オルプリノンとミルリノンの違い
オルプリノンには腎血流を増やさない特徴があります。
オルプリノンとミルリノンの基本的な作用機序の違い
オルプリノンとミルリノンは、どちらもホスホジエステラーゼⅢ(PDE3)を阻害することで細胞内のサイクリックAMP(cAMP)濃度を増加させる薬剤です。このcAMP増加により、心筋では陽性変力作用が、血管平滑筋では血管拡張作用が生じます。β遮断薬と異なり、β受容体を介さずに作用するため、β遮断薬投与中の患者にも効果を発揮できる点が大きな特徴です。
PDE3阻害薬の作用機序は共通していますが、両薬剤の間には重要な違いが存在します。細胞内でcAMPが増加すると、心筋ではカルシウムイオンの動員が促進され心収縮力が増強されます。
つまり強心作用が生まれるということですね。
一方、血管平滑筋では細胞内カルシウム濃度が低下し、血管が拡張します。この2つの作用のバランスが、オルプリノンとミルリノンで異なるのです。
ミルリノンは陽性変力作用が強く、心拍出量を増加させる効果に優れています。心臓のポンプ機能を直接強化する必要がある急性心不全や低心拍出量症候群では、ミルリノンの強い強心作用が有効です。投与により心係数(心拍出量を体表面積で補正した指標)が有意に上昇し、肺動脈楔入圧が低下することが複数の研究で示されています。
対照的にオルプリノンは、陽性変力作用はミルリノンより弱いものの、血管拡張作用がより強力です。特に体血管(全身の血管)に対する選択性が高いとされています。VSD(心室中隔欠損症)患児を対象とした研究では、オルプリノン20μg/kgの単回投与により、肺血管抵抗には有意な変化が見られなかった一方で、体血管抵抗は31%低下したと報告されています。体血管抵抗の低下が主目的となる病態では、オルプリノンが選択肢になります。
日本小児循環器学会雑誌「小児心臓手術の麻酔管理」にPDE3阻害薬の作用機序と使い分けに関する詳細が記載されています
オルプリノンとミルリノンの血管選択性の違い
オルプリノンとミルリノンの最も重要な違いの一つが、血管拡張作用の選択性です。ミルリノンは肺血管と体血管の両方に対して拡張作用を示します。研究によれば、ミルリノン0.5μg/kg/分の投与で体血管抵抗を30%低下させると同時に、肺血管抵抗も25%低下させることが報告されています。この非選択的な血管拡張作用は、全身の循環動態に広範な影響を与えます。
一方でオルプリノンは、体血管に対してより選択的な拡張作用を持つ可能性が示唆されています。前述のVSD患児での研究において、オルプリノンは体血管抵抗を31%低下させたものの、肺血管抵抗には有意な変化を認めませんでした。
体血管への選択性が条件です。
この選択性により、肺高血圧を伴う心不全や、体血管抵抗の低下が優先される病態では、オルプリノンの方が循環動態をコントロールしやすい可能性があります。
血管選択性の違いは、シャント血流を伴う先天性心疾患の管理において特に重要です。体血管抵抗と肺血管抵抗のバランスが循環動態を左右するバランス循環では、両者の比率(Qp/Qs:肺血流量/体血流量)を適切に保つ必要があります。ミルリノンは両方の血管抵抗を低下させるため、Qp/Qsへの影響が予測しにくい場面があります。これに対しオルプリノンは体血管抵抗を選択的に低下させるため、左心低形成症候群などの並列循環を呈する疾患では、より予測可能な循環管理が期待できます。
ただし、この血管選択性の違いについては、対象疾患や投与量、投与方法の相違により、研究結果に一貫性がない部分もあります。β遮断薬抵抗性慢性心不全急性増悪症例を対象にした研究では、低用量ドブタミンとの併用療法において、ミルリノンとオルプリノンで肺動脈楔入圧と心係数に対する効果に有意な差を認めなかったとする報告もあります。臨床現場では、個々の患者の病態を評価しながら慎重に選択することが求められます。
日本心臓病学会誌「β遮断薬抵抗性慢性心不全急性増悪症例に対するPDE III阻害薬と低容量ドブタミンの併用療法の有効性」にミルリノンとオルプリノンの比較データが掲載されています
オルプリノンとミルリノンの腎血流に対する作用の違い
腎血流への影響は、オルプリノンとミルリノンを区別する上で看過できない要素です。麻酔犬を用いた研究において、ミルリノン(10~300μg/kg静注)とオルプリノン(3~100μg/kg静注)には腎動脈血流量増加作用が認められず、大腿動脈血流量のみが有意に増加したと報告されています。
意外ですね。
この結果は、両薬剤が腎臓への特異的な血流改善効果を持たないことを示唆しています。
