楔状束と薄束の後索と内側毛帯と薄束核

楔状束と薄束

楔状束と薄束:臨床で迷わない要点
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まずは「後索」内の区画

薄束は後索の内側、楔状束は外側。下肢・体幹は薄束、上肢は楔状束という体部位局在を起点に整理します。

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症候は「振動覚・位置覚」から崩れる

後索−内側毛帯系が担う感覚(識別性触圧覚、振動覚、意識にのぼる深部感覚)に注目すると鑑別が速くなります。

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MRIは「後索優位」を拾う

亜急性連合性脊髄変性症などでは後索に特徴的所見が出ます。臨床像と画像の一致・不一致を丁寧に読むのがポイントです。

楔状束と薄束の後索の位置と体部位局在

医療従事者が「楔状束 薄束」で最初につまずくのは、名前の暗記ではなく“脊髄後索のどこに、どの領域の情報が走っているか”の対応づけです。後索のうち、胸髄以下から入る線維(主に下肢・体幹)は正中側に集まり薄束を形成し、頸髄から入る線維(主に上肢)は外側に集まり楔状束を形成します。

ここで重要なのは「薄束=下半身、楔状束=上半身」という単純対応だけでなく、“同じ後索でも高さによって見え方が変わる”点です。薄束は脊髄全長に存在しますが、楔状束は上肢入力が加わる頸髄〜上位胸髄で明瞭になります(臨床的には頸髄病変で上肢深部感覚が崩れやすい理由の下地になります)。

また、後索内の線維配列は層状で、正中側により尾側(仙髄・腰髄)由来が寄り、外側により吻側(胸髄・頸髄)由来が並ぶ、という“ソマトトピー”を意識すると、限局病変で症状が部分的に出る理由が説明しやすくなります。

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/073121/200729010A/200729010A0003.pdf

このソマトトピーは診察の解像度を上げます。たとえば「下肢の振動覚が先に悪い」なら薄束優位、「手指の位置覚が目立つ」なら楔状束優位を疑い、障害高位の仮説を立てられます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkpt/5/0/5_0_11/_pdf

楔状束と薄束の後索と内側毛帯の経路

楔状束と薄束は、脊髄内では同側(同じ側)を上行し、延髄の後索核(薄束核・楔状束核)でニューロンを変えます。

その後、線維は交叉して内側毛帯を形成し、視床の後外側腹側核(VPL)を経て体性感覚野へ投射します。

「どこで交叉するか」を丁寧に押さえると、病変側と症状側の対応が一気に整理されます。後索(薄束・楔状束)〜後索核までは同側性で、毛帯交叉以降(内側毛帯)では対側性が前面に出ます。

そのため、脊髄レベルの後索病変では同側の深部感覚障害が基本となり、延髄より上(内側毛帯以降)では対側の識別性触圧覚・振動覚・位置覚障害が組み合わさりやすくなります。

ここで“よくある混線”として、後索−内側毛帯系と脊髄視床路(温痛覚)の交叉位置の違いがあります。温痛覚は脊髄に入って早期に交叉しますが、後索系は延髄で交叉するため、半側脊髄障害では「深部感覚は同側、温痛覚は対側」という分離が起き得ます。

楔状束と薄束の振動覚と位置覚と識別性触圧覚

薄束・楔状束を含む後索−内側毛帯系が主に扱うのは、識別性触圧覚、振動覚、意識にのぼる深部感覚(位置覚など)です。

この領域は“動作の精度”と直結します。理学療法・作業療法の観点でも、感覚評価は姿勢・動作分析で予測した問題点の裏づけとして重要で、単なる「感じる/感じない」ではなく、どの処理段階が崩れているかを考える必要がある、という整理が示されています。

診察では、次のように「後索っぽさ」を拾うと現場で速いです。

  • 🎵音叉での振動覚:左右差・遠位優位・レベル差を確認する(後索系の入り口として使いやすい)。​
  • 🧭関節位置覚:指趾の小さな上下運動を閉眼で当てられるか(誤答が増えるほど深部感覚障害を疑う)。

    参考)感覚の評価 – 07. 神経疾患 – MSDマニュアル プロ…

  • ✋識別性触圧覚:二点識別、皮膚書字など“複合感覚”は、後索入力が保たれている前提で皮質処理が要るため、末梢〜後索〜皮質のどこが弱いかの仮説に役立つ。​

後索障害はしばしば「力はあるのに、姿勢制御が崩れる」という形で出ます。閉眼で悪化するふらつき(ロンベルグ徴候など)を、視覚代償が外れたときに深部感覚の不足が露呈する現象として捉えると、患者説明も通りやすくなります(ただしロンベルグは“後索だけ”の専売特許ではない点は臨床では留意します)。

楔状束と薄束の病変とMRI

後索(薄束・楔状束)が臨床で話題になりやすい代表例が、ビタミンB12欠乏に関連する亜急性連合性脊髄変性症(SCD)です。脊髄MRIでは後索のT2高信号や「逆V字型」など、後索優位の所見が説明されています。

一方で、画像が陰性でも疾患を完全に否定できない、という注意点も明記されています。

また「後索病変=薄束から広がる」という教科書的イメージに対して、楔状束に限局したMRI異常所見を呈し得る例が報告されています。たとえば臨床神経の症例報告では、上肢に限局した感覚性運動失調と、頸髄MRIで楔状束に限局した病変が示され、病態として後根神経節炎(Sjögren症候群に関連)が考察されています。

参考)https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052070491.pdf

この“楔状束だけが目立つ”パターンは、上肢深部感覚が前景に出る理由を説明しやすく、鑑別(末梢神経障害、頸椎症性脊髄症、炎症性病変など)の発想を狭めないための補助線になります。

実務的には、画像を読む前に「どの感覚が、どの肢位で、視覚を外すとどう変わるか」を揃えると、撮像の価値が上がります。後索系は“症状の言語化が難しい”ことも多いので、振動覚・位置覚・複合感覚をセットで記録し、時間経過(改善・悪化)まで追うと、MRI所見との一致・不一致が臨床判断の材料になります。

参考)亜急性脊髄連合変性症 – 脳・神経疾患

楔状束と薄束の独自視点:後索核と副楔状束核と小脳

検索上位では「後索−内側毛帯」の王道説明が中心になりがちですが、臨床の“意外な落とし穴”として、楔状束には小脳へ向かう迂回路がある点が挙げられます。延髄レベルで、楔状束を上行する線維の一部は副楔状束核に終わり、下小脳脚を介して同側小脳へ投射する(副楔状束核小脳路)という記載があります。

これは“上肢の無意識の深部感覚(小脳入力)”の背景として理解でき、後索障害の患者で「うまく説明できない手のぎこちなさ」や「視覚代償があると一見できてしまう動作」の評価で視点を増やします。

さらに、後索入力は運動の記憶・学習とも密接で、感覚情報が一次・二次・三次の連合領域で統合され、運動出力や運動学習に影響する、という整理が機能解剖の観点から述べられています。

つまり、楔状束・薄束の障害は「感覚が鈍い」では終わらず、「学習のし直しが必要な運動の質の低下」として現れることがあるため、リハ介入では“課題の難易度(視覚依存を徐々に外す等)”を設計する発想が自然につながります。

権威性のある日本語の参考リンク(後索の基本経路:薄束・楔状束・薄束核・楔状束核・VPLまでの流れ)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkpt/5/0/5_0_11/_pdf

権威性のある日本語の参考リンク(楔状束に限局した後索病変の症例:臨床像とMRIの対応の理解)

https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052070491.pdf