免疫チェックポイント阻害薬一覧と種類及び適応がん

免疫チェックポイント阻害薬一覧と作用機序

免疫チェックポイント阻害薬の基本情報
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作用機序

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫システムを抑制するのを防ぎ、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。

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主な種類

抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体の3種類に大別され、それぞれ異なる免疫チェックポイントを標的としています。

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治療対象

メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がんなど、多くのがん種に適応があり、単独または併用療法として使用されます。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療の分野で革命的な進歩をもたらした薬剤です。従来のがん免疫療法が「免疫細胞の力を高める」ことに焦点を当てていたのに対し、免疫チェックポイント阻害薬は「がん細胞が免疫にブレーキをかける能力」を阻止するという新しいアプローチを取っています。

免疫チェックポイントとは、本来、免疫の暴走や自己組織への攻撃を防ぐために体内に備わっている仕組みです。しかし、がん細胞はこの仕組みを悪用して、免疫細胞による攻撃から逃れようとします。免疫チェックポイント阻害薬は、このがん細胞の戦略を無効化し、免疫システムが効果的にがん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。

免疫チェックポイント阻害薬の種類と一般名・製品名

2025年4月現在、日本で承認されている主な免疫チェックポイント阻害薬は以下の3つのカテゴリーに分類されます。

  1. 抗PD-1抗体
  2. 抗PD-L1抗体
    • アテゾリズマブ(製品名:テセントリク)
    • アベルマブ(製品名:バベンチオ)
    • デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)
  3. 抗CTLA-4抗体
    • イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)
    • トレメリムマブ(製品名:イジュド)

これらの薬剤は、それぞれ異なる免疫チェックポイントを標的としていますが、共通の目的は免疫システムの抑制を解除し、がん細胞への攻撃を促進することです。

種類 一般名 製品名 製薬会社 主な適応がん
抗PD-1抗体 ニボルマブ オプジーボ 小野薬品工業/BMS メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫など
ペムブロリズマブ キイトルーダ MSD メラノーマ、非小細胞肺がん(PD-L1陽性)など
セミプリマブ リブタヨ サノフィ 子宮頸がん(2次治療)
抗PD-L1抗体 アテゾリズマブ テセントリク 中外製薬/ロシュ 非小細胞肺がん(2次治療)
アベルマブ バベンチオ メルクセローノ メルケル細胞がん
デュルバルマブ イミフィンジ アストラゼネカ ステージ3非小細胞肺がん
抗CTLA-4抗体 イピリムマブ ヤーボイ BMS メラノーマ
トレメリムマブ イジュド アストラゼネカ 非小細胞肺がん、肝細胞がん(併用療法)

免疫チェックポイント阻害薬の作用機序と仕組み

免疫チェックポイント阻害薬がどのように働くのかを理解するには、まず免疫システムとがん細胞の相互作用について知る必要があります。

PD-1/PD-L1経路の阻害

T細胞の表面には「PD-1(Programmed Death-1)」と呼ばれる受容体があります。一方、がん細胞の表面には「PD-L1(PD-Ligand 1)」というタンパク質が発現していることがあります。PD-1とPD-L1が結合すると、T細胞の活性が抑制され、がん細胞への攻撃が弱まります。

抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)は、T細胞上のPD-1に結合してPD-L1との相互作用を阻害します。これにより、T細胞の「ブレーキ」が解除され、がん細胞を攻撃できるようになります。

抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、デュルバルマブなど)は、がん細胞上のPD-L1に結合し、同様にPD-1との相互作用を阻害します。

CTLA-4経路の阻害

CTLA-4(Cytotoxic T-Lymphocyte-Associated Protein 4)は、T細胞の活性化を抑制する別の免疫チェックポイントです。抗CTLA-4抗体(イピリムマブ、トレメリムマブ)は、CTLA-4の機能を阻害することで、T細胞の活性化を促進し、がん細胞への免疫応答を強化します。

これらの作用機序を簡単に例えると、以下のようになります。

  • 抗PD-1/PD-L1抗体:T細胞のカギ穴(PD-1)やがん細胞のカギ(PD-L1)を塞ぎ、がん細胞がT細胞を抑制できないようにする
  • 抗CTLA-4抗体:T細胞の連絡口を塞ぎ、樹状細胞からの抑制命令を回避できるようにする

免疫チェックポイント阻害薬の適応がんと治療効果

免疫チェックポイント阻害薬は、様々ながん種に対して効果を示しています。現在、日本で承認されている主な適応がんは以下の通りです。

メラノーマ(悪性黒色腫

最初に免疫チェックポイント阻害薬の効果が認められたがん種です。ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブが適応を持っています。特に進行期のメラノーマでは、これらの薬剤の登場により生存率が大幅に向上しました。

