甲状腺疾患の症状と早期発見のポイント

甲状腺疾患の症状

甲状腺疾患を見逃さない3つのサイン
🔥

甲状腺機能亢進症の特徴

動悸、発汗過多、体重減少、手指の震えなど代謝亢進に伴う症状が出現します

❄️

甲状腺機能低下症の特徴

倦怠感、寒がり、体重増加、便秘、むくみなど代謝低下による症状が見られます

👁️

甲状腺腫大と結節

頸部の腫れ、のどの違和感、嗄声などの局所症状から発見されることがあります

甲状腺機能亢進症の症状

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態で、代表的な疾患がバセドウ病なんです。この病気では新陳代謝が過剰に活発になり、心血管系では動悸や息切れ、頻脈が出現し、安静時でも心拍数が100回以上、重症例では130回以上に達することがあります。

参考)甲状腺の病気について|内分泌・代謝内科|独立行政法人国立病院…


全身症状としては、食欲が旺盛なのに体重が減少するという特徴的な症状が見られるんですよね。また暑がりで発汗過多になり、手指が小刻みに震える振戦も頻繁に観察されます。精神症状では、イライラしやすくなったり、落ち着きがなくなったり、不眠に悩まされることが多いです。

参考)甲状腺疾患|鹿児島市のきやまクリニック|バセドウ病、橋本病


バセドウ病特有の症状として、眼球突出や眼球が飛び出して見える甲状腺眼症があり、重症の場合は複視や視力障害を引き起こすこともあります。消化器症状としては、軟便や下痢、排便回数の増加が認められます。

参考)甲状腺機能低下症と亢進症の違い – 見逃せない初期症状と効果…


日本における疫学データでは、バセドウ病の男女比は1:4.6で、特に20〜30代の若年女性に多く発症するという特徴があるんです。

参考)甲状腺疾患と性差—甲状腺疾患は女性に多い (medicina…

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンが不足することで全身の代謝が低下し、多彩な症状が出現します。最も頻度の高い原因疾患は橋本病で、男女比は1:16.6から1:20〜30と圧倒的に女性に多く、30〜50代が60%以上を占めています。

参考)甲状腺の病気


代表的な症状として、原因不明の疲労感や全身倦怠感があり、十分に睡眠をとっても疲れが取れない状態が続きます。体温調節機能の異常により寒がりになり、特に手足が冷えやすくなるんですよね。体重については、食事量が変わっていないのに体重が増加し、便秘がちになることが特徴的です。

参考)甲状腺の腫れ、検査、病気のセルフチェックについて


皮膚症状では、保湿しても改善しにくい乾燥肌やカサカサ肌に悩まされることが多いです。顔面や手足のむくみ、特に朝の起床時に顕著なむくみが見られることがあります。​
精神神経症状としては、記憶力の低下、集中力が続かない、物忘れが増える、日中の眠気、動作が遅くなるといった症状が認められます。声の変化も特徴的で、嗄声や声が低くなることがあるんです。​
潜在性甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン(FT4)は正常範囲内であるものの、TSHが基準値よりやや高い状態を指し、一般人口で4〜15%に認められ、女性や高齢者で頻度が高くなります。

参考)https://oogaki.or.jp/endocrine/thyroid/subclinical-hypothyroidism/

甲状腺疾患に共通する症状

甲状腺機能の亢進と低下、どちらにも共通して現れる症状があることは、医療従事者として重要な知識なんです。全身倦怠感や「だるさ」を感じる症状は、機能亢進でも低下でも出現し、疲れやすさも共通しています。​
髪の毛が抜けるという症状も、亢進症でも低下症でも認められる特徴的な所見です。むくみについては、機能低下症では顔面や全身に見られ、機能亢進症でも足のむくみが出現することがあります。​
甲状腺の腫れは、多くの甲状腺疾患で観察される身体所見で、視診や触診で確認できる重要なサインなんですよね。筋力低下や筋肉の疲れも共通症状として知られており、特に機能亢進症では大腿四頭筋などに顕著です。

参考)甲状腺中毒症・甲状腺機能亢進症|病気症状ナビbyクラウドドク…


これらの症状は更年期障害や他の内科疾患とも類似しているため、原因が分からずに複数の診療科を受診している患者さんも少なくありません。

参考)甲状腺疾患

甲状腺結節と腫瘍の症状

甲状腺結節は甲状腺内部の良性または悪性の腫瘍で、中高年では触診により約5%で結節が判明するとされています。結節性甲状腺腫の特徴は、甲状腺機能にほとんど異常がないため自覚症状がなく、知らない間に徐々に大きくなり、のどの一部が腫れて初めて気づくことが多いんです。

