未分化脊椎関節炎と診断
未分化脊椎関節炎の定義と分類の考え方
未分化脊椎関節炎(undifferentiated spondyloarthritis)は、脊椎関節炎(SpA)を示唆する症状・所見はあるのに、強直性脊椎炎(AS)や乾癬性関節炎(PsA)など特定疾患の分類基準に「まだ」当てはまらない状態を臨床上まとめて呼ぶ概念として使われることが多いです。
この「未分化」は“原因不明”という意味ではなく、疾患スペクトラムの時間軸(早期で所見が揃っていない)や、表現型(体軸優位か末梢優位か、皮膚・眼・腸の随伴が目立つか)によって分類が確定しない状況を含みます。
実際、経過とともにより典型的な病型へ“再分類”される例もあり、初診時点でラベリングしきれない患者を適切にフォローするための実務的な診断枠とも言えます。参考として、未分化SpAは「SpAを示唆する臨床・画像・遺伝的素因があるが、いずれの疾患基準も満たさない」群として説明されています(英語)。

一方で、研究・治験で用いられる“分類基準”と、日常診療での“診断”は一致しません。ASAS分類基準は研究目的で設計されており、臨床現場では「疑う→除外すべき疾患を除外する→全体像で判断する」プロセスが必要です。分類基準を診断に直結させると、特にMRI依存の過剰診断が起こり得る点が指摘されています。
未分化脊椎関節炎と炎症性腰背部痛の見分け
未分化脊椎関節炎を疑う入口として重要なのが、炎症性腰背部痛(IBP)の拾い上げです。日本リウマチ学会の解説でも、SpAに特徴的な症状として「40歳以下で発症し、3ヶ月以上続き、安静で軽快せず運動で改善する腰痛・背部痛」が挙げられています。
さらに実務では、ASASのIBP基準(5項目中4項目)を問診テンプレ化すると精度が上がります。具体的には「40歳未満の発症」「潜行性発症」「運動で改善」「安静で改善しない」「夜間痛(起床で改善)」のうち4項目を満たせばIBPとする、という整理です(感度・特異度が提示されています)。
http://www.spondyloarthritis.jp/common/img/axspa.pdf
IBPの鑑別で落とし穴になりやすいのは、“朝のこわばり=炎症性”と短絡することです。睡眠不足、抑うつ、線維筋痛、椎間関節性疼痛でも朝症状は起こり得ます。IBPらしさは、運動で軽くなり、安静で改善しにくいという「行動で疼痛が逆転する」パターンとして評価するとブレが減ります。
また、体軸症状が弱くても、末梢の少関節炎(下肢優位)、付着部炎、指趾炎、ぶどう膜炎、乾癬、炎症性腸疾患(IBD)などの“SpA文脈”が揃うと疑いは強まります。少なくとも、IBPが明確でないからといってSpAを除外しない姿勢が重要です。
未分化脊椎関節炎とMRI・仙腸関節の骨髄浮腫
体軸病変の早期評価では、仙腸関節MRIが鍵になります。順天堂大学の解説でも、単純X線では早期から所見が出ないため、早期診断のためにMRIが用いられ、急性期にはSTIR画像で骨髄浮腫が高信号として描出されると説明されています。

