緑膿菌グラム染色の基本と臨床的判断
緑膿菌グラム染色の基本的特徴
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、ブドウ糖非発酵性のグラム陰性桿菌として分類され、グラム染色において特徴的な形態を示します。菌体の大きさは長さ1.5-3.0μm、幅0.5-0.8μmで、大腸菌と比較してやや細長い形状を呈しています。
参考)Pseudomonau aeruginosa〔緑膿菌〕
グラム染色における緑膿菌の特徴として、以下の点が挙げられます。
- 細長い小型のグラム陰性桿菌(GNR-smallまたはsharp)として観察される
- 染色性がやや不良で、両端が細く見える特徴的な形態
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-4880-2.pdf
- 集簇して存在することがあり、単体よりも塊形成をする傾向
グラム染色の機序として、緑膿菌の細胞壁はリピド成分が多いため、アルコール脱色処理により細胞壁が壊れやすく、サフラニン液で赤紫色に染まります。この特性により、グラム陽性菌とは明確に区別されます。
緑膿菌と他グラム陰性桿菌の鑑別点
グラム染色における緑膿菌の鑑別は、主に腸内細菌科細菌との区別が重要です。腸内細菌科細菌(大腸菌、肺炎桿菌等)は中等大で太目のグラム陰性桿菌として観察され、両端が鈍円である一方、緑膿菌はより細長く、両端が尖った形状を示します。
参考)https://medical.kameda.com/general/medical/assets/26.pdf
🔍 形態学的鑑別ポイント
- 大腸菌:中等大、太目、両端鈍円
- 緑膿菌:細長い、小型、両端尖鋭
- インフルエンザ菌:短桿菌、多形性
しかし、グラム染色のみによる菌種推定には限界があり、年に数回「すべてのGNRが緑膿菌に見える病」に侵されることもあるため、患者背景や感染部位の情報と併せた総合的判断が必要です。特に慢性持続感染症では、多数の菌体がムコイド物質で覆われることがあり、染色性が悪化する場合があります。
参考)GNRの見かた、考え方 (抗菌薬カバーと疫学と) : Sak…
緑膿菌感染リスク患者背景の評価
緑膿菌感染を疑う患者背景の評価は、グラム染色結果の解釈において極めて重要です。高リスク患者には以下が含まれます:
参考)亀田感染症ガイドライン:ピペラシリン・タゾバクタムの使い方 …
医療曝露関連リスク要因
- 長期入院患者(特に集中治療室入室歴)
- 直近の濃厚な医療曝露(抗菌薬曝露を含む)
- 人工呼吸器使用期間の長期化
- 各種カテーテル留置患者
免疫学的リスク要因
- 好中球機能低下患者
- 血液悪性疾患患者
- 固形臓器移植患者
- ステロイド長期使用患者
緑膿菌が関与する典型的な感染症として、院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎が最も頻度が高く、アメリカのレビューでは院内肺炎の起因菌の中で最も頻度の高いGNRとされています。その他、カテーテル関連血流感染症、複雑性尿路感染症、熱傷後感染症なども特徴的な感染症です。
緑膿菌薬剤耐性機序の理解
緑膿菌は多様な薬剤耐性機序を持つため、グラム染色で緑膿菌を推定した場合、その耐性プロファイルを理解することが重要です。緑膿菌の主要な耐性機序は以下の通りです:
参考)http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/4-5_03.pdf
自然耐性機序
- AmpCセファロスポリナーゼの産生によるペニシリン系・第一世代セフェム薬への耐性
- 外膜透過性の低下による抗菌薬の菌体内侵入阻害
- 能動排出ポンプ(active efflux pump)による抗菌薬の菌体外排出
獲得耐性機序
- 修飾不活化酵素産生によるアミノ配糖体系薬剤への耐性
- DNAジャイレース・トポイソメラーゼ遺伝子変異によるフルオロキノロン系薬剤への耐性
- カルバペネマーゼ産生によるカルバペネム系薬剤への耐性
現在、臨床分離される緑膿菌の約2割がイミペネムなどのカルバペネム薬に耐性を示し、数%がアミカシンに耐性を獲得しているとされています。多剤耐性緑膿菌(MDRP)は、イミペネム、シプロフロキサシン、アミカシンの3剤すべてに耐性を示す株として定義されています。
緑膿菌グラム染色結果に基づく臨床判断
グラム染色で緑膿菌様の形態を認めた場合の臨床判断では、患者背景、感染部位、過去の培養結果を総合的に評価することが必要です。判断プロセスは以下の順序で行います:
🏥 臨床判断の段階的アプローチ
- 感染巣(focus)の同定
- 疫学的背景からの頻度の高い菌種推定
- 過去の患者検出菌の確認
- 現在の抗菌薬でカバーしきれない菌の検討
- 形態と背景を組み合わせた総合判断
グラム染色による緑膿菌の推定は、VAPの早期診断に有用であるとの報告があり、その後の抗菌薬治療にも応用可能とされています。ただし、集中治療領域では種々の合併症のため診断が困難であり、グラム染色単体ではコロナイゼーションとの区別が困難な場合があることに注意が必要です。
抗菌薬選択においては、緑膿菌をカバーする抗菌薬として、セフタジジム、ピペラシリン、セフェピム、ピペラシリン・タゾバクタム、メロペネムなどが選択肢となります。しかし、近年の耐性菌増加傾向を踏まえ、薬剤感受性試験結果が重要であり、グラム染色結果と併せた適切な抗菌薬適正使用が求められています。
参考)https://naraamt.or.jp/Academic/Gakkai/2009/seminar/point.pdf