網膜のう胞 病態と診療の実際
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網膜のう胞 嚢胞様黄斑浮腫の病態と原因
嚢胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema; CME)は、黄斑部網膜内に液体が貯留し、多房性の小嚢胞として観察される黄斑浮腫の一型であり、視細胞間隙に滲出液がたまることで嚢胞状構造を形成します。 糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、白内障術後、特発性傍中心窩毛細血管拡張症など、多彩な網膜血管・炎症性疾患の共通最終像として出現する点が特徴です。
病態生理としては、血液網膜関門の破綻に伴う血管透過性亢進と、ミュラー細胞機能不全により網膜内の水分排出が障害されることが中心とされます。 特発性傍中心窩毛細血管拡張症Ⅱ型ではミュラー細胞の異常が報告されており、グリア細胞の障害が嚢胞形成に直接関与している可能性が示唆されています。 また、術後CME(Irvine–Gass症候群)では前房炎症性サイトカインの増加が黄斑部の血管透過性を高めるメカニズムが注目されています。nanbyou+1
臨床的には、変視・霧視・中心暗点・著明な視力低下などを自覚し、通常のびまん性黄斑浮腫より視力障害が強いことが少なくありません。 さらに、慢性化したCMEでは、嚢胞腔の拡大や融合により網膜内層の構造破綻や黄斑萎縮に至り、治療後も視力回復が頭打ちになる症例もあり、発症早期からの病態把握が重要です。ubie+1
嚢胞様黄斑浮腫の詳しい病態と原因疾患の整理には、日本眼科学会難病情報センターの解説が参考になります。
特発性傍中心窩毛細血管拡張症(嚢胞様黄斑浮腫)についての解説
網膜のう胞 OCTでみる層位と網膜分離との鑑別
OCTでは、嚢胞様黄斑浮腫は主として内顆粒層から外網状層付近に多房性の低反射嚢胞腔として描出され、その周囲に網膜肥厚や反射低下を伴うことが一般的です。 一方、加齢性あるいは近視性の網膜分離症では、神経網膜が層状に裂開し、外網状層から内顆粒層を境界とする層間分離として描出され、しばしば「架橋構造」やsnow flakes様の輝度変化を伴います。 OCTで層位と形態を丁寧に追うことで、単純な嚢胞性浮腫か網膜分離の一部かを判別しやすくなります。
先天性網膜分離症では、中心窩に大きな嚢胞様黄斑浮腫が存在し、その周囲に車輪状・車軸状のひだを伴う独特のOCT像を示すことが多く、周辺部には網膜外層の嚢胞様変化が広範に分布します。 後天性網膜分離症や近視性網膜中心窩分離症では、網膜内層分離が主体で、黄斑円孔や黄斑部剥離を合併すると網膜内層と全層剥離の鑑別が必要となり、OCTによるIS/OSラインの連続性や網膜全層の断裂形態を確認することが肝要です。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/103_371.pdf
実臨床では、黄斑円孔周囲の嚢胞腔を「網膜のう胞」として説明する場面もありますが、これは牽引性の黄斑円孔進展の一フェーズであり、単独のCMEとは予後も対応も異なります。 また、中心性漿液性脈絡網膜症では網膜下液主体であるものの、慢性例では網膜内嚢胞や網膜下線維性変化を伴い、OCT断面上で線状のRPE障害と嚢胞性変化が重なって見えるため、OCTAや蛍光造影を併用した総合的な評価が重要です。fujimuraganka+3
OCT所見の基本と各種黄斑疾患での特徴的パターンは、光干渉断層計の総説が体系的に整理しています。
網膜のう胞 代表的背景疾患と意外な落とし穴
網膜のう胞を形成する代表的背景疾患として、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、白内障術後、特発性傍中心窩毛細血管拡張症、遺伝性網膜分離症、加齢黄斑変性やPCVなどが挙げられます。 それぞれで血管透過性亢進の機序や炎症の程度、脈絡膜循環異常などが異なるため、同じ「嚢胞様浮腫」に見えても再発リスクや治療反応性には大きな差があります。
