網膜色素上皮下出血とOCTと治療

網膜色素上皮下出血と治療

網膜色素上皮下出血:この記事の見どころ
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OCTで「どこに出血があるか」を言語化

網膜下・網膜色素上皮下・内境界膜下などの層の違いは、治療適応や予後説明に直結します。

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時間軸でみる緊急性

黄斑を巻き込む出血は時間依存で障害が進み得るため、紹介・治療判断の「期限」を意識します。

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原因疾患と治療の組み合わせ

加齢黄斑変性など背景疾患を押さえ、抗VEGF、tPA+ガス、硝子体手術をどう使い分けるかを整理します。


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網膜色素上皮下出血の原因疾患と加齢黄斑変性

網膜色素上皮下出血は、解剖学的には「網膜色素上皮(RPE)の下側」に血液が貯留している状態で、黄斑部に及ぶと突然の視力低下を来しやすい病態です。

臨床現場では「黄斑下出血(黄斑下血腫)」という括りで扱われることが多く、出血は網膜あるいは網膜色素上皮の下側に貯留し得る点が重要です。

原因疾患としては、加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤破裂が代表的とされ、高齢者での発症が目立ちます。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/76cf06271c4acf94c9af4037e2b91afb7a5702a3

加齢黄斑変性そのものは、加齢に伴う変化により黄斑が障害され、見ようとする中心が見えにくくなる疾患として説明されます。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e5ee8cfea4db0db4a104648b6da59ca41eb3f2f2

加齢により網膜色素上皮の下に老廃物が蓄積し、それが黄斑部障害に関与する、という病態理解は、RPE近傍で起こる出血の「場」をイメージする助けになります。

また、全身背景として、高血圧脳梗塞心筋梗塞の既往、抗凝固薬抗血小板薬の内服がある人で黄斑下出血が起きやすい傾向が示されています。

医療従事者向けには、問診で「いつから」「視力低下の速度」「抗血栓薬」「既往の加齢黄斑変性フォロー歴」をセットで拾うと、紹介の緊急度判断に役立ちます。

有用リンク(加齢黄斑変性の病態の基本:網膜色素上皮下の老廃物蓄積など)

日本眼科学会:加齢黄斑変性

網膜色素上皮下出血とOCTの所見

OCT(光干渉断層計)は、出血が「網膜のどの部位に起きているか」を把握できる検査として、黄斑下出血の評価に直結します。

実臨床では、眼底写真の印象だけで「黄斑出血」と一括せず、OCTで網膜表層の内境界膜下出血と、網膜外層の網膜下出血などを区別して記載できると、治療選択の議論がスムーズになります。

網膜色素上皮下出血は、さらに深い層(RPE下)に血液が溜まるイメージで、RPE剥離(PED)や脈絡膜新生血管を伴う病態の延長で語られることもあります。

診療情報の共有では、例えば「OCTで黄斑部に出血を示唆する高輝度物質+網膜下液+網膜色素上皮剥離」といった“所見セット”で伝えると、受け手が病態を復元しやすくなります。

参考)https://www.aichi.med.or.jp/webcms/wp-content/uploads/2025/12/72_2_p114_Graphs-Hirano.pdf

ここでの落とし穴は、「出血=層が浅い」と決めつけてしまうことです。

黄斑下出血は網膜あるいは網膜色素上皮下に貯留し得るため、OCTで層を確定しないと、注射(血腫移動術)と手術(血腫除去術)の適応整理が曖昧になります。

有用リンク(黄斑下出血のOCT画像と、出血がどの層かをOCTで判断する話)

小沢眼科内科病院:黄斑下出血の原因と手術治療

網膜色素上皮下出血と治療(抗VEGF・tPA・ガス)

黄斑下出血は、出血によって視細胞が障害され、出血が消失しても瘢痕化により重篤な視力障害が残り得るため、早急な治療が必要な緊急疾患として扱われます。

実験的知見として「24時間以内に視細胞障害が生じ、3日で網膜外層に強い障害が生じる」ことが知られている、という説明は、紹介時の緊急性を共有する根拠として使いやすいポイントです。

治療は大きく、硝子体注射で行う血腫移動術と、硝子体手術で行う血腫除去術が代表例として挙げられ、出血量・発症からの期間・年齢・全身状態で術式が選択されます。

血腫移動術(硝子体注射)は、膨張性ガス(SF6)を硝子体内に注入して黄斑部の出血を移動させる方法で、tPAや抗VEGF薬を一緒に注入する場合があるとされています。

