ネフローゼ症候群の症状と診断と治療の最新情報

ネフローゼ症候群の基本と最新知見

ネフローゼ症候群の基本情報
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定義と診断基準

尿タンパク1日3.5g以上、血清アルブミン3.0g/dL以下が主な診断基準

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主な症状

むくみ、尿の泡立ち、体重増加、全身倦怠感

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治療アプローチ

原因疾患の治療、対症療法、食事療法を組み合わせた総合的アプローチ

ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体に障害が生じ、尿中に大量のタンパク質が漏れ出してしまう病態です。この疾患の歴史は古く、1905年にMüllerによって”nephrosis”という用語が初めて使用され、1914年にVolhardとFahrによって疾患概念として提唱されました。当初は単一の疾患と考えられていましたが、現在では様々な原因による症候群として理解されています。

日本腎臓学会の診断基準では、①尿タンパク排泄量3.5g/日以上、②血清アルブミン値3.0g/dL以下の2つを必須条件とし、浮腫と脂質異常症を参考所見としています。24時間蓄尿による評価が基本ですが、随時尿の尿タンパク/尿クレアチニン比(g/gCr)での評価も可能です。

ネフローゼ症候群は適切な治療を行わないと、腎機能の低下が進行し、最終的には透析治療や腎臓移植が必要となる可能性があります。また、血栓症や感染症などの合併症リスクも高まるため、早期発見・早期治療が重要です。

ネフローゼ症候群の症状とその特徴的なむくみ

ネフローゼ症候群の最も特徴的な症状は「むくみ(浮腫)」です。このむくみは、血液中のタンパク質(特にアルブミン)が減少することで血管内の浸透圧が低下し、水分が血管外に漏れ出すことで生じます。初期には足首や下腿部、まぶたなどにむくみが現れ、進行すると全身に広がります。

症状の特徴としては以下のものが挙げられます。

  • むくみ(浮腫): 朝起きたときのまぶたのむくみから始まり、夕方になると足首や下腿部のむくみが目立つようになります
  • 体重の増加: 水分貯留により短期間で体重が増加します
  • 尿の泡立ち: タンパク質を多く含む尿は泡立ちやすく、トイレの水面に泡が長時間残ります
  • 全身倦怠感: タンパク質不足による栄養状態の悪化で疲れやすくなります

重症化すると、胸水や腹水が溜まり、呼吸困難や腹部膨満感を引き起こすこともあります。特に胸水による呼吸困難は緊急対応が必要な場合があります。

一方で、症状がほとんど現れず、健康診断の尿検査で初めて発見されるケースも少なくありません。特に高齢者では典型的なむくみが現れにくいことがあるため注意が必要です。

ネフローゼ症候群の原因と一次性・二次性の分類

ネフローゼ症候群は原因によって大きく「一次性(特発性)」と「二次性」に分類されます。

一次性ネフローゼ症候群は腎臓自体に原発性の異常が生じるもので、主に以下のような病型があります。

  • 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS): 小児や高齢者に多く、光学顕微鏡では糸球体に異常が見られないが、電子顕微鏡で足突起の癒合が観察される。ステロイド治療への反応性が良好なことが特徴です。
  • 膜性腎症: 中高年に多く、糸球体基底膜の肥厚が特徴。自己免疫疾患としての側面があり、一部は悪性腫瘍に関連して発症することもあります。
  • 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS): 糸球体の一部が硬化する病変が特徴で、ステロイド抵抗性を示すことが多いです。
  • 膜性増殖性糸球体腎炎: 糸球体基底膜の肥厚と細胞増殖が特徴的です。

二次性ネフローゼ症候群は全身性疾患や薬剤などが原因で発症するもので、主な原因には以下のようなものがあります。

  • 糖尿病性腎症: 糖尿病の重要な合併症の一つで、長期間の高血糖により腎臓の糸球体が障害されます。
  • 膠原病: 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチなどの自己免疫疾患に伴うことがあります。
  • アミロイドーシス: アミロイドと呼ばれるタンパク質が腎臓に沈着する疾患です。
  • 悪性腫瘍: 特に固形癌や血液腫瘍に伴うことがあります。
  • 感染症: B型肝炎、C型肝炎、HIV感染症などが原因となることがあります。
  • 薬剤性: 非ステロイド性抗炎症薬NSAIDs)、金製剤、ペニシラミンなどの薬剤が原因となることがあります。

原因によって治療方針や予後が大きく異なるため、正確な診断が重要です。特に成人の場合は、悪性腫瘍の検索も含めた全身的な評価が必要となります。

ネフローゼ症候群の診断方法と腎生検の重要性

ネフローゼ症候群の診断は、臨床症状の評価と検査所見に基づいて行われます。診断の流れと重要なポイントを解説します。

基本的な検査

  • 尿検査: 尿タンパクの定量(24時間蓄尿または随時尿のタンパク/クレアチニン比)が最も重要です。ネフローゼ症候群では1日3.5g以上のタンパク尿が認められます。尿沈渣検査も行い、赤血球や円柱の有無を確認します。
  • 血液検査: 血清アルブミン値(3.0g/dL以下)、総タンパク値、脂質プロファイル(総コレステロール、LDLコレステロールなど)、腎機能検査(血清クレアチニン、eGFRなど)を測定します。
  • 画像検査: 腎臓の大きさや形態を評価するために超音波検査やCT検査を行います。腎臓以外の原因(悪性腫瘍など)を検索する目的でも有用です。