対照的に、同じPDE3阻害薬であるアムリノンは、腎動脈血流量を増加させる作用を持つことが確認されています。アムリノンによる利尿作用には、この腎血流量増加作用が関与すると推察されます。つまり、腎保護や利尿促進を目的とする場合、ミルリノンやオルプリノンよりもアムリノンの方が理論的には有利です。ただし、アムリノンには血小板減少などの副作用が多いため、現在の臨床ではミルリノンやオルプリノンの方が頻用されています。
心臓手術後の低心拍出量症候群では、腎機能の維持が重要な課題の一つです。心拍出量が低下すると腎血流も減少し、急性腎障害のリスクが高まります。ミルリノンやオルプリノンは、心拍出量を増加させることで間接的に腎血流を改善する可能性はありますが、腎動脈に対する直接的な拡張作用は期待できません。そのため、腎機能が悪化している症例では、循環動態全体の改善とともに、輸液管理や利尿薬の併用など、総合的なアプローチが必要になります。
腎機能低下症例では、ミルリノンとオルプリノンの投与量調整も重要です。両薬剤は主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると血中濃度が上昇し、消失半減期が延長します。クレアチニンクリアランスが45mL/分の患者では、90mL/分の患者に比べて血漿クリアランスが32%低く、AUC(血中濃度-時間曲線下面積)が1.48倍になるとの報告があります。腎機能障害時は投与量を減量する必要があります。
オルプリノンとミルリノンの投与量設定と薬物動態の違い
オルプリノンとミルリノンは、推奨される投与量が異なります。ミルリノンは、初回負荷として50μg/kgを10分間かけて静脈内投与し、引き続き0.25~0.75μg/kg/分(標準は0.5μg/kg/分)で持続静注します。患者の血行動態や臨床症状に応じて投与量を調整できますが、1日の総投与量は1.13mg/kgを超えないことが推奨されています。これは承認用量の上限で24時間投与した場合に相当します。
オルプリノンの標準的な投与法は、初回10μg/kgを5分間かけて静注し、その後0.1~0.2μg/kg/分で持続投与します。ミルリノンと比較すると、オルプリノンの方が投与量は少なめです。ただし、これは薬効の強さの違いというよりも、薬物動態や臨床試験での設定の違いを反映しています。実際の臨床では、初回負荷投与を行わず持続投与から開始する方法も選択されます。
両薬剤の薬物動態にも違いがあります。ミルリノンの消失半減期は成人で約1.7時間ですが、乳児では3.2時間、小児では1.9時間と年齢により変動します。総じて乳児では同様の血中濃度を得るためにより多い投与量が必要です。オルプリノンも同様に腎排泄型の薬剤で、腎機能低下に伴い消失半減期が延長します。ただし、血中クレアチニンが2mg/dL以内であれば排泄の延長は軽度とされています。
急性血液浄化療法を受けている患者では、薬物動態がさらに複雑になります。持続的血液濾過透析(CHDF)中のミルリノン投与では、投与後48時間の時点で血中濃度が556.3±96.6ng/mLと異常高値を認め、半減期も20.1±3.3時間と著しく延長することが報告されています。
厳しいところですね。
このような状況では、通常の投与量では過量投与となるリスクがあり、血行動態をモニタリングしながら慎重に投与量を調整する必要があります。
β遮断薬を内服している患者では、ドブタミン単剤よりもPDE3阻害薬の方が効果的です。β遮断薬投与後の慢性心不全急性増悪症例では、ドブタミン単剤(3~5μg/kg/分)での有効率は約22%に留まります。これに対し、低用量ドブタミン(平均1.98μg/kg/分)にミルリノン(平均0.16μg/kg/分)またはオルプリノン(平均0.08μg/kg/分)を併用すると、約71%で血行動態の有意な改善が認められたとの研究があります。併用時のドブタミンは低容量で十分な効果が期待できることが示唆されています。
オルプリノンとミルリノンの臨床での使い分けと注意点
オルプリノンとミルリノンの使い分けは、患者の基礎疾患や循環動態、治療目標によって決定されます。急性心不全や心臓手術後の低心拍出量症候群では、ミルリノンが第一選択となることが多い傾向にあります。強い陽性変力作用により心拍出量を効果的に増加させ、前負荷・後負荷の軽減により肺うっ血と末梢循環を改善するためです。本邦の急性心不全入院症例のレジストリー(ATTEND Registry 2013)では、4,842人中ミルリノンは161人(3.3%)、オルプリノンは37人(0.8%)に投与されており、ミルリノンの使用頻度が高い実態が示されています。