ただし、骨髄浮腫(BME)は“見えたらSpA確定”ではありません。ASAS分類基準のMRI所見(BMEが中心)にはシンプルさという利点がある一方、臨床実装ではBMEへの過度の依存が過剰診断につながる、という問題が整理されています。
意外に知られていないが実務で効くポイントとして、「同じ“骨髄浮腫”でも、構造的病変(びらん、脂肪化、backfill、強直など)の同時評価が診断の確からしさを上げる」ことが挙げられます。MRIでは炎症所見だけでなく、T1での構造変化を組み合わせて読む必要があり、炎症単独よりも“SpAらしさ”が立ち上がります(MRI解釈の限界と臨床文脈統合の重要性が論じられています)。
さらに、特異性の観点で臨床がハマりやすいのが「機械的負荷でも仙腸関節BMEは起こり得る」点です。産後女性で仙腸関節周囲BMEが高頻度に見られ、axSpAの仙腸関節炎とMRI上類似し得る一方、びらんなどは産後群では少ない、という比較研究があります。つまり、BMEは“入り口”であって、病歴(妊娠・分娩・スポーツ負荷など)と構造病変の有無を同時に見る必要があります。
診療の現場では、MRI依頼時点で「疑う理由(IBP、殿部痛、NSAIDs反応、末梢所見、ぶどう膜炎など)」を放射線科へ明示し、読影医と“臨床疑いの強さ”を共有するだけで、解釈の再現性が上がります。これは、画像だけが独走して診断が決まる状況を避ける、という意味でも重要です。
未分化脊椎関節炎とHLA-B27・日本の疫学
SpA診療の欧米の議論をそのまま日本へ持ち込むとズレが生じる代表例が、HLA-B27です。難病情報センターの「強直性脊椎炎(指定難病271)」の説明では、日本の一般人口でHLA-B27陽性は約0.3%と報告されている一方、HLA-B27陽性者のうち発症は10%未満とも述べられています。
この背景として、日本ではHLA-B27保有率が低いため、欧米ほど“典型的なHLA-B27陽性axSpA像”が揃いにくく、結果として診断が遅れたり、逆に「HLA-B27陰性だからSpAは違う」と誤って除外されたりするリスクがあります。臨床では、HLA-B27は診断を補強する要素であって、陰性で除外できないことをチームで共通認識にしておくのが安全です。
また、HLA-B27と疾患頻度の関係は患者説明にも直結します。「遺伝子=発症」ではなく、素因に過ぎないことを、数値を交えて説明できると、検査結果に引きずられた不安を軽減できます(例:一般人口の陽性率が低い/陽性でも多くは発症しない)。
診断推論の実務的なコツとしては、HLA-B27を“単独”で使うのではなく、①IBPの要件、②仙腸関節/脊椎MRI、③末梢(付着部炎・指趾炎)や腸・皮膚・眼の随伴、④炎症反応(CRP/ESR)を束ねて事後確率を上げる、という発想が有用です。
未分化脊椎関節炎の独自視点:腸-関節軸と「関節より先の腸症状」
検索上位で繰り返されがちなのは「腰痛・仙腸関節炎・HLA-B27・MRI」ですが、実務で“意外に役立つ”のが腸-関節軸の視点です。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)に関連する関節炎(enteropathic arthritis)はSpAスペクトラムに含まれ、炎症性腰背部痛や殿部痛、仙腸関節圧痛などを呈し得ること、そして腸内細菌叢の乱れと免疫(Th17など)を介した機序が仮説として説明されています。

独自視点として強調したいのは、「腹部症状が軽微でも“腸の炎症”は潜む」ことがあり、整形外科・一般内科外来では便性状や体重減少、血便、家族歴、NSAIDsで悪化する腹部症状の有無を短い質問で拾うだけで、未分化SpAの見立てが変わり得る点です。特に若年の慢性腰背部痛で、原因不明の鉄欠乏や軽いCRP高値が続く場合、腸の評価を早めに意識する価値があります(腸-関節軸の概念と機序が解説されています)。

また、治療の観点でも腸の合併は重要です。例えば、NSAIDsが第一選択として使われやすい一方で、IBDが疑われる患者では腹部症状の増悪や消化管病変の評価が問題になり得ます(ここは個別性が高く、内科・消化器との連携が安全です)。
臨床で使える“腸-関節軸チェック”を箇条書きにします。
- 🧻 下痢が2〜3週間以上続く、または波がある
- 🩸 血便、粘血便、便潜血陽性の既往
- ⚖️ 意図しない体重減少、微熱、倦怠感
- 💊 NSAIDsで腹痛・下痢が悪化する
- 👪 IBD、乾癬、ぶどう膜炎、SpAの家族歴
(参考)腸と関節のつながり(腸-関節軸、Th17など)の説明があり、問診の視点づくりに有用。

(参考)炎症性腰背部痛(ASAS基準)の5項目と、4/5でIBPとする基準がまとまっており、外来テンプレ化に有用。
http://www.spondyloarthritis.jp/common/img/axspa.pdf
(参考)脊椎関節炎の一般向けだが診断の要点(炎症性腰背部痛の定義、診断での鑑別の重要性)が簡潔で、チーム教育に使いやすい。
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/sekitsuikansetsuen/
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症例から学ぶ脊椎関節炎 強直性脊椎炎,未分化型脊椎関節炎ほか [ 浦野房三 ]