膜性腎症 ステージ 1 蛋白尿

膜性腎症 ステージ 1

膜性腎症 ステージ 1の臨床で迷いやすい点
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ステージ1=病理の早期

Churgのstage分類のI期(上皮下沈着が小さく散在、基底膜肥厚なし)を指し、CKDのG分類(eGFR)とは別物です。

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蛋白尿が方針を決める

病理がstage1でも蛋白尿が持続・増悪すれば予後リスクは上がるため、フォローの設計が重要です。

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「保存的療法」を理解する

一次性MNは一定割合で自然寛解があり、ネフローゼの有無や経過で、ACE阻害薬/ARBを含む支持療法中心か免疫抑制へ進むかを判断します。

膜性腎症 ステージ 1の病理

 

膜性腎症の「ステージ1」は、電子顕微鏡で係蹄壁の上皮下に小さな散在性の電子密度沈着物(EDD)を認め、糸球体基底膜(GBM)の肥厚が目立たない段階(Churg/EhrenreichのI期)を指します。

この段階は「発症して間もない」ことが多い一方、臨床の蛋白尿の量や経過が必ずしも病理ステージと一直線に対応するわけではなく、病理が早期でも蛋白尿が強い例、逆に進行病理でも蛋白尿が落ち着く例があり得ます。

医療者側がまず押さえるべきは、患者が言う「ステージ1」が、(1)膜性腎症の病理ステージ1なのか、(2)CKDステージ1(eGFR 90以上のG1相当)なのか、(3)患者向け説明で“軽い段階”という意味合いで混在しているのかを初診時に仕分けることです。

また、病理ステージの背景として、膜性腎症は糸球体基底膜上皮下への免疫複合体沈着と、それに伴う補体活性化などが中心的機序と説明されます。

参考)膜性腎症 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター

ステージ1ではGBMの反応性変化(肥厚やスパイク形成)がまだ前景化していないため、光顕所見が乏しく「軽そう」に見えやすい点が落とし穴です。

実臨床では、腎生検のサンプリングや観察部位で病理の見え方が変わり得るため、病理レポートのステージ表記だけで短絡的にリスクを決めない姿勢が安全です。

膜性腎症 ステージ 1の蛋白尿

膜性腎症の診療では、病理の早期・後期よりも、蛋白尿(量・持続・変化)と血清アルブミン、腎機能のトレンドが意思決定の中心になります。

ネフローゼ症候群の成人診断基準として、尿蛋白3.5g/日(または尿蛋白/Cr比3.5g/gCr)以上が持続し、血清アルブミン3.0g/dL以下を満たす、という枠組みが示されています。

膜性腎症がネフローゼを呈するか否かで、治療強度(保存的療法中心か、免疫抑制を含めるか)の議論が変わるため、ステージ1という言葉より、蛋白尿の数字を軸に“現在地”を共有するのが有用です。

蛋白尿の評価は、1日蓄尿(g/日)でも随時尿の尿蛋白/クレアチニン比(g/gCr)でもよいとされ、日常診療では再現性と負担のバランスで選択します。

参考)腎臓の病気:慢性腎臓病(CKD)と腎不全

フォローで重要なのは「一回の値」よりも「傾向」で、体位・運動・発熱・尿路感染・採尿時間帯などの影響を考慮しつつ、同条件での継時評価に寄せることです。

患者説明では、蛋白尿が多いと低アルブミン血症、浮腫、脂質異常など“ネフローゼ連鎖”が起き得る点を、検査値と症状を結び付けて伝えるとセルフモニタリングの質が上がります。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001394024.pdf

膜性腎症 ステージ 1の検査

一次性膜性腎症では、原因抗原としてPLA2Rに対する自己抗体が半数以上で関連することが示され、血清抗PLA2R抗体は診断や病勢評価の手がかりになります。

一方で、抗PLA2R抗体は一次性MNに特異的とされつつ、悪性腫瘍・B型肝炎ウイルス・自己免疫性疾患に伴うMNの一部でも陽性となり得るため、陽性でも二次性MNの原因検索が必要とされています。

さらに、KDIGO 2021では診断でまずPLA2R抗体測定を行う方向性が示されつつ、日本では少なくとも2022年6月時点で保険適用外である点に注意が必要、と国内ガイドライン解説で明記されています。

