急性胃炎の症状と診療
急性胃炎の症状と臨床経過
急性胃炎は胃粘膜に急激に炎症が起こる疾患であり、その症状は多岐にわたります。典型的には心窩部痛(上腹部の痛み)で急激に発症することが特徴です。この痛みは鈍痛や差し込むような性質を呈し、痛みに波があることが診断の手掛かりとなります。
患者が訴える主要症状には、吐き気・嘔吐、胃もたれ(食後の不快感)、腹部膨満感(お腹の張り)、げっぷ、食欲不振などが含まれます。これらの症状は胃の炎症に伴う胃の動きの低下によって生じます。特に炎症が強い場合、患者は食事を摂取してもすぐに嘔吐してしまうことがあり、脱水のリスクが高まります。
重要な臨床的特徴として、急性胃炎の症状は一般的に2~7日という短期間で現れ、多くの患者が この期間内に軽快します。しかし、ウイルス性胃炎(感染性胃腸炎に分類されることもある)では発熱や下痢、筋肉痛などの全身症状を伴うことがあり、この場合の経過はより長引く可能性があります。
■急性胃炎の主要症状リスト
・上腹部の痛みや不快感(心窩部痛):鈍痛から差し込む痛み
・吐き気・嘔吐
・胃もたれ
・腹部膨満感
・げっぷ
・食欲不振
・胸やけ(胃酸の逆流による)
出血性胃炎では、症状の経過が異なります。粘膜からの出血が生じた場合、患者は吐血(まれだが大量出血時)や黒色便(タール便)を訴えます。黒色便は胃からの出血が腸で酸化されて黒くなったものであり、この所見は診断上極めて重要です。重症の出血性胃炎では貧血やショック状態に至ることもあり、緊急の内視鏡的止血術が必要となります。
急性胃炎の原因と医療従事者が知るべき誘因
急性胃炎の原因は複数の因子が複合的に作用することで成立します。医療従事者は患者の問診時に、これらの多様な原因を体系的に把握する必要があります。
最も頻度の高い原因は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。ロキソニンやボルタレンといった一般的な痛み止めは、胃粘膜を保護するプロスタグランジンの産生を抑制し、粘膜の防御機能を低下させます。アスピリンやステロイド、特定の抗菌薬も同様のメカニズムで胃炎を引き起こすことが知られています。
化学的刺激因子としては、過度な飲酒が重要です。エタノールは直接胃粘膜を刺激し、胃酸分泌を増加させます。同時に、コーヒーやお茶に含まれるカフェイン、香辛料の多い食事も胃粘膜への刺激となります。特にニンニクの過剰摂取でも急性胃炎が生じることが報告されています。
感染症も重要な原因です。ヘリコバクター・ピロリ菌は長期間胃粘膜に感染し炎症を起こします。一方、食中毒菌(カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオなど)やウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)は急性の胃腸炎症を引き起こします。これらの感染性胃炎では、潜伏期間が異なります。黄色ブドウ球菌は30分程度、アニサキスは3~12時間、サルモネラやウェルシュ菌は6時間、ノロウイルスは24時間、カンピロバクターは2~10日と様々です。
心理社会的因子も重要です。精神的ストレスや不安は自律神経の乱れを生じ、胃粘膜の防御機能を低下させます。さらに身体的ストレス(重症のやけど、頭部外傷、手術後の状態)による「ストレス胃炎」も急性胃炎の重要な原因です。このタイプは症状が不明確なまま出血のみが生じることもあり、注意が必要です。
その他の原因として、喫煙、胆汁の逆流、過度な空腹状態での酸分泌亢進、暴飲暴食があります。また、異物の誤飲(魚の骨、ボタン電池、防虫剤など)も急性胃炎を引き起こし、特にボタン電池は数十分から数時間で食道や胃に穿孔を生じさせるため、緊急対応が必要です。
■原因別の急性胃炎分類
薬剤性:NSAIDs、アスピリン、ステロイド、抗菌薬
化学的刺激:アルコール、カフェイン、香辛料
感染性:ピロリ菌、食中毒菌、ウイルス
ストレス性:精神的ストレス、身体的ストレス
物理的刺激:異物誤飲
その他:喫煙、胆汁逆流
診断上の鑑別ポイントと内視鏡検査の所見
急性胃炎の診断は、丁寧な問診から始まります。医療従事者は症状の内容、発症の経緯、飲食内容、薬剤の使用歴、飲酒・喫煙習慣を詳細に確認する必要があります。身体診察では腹部の圧痛や筋防御の有無をチェックし、他疾患との鑑別を行います。
しかし、確実な診断には内視鏡検査(上部消化管内視鏡検査)が不可欠です。内視鏡では胃粘膜の複数の異なる所見を観察できます。表層性胃炎では、縦に伸びる赤線(線状発赤)が特徴的です。びらん性胃炎では線状びらん(白い部分)が認められ、周囲の粘膜が赤く発赤しています。線状びらんは通常複数個認められます。
また「たこいぼ胃炎」と呼ばれるなだらかな盛り上がりの中心にびらんを伴う形態も存在します。出血が認められる場合、凝血塊(ぎょうけつかい)が付着した浅い潰瘍が特に胃下部(前庭部)に多く見られるのが特徴です。
