網膜変性とは網膜色素変性症診療ガイドライン検査治療

網膜変性とは網膜色素変性症

網膜変性の臨床で押さえる要点
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「疾患群」として捉える

網膜変性(とくに網膜色素変性)は単一疾患名というより、視細胞・網膜色素上皮の進行性変性を共通項にもつ遺伝性疾患群として理解すると整理しやすい。

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機能検査が診断の芯

眼底所見が軽微でも、網膜電図(ERG)や視野検査で「進行性の視細胞機能低下」を捉えることが診断と説明の軸になる。

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治療は「進行抑制+生活設計」

確立した根治療法が乏しい一方、合併症治療(白内障・黄斑浮腫など)とロービジョンケア、遺伝カウンセリングがアウトカムを大きく左右する。


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網膜変性とは定義と病因と疫学

 

医療現場で「網膜変性」という語が使われる場合、中心に置かれるのは視細胞および網膜色素上皮を原発とする進行性の変性を示す遺伝性疾患群、すなわち網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)であることが多いです。

ガイドラインでは、RPは病初期に杆体の変性が先行し、経過とともに錐体の変性が加わる「杆体錐体ジストロフィ(rod-cone dystrophy)」と同義的に理解される、と整理されています。

疫学として、本邦の有病率は4,000〜8,000人に1人程度とされ、全国患者数は過去の疫学調査で約23,000人、医療受給者証保持者数は約27,937人と記載があります。

参考)https://www.taylorfrancis.com/books/9781840766134/chapters/10.1201/b15762-7

遺伝形式は常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性のいずれも取り得る一方で、家族歴で他の発症者が確認できない孤発例も相当数ある点が、説明時の誤解(「家族にいない=遺伝じゃない」)を生みやすいポイントです。

病因は遺伝子異常で、RP関連遺伝子は60種以上、遺伝子変異は3,000種以上報告とされます。

日本では常染色体劣性RPでEYS遺伝子変異の割合が高いこと、また海外と原因遺伝子の頻度が異なることがガイドライン上も強調されています。

網膜変性とは症状と夜盲と視野狭窄

典型的な自覚症状は夜盲、視野狭窄、視力低下で、特に夜間・暗所での見えにくさ(夜盲)が「最初の症状の一つ」とされますが、生活環境によって自覚しない例もあるとされています。

視野障害は中間周辺部から始まり、輪状暗点や地図状暗点を経て、進行例では求心性視野狭窄となり中心視野だけが残る経過が典型です。

臨床で説明に困るのが「視力がまだ良いのに困っている」ケースですが、ガイドラインでもコントラストの弱い文字が読みづらい、像の欠損、歪みなど、視力表だけでは拾いにくい訴えが挙げられています。

羞明(まぶしさ)や昼盲が錐体機能障害の表れとして出る一方、白内障による光散乱でも似た訴えが出るため鑑別が重要、という注意点も明記されています。

あまり知られていないが患者説明で役立つのが、視覚低下が進むと「外界と関係なく光が見える」光視や、人物・動物などの幻視(Charles Bonnet症候群)が起こり得る、という記載です。

これを先に伝えておくと、患者が精神疾患を疑って不安を抱えることを減らせます(ただし、症状出現時には鑑別のための再評価は必要です)。

網膜変性とは検査とOCTと網膜電図

診断の骨格は、進行性の病変であること、症状、眼底所見、そして網膜電図(ERG)の異常を満たし、炎症性や続発性ではないことを確認する、という認定基準の枠組みです。

ERGは「診断確定および指定難病の新規申請の際に必須」とされ、眼底所見だけでは診断が難しい初期例で特に有用とされています。

ERG所見としては、初期から消失型もしくはa波・b波の振幅低下を示し、通常は杆体応答が錐体応答より先に減弱するというパターンが基本になります。

一方で、錐体応答が優位に障害される場合は錐体ジストロフィを疑うべき、と明確に書かれており、ここは「網膜変性=全部RP」と短絡しないためのチェックポイントです。

画像検査ではOCTの位置づけが年々強く、ガイドラインでも2014年から診断基準に加えられ臨床で重要な検査の一つとなった、と述べられています。

進行に伴いエリプソイドゾーン(IS/OSライン)の連続性が失われ消失していくこと、さらに外境界膜の消失や外顆粒層の菲薄化が観察され得ることが、病態説明の「見える化」に役立ちます。

また、眼底自発蛍光(FAF)では黄斑周囲にリング状の過蛍光が見られ、その内側は外層構造が保たれ、リング部が健常から変性への移行部に相当する、という対応関係が示されています。

