網膜動脈分枝閉塞症 治療
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網膜動脈分枝閉塞症 治療の初期対応と時間
網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)は、閉塞した枝が灌流する範囲だけが虚血になるため、典型的には「部分的な視野欠損」として訴えられます。急性期は患者が「片目の一部が欠けた」「視野の端が急に見えない」など曖昧に表現することがあり、初療で“視力が保たれている=軽症”と誤認しやすい点が落とし穴です。
急性期対応の目的は大きく2つあります。
- 網膜灌流圧を上げ、虚血領域を最小化する。
- 可能なら塞栓(または血栓)をより末梢へ移動させ、中心窩に近い領域の虚血を避ける。
この「塞栓を末梢へ動かす」発想は、急性の網膜動脈閉塞に対して古くから共有されてきましたが、強いエビデンスで視機能改善が保証されるわけではありません。そのため臨床では、発症からの時間、視機能、眼底所見、全身状態(抗凝固/抗血小板内服、出血リスク)を見ながら、実施する介入の優先順位を整理して説明同意を取り、後述する原因検索と再発予防へ素早くつなげます。
さらに重要なのは、網膜動脈閉塞症は「眼の中の局所イベント」で終わらず、背景に高血圧や心血管障害などの全身疾患が高頻度に存在することです(後述)。実務上は、眼の救急処置を行った時点で終わりにせず、“同日~短期間での全身評価ルート”を初療の段階で確保しておくのが安全です。
網膜動脈分枝閉塞症 治療:眼球マッサージと眼圧下降
眼球マッサージは、眼圧を変動させることで塞栓を移動させる可能性を狙う保守的治療として、急性期に試みられることがあります。理屈としては、圧迫と解除を繰り返して血流の再開通や塞栓の位置変化を期待します。
眼圧下降を併用する意義は、灌流圧(=動脈圧−眼圧)の観点から理解しやすいです。眼圧を下げることで相対的に網膜灌流が改善しうるため、点眼・内服・静注など施設の標準手順に従って選択します。ここで注意すべきは「眼圧を下げれば必ず改善する」という単純な因果ではなく、虚血耐性には時間要素が強く、また閉塞部位や塞栓性状(コレステロール塞栓、血小板血栓など)で反応が異なる点です。
外来・救急の現場では、次のような“手順の固定化”がミスを減らします。
- ⏱️発症時刻(最後に正常だった時刻)を必ず記録。
- 👁️視力だけでなく視野(対座法でもよい)を記録。
- 📷眼底写真・OCTで所見を固定し、説明材料にする。
- 🩺眼科処置と並行して、血圧・不整脈・頸動脈雑音など全身スクリーニングを開始。
意外に見落とされがちなのは、患者が「一時的に良くなった気がする」と述べても、それが再灌流ではなく“順応”や“注意の偏り”の可能性がある点です。眼底/OCTの客観所見と、定量的な視機能(視野検査、中心暗点の有無)で追いかけることで、説明のブレが減り、次の段階(原因検索・再発予防)への合意も得やすくなります。
網膜動脈分枝閉塞症 治療:前房穿刺と適応
前房穿刺(前房穿刺による房水除去)は、眼圧を急速に下げて灌流改善や塞栓移動を狙う手技として、急性期に検討されます。日本語情報でも、急性期治療手段として「眼球マッサージ」や「前房穿刺(目の中の水を抜く)」が挙げられることが多く、臨床的に一定の位置づけがあります。
一方で、前房穿刺は“やれば安全に効く”処置ではなく、感染、前房出血、角膜内皮障害、低眼圧関連トラブルなど、手技由来の合併症リスクがゼロではありません。実施判断では、以下を明確にしておくと医療安全上も説明上も有利です。
- 目的:視機能改善の保証ではなく、急性期に「状況を打開する可能性」を狙う。
- 条件:発症からの時間、所見、患者背景(抗凝固薬、外傷リスク、角膜状態)。
- 代替:眼圧下降薬、酸素投与、専門施設連携、原因検索優先など。
また、眼科内での議論として重要なのは「BRAOはCRAOほど致命的になりにくい」一方で、中心窩に近い枝が詰まれば視力低下も起こり得る点です。つまり、BRAOだから処置を省くというより、“病変の位置と視機能障害の質”で介入強度を調整する考え方が現実的です。