ステージ1(病理I期)を疑う段階でも、腎生検が可能なら、一次性/二次性の鑑別、沈着物の性状、併存病変の評価ができ、治療選択の解像度が上がります。

ただし腎生検は出血リスクがあり、抗血小板薬・抗凝固薬内服や高齢者など全例に実施できない現実があるため、非侵襲的情報(抗体、尿所見、画像、合併症評価)を統合して判断する場面が残ります。

あまり知られていない実務上のポイントとして、患者が「ステージ1」と言って受診しても、それが“病理I期”ではなく“eGFRが保たれている=CKDステージ1相当”を指していることがあり、カルテ上の表記を最初に整えるだけで後日の認識齟齬(治療強度・予後説明・難病申請)を減らせます。

膜性腎症 ステージ 1の治療

一次性膜性腎症(MN)の治療では、ネフローゼ型MNに対して保存的療法(補助療法・支持療法・生活指導・食事療法など)から開始する選択肢があり、MNが一定割合で自然寛解することがある点が背景にあります。

保存的療法で6か月程度治療しても完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合に、ステロイド単独療法やステロイド+免疫抑制療法へ変更を考慮する、という流れが国内ガイドライン解説に示されています。

このため、病理ステージ1であっても、蛋白尿の持続・増悪、低アルブミン血症、血栓リスク、感染リスク、腎機能の変化などを総合し、患者の生活背景も含めて「待つ医療」と「攻める医療」の境界を設計します。

支持療法の中核には、ACE阻害薬/ARBを含む非免疫抑制療法が位置付けられています。

一方で、免疫抑制を選ぶ場合、ステロイド+免疫抑制薬(例:シクロスポリンを第1選択とすることが多い、など)に関する臨床エビデンスは海外研究が中心で、日本の実情に即した中長期データが望まれる、という留保も書かれています。

リツキシマブは近年RCTで有効性が多く報告され、KDIGO 2021でも初回治療薬剤の1つとして推奨される一方、日本では成人発症MNには保険適用外である、と国内ガイドライン解説で注意喚起されています。

膜性腎症 ステージ 1の独自視点

ステージ1の患者で現場が困るのは、「病理が早期=治療は軽くてよい」と患者が受け取りやすいのに対し、医療側は“蛋白尿の持続”を見て将来の腎機能低下を警戒している、という視点のズレです。

そこで、外来の運用としては「ステージ(病理)」「重症度(蛋白尿・アルブミン・浮腫)」「腎機能(eGFR・Cr)」を別スケールとして図示・説明し、患者が“何が動くと方針が変わるか”を理解できるようにするのが実務上とても効きます。

特に、抗PLA2R抗体を測定する施設では、抗体価の推移と蛋白尿の推移にタイムラグがあり得る点を前提に、患者の不安(「抗体が下がったのに尿蛋白がすぐ減らない」など)に先回りして説明するだけで、不要な受診増・自己中断を減らせます。

また、ステージ1の段階でこそ「二次性MNの拾い上げ」が重要になり、抗PLA2R抗体が陽性でも悪性腫瘍、B型肝炎、自己免疫疾患など二次性の原因検索が必要とされます。

“意外に忘れられがち”なのは、患者が紹介状なしで複数科を受診している場合、過去の薬剤歴(NSAIDsなど)や感染歴が断片化していることがある点で、病理が早期でも原因が残っていると蛋白尿が引きずられる可能性があります。

参考)膜性腎症 – 03. 泌尿器疾患 – MSDマニュアル プロ…

したがって、ステージ1を「早期に原因をつぶせるタイミング」と捉え直し、問診票を作り込む(薬剤、感染、がん検診状況、自己免疫症状)ことが、結果的に治療強度を下げる方向に働くこともあります。

一次性MNの診断で抗PLA2R抗体(保険適用外の注意点)を解説している国内ガイドラインの該当部分:

https://jsn.or.jp/data/gl2023_ckd_ch17_02.pdf

膜性腎症のstage1〜4(EDD/GBM肥厚など)を病理学的に整理した解説:

膜性腎症 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター

CKDのCGA分類(GFRと蛋白尿で病期を表す考え方)を確認でき、病理ステージとの混同を避けるための参考:

腎臓の病気:慢性腎臓病(CKD)と腎不全

実験医学 2024年10月 Vol.42 No.16 神経から免疫で炎症性疾患を治す!〜Neurogenic Inflammationの制御