腎生検の重要性

ネフローゼ症候群の原因を特定するためには、腎生検が非常に重要です。腎生検は、背中から針を刺して腎臓の組織を採取する検査で、局所麻酔下で行われます。採取した組織は光学顕微鏡、免疫蛍光法、電子顕微鏡を用いて詳細に観察されます。

腎生検が特に重要となるケースは以下の通りです。

  • 成人のネフローゼ症候群(特に40歳以上)
  • ステロイド治療に反応しない場合
  • 腎機能低下を伴う場合
  • 全身性疾患が疑われる場合
  • 非典型的な臨床経過を示す場合

腎生検の結果によって、治療方針が大きく変わることがあります。例えば、微小変化型ネフローゼ症候群ではステロイド治療が第一選択となりますが、膜性腎症では免疫抑制薬の併用が考慮されます。

鑑別診断

ネフローゼ症候群と鑑別すべき疾患としては、以下のようなものがあります。

これらは尿タンパクが少ないか陰性であることが特徴で、鑑別に役立ちます。

ネフローゼ症候群の治療法とステロイド薬の使い方

ネフローゼ症候群の治療は、原因疾患の治療と対症療法の両面から行われます。治療の基本方針と具体的な方法について解説します。

対症療法

  1. 安静・食事療法
    • 急性期には安静が必要で、特に重症例では入院加療が行われます
    • 塩分制限(1日5〜6g未満)が重要です
    • タンパク質制限については、一部のタイプを除いて軽度の制限(0.8〜1.0g/kg/日)が推奨されます
    • 高コレステロール血症に対しては、脂質制限も考慮されます
  2. 薬物療法(対症的)
    • 利尿薬:むくみのコントロールにループ利尿薬(フロセミドなど)が使用されます
    • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬ARB):タンパク尿の減少と腎保護効果が期待できます
    • 抗血栓薬:血栓症予防のために使用されることがあります
    • スタチン:高コレステロール血症の治療に用いられます

原因疾患に対する治療

  1. 一次性ネフローゼ症候群の治療
    • 微小変化型ネフローゼ症候群
      • 副腎皮質ステロイド薬が第一選択です(プレドニゾロン 0.8〜1.0mg/kg/日から開始)
      • 通常4〜8週間で寛解が得られますが、減量中や中止後に再発することがあります
      • 頻回再発例やステロイド依存例では免疫抑制薬(シクロスポリン、ミゾリビンなど)の併用が考慮されます
      • 近年ではリツキシマブの有効性も報告されています
    • 膜性腎症
      • 軽症例では経過観察のみの場合もあります
      • 中等症以上では副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬(シクロホスファミド、シクロスポリンなど)の併用療法が行われます
      • 抗PLA2R抗体陽性例では、リツキシマブの有効性が報告されています
    • 巣状分節性糸球体硬化症
      • ステロイド抵抗性を示すことが多く、治療に難渋することがあります
      • 副腎皮質ステロイド薬に加え、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)が使用されます
    • 二次性ネフローゼ症候群の治療
      • 原因疾患(糖尿病、膠原病、悪性腫瘍など)の治療が優先されます
      • 糖尿病性腎症では厳格な血糖コントロールと血圧管理が重要です
      • 膠原病に伴うネフローゼ症候群では、ステロイド薬や免疫抑制薬による原疾患の治療が行われます

ステロイド薬の使い方と副作用対策

ステロイド薬は多くのネフローゼ症候群の治療に用いられますが、長期使用による副作用が問題となります。主な副作用と対策は以下の通りです。

  • 感染症リスクの増加:予防接種の検討、不要な人混みを避けるなどの感染対策が重要です
  • 骨粗鬆症:カルシウム・ビタミンD製剤の併用、ビスホスホネート製剤の予防投与を考慮します
  • 糖尿病:定期的な血糖モニタリングが必要です
  • 消化性潰瘍プロトンポンプ阻害薬などの胃粘膜保護薬を併用します
  • 精神症状:不眠、気分変動などに注意し、必要に応じて対症療法を行います
  • 白内障緑内障:定期的な眼科受診が推奨されます

ステロイド薬は効果的な治療薬ですが、副作用のリスクを考慮しながら、個々の患者さんに適した用量と投与期間を慎重に決定する必要があります。

ネフローゼ症候群の予後と再発予防のための生活指導

ネフローゼ症候群の予後は原因疾患や治療への反応性によって大きく異なります。ここでは、疾患の経過と再発予防のための生活指導について詳しく解説します。

予後と経過

ネフローゼ症候群の予後は病型によって異なります。

  • 微小変化型:ステロイド治療に対する反応性が良好で、数週間の治療で尿タンパクが消失し、数ヶ月で治療を終了できることが多いです。しかし、約60-70%の患者さんが再発を経験し、そのうち約30%が頻回再発型や依存型となります。長期的な腎予後は一般的に良好です。
  • 膜性腎症:自然寛解する例もありますが、約30%は持続的なネフローゼ状態が続き、約40%は不完全寛解となります。約30-40%の患者さんが10年以内に末期腎不全に進行するとされています。
  • 巣状分節性糸球体硬化症:治療抵抗性を示すことが多く、約50%の患者さんが5-10年以内に末期腎不全に進行するとされています。
  • 二次性ネフローゼ症候群:原疾患の治療効果や進行度によって予後が決まります。糖尿病性腎症では、早期からの厳格な血糖・血圧コントロールが予後改善に重要です。

再発のサイン

ネフローゼ症候群