涙小管瘻 病態診断治療 合併症管理

涙小管瘻 病態診断治療

涙小管瘻の全体像
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病態と解剖理解

涙小管・涙嚢・鼻涙管の解剖と涙小管瘻の発生機序を整理し、涙道閉塞症との関係を明確にします。

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診断と鑑別のコツ

視診や涙道造影、洗浄試験を組み合わせ、先天性涙管瘻・外涙嚢瘻などとの鑑別ポイントを解説します。

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治療戦略と合併症予防

瘻孔切除術やチューブ挿入術、DCRなどの選択基準と、術後管理・感染対策の実際を押さえます。

涙小管瘻 解剖と病態生理の整理

涙小管瘻を理解するためには、まず涙腺から鼻腔まで続く涙道全体の解剖を押さえておく必要があります。涙液は上眼瞼外側の涙腺から分泌され、角結膜表面を潤した後、目頭にある上・下涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って鼻腔へ排泄されます。

この流路の途中で、涙小管から皮膚あるいは結膜側へ異常な交通路(瘻孔)が形成された状態が、臨床的に問題となる涙小管瘻です。涙小管瘻は独立した疾患名として成書にまとまっていることは少なく、多くの場合、先天性涙管瘻や外涙嚢瘻、涙のう皮膚瘻などと混在して記載されているため、病態のイメージがつきにくい点が現場での盲点になっています。

先天性の瘻孔は、皮膚と共通涙管・涙嚢・鼻涙管を結ぶ上皮内管が遺残した結果生じるとされ、2000人に1人程度の頻度と報告されるまれな異常ですが、症状が軽く見逃されて成人まで診断されない例も少なくありません。瘻孔からの慢性的な涙液漏出や周囲皮膚の湿疹、二次感染はQOL低下だけでなく、白内障手術前の眼内炎リスク増加など、周術期管理上も看過できない問題となります。

涙小管瘻 臨床症状と診察のポイント

涙小管瘻の症状は「なみだ目(流涙)」だけではなく、目頭〜下眼瞼内側の皮膚からの持続的な水様分泌や、化膿性分泌、皮膚炎として現れることがあります。軽症例では患者自身が「汗」「皮脂」と誤認しやすく、問診で「頬をつたう液体がいつから、どのタイミングで見られるか」を具体的に確認することが診断の入口となります。

視診では、内眼角付近の小さな開口部や色素沈着、びらんを丁寧に観察します。とくに化粧やマスクで隠れやすい部位のため、スリットランプだけに頼らず、裸眼での観察と触診を組み合わせることが重要です。瘻孔部を軽く圧迫すると涙液や膿性分泌物が排出されることがあり、涙嚢炎や涙小管炎の合併が疑われる場合には圧痛や硬結の有無も確認します。

診察室で見逃されがちなポイントとして、ドライアイや結膜炎目的で受診した患者の「片側だけのメイク崩れ」「マスク内側の一部だけ常に湿っている」といった訴えがあります。これらは涙小管瘻を含む涙道異常のサインであり、医療従事者が意識して問診に組み込むことで早期発見につながります。

涙小管瘻 診断検査と涙道造影のコツ

涙小管瘻の診断では、視診に加えて涙道機能検査を組み合わせることで、涙道閉塞症や外涙嚢瘻などの鑑別を行います。基本となるのは涙道洗浄検査で、瘻孔開口部を観察しながら涙点から生理食塩水を注入すると、瘻孔側からの逆流の有無や量を評価できます。

より詳細な評価には涙道造影が有用で、造影剤の流れをX線やCTで追うことで、瘻孔の位置関係や主涙道の閉塞部位を把握できます。先天性外涙嚢瘻では、瘻孔から造影剤を注入し鼻涙管の通過性を確認するフルオレセイン残留試験や洗浄試験が有効とされ、鼻涙管に明らかな通過障害がなければ瘻管切除のみで流涙を招かないことが報告されています。

涙小管瘻を疑う場合のコツとして、涙点拡張針を瘻孔に軽く当てて塞いだ状態で涙道洗浄を行い、鼻咽頭側への通過の有無を確認する方法があります。これにより、「瘻孔自体が主な排出経路になっているのか」「本来の涙道が温存されているか」を術前に評価でき、後述する手術術式選択の重要な判断材料となります。

慶應義塾大学病院KOMPAS:涙道閉塞症の解剖と検査の概説(涙道機能評価の参考)

涙小管瘻 手術治療と術後管理

涙小管瘻の治療の基本は、症候性であれば瘻孔の外科的処置を行い、同時に背景にある涙道閉塞や炎症を評価・是正することです。先天性外涙嚢瘻に関しては、瘻管の全切除が漏涙を止める確実な方法とされ、鼻涙管に通過障害がなければ瘻管切除のみで流涙を悪化させないと報告されています。

一方で、涙小管レベルの瘻孔では、瘻管切除に加えて涙小管再建やシリコンチューブ挿入術を併用し、涙流路の連続性を確保する戦略がとられます。涙道内視鏡を用いることで、涙小管内の走行や閉塞部位、菌石の有無を直視下に確認でき、必要に応じて涙小管炎に伴う菌石を摘出したうえで再建を図ることが可能です。

術式選択においては、以下のような観点が重要になります。

  • 鼻涙管の通過性が保たれ、瘻孔のみが問題:瘻孔切除+局所形成術
  • 涙小管〜涙嚢に閉塞・狭窄がある:シリコンチューブ挿入術やDCR(涙嚢鼻腔吻合術)併用
  • 再発性の涙嚢炎や高度瘢痕:涙嚢摘出術を含めた根治術の検討

術後管理では、創部の清潔保持と感染予防に加え、涙道の開存維持がポイントになります。シリコンチューブ留置中は、患者にチューブの自発抜去を防ぐ指導を行い、定期的な鼻内・涙道内の観察を継続します。また、白内障手術など他科手術の前に涙小管瘻が放置されていると眼内炎リスクが上昇するため、術前チェックリストに「涙道疾患の既往」と「顔面皮膚からの持続的分泌の有無」を組み込むことが、安全管理上の工夫として有用です。

京都大学眼科:涙道疾患と手術治療の解説(術式全般の整理に有用)

涙小管瘻 チーム医療と患者教育という独自視点

涙小管瘻は稀な疾患である一方、診断がつけば治療オプションは比較的明確であり、見逃しによる長期QOL低下を避けることが医療従事者の役割となります。そのためには、眼科医だけでなく、コメディカルや他科の医師が「流涙=ドライアイかアレルギー」と単純化せず、涙道疾患全般を想起できるような教育と情報共有が重要です。

具体的には、以下のようなチームアプローチが有効です。

  • 外来看護師が問診票に「片側性流涙」「顔面皮膚からの分泌」の選択肢を追加し、視診のトリガーとする。
  • コンタクトレンズ外来・ドライアイ外来で、難治例に対して涙道評価をルーチン化する。
  • 手術室・周術期センターで、白内障や硝子体手術前のチェックリストに「涙道感染源の有無」を組み込む。

患者教育の面では、「涙が鼻へ抜けるのは正常な仕組みであり、皮膚から漏れているのは本来の流れではない」ことを図示して説明すると理解が得やすく、治療への納得感も高まります。特に先天性の症例では保護者の不安が大きいため、まれではあるが確立した治療が存在すること、放置によるリスクと治療のタイミングを丁寧に共有することが重要です。

自由が丘清澤眼科:副涙小点・先天性涙管瘻の説明(稀な症例の臨床像と患者説明の参考)