加えて、前房穿刺など眼科的介入を行っても、視野欠損が残存するケースは珍しくありません。治療の成果指標を「視力」だけに置くと、患者側の期待と現実がズレやすいので、中心暗点・半盲様の欠損・日常生活上の困りごと(運転、段差、読書)まで含めてアウトカムを共有するのが、クレーム予防としても有効です。
網膜動脈分枝閉塞症 治療:高気圧酸素療法と施設連携
高気圧酸素療法(HBOT)は、網膜の二重血行(脈絡膜循環が外網膜を担う)という生理学的背景を利用し、内網膜の虚血を“脈絡膜側からの酸素供給で支える”ことで、再灌流までの時間を稼ぐというコンセプトで語られます。報告ベースでは、網膜動脈閉塞(RAO)に対してHBOTで視機能改善が得られたとする臨床データもあり、急性期の選択肢として議論され続けています。
ただし現場では、HBOTは「やりたいと思ってもすぐできない」治療です。適応以前に、実施可能な施設、搬送導線、禁忌(未治療気胸など)、耳抜き困難や閉所不安、併存症など、運用要件が多いからです。したがって、医療圏での実装としては、次のような“連携の型”があると強いです。
- 眼科でRAO疑い→救急/脳卒中系と同時連絡(眼=末梢血管イベントの可能性)。
- HBOT可能施設がある場合は、時間軸と搬送可否を早期判断。
- HBOTが難しい場合でも、酸素投与・眼圧管理・原因検索(心原性/頸動脈)を同日に開始。
意外な実務ポイントとして、HBOTの話題は患者がネットで見つけやすく、受診時に「高気圧酸素はやらないのか?」と聞かれることがあります。ここで重要なのは賛否の断定ではなく、施設要件・適応・時間・合併症・代替策を整理して説明し、同時に“全身評価が本筋で重要”であることを強調することです。
参考リンク(疾患の概説・診断と治療の一般論、急性期は眼圧を下降させて塞栓解除を試みる旨など)。
MSDマニュアル プロフェッショナル版:網膜中心動脈閉塞症および網膜動脈分枝閉塞症
網膜動脈分枝閉塞症 治療:全身疾患と再発予防(独自視点)
網膜動脈閉塞症の診療で、医療従事者が最も強く意識すべきなのは「視機能」だけでなく「生命予後に関わる背景疾患」を拾うことです。古い国内データですが、網膜動脈閉塞症の基礎疾患として高血圧が多く、心血管障害(虚血性心疾患、弁膜症、心房細動など)も高頻度で、脳梗塞の合併が一定割合で見られたとする報告があります。つまり、BRAOは眼科の枠内で完結しやすいように見えて、実は全身の動脈硬化性疾患や塞栓症の“警報”になり得ます。
ここで「検索上位に多い説明」と差がつく独自視点は、“紹介状の中身”です。紹介すること自体は一般的でも、紹介状の質で、その後の診療スピードと精度が変わります。以下のテンプレ要素を入れると、循環器・脳神経・総合内科側が動きやすくなります。
- 🧾確定診断名:網膜動脈分枝閉塞症(疑いではなく所見根拠も)。
- 🕒発症時刻と受診時刻、経過(改善/不変/悪化)。
- 👁️眼所見:閉塞枝の部位、中心窩近接の有無、OCTでの内層浮腫など。
- 🧠目的:塞栓源検索(心房細動、弁膜症、卵円孔開存、頸動脈狭窄など)と二次予防。
- 💊現在の抗血小板/抗凝固薬、出血リスク、予定した眼科介入。
また、若年例や危険因子が乏しい例では「原因が見つからない」で止まりがちです。しかし報告では、心房細動や頸動脈病変だけでなく、心臓粘液腫のような重篤な塞栓源が検出されることがあり、見逃しは許容しにくい領域です(特に“初発が眼”のケース)。前述の国内報告でも、左房粘液腫や内頸動脈閉塞症といった器質的病変が含まれており、全身検索の重要性が強調されています。
さらに“意外に知られていない”観点として、血液検査でA/G比低下などの異常が見られたという記載があり、血液性状(粘稠度など)もリスクに関与し得ることが示唆されています。もちろん単独で原因と断定はできませんが、再発予防を考えると、脂質・糖代謝・炎症/膠原病・凝固異常のスクリーニングを、年齢と臨床像に応じて検討する余地があります。
参考リンク(網膜動脈閉塞症に高血圧・心血管障害・脳梗塞合併が多いこと、全身検査の重要性などの背景整理に有用)。