眼内炎 ガイドライン
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眼内炎 ガイドラインの診断:症状と鑑別
眼内炎は、眼内での感染性炎症により急速に視機能を損なうため、確定診断を待たず「疑った時点で治療へ寄せる」発想が重要になります。
特に術後眼内炎では、術後の通常経過(軽い充血や異物感)から逸脱して、「視力低下」「痛み」「羞明」「充血の増悪」「飛蚊症の増加」などが短期間に出現しうるため、問診での時間軸の確認が第一歩です。
鑑別として現場で混同しやすいのは、感染ではなく炎症・毒性で起きる病態(例:TASSなど)ですが、感染性眼内炎は放置のリスクが大きいので、鑑別で迷う状況ほど“感染としての安全側”に倒し、眼内検体採取と治療を前提に動きます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5611405b2e260af257986ddfb731b67b5c8a852e
また、ESCRSガイドラインは術後眼内炎を「急性」「慢性(遅発)」として扱い、遅発例では起炎菌(例:Propionibacterium/Cutibacterium acnesなど)や経過が急性と異なり得る点を整理しています。
診断の精度を上げる実務ポイントは、採取できるなら抗菌薬投与前に「前房水・硝子体」の検体を確保し、塗抹・培養・PCRなどで病原体同定を試みることです。
ただし眼内では免疫反応や時間経過の影響で「臨床的に重症でも培養陰性」が起こり得る、という注意点がESCRSの病態生理の説明にも出てきます。
(参考:白内障術後の眼内炎について、定義〜予防〜診断〜治療(硝子体内投与やPPV、TASS鑑別)までまとまっている)
ESCRS Guidelines for Prevention and Treatment of Endophthalmitis Following Cataract Surgery(PDF)
眼内炎 ガイドラインの治療:硝子体内注射と抗菌薬
感染性眼内炎の治療は、眼内の薬剤到達性の観点から「局所(硝子体内)に十分量を入れる」ことが中心となります。
MSDマニュアル(プロフェッショナル版)では、初期治療として広域抗菌薬の硝子体内投与が挙げられ、バンコマイシン+セフタジジムの組み合わせが“最も多い”レジメンとして記載されています。
内因性眼内炎では、眼内投与に加えて静脈内投与を併用すべき、と整理されており、眼だけの問題に見えても全身感染としての取り扱いが必要になります。
参考)眼内炎 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル プロフェッ…
一方で、術後(外因性)では「まず眼内での菌量・毒素を減らす」ことが視機能予後に直結するため、治療の最初の1手(硝子体内注射、場合により硝子体手術)が遅れない体制づくりが最重要です。
ESCRSガイドラインは、術後眼内炎の診断と治療の章で、微生物検査(培養やPCR)と治療(急性・慢性)を体系立てており、臨床判断の“道順”を提供しています。
また、ESCRSはMRSA/MRSEなど耐性菌の増加や、フルオロキノロン耐性の問題にも触れつつ、「バンコマイシンは治療に温存すべきで、予防的使用は推奨されにくい」という立場を明確にしています。
ここで意外に見落とされがちな点として、「局所で高濃度が得られる=感受性の見え方が変わる」問題があります。
ESCRSの付録(PK/PDの基礎)では、眼内という“非典型的なスペース”で薬がどう効くかを理解する必要性が示され、単なる添付文書的な用量感ではなく、眼内薬物動態を意識した判断が求められることがわかります。
眼内炎 ガイドラインの手術:硝子体手術のタイミング
硝子体手術(PPV)は、感染源(菌・炎症産物)を物理的に除去し、網膜障害や増殖硝子体網膜症など二次被害を減らす狙いで行われます。
ESCRSガイドラインは、歴史的背景としてEVS(Endophthalmitis Vitrectomy Study)に触れ、初診時視力が光覚のみ(LP)など重症例で早期硝子体手術が有利になり得る、という枠組みを整理しています。
ただし、EVSの結論をそのまま現在に当てはめるのは危険で、ESCRS自身も「EVSは現在の実臨床を必ずしも反映しない」と注意書きを入れています。
現場での実装としては、眼内炎を疑った瞬間に「眼科内での緊急オペ枠」「硝子体内注射の準備」「採取・培養の流れ」「全身評価(内因性の可能性)」を同時並行で走らせ、手術適応の判断に必要な情報を短時間で揃えることが鍵になります。