内視鏡検査は単なる診断ツールにとどまりません。医療従事者が出血源を同定した場合、その場で内視鏡的止血術を行うことが可能です。また、異物が認められた場合は内視鏡を用いた異物除去が行えます。異物除去の際、医療従事者は誤飲からの経過時間が短いほど除去が容易であり、時間経過とともに粘膜への刺入が進み摘出困難になることを認識すべきです。
鑑別診断として重要な点は、急性胃炎の症状が胃潰瘍、胃がん、胆嚢炎、急性膵炎、心筋梗塞などの他疾患と類似していることです。医療従事者は、血液検査(白血球数、CRP値による炎症指標、ヘモグロビン値による出血程度の把握)、便潜血検査、さらに必要に応じて腹部画像診断検査を組み合わせた総合的な診断が重要です。
組織検査については、疑わしい病変(特に潰瘍やびらんで腫瘍性病変との区別が困難な場合)に対して行われます。ピロリ菌感染の評価も同時に行われることがあります。
急性胃炎の治療戦略と薬物療法の実践
急性胃炎の治療の基本は、胃酸を抑制して胃粘膜を保護し、原因を除去することです。軽症例では医師の指導の下での自宅安静と薬物療法で対応できますが、重症例や合併症がある場合は入院治療が必要です。
薬物療法は複数の薬剤の組み合わせで行われます。制酸薬としては、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーが使用されます。これらは胃酸分泌を直接抑制し、胃粘膜の酸性環境を改善します。粘膜保護薬としてはレバミピド、テプレノン、スクラルファートが用いられます。これらは胃粘膜の修復機構を促進し、防御因子の増強に寄与します。
症状に応じて制吐薬(メトクロプラミドなど)が追加されます。特に嘔吐が著しい場合、脱水予防の観点からも重要です。消化管運動促進薬(モサプリド、ドンペリドンなど)も胃の排出機能を高め、症状の改善を促進します。
感染性胃炎が確認された場合、抗菌薬が投与されます。ピロリ菌感染では除菌治療を行い、食中毒菌による胃炎では適切な抗菌薬が選択されます。
医療従事者が見落としやすい点として、漢方薬の活用があります。六君子湯は胃痛、食欲不振、吐き気・嘔吐に有効です。半夏瀉心湯はげっぷ、胸焼け、消化不良を改善します。茯苓飲合半夏厚朴湯はストレスに伴う胃炎に、大建中湯は腹部膨満感に、柴苓湯は吐き気と食欲不振に、十全大補湯は食欲不振とだるさに効果があります。これらは胃粘膜の修復を促進し、自律神経バランスを調整する作用を持ちます。
出血が著しい場合や嘔吐が頻回で経口摂取ができない場合、点滴治療が行われます。電解質補正、栄養補給、制吐薬・制酸薬の点滴投与が行われ、脱水の是正が図られます。特に高齢者や免疫低下状態にある患者では、点滴療法の早期導入が推奨されます。
■治療薬の使用パターン
酸分泌抑制:PPI(オメプラゾール、ランソプラゾール)、H2ブロッカー(ファモチジン)
粘膜保護:レバミピド、テプレノン
制吐薬:メトクロプラミド
運動促進薬:モサプリド、ドンペリドン
漢方薬:六君子湯、半夏瀉心湯など
必要時:抗菌薬、点滴療法
予後と再発予防のための患者教育
急性胃炎の予後は一般的に良好です。発症早期に原因となる薬剤や食習慣を中止し、適切な胃粘膜保護薬・制酸薬を服用することで、多くの患者は数日以内に症状の改善を認めます。医療従事者は患者に対して、この一過性の経過を説明し、不安を軽減することが重要です。
しかし注意すべきケースがあります。出血性胃炎では、出血量によって貧血やショック状態に至ることがあり、これは予後に直結します。繰り返しの胃炎は胃潰瘍や慢性胃炎に進展することもあり、原因の同定と持続的な管理が必要です。NSAIDsなどの薬剤性胃炎では薬の変更や中止が重要な治療戦略です。
食中毒による急性胃炎は特異的な経過を示します。症状が改善した後も、患者の便にはウイルスや菌が排出される期間が存在します。例えば、ノロウイルスは症状が軽快した後も1週間~1ヶ月程度便に排出されます。医療従事者は患者に対して十分な手洗いの重要性を強調すべきです。これは他者への感染予防の観点から極めて重要です。
再発予防のための患者教育として、医療従事者は以下の点を説明する必要があります:過度な飲酒や刺激の強い食べ物(香辛料、揚げ物)は避けること、暴飲暴食や空腹時の過剰なカフェイン摂取を控えること、バランスの取れた規則正しい食事を心がけることが重要です。
NSAIDsやアスピリンなどを長期服用している患者については、医師に相談した上で胃薬の併用を検討すべきです。自己判断での薬の乱用を避け、処方された薬の用量・用法を厳守することが重要です。
ストレス管理も再発予防の重要な要素です。過労や睡眠不足を避け、適度な運動や休養を取り入れ、趣味やリラクゼーション法を活用してストレスを軽減することが、胃炎の再発予防につながります。
■再発予防の重要ポイント
患者教育:原因の同定と除去
生活習慣:規則正しい食事、適度な運動、十分な睡眠
薬剤管理:医師との連携、胃薬の併用検討
感染対策:食中毒後の手洗い徹底
ストレス対策:自律神経バランスの維持
参考資源:日本消化器病学会による診療ガイドライン、内視鏡検査の適応と手技に関する文献
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