急速進行性糸球体腎炎ガイドライン最新治療
急速進行性糸球体腎炎の診断基準と重症度分類
急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の確定診断には、「エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2020」に定められた明確な基準があります 。確定診断の第一条件として、数週から数カ月の経過で急速に腎不全が進行することが挙げられ、具体的には3カ月以内に30%以上のeGFRの低下を目安としています 。第二条件として、血尿(多くは顕微鏡的血尿)、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認めることが必要です 。
参考)https://jsn.or.jp/academicinfo/report/evidence_RPGN_guideline2020.pdf
重症度分類については、初期・再発時は急速進行性糸球体腎炎の診断基準を満たす全例が重症として扱われます 。維持治療期では慢性腎臓病重症度分類で重症(赤)に該当するものとし、腎機能に関わらず蛋白尿0.5g/日以上のものは重症として扱われます 。年齢、血清クレアチニン値、尿蛋白量、血清CRPの生命予後を指標とした4項目をスコア化した重症度分類も提唱されており、特に6カ月以内の短期予後予測に有用です 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/235
急速進行性糸球体腎炎のANCA関連血管炎と抗GBM抗体型
急速進行性糸球体腎炎は蛍光抗体法所見により3つの主要な病型に分類されます 。最も頻度が高いのはANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎で、全体の約50-60%を占めています 。ANCA陽性急速進行性糸球体腎炎では、年齢65歳以上、血清クレアチニン値6.0mg/dl以上、尿蛋白3.5g/日以上、血清CRP高値をスコア化した重症度分類が用いられています 。
参考)https://www2.kuh.kumamoto-u.ac.jp/sannaika/jinqa14b.html
抗糸球体基底膜(GBM)抗体型は全体の約10-20%を占め、急激な病勢進行を特徴とします 。抗GBM抗体病では血漿交換(1日3-4Lの交換を14日間)が強く推奨されており、初期治療として大量の経口副腎皮質ステロイド薬療法およびステロイドパルス療法を含む免疫抑制療法が標準的に行われています 。稀なケースとして、抗GBM抗体とMPO-ANCAが共に陽性を示す症例もあり、通常の抗GBM抗体型RPGNとは異なる臨床経過を示すことが報告されています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f8b56fd0b49d93a3331ff96b006a63e55d97a02a
急速進行性糸球体腎炎における半月体形成とその病理
急速進行性糸球体腎炎の病理学的特徴は、糸球体に形成される半月体と呼ばれる構造物です 。半月体は糸球体毛細血管に激しい炎症が起こり、血管が破綻(壊死)することで血液中の成分が糸球体内に漏出し、これに反応してボーマン嚢上皮細胞が刺激され、糸球体とボーマン嚢の隙間に半月型や三日月型に増殖したものです 。
参考)https://www.twmu.ac.jp/NEP/shikyutai/kyusoku-shinkou-shikyutai.html
半月体形成性壊死性糸球体腎炎は腎炎の活動性が高いことを意味し、多くは血管炎に見られます 。半月体は糸球体の毛細血管を圧迫し、濾過機能を障害し、腎臓の働きを低下させるため、数カ月で末期腎不全に至る可能性があります 。腎生検による組織診断は急速進行性糸球体腎炎の確定診断に必須であり、半月体の形成度合いや病変の新旧の評価により治療方針の決定に重要な情報を提供します 。
参考)https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/zinzo/disease/disease02.html
急速進行性糸球体腎炎の最新治療法とガイドライン
急速進行性糸球体腎炎の治療は、初期治療(治療開始後おおむね3-6カ月以内)と維持治療(治療開始後3-6カ月以降)に分けられます 。基本的な治療は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などの点滴、内服薬を使用し、炎症が強い場合にはステロイドパルス療法(大量療法)の点滴や血漿交換療法を併用します 。
参考)https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/about/class/subacute-glomerulonephritis/
最新の治療薬として注目されているのがアバコパンです。これは補体C5a受容体阻害薬として2023年に承認された新たな免疫抑制薬で、リツキシマブまたはシクロホスファミドとの併用による初期治療において使用可能となっています 。リツキシマブ(薬品名:リツキサン)はBリンパ球を消失させる生物学的製剤として、ステロイド抵抗性症例や維持治療において効果が期待されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fmedj/73/2/73_73.2_29/_article/-char/ja/
血漿交換療法は特に抗GBM抗体型や肺出血を合併した重篤な症例で推奨され、血液成分の一部を交換することで病因となる自己抗体や炎症性サイトカインを除去します 。治療開始の遅延は予後に直結するため、急速な腎機能低下が疑われる場合は速やかな専門医への紹介と腎生検による確定診断が重要です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/5/109_886/_pdf
急速進行性糸球体腎炎の合併症と予後管理
急速進行性糸球体腎炎では様々な合併症を来たし得るため、慎重な管理が必要です 。最も重篤な合併症として肺出血があり、これは主にANCA関連血管炎や抗GBM抗体病(Goodpasture症候群)で見られ、酸素投与や人工呼吸器による管理が必要となることがあります 。過凝固状態やDIC(播種性血管内凝固症候群)に陥ることが多く、特に注意を要します 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/05-%E8%85%8E%E8%87%93%E3%81%A8%E5%B0%BF%E8%B7%AF%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%B3%B8%E7%90%83%E4%BD%93%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B3%B8%E7%90%83%E4%BD%93%E8%85%8E%E7%82%8E
治療中の合併症として最も重要なのは感染症です 。免疫抑制療法により感染リスクが高まるため、治療中から治療後まで継続的な観察が必要です。また、ステロイド大量療法による副作用として糖尿病の悪化、骨粗鬆症、消化管出血なども注意すべき合併症です 。
参考)https://www.kitasato-u.ac.jp/ktms/kaishi/pdf/KI40-1/KI40-1-33-38.pdf
予後については、早期診断・治療開始が最も重要な因子です 。治療が数日から数週間以内に開始された場合には腎機能が保持され、透析が不要となることもありますが、発見が遅れると80-90%の患者が透析に依存することになります 。近年の治療の進歩により予後の改善が見られており、特に70歳以上の高齢者においても透析導入率の低下が報告されています 。原因不明の場合と高齢の場合には予後はあまり良くないため、個々の患者の状態に応じた治療戦略の選択が重要です 。
参考)https://www.niigata-u.ac.jp/news/2024/580940/