ノルアドレナリン薬の作用機序と臨床使用法

ノルアドレナリン薬の作用機序と臨床応用

ノルアドレナリン薬の基本情報
💊

薬理作用

強力なα1受容体刺激により血管収縮と血圧上昇を実現

🎯

適応症

敗血性ショック、急性低血圧、循環血液量低下の補助治療

⚠️

注意事項

心停止時には使用せず、アドレナリンとの区別が重要

ノルアドレナリン薬の薬理作用とアドレナリンとの違い

ノルアドレナリン薬(商品名:ノルアドリナリン)は、内因性カテコールアミンの一つで、主に交感神経のα1受容体に強く作用する血管収縮薬です。その作用の強さは「α1>β1>β2」の順序で、末梢血管抵抗を高めることで血圧を上昇させる機序を持ちます。

アドレナリンとの最も重要な違いは、ノルアドレナリンがβ2受容体に対する作用が弱いことです。アドレナリンは低濃度ではβ1およびβ2アドレナリン受容体に作用し、高濃度ではα1を介した作用が主となりますが、ノルアドレナリンは主にα1受容体刺激による血管収縮作用が中心となります。

この違いにより、ノルアドレナリンは心拍数を減少させる傾向があり、一方でアドレナリンは心拍数を増加させます。そのため、心停止の蘇生時にはアドレナリンが第一選択となり、血圧維持が主目的の場合にはノルアドレナリンが選択されます。

敗血性ショックにおけるノルアドレナリン薬の第一選択理由

ノルアドレナリン薬は敗血性ショックの第一選択薬として確立されています。2012年以降、国際的なガイドラインでもノルアドレナリンがファーストチョイスとして推奨されており、従来使用されていたドパミンに比べて優位性が示されています6。

敗血性ショックでノルアドレナリンが選択される理由は以下の通りです。

  • 強力な血管収縮作用:α1受容体刺激により末梢血管抵抗を効果的に上昇させ、血圧を維持します
  • 不整脈リスクの低さドパミンと比較して心房細動などの不整脈発生リスクが低いとされています6
  • 免疫への影響:ドパミンに見られる免疫抑制作用の懸念がより少ないとされています
  • 腎保護効果の否定:低用量ドパミンの腎保護効果が否定されたため、ノルアドレナリンの使用が推奨されています

投与開始のタイミングについては、輸液による循環動態の改善を待たずに、早期にノルアドレナリンの投与を開始することが推奨されています6。

ノルアドレナリン薬の投与方法と希釈濃度

ノルアドレナリン薬の適切な投与方法と希釈濃度の理解は、安全で効果的な治療のために不可欠です。標準的な投与方法は以下の通りです。

基本的な希釈方法

  • ノルアドレナリン1mgを250mlの生理食塩液または5%ブドウ糖液で溶解
  • 点滴速度は1分間につき0.5〜1.0ml
  • シリンジポンプを使用した持続静脈内投与が一般的

濃度調整のバリエーション

施設によって異なる濃度設定が用いられることがあります6。

  • 10ml当たり1mgの濃度(1mg/10ml)
  • 計算しやすい濃度として5アンプル(5mg)を生食45mlで希釈し、計50mlとする方法

投与量の調整

初期投与量は通常0.1γ(マイクログラム/kg/分)から開始し、血圧や循環動態の反応を見ながら調整します6。ガンマ計算では、体重50kgの患者に1mg/10ml濃度のノルアドレナリンを投与する場合、0.1γで時間3mlの投与速度となります。

投与中は継続的な血圧、心拍数、心電図モニタリングが必要で、血圧に応じて投与速度を適切に調整することが重要です。

ノルアドレナリン薬の副作用と注意点

ノルアドレナリン薬の使用に際しては、その強力な薬理作用に伴う副作用への十分な注意が必要です。主な副作用と対策について詳しく解説します。

循環器系の副作用

  • 徐脈:α1受容体刺激による反射性徐脈が起こることがあり、必要に応じてアトロピンで対応
  • 血圧異常上昇:過量投与により著明な血圧上昇、脳出血のリスク
  • 心悸亢進、胸内苦悶:心筋への直接的な刺激作用
  • 不整脈:心房細動、心室性不整脈のリスク増加

その他の重要な副作用

  • 末梢循環障害:強力な血管収縮により皮膚、腎臓の血流量が減少
  • 精神神経系症状頭痛、めまい、不安、振戦などが出現する可能性
  • 消化器症状:悪心、嘔吐が報告されています

過量投与時の症状

過量投与では心拍出量減少、著明な血圧上昇、脳出血、頭痛、肺水腫が現れることがあります。このため、投与中は循環動態の継続的な観察が不可欠です。

相互作用への注意

MAO阻害薬、三環系抗うつ薬、SNRI等との併用で血圧異常上昇のリスクが増加するため、慎重な投与が必要です。

ノルアドレナリン薬とアドレナリンの医療事故防止策

ノルアドレナリン薬とアドレナリンの取り違え事故は、重篤な結果を招く可能性があるため、確実な防止策の実施が不可欠です。実際に報告された医療事故事例を基に、効果的な防止策を解説します。

事故事例の背景

2016年に報告された事例では、蘇生時に医師が「ボスミン」(アドレナリンの商品名)を指示したにも関わらず、看護師が「ボスミンはない」と回答し、別の看護師が「ノルアドレナリンがある」と伝えて投与された事例がありました。

事故の要因分析

  • 救急カートにアドレナリンシリンジがあったが、看護師が認識していなかった
  • 「ボスミン」という商品名とアドレナリンの一般名の関連性が理解されていなかった
  • 両薬剤とも「血圧を上げる薬」という曖昧な認識があった
  • 緊急時の確認手順が不十分だった

具体的な防止策

  1. 薬剤名の復唱確認:準備した薬剤名を必ず読み上げ、医師と看護師が相互確認を行う
  2. 救急カート内薬剤の定期教育:配置薬剤の適応、禁忌、使用場面を明確に理解する
  3. シール表示の工夫:アドレナリンシリンジに「ボスミン」のシールを貼付
  4. シミュレーション教育:実際の臨床場面を想定した薬剤使用訓練の実施

教育内容の改善

従来のBLS教育に加え、院内で実際に使用するALS(二次救命処置)に対応した教育が重要です。心停止時の薬剤として「アドレナリン」と「抗不整脈薬アミオダロンリドカイン)」をまず覚え、PEA(無脈性電気活動)やAsystole(心静止)に対するアドレナリンの迅速投与の重要性を理解することが必要です。

医療機関レベルでの対策として、ノルアドレナリンを救急カートから除外するという選択肢も検討されており、施設の状況に応じた適切な対策の選択が求められます。