一方、体血管抵抗の低下が優先される病態や、肺高血圧を伴う症例では、オルプリノンの体血管選択性が有利に働く可能性があります。左心低形成症候群やNorwood手術後など、並列循環を呈する先天性心疾患では、体血管抵抗を選択的に下げることで全身への酸素供給を改善できる場合があります。ただし、過度の血圧低下には注意が必要で、必要に応じてノルエピネフリンなどの血管収縮薬を併用します。
両薬剤に共通する副作用として、不整脈と低血圧があります。PDE3阻害作用により細胞内cAMPが増加すると、心室性不整脈のリスクが高まります。特に電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)がある場合や、既に不整脈を有する患者では注意深いモニタリングが必要です。低血圧は血管拡張作用によるもので、過度の血圧低下は臓器灌流を損なうリスクがあります。このリスクを回避するには血圧をモニターし続ける必要があります。
長期投与の問題も看過できません。PDE3阻害薬の慢性投与は予後を悪化させる可能性が指摘されており、48時間を超える投与には慎重な姿勢が求められます。血行動態と全身状態を十分に管理しながら投与を継続し、可能な限り早期に離脱を目指すべきです。また、急に投与を中止すると循環動態が悪化するリスクがあるため、漸減しながら中止することが推奨されます。
小児領域では、成人とは異なる薬物動態や病態を考慮する必要があります。小児の心臓は前負荷増大に対する反応に乏しく、心拍出量は心拍数に強く依存します。また、後負荷の増大に影響を受けやすく、収縮力は細胞外カルシウム濃度に依存しています。そのため、ドブタミンやPDE3阻害薬などが第一選択となりますが、年齢による薬物動態の違いを考慮した投与量調整が不可欠です。
使えそうです。
日本薬理学会雑誌「麻酔犬腎血流量および心機能に対するアムリノン、ミルリノンおよびオルプリノンの作用比較」に3剤の薬理学的比較が詳述されています
オルプリノンとミルリノンの併用療法における実践的な選択基準
臨床現場でオルプリノンとミルリノンを選択する際、実践的な基準を持つことが重要です。
第一に考慮すべきは、心機能の状態です。
左室駆出率が著しく低下している症例(LVEF 20%以下など)や、心原性ショックに近い状態では、強い陽性変力作用を持つミルリノンが優先されます。心拍出量を直接増やす必要がある場面では、ミルリノンの効果が明確です。
第二に、血管抵抗のバランスを評価します。体血管抵抗が高く保たれている一方で、肺高血圧を伴う症例では、薬剤選択が難しい局面となります。ミルリノンは肺血管抵抗も低下させるため、肺高血圧の改善に寄与する可能性がありますが、体血管抵抗も同時に低下し血圧が下がるリスクがあります。このような症例では、オルプリノンの体血管選択性を活かせる可能性があります。ただし、臨床データには限界があるため、投与開始後の血行動態を注意深く観察することが基本です。
第三に、併用薬を考慮します。β遮断薬を投与されている患者では、PDE3阻害薬の有効性が高いことは前述の通りですが、ドブタミンとの併用も選択肢になります。低用量ドブタミンとPDE3阻害薬の併用により、相乗的な効果が期待できます。この場合、ミルリノンとオルプリノンのどちらを選択するかは、上記の心機能や血管抵抗の状態に基づいて判断します。
ドブタミンは低容量でOKです。
第四に、腎機能をチェックします。両薬剤とも腎排泄型であるため、腎機能障害がある場合は投与量を減量する必要があります。特にCHDFなどの血液浄化療法を施行中の患者では、通常量では過量投与になるリスクが高く、半量程度から開始し血行動態の反応を見ながら調整する慎重なアプローチが求められます。
痛いですね。
第五に、施設の経験や慣れも無視できない要素です。薬剤選択において、施設でよく使用されている薬剤を選ぶことで、投与量調整のノウハウや副作用対応の経験が活かせます。ミルリノンの使用経験が豊富な施設ではミルリノンを、オルプリノンに習熟している施設ではオルプリノンを選択することも、合理的な判断と言えます。
実際の症例では、これらの要素を総合的に評価し、個別化した治療を行うことが求められます。投与開始後も、心拍数、血圧、心拍出量、肺動脈楔入圧などの血行動態パラメータを継続的にモニタリングし、必要に応じて投与量を調整したり、他の循環作動薬を併用したりする柔軟な対応が必要です。PDE3阻害薬は強力な薬剤であり、適切に使用すれば循環動態を劇的に改善できる一方、不適切な使用は重篤な合併症を引き起こす可能性があります。このため、集中治療の専門知識を持つ医師のもとで、綿密なモニタリング体制を整えた上で使用することが原則です。