意外な「落とし穴」として、軽度の嚢胞様変化が強度近視眼のMF(近視性網膜中心窩分離症)の初期像として現れ、その後数年のうちに黄斑円孔網膜剥離へと進展するケースがあります。 近視性網膜分離症では、後部ぶどう腫眼の9〜34%程度に分離が生じると報告されており、IS/OSライン欠損を伴う場合には黄斑円孔網膜剥離への進展リスクが有意に高いとされるため、わずかな嚢胞性変化であっても定期的なOCTフォローが推奨されます。
また、特発性傍中心窩毛細血管拡張症では、比較的若い年齢でも慢性の嚢胞様黄斑浮腫を呈し、炎症性と血管拡張性の要素が混在するため、単純な抗VEGF単独では不十分なケースもあります。 網膜静脈閉塞症に伴うCMEでは、自然軽快する例がある一方で、黄斑虚血が強い例では抗VEGF治療を行っても視力回復が頭打ちとなるため、初診時のフルオレセイン造影とOCTを組み合わせた虚血評価が重要です。ueda-ganka+2
網膜静脈閉塞症と黄斑浮腫の病態・治療法は、一般向け解説サイトでも整理されています。
網膜のう胞 治療方針とフォローアップ戦略
嚢胞様黄斑浮腫の治療方針は、「原因疾患の制御」と「黄斑浮腫そのものへの介入」の二本柱で考える必要があります。 糖尿病網膜症由来では血糖・血圧など全身管理を徹底したうえで、抗VEGF硝子体注射やステロイド注射・徐放性インプラント、場合によってはレーザー光凝固が選択されます。 網膜静脈閉塞症やぶどう膜炎由来でも、浮腫軽減目的の抗VEGF・ステロイド療法に加え、炎症や血管閉塞のコントロールを並行して行うことが視機能予後に直結します。
一方、先天性網膜分離症に伴う中心窩の嚢胞は、硝子体手術で形態的には平坦化できても視力改善が限定的であるとされ、網膜剥離や硝子体出血を合併しない限り経過観察が選択されることが多いのが現状です。 加齢性・続発性網膜分離症でも、外層孔のみではリスクが低く、内外層孔を伴った網膜剥離へ進展した一部の症例で初めて手術加療が検討されるなど、「見た目の派手さ」に比して意外と保存的方針が多い領域です。
フォローアップでは、視力・自覚症状の変化に加え、OCTでの嚢胞腔の大きさ・層位・IS/OSラインの連続性、RPE変性の進行などを定期的に評価します。 特に近視性網膜分離症では、黄斑円孔網膜剥離への進展が数年単位で起こるため、症状が軽くてもOCTによる半年〜1年ごとの経過観察が推奨され、悪化傾向があれば早期の硝子体手術介入が視機能温存につながります。jstage.jst+1
嚢胞様黄斑浮腫に対する抗VEGF・ステロイド治療の位置づけや全身管理の重要性は、黄斑浮腫専門ページがわかりやすくまとめています。
網膜のう胞 臨床で役立つOCT読影と患者説明の工夫
臨床現場では、「網膜のう胞があります」と説明した瞬間に、患者が「腫瘍やがん」を連想して不安を強める場面が少なくありません。そこで、OCT画像を用いて「網膜のスポンジに水がしみ込んで小さな水ぶくれができている状態」であり、「多くは炎症や血流の問題によるもので、腫瘍とは性質が異なる」ことを視覚的に示すことで、理解と納得を得やすくなります。 特に白内障術後CMEでは、視力回復が一時的に遅れるだけで予後良好な例も多いことを具体的な経過イメージとともに伝えると、不要な不安や通院離脱を防ぐ効果があります。
OCT読影の実務的な工夫としては、必ず両眼同一スキャンプロトコルで取得し、ILMからRPEまでの各層を順番に追う「ルーチン」を決めておくと、嚢胞・分離・網膜下液・RPE不整・IS/OS断裂などを見落としにくくなります。 また、嚢胞腔の局在が内層優位か外層優位か、黄斑中心窩を外しているかどうか、外顆粒層の菲薄化を伴っているかといったポイントをチェックリスト化し、カルテに簡略コードで残しておくと、再診時の比較や医師間の情報共有が格段にスムーズになります。annex.jsap+1
さらに、AI搭載OCTの普及により自動解析レポートを目にする機会が増えていますが、現状では強度近視眼や脈絡膜厚変化を伴う疾患で誤分類が少なくないため、「まず生データ、次に自動解析」という順序を徹底することが重要です。 臨床医にとっては、AIのアルゴリズムや学習データの限界を理解しつつ、あくまで補助ツールとして利用し、最終判断は自らのOCT読影と患者背景の総合判断で行うという姿勢が、網膜のう胞診療における新しいスタンダードになりつつあります。jstage.jst+1
