:外来治療可能で入院費削減効果
  • 注射薬:重症例での確実な効果期待
  • 持続性製剤(ステルイズ):投与回数減少により人件費削減

薬剤選択時は、薬価だけでなく投与期間、入院期間短縮効果、副作用による追加治療コストも総合的に評価することが重要です。

日本感染症学会の抗菌薬適正使用指針に基づく薬剤選択により、医療の質向上と医療費適正化の両立が可能となります。

日本感染症学会抗菌薬適正使用指針

また、薬剤耐性(AMR)対策の観点からも、適切なペニシリン系抗生物質の選択と使用期間の遵守が、長期的な医療経済性の向上に寄与します。

厚生労働省AMR対策アクションプラン