また、慢性(遅発)眼内炎では急性例と異なり、嚢内(capsular bag)周辺に感染が残る“サキュラー”な病態が問題になることがあり、単回注射で終わらないことがあります。
このタイプは、症状が強烈ではないために「ぶどう膜炎として長く治療される」など遠回りになりやすく、ガイドライン的な分類(急性/慢性)を頭に置くこと自体が診断の近道になります。
眼内炎 ガイドラインの予防:ヨード洗浄と抗菌薬点眼
予防は“抗菌薬を出すこと”ではなく、“眼内に菌を入れない設計”が中心で、ESCRSガイドラインでも術前消毒(povidone-iodine)を基本要素として扱っています。
さらにESCRSは、白内障手術の術後眼内炎予防として、手術終了時の前房内(intracameral)セフロキシム投与がリスクを大きく下げたことを、大規模試験の結果として提示しています。
この「術直前の消毒+手術終了時の眼内抗菌薬」という発想は、周術期の抗菌薬点眼に依存する考え方とは方向性が異なります。
実際、日本網膜硝子体学会の情報としても、抗VEGF硝子体内注射のたびに抗菌薬点眼を繰り返すと、結膜嚢や鼻粘膜の常在菌が耐性を獲得しやすいという報告があること、そして術後眼内炎予防は抗菌薬投与より術直前のヨード洗浄が有効という指摘が紹介されています。
参考)IRD遺伝学的検査エキスパートパネル 12施設の決定 : バ…
つまり、予防の“主戦場”は、抗菌薬点眼の処方設計というより、
・ヨード製剤による眼表面消毒を徹底する
・無菌操作(器具・環境・ドレーピング)を崩さない
・創口の水密性や術中合併症(後嚢破損など)を減らす
といったプロセス管理になります。
ここは患者指導にも直結します。ESCRSは「術後早期は創が治癒中で、患者の自己点眼や生活習慣も感染リスクに影響する」と述べており、医療者側の対策だけでは完結しません。
意外な盲点は、患者が“清潔にしているつもり”で目を触る頻度が増えたり、点眼手技が不潔になったりする点で、手術室外の行動がリスクに寄与し得ることを、チーム全体で共有しておく必要があります。
(参考:VEGF硝子体内注射における抗菌薬点眼の考え方(耐性化の懸念、ヨード洗浄重視)に触れている)
日本網膜硝子体学会:VEGF阻害薬の硝子体内注射前後における抗菌薬点眼処方
眼内炎 ガイドラインの独自視点:院内フローと耐性
眼内炎の成否は、医学知識だけでなく「院内フロー(運用)」に強く依存します。
たとえば、疑い症例が来たときに、①検体採取→②硝子体内注射→③必要なら硝子体手術、を“同日中にどこまで進められるか”は施設差が出やすく、個人の技能というよりシステムの問題になります。
ここでガイドライン的に役立つのが、ESCRSが提示している「微生物検査(培養/Gram stain/PCR)」「TASSとの鑑別」「急性/慢性の治療」の並びで、これはそのまま院内手順書の骨格になります。
実務に落とすなら、以下のような“迷いどころ”を事前に決めておくと、夜間や休日でもブレが減ります。
・緊急度判定(トリアージ)
- 「術後のいつから」「視力低下の速度」「痛みの強さ」「前房蓄膿の有無」など、外来で揃える最低限の項目を固定する。
- 内因性が疑われる(発熱、基礎疾患、菌血症の可能性)場合は、眼科だけで完結させず全身対応に切り替える。
・抗菌薬の使い分け(耐性を含む)
- 予防目的でバンコマイシンを使うことは、耐性・薬剤温存の観点からESCRSでは慎重(治療に温存)とされる。
- 反復する抗菌薬点眼が耐性化を促し得る、という示唆は注射医療の現場では特に重要で、手技と消毒の質を上げる方向に投資すべき論点になる。
・アウトブレイク視点(意外に重要)
- 単発例は“患者要因”で説明されがちですが、複数例が近い時期に出た場合は、器械・洗浄・環境(手術室動線や空調など)の問題を疑う必要がある、とESCRSでも「汚染器具や環境由来の集簇」を原因の一つとして挙げています。
- つまり、眼内炎は「感染対策チーム(ICT)」や中央材料部門と接続して初めて、再発防止まで含めた医療安全になる領域です。
この“院内フローと耐性”の視点は、検索上位の解説では治療薬の話に埋もれやすい一方、医療者が実際に困るのは「準備が間に合わない」「誰に連絡するか曖昧」「点眼の慣習が更新されない」といった運用面です。
ガイドラインを読む価値は、推奨薬だけでなく、こうした運用設計の根拠(なぜその順で、何を優先するのか)を言語化できる点にあります。