患者説明では「残っている視機能の境界」を示す材料になり、経過観察の同一条件比較にも向きます。

参考:診断・検査(ERG、OCT、FAF、視野)や鑑別、合併症治療、ロービジョン、遺伝カウンセリングまで体系的にまとまっています。

日本眼科学会:網膜色素変性診療ガイドライン(PDF)

網膜変性とは鑑別と続発性と薬剤性

「網膜変性らしい」症状や色素沈着があっても、鑑別は広く、ガイドラインは遺伝性網膜変性疾患(錐体ジストロフィ、錐体杆体ジストロフィ、Stargardt病、小口病、先天停止性夜盲、眼底白点症など)を具体的に列挙しています。

とくに小口病は停止性夜盲で、長時間暗順応でERGが回復する点や、水尾-中村現象(暗順応で特徴的眼底所見が消失)が診断的意義が高い、と説明されており、RPとの区別が臨床上重要です。

後天性(続発性)では、感染(風疹、梅毒など)や外傷、そして悪性腫瘍随伴網膜症(CAR)などが挙げられ、眼科所見が全身診断のきっかけになることがある点が強調されています。

CARは比較的軽微な眼底所見でも、急激に進行する夜盲・羞明・視力低下・視野狭窄を来し得る、とされ、進行速度が「RPらしくない」場合に必ず想起したい枠組みです。

薬剤性としては、クロロキンや、フェノチアジン系抗精神病薬の高用量長期摂取で色素沈着を伴う網膜炎が起こり得ること、さらに国内ではヒドロキシクロロキンが2015年に承認され販売されていることが記載されており、問診の重要性が示されています。

臨床では「網膜変性=遺伝」へ思考が寄りがちですが、鑑別の質は問診(薬剤、感染歴、悪性腫瘍の可能性、左右差、進行速度)に大きく依存します。

網膜変性とは治療と合併症と人工網膜(独自視点)

RPに「確実に進行を止める確立治療がない」ことは公的解説でも明記され、現実的な診療は①合併症治療、②進行を遅らせる可能性のある治療の適正使用、③ロービジョンと生活設計、④研究開発中治療の情報整理、の組み合わせになります。

内服・サプリ系は、ガイドラインでも「効果は明確な結論に至っていない」前提で、メリット/デメリットを十分相談して使用するのが望ましい、と位置づけています。

ビタミンAはERG悪化を遅らせた報告がある一方、視力・視野の改善報告はなく、長期過剰摂取で肝機能障害などの副作用があり得る、と整理されています。

合併症では白内障黄斑浮腫(CME)、黄斑上膜、黄斑円孔が重要で、特にCMEは頻度が10〜40%と報告されること、治療として炭酸脱水酵素阻害薬やステロイド、硝子体手術などが挙げられる一方、一選択の一定見解はなく「侵襲の少ない治療から」OCTで効果確認しつつ進めることが推奨されています。

白内障は後囊下混濁が特徴的で、術後に後発白内障や前囊収縮が高率、Zinn小帯脆弱化の可能性など、周術期の注意点が具体的に記されています。

ここからが医療従事者向けの独自視点としての提案です。ガイドラインは「検査・治療の羅列」に見えがちですが、実臨床での成否は“患者の行動”に落とし込めるかで決まります。

そのため、説明テンプレを「症状(夜盲・視野狭窄)→検査(ERGで機能、OCT/FAFで構造)→合併症(白内障・CMEは治療で改善余地)→生活(遮光・補助具・移動)→遺伝(必要ならカウンセリング)」の順に固定すると、患者が情報を整理しやすくなります。

ロービジョンケアについてガイドラインは、遮光眼鏡、拡大読書器、単眼鏡、白杖、福祉制度の情報提供、就学・就業支援との連携など、具体的な介入を挙げています。

「治療がない=何もできない」ではなく、「早い段階から補助具と環境調整を始めることが治療と同じくらい重要」というメッセージを診療チーム全体で共有するのが要点です。

研究開発中治療として、ガイドラインは遺伝子治療、神経保護(CNTF、PEDF、カルシウム拮抗薬など)、人工網膜、再生治療を章立てで整理しています。

特に人工網膜は、体外装置と体内装置で画像を処理し網膜近傍を電気刺激する仕組み、電極の設置部位による方式の違い(網膜上、網膜下、脈絡膜上経網膜刺激など)が説明され、適応として「網膜神経節細胞が残存し機能していること」が前提となる点が明記されています。

参考:指定難病としての説明(頻度、遺伝、症状、治療、将来期待される治療)が患者向けにも読みやすく整理されています。

難病情報センター:網膜色素変性症(指定難病90)

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