一方、硝子体手術(血腫除去術)では、硝子体を切除し、必要に応じて網膜下にtPAを注入し、眼内をガスに置換して終了する流れが説明されています。

臨床で役立つのは「適応を“体位”まで含めて説明する」ことです。

血腫移動術は硝子体が残っている眼内に注射するため注入量が限られ、術後に黄斑へガスを当てるため厳格なうつ伏せが必要になり得る、という点は患者指導・家族調整に直結します。

出血から早期(2週間以内)が適応になり得る一方、内境界膜下出血にはガス移動が期待できず、うつ伏せが困難な高齢者や圧迫骨折などがある人では適応になりにくい、といった現実的な分岐も重要です。

医療従事者の実務としては、紹介状・コンサルト文に最低限入れると良い項目は次の通りです。

  • 📝 発症時刻(本人が「急に見えなくなった」と言った時刻)と症状(視力低下、変視症など)。​
  • 🧪 抗血栓薬内服の有無、心筋梗塞・脳梗塞既往、高血圧歴。​
  • 🖼️ OCTの層(網膜下、網膜色素上皮下、内境界膜下の疑い)と、PEDや網膜下液の有無。aichi.med+1​

網膜色素上皮下出血と硝子体手術の選択

硝子体手術(血腫除去術)は、眼内操作により網膜下へtPAを注入できる点や、硝子体腔を完全にガス置換できる点が利点として述べられています。

また、血腫移動術に比べて「厳格なうつ伏せが必要ない」ことが利点として説明され、体位制限を守れない患者では検討の俎上に上がりやすい治療です。

手術の流れとしては、角膜輪部から3.5〜4mmの位置に3か所のポートを作り、硝子体カッター等で硝子体を十分切除したうえで黄斑部の出血にアプローチする、という概要が示されています。

硝子体が残存していると網膜牽引により網膜裂孔・網膜剥離のリスクがあるため十分に切除する、という説明は、術式の意義をチーム内で共有する際に使えます。

さらに、50歳以上では硝子体手術後に白内障が進行しやすいことから、同時白内障手術を勧める運用が紹介されており、術前説明の論点になります。

術後体位については「完全に仰向けになると黄斑にガスが当たらず効果がないため、数日〜1週間程度は仰向け以外の姿勢を取る」と説明されています。

看護・病棟運用としては、体位指導の理解度がアウトカムに影響し得るため、術後パンフレット化やリハビリ・家族支援の介入ポイントになりやすい部分です。

合併症として、溶解した血液が拡散することによる硝子体出血、黄斑下出血の再発、網膜剥離、眼内炎などが挙げられています。

患者説明では「視力がどの程度回復するかは治療前に予測できない」と明記されており、期待値調整とインフォームドコンセントの核になります。

網膜色素上皮下出血の独自視点:抗血栓薬内服と院内連携

黄斑下出血は、高血圧や、脳梗塞・心筋梗塞の既往があり抗凝固薬・抗血小板薬を内服している人で発症しやすい傾向がある、とされています。

この事実から一歩踏み込むと、眼科単独の「止血・治療」だけで完結せず、循環器・神経内科・かかりつけ医との連携で“抗血栓薬をどう扱うか”の調整が発生しやすい病態だと分かります。

特に紹介元(内科・救急・一般眼科)で実装できる工夫として、次のような連携テンプレートが有効です。

  • 📋 抗血栓薬の種類(抗血小板か抗凝固か)、最終内服時刻、適応疾患(ステント、Af、弁膜症など)を紹介状に固定項目として入れる。
  • 🧭 眼科受診の緊急性を「黄斑を巻き込む出血=早期治療が望ましい」という形で、患者と家族へ同時に説明して来院遅れを減らす。​
  • 🏥 うつ伏せが可能か(頸椎疾患、圧迫骨折、呼吸不全、認知機能)を事前に評価し、注射療法か手術療法かの初期選別材料として渡す。​

ここでの“意外な盲点”は、画像や視力の話よりも、体位・通院・介助体制といった生活要因が治療法の成立条件になる点です。

黄斑下出血の治療は選択肢が複数ある一方で、術後体位(うつ伏せ、仰向け回避)や早期受診が実現できないと、理論上の最適解が現場で選べないことが起こり得ます。