涙小管炎 治療 保存的治療と外科的治療
涙小管炎 治療 初期診断と保存的治療の位置づけ
涙小管炎は内眼角に位置する涙小管に慢性の感染性炎症を起こす疾患で、眼脂、軽度の疼痛、流涙に加え、内眼角圧迫で黄色顆粒状の菌石が涙点から排出される所見が特徴的です。
原因菌として従来アクチノミセスが典型とされてきましたが、近年はブドウ球菌やレンサ球菌など一般的なグラム陽性球菌が増えていると報告され、患者背景や地域による菌叢の変化も考慮する必要があります。
初発・早期例では、ニューキノロン系やセフェム系、ペニシリン系などの抗菌薬点眼に加え、症例によっては全身投与を併用し、温罨法・局所マッサージ・涙道洗浄による排膿促進を組み合わせる保存的治療が一般的な第一選択となります。
保存的治療が奏功しうるのは、菌石や高度の肉芽形成がまだ顕著でない症例や、症状出現からの期間が比較的短い症例に限られるとされます。
参考)Experimental and Therapeutic M…
一方で、複数の報告で「保存的治療のみでは約8割の症例で十分な改善が得られない」とされており、診断時点で慢性経過が長い症例では、初期から外科的治療の必要性を想定しておくことが推奨されます。
参考)涙小管炎 – 横浜けいあい眼科 – 専門医が多数在籍 – 保…
保存的治療をどの程度の期間継続するかについて明確なコンセンサスはありませんが、数週間の適切な抗菌薬投与と涙道洗浄を行っても菌石排出や症状改善が乏しい場合には、漫然と点眼を継続せず、外科的治療への切り替え時期を逃さないことが重要です。
参考)Canaliculitis – StatPearls – N…
涙小管炎 治療 抗菌薬選択と耐性菌・菌石の問題
涙小管炎の薬物治療では、起因菌として多いアクチノミセス属に対し、ペニシリン系抗菌薬の感受性が高いことが知られており、全身投与を含めたペニシリン系の選択が理論的に妥当とされます。
一方、最近はブドウ球菌やレンサ球菌などによる症例も増加しており、初期治療としては第一世代セフェム系やペニシリン耐性ブドウ球菌をカバーできるペニシリン系、あるいはニューキノロン点眼を用いることが多く、症例によっては培養結果に基づき薬剤を変更します。
特に涙点プラグ留置後の涙小管炎や長期点眼治療歴のある患者では、耐性菌の関与やバイオフィルム形成の可能性を考慮し、培養・感受性検査を積極的に行うことが推奨されます。
菌石(dacryolith)は、アクチノミセス菌糸や細菌集塊にカルシウムやリン酸塩などが沈着して形成され、抗菌薬が内部まで到達しにくい「防御シェルター」の役割を果たすと考えられています。
臨床的には、内眼角圧迫で涙点から黄色の顆粒や糸状物が押し出される所見が典型であり、この段階ではいくら抗菌薬を投与しても、菌石を物理的に除去しない限り完全治癒が得られないことが多いと報告されています。
そのため、症状の改善が乏しい慢性例では、外来での涙道洗浄だけでなく、涙小管切開・掻爬により菌石や肉芽を除去し、そのうえで局所へ高濃度の抗菌薬・ステロイド軟膏を注入する治療戦略が再発予防の観点からも重要です。
参考)Canaliculitis – Eye Disorders …
涙小管炎 治療 外科的治療:涙小管切開・掻爬とシリコンドレーン
外科的治療の基本は、涙小管切開(canaliculotomy)と涙小管掻爬により、管腔内の菌石・肉芽・異物を徹底的に除去し、その後に抗菌薬溶液で十分な洗浄を行うことです。
局所麻酔下で涙点を拡張したうえで涙小管を縦切開し、小さな掻爬子で管腔内を掻爬して菌石を取り除き、最後に抗菌薬やステロイド含有眼軟膏を注入する方法が一般的で、多くの報告で高い治癒率と低い再発率が示されています。
一部の施設では、涙小管切開後にモノカナルキュラーチューブやシリコンドレーンを数か月留置し、瘢痕による狭窄や閉塞を予防しながら上皮化を待つ術式を採用しており、特に慢性例や再発例では有用とされています。