非小細胞肺がん

肺がんの中で最も多いタイプである非小細胞肺がんに対して、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブなどが使用されています。特にPD-L1発現率が高い症例では、ペムブロリズマブが初回治療から使用できる第1選択薬となっています。

腎細胞がん

腎臓にできる悪性腫瘍である腎細胞がんに対して、ニボルマブが効果を示しています。また、他の分子標的薬との併用療法も承認されています。

ホジキンリンパ腫

血液のがんの一種であるホジキンリンパ腫に対して、ニボルマブが効果を示しています。

頭頸部がん

口腔、咽頭、喉頭などの頭頸部領域のがんに対して、ニボルマブやペムブロリズマブが使用されています。

胃がん

胃がんに対しては、ニボルマブが三次治療以降の選択肢として承認されています。

肝細胞がん

肝臓の主要な悪性腫瘍である肝細胞がんに対して、ニボルマブやトレメリムマブ(デュルバルマブとの併用)が使用されています。

膀胱がん/尿路上皮がん

膀胱や尿路の上皮から発生するがんに対して、ペムブロリズマブやアテゾリズマブが効果を示しています。

子宮頸がん

子宮頸がんの二次治療としてセミプリマブが承認されています。

メルケル細胞がん

皮膚に発生する稀な神経内分泌腫瘍であるメルケル細胞がんに対して、アベルマブが効果を示しています。

これらの適応は、臨床試験の結果に基づいて随時拡大されており、今後さらに多くのがん種に対する効果が期待されています。

免疫チェックポイント阻害薬の併用療法と最新研究動向

免疫チェックポイント阻害薬の治療効果をさらに高めるため、様々な併用療法が研究・開発されています。

異なる免疫チェックポイント阻害薬の併用

異なる作用機序を持つ免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせることで、相乗効果が期待できます。例えば、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用(ニボルマブ+イピリムマブ)は、メラノーマや腎細胞がんなどで高い効果を示しています。

最近では、デュルバルマブ(抗PD-L1抗体)とトレメリムマブ(抗CTLA-4抗体)の併用療法が、肝細胞がんの治療に承認されました。この組み合わせにより、単剤使用時よりも高い奏効率が得られています。

化学療法との併用

従来の細胞障害性抗がん剤(化学療法)と免疫チェックポイント阻害薬の併用も、多くのがん種で研究されています。化学療法によりがん細胞が破壊されると、腫瘍抗原が放出され、免疫応答が活性化されるため、免疫チェックポイント阻害薬の効果が増強される可能性があります。

非小細胞肺がんでは、ペムブロリズマブと化学療法の併用が標準治療の一つとなっています。また、トレメリムマブ、デュルバルマブ、化学療法の3剤併用療法も非小細胞肺がんに対して承認されています。

分子標的薬との併用

特定の分子を標的とする分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用も研究されています。例えば、腎細胞がんでは、ニボルマブとチロシンキナーゼ阻害剤の併用が効果を示しています。

バイオマーカーによる治療効果予測

免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するバイオマーカーの研究も進んでいます。PD-L1発現率はその一例で、特に非小細胞肺がんでは、PD-L1発現率が高い症例ほどペムブロリズマブの効果が高いことが知られています。

最近では、腫瘍遺伝子変異量(TMB)やマイクロサテライト不安定性(MSI)なども、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測する指標として注目されています。

新たな免疫チェックポイント標的

PD-1/PD-L1やCTLA-4以外にも、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、B7-H3などの新たな免疫チェックポイントが研究されています。これらを標的とする新薬の開発が進んでおり、既存の免疫チェックポイント阻害薬に耐性を示す症例に対する新たな治療選択肢として期待されています。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用と管理方法

免疫チェックポイント阻害薬は、従来の化学療法とは異なる特徴的な副作用を引き起こすことがあります。これらは「免疫関連有害事象(irAE: immune-related Adverse Events)」と呼ばれ、免疫システムの活性化に伴い、様々な臓器に炎症が生じることで発現します。

主な免疫関連有害事象

  1. 皮膚障害:発疹、掻痒感、白斑などが比較的高頻度で発生します。多くは軽度ですが、まれに重症例(スティーブンス・ジョンソン症候群など)も報告されています。
  2. 消化器障害:下痢、腹痛、大腸炎などが生じることがあります。特に抗CTLA-4抗体では頻度が高く、重症例では腸管穿孔に至ることもあります。
  3. 内分泌障害甲状腺機能低下症・亢進症、下垂体炎、副腎機能不全、1型糖尿病などが発生することがあります。ホルモン補充療法が必要になる場合もあります。
  4. 肝障害肝機能検査値(AST、ALT)の上昇として現れます。多くは無症状ですが、重症例では肝不全に進行することもあります。
  5. 肺障害:間質性肺炎として現れ、咳嗽呼吸困難、低酸素血症などの症状を呈します。重症例では致命的になることもあります。
  6. 神経障害末梢神経障害ギラン・バレー症候群重症筋無力症、脳炎など、様々な神経系の障害が報告されています。
  7. 腎障害:腎機能低下、間質性腎炎などが生じることがあります。

副作用の管理方法

免疫関連有害事象の管理には、早期発見と適切な対応が重要です。

  1. モニタリング:治療前および治療中の定期的な血液検査、甲状腺機能検査、胸部X線などによるモニタリングが推奨されます。
  2. グレード別対応:副作用の重症度(グレード)に応じた対応が必要です。
    • 軽度(グレード1-2):対症療法や免疫チェックポイント阻害薬の一時中断
    • 中等度~重度(グレード3-4):免疫チェックポイント阻害薬の中止とステロイド療法
  3. ステロイド療法:多くの免疫関連有害事象に対して、ステロイド(プレドニゾロンなど)が有効です。重症例では高用量ステロイドの静脈内投与が必要になることもあります。
  4. 追加免疫抑制療法:ステロイドに反応しない場合は、インフリキシマブ(抗TNF-α抗体)やミコフェノール酸モフェチルなどの追加免疫抑制療法が考慮されます。
  5. 患者教育:患者自身が副作用の初期症状を認識し、早期に報告できるよう教育することも重要です。

免疫関連有害事象は、治療開始後数週間から数ヶ月、時には治療終了後も発生する可能性があります。長期的なフォローアップと多職種連携による管理が必要です。

免疫チェックポイント阻害薬の今後の展望と課題

免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療に革命をもたらしましたが、さらなる発展と解決すべき課題も残されています。

今後の展望

  1. 適応拡大:現在承認されているがん種以外にも、様々ながんに対する臨床試験が進行中です。膵臓がん、卵巣がん、前立腺がんなど、従来免疫療法の効果が限定的だったがん種に対しても、新たな併用療法や前処置による効果向上が期待されています。
  2. 新規免疫チェックポイント標的:PD-1/PD-L1やCTLA-4以外の免疫チェックポイント(LAG-3、TIM-3、TIGIT、B7-H3など)を標的とする新薬の開発が進んでいます。これらは既存の免疫チェックポイント阻害薬に耐性を示す患者に対する新たな選択肢となる可能性があります。
  3. バイオマーカーの開発:効果予測バイオマーカーの開発は、「精密医療」の実現に不可欠です。PD-L1発現以外にも、腫瘍遺伝子変異量(TMB)、マイクロサテライト不安定性(MSI)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、腸内細菌叢など、様々な因子が研究されています。
  4. 新規併用療法:放射線療法、がんワクチン、CAR-T細胞療法など、他の治療法との併用による相乗効果の探索が進んでいます。特に放射線療法との併用は「アブスコパル効果」(照射部位以外の腫瘍も縮小する現象)を増強する可能性があります。
  5. 早期がんへの適応:現在、多くの免疫チェックポイント阻害薬は進行・転移がんに使用されていますが、早期がんに対する術前・術後補助療法としての有効性も研究されています。

課題

  1. 一次耐性と獲得耐性:約60-70%の患者は初めから免疫チェックポイント阻害薬に反応しない(一次耐性)か、または初期に反応しても後に効果が失われる(獲得耐性)ことが課題です。耐性メカニズムの解明と克服が重要な研究テーマとなっています。
  2. 副作用管理:免疫関連有害事象の予測、予防、管理の最適化が必要です。特に複数の免疫チェックポイント阻害薬や他の治療法との併用時には、副作用リスクが増大する可能性があります。
  3. コスト:免疫チェックポイント阻害薬は高額であり、医療経済的な負担が大きいことが課題です。費用対効果の評価や、バイオシミラー(後発バイオ医薬品)の開発が進められています。
  4. 長期予後の評価:免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者の長期予後や晩期副作用については、まだデータが限られています。長期的な追跡調査が必要です。
  5. バイオマーカーの標準化:PD-L1発現検査など、バイオマーカー評価の標準化が課題です。検査法や判定基準の違いにより、結果の解釈が異なる可能性があります。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療の新たな時代を切り開きましたが、すべての患者に効果があるわけではありません。個々の患者に最適な治療法を選択するための研究が今後も重要です。

日本内科学会雑誌:免疫チェックポイント阻害薬の最新情報と今後の展望

免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療の分野で革命的な進歩をもたらしました。その作用機序、種類、適応がん、副作用、今後の展望について理解することは、がん治療に関わる医療従事者にとって重要です。今後も新たな免疫チェックポイント標的の発見や併用療法の開発により、さらに多くの患者が恩恵を受けることが期待されています。