近年は、涙点を温存しつつ管腔を開放する「punctum-sparing canaliculotomy」や、涙小管形成術(canaliculoplasty)とシリコンドレーンを組み合わせた低侵襲な術式も報告されており、術後の涙道機能温存を重視したアプローチが広がっています。
外科的治療後は、1〜2週ごとの外来で洗浄と局所薬剤注入を数週間継続し、肉芽の再増生や瘢痕狭窄がないかを経時的に確認することが推奨されます。
術後しばらくは流涙や軽度の眼脂が残存することがあり、患者には「菌石除去後もしばらく炎症反応が続く」ことを事前に説明しておくことで、不必要な不安や受診中断を防ぎやすくなります。
涙小管炎 治療 涙小管炎と他の涙道疾患の鑑別・併存への対応
臨床現場では、涙小管炎と涙嚢炎が混同されることが少なくありませんが、涙小管炎は内眼角の比較的限局した腫脹と軽度の圧痛、涙点の開大、圧迫による膿・菌石の排出が主体であるのに対し、涙嚢炎では涙嚢部の強い腫脹・発赤と疼痛が目立つ点が鑑別のポイントです。
涙嚢炎では抗菌薬点眼のみでは不十分で、広域ペニシリン系や第一世代セフェム系などの全身抗菌薬が第一選択となることが多く、場合によっては切開排膿や涙嚢鼻腔吻合術などより広範な外科的介入が必要になります。
涙小管炎と涙嚢炎が併存する症例では、まず急性炎症のコントロールを優先しつつ、涙道全体の閉塞部位を評価したうえで、涙小管切開・掻爬に加え、必要に応じて鼻涙管閉塞に対するシリコンドレーン挿入やDCR(涙嚢鼻腔吻合術)を組み合わせる段階的治療が検討されます。
意外な落とし穴として、ドライアイ治療に用いられる涙点プラグが原因となる「プラグ関連涙小管炎」が報告されており、プラグの迷入や分断片が管腔内異物として菌石の核になりうることが指摘されています。
こうした症例では、抗菌薬治療のみでは改善しにくく、プラグの抜去や異物除去、場合によっては涙小管切開が必要となるため、「涙点プラグ歴のある流涙・眼脂患者では涙小管炎を疑う」ことが診断のコツになります。
また、自己免疫疾患や肉芽腫性疾患に伴う涙道病変の一部として涙小管炎様の所見を呈することもあり、反復性・難治性の症例では全身疾患のスクリーニングやリウマチ膠原病科との連携も視野に入れる必要があります。
涙小管炎 治療 医療従事者が押さえたい独自視点:再発予防と患者教育の工夫
涙小管炎は一旦改善しても再発することがあり、その背景として、涙道内の微小な残存菌石や、眼瞼縁炎・結膜炎といった周辺の慢性感染巣が「供給源」となっている可能性が指摘されています。
そのため、涙小管炎の治療では、菌石除去と抗菌薬治療に加えて、眼瞼縁の清拭指導やメイク落とし・コンタクトレンズ衛生の見直し、慢性結膜炎の治療など、周辺環境のコントロールまで含めた包括的なマネジメントが再発予防に有用と考えられます。
女性に多い疾患であることから、アイメイクやまつ毛エクステ、まつ毛美容液の使用が涙点周囲の炎症や異物混入に影響している可能性も論じられており、患者個々の生活背景を踏まえたカウンセリングが実臨床では重要な意味を持ちます。
もう一つの独自の視点として、術後フォローにおける「患者自己観察の質」を高める工夫が挙げられます。
具体的には、スマートフォンでの内眼角付近の定期的な写真・動画記録を推奨し、内眼角のわずかな腫脹や涙点の形態変化、眼脂量の変化を患者自身が意識できるようにすることで、再発の早期発見につながる可能性があります。
医療従事者側も、再診のたびに「いつから」「どのタイミングで」「どのように」症状が悪化したのかを具体的に聞き取り、保存的治療の継続か外科的治療へのステップアップかを柔軟に判断できるよう、問診と視診の両面で情報の精度を高めることが求められます。
涙小管炎とその治療に関する日本語の専門的な解説(原因菌や治療方針、外科的治療の位置づけの参考)
涙小管炎と涙嚢炎の違い、抗菌薬治療と温罨法の位置づけの参考
英語文献だが、涙小管炎の外科的治療(canaliculotomy、シリコンドレーン留置)と治療成績の詳細なレビューとして有用