参考)結節性甲状腺腫について(原因と症状)|金地病院


甲状腺結節の95%は良性であり、残りの5%が甲状腺癌とされています。良性腫瘍には濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、嚢胞があり、悪性腫瘍には乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫が含まれます。

参考)甲状腺腫瘍(良性・悪性)|一般の皆様へ|日本内分泌学会


触診は甲状腺腫の最も基本的な診断法で、通常Plummerの触診法が用いられます。この方法では、頸部を軽く伸展した患者と向き合い、甲状腺全体が腫大しているのか、限局した病変があるのか、その大きさ、硬さ、表面の性質、周囲との癒着状況、圧痛の有無などを評価するんです。

参考)https://hospital.city.sendai.jp/pdf/p005-014%201-2.pdf


正常の甲状腺組織は軟らかく体の表面からは触れることができませんが、癌や良性腫瘍ができるとしこりとして触れることがあります。結節が大きくなると、のどの違和感、嚥下困難、嗄声などの圧迫症状が出現することもあります。​

甲状腺クリーゼの緊急症状

甲状腺クリーゼは生命の危険がある甲状腺中毒状態で、致死率10%以上の緊急疾患なんです。バセドウ病などの甲状腺中毒症が未治療または治療不十分な状態で、感染症、手術、外傷などの強いストレスが加わると発症します。

参考)甲状腺クリーゼの症状や診断法|蒲田駅前やまだ内科甲状腺クリ


多臓器不全における非対称性状態の特徴として、38℃以上の高熱、1分間に130回以上の頻脈(通常の甲状腺中毒症では100回以上)、意識障害が三大症状として知られています。中枢神経症状では、精神異常、傾眠、不穏、せん妄、痙攣、昏睡が認められるんです。

参考)甲状腺クリーゼ


心不全症状として、肺水腫、肺野の半分以上の湿性ラ音、心原性ショックが出現することがあります。消化器症状では、吐き気・嘔吐、黄疸、下痢が特徴的で、血清ビリルビン濃度が3mg/dL以上に上昇することもあります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3387770/


日本全国調査に基づく診断基準(FINAL-CRITERIA)が策定されており、迅速な診断と治療が不可欠です。感染が最も多い誘因とされており、放置すれば死に至るため、医療従事者は早期発見と即座の治療介入が求められます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5770119/


甲状腺疾患診断ガイドライン2024(日本甲状腺学会)では、最新の診断基準と治療指針が公開されており、バセドウ病、甲状腺機能低下症、無痛性甲状腺炎、慢性甲状腺炎などの各疾患についての詳細な情報が掲載されています。

参考)甲状腺疾患診断ガイドライン2024|日本甲状腺学会

甲状腺疾患の検査と診断

甲状腺疾患の診断には、血液検査と画像検査が中心となります。血液検査では、甲状腺ホルモン(T3、FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定が基本で、これらの組み合わせにより甲状腺機能の状態を評価するんです。

参考)その症状、もしかして…甲状腺の病気かも?|知って安心!健康ラ…


最も安定していて信用のおける検査はTSHで、免疫反応を用いて測定するため精度管理が重要です。バセドウ病ではTSHが抑制され、FT4とFT3が上昇しており、TRAb(TSH受容体抗体)やTSAb(甲状腺刺激抗体)が陽性となります。橋本病などの原発性甲状腺機能低下症では、TSHが上昇し、FT4が低下または正常範囲であり、TgAb(サイログロブリン抗体)やTPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性となることが多いんですよね。

参考)甲状腺ホルモン検査(TSH、FT3、FT4)結果の見方|お茶…


甲状腺超音波検査は、結節性病変の有無、良性悪性の鑑別、甲状腺外への浸潤の有無、リンパ節の腫大や転移の診断に非常に有用です。超音波検査で悪性が疑われる所見としては、低エコー、不整な境界、縦径が横径より大きい、砂粒状微小石灰化などが挙げられます。

参考)甲状腺の検査 – なぜ?なに?甲状腺


穿刺吸引細胞診は、甲状腺癌の8〜9割(特に甲状腺乳頭癌)で診断が可能な検査法です。超音波ガイド下で行うことで、1cm以下の小さな結節でも調べられるようになりました。​
甲状腺の臨床検査(メディエンス)では、甲状腺ホルモン濃度の測定方法や検査の意義について詳しく解説されており、T3とFT4の2種類の甲状腺ホルモン検査についての情報が提供されています。​

検査項目 バセドウ病 橋本病 潜在性機能低下症
TSH
FT4 ↓〜→
FT3 ↓〜→
TRAb 陽性 陰性 陰性
TgAb/TPOAb 陰性 陽性 陽性

医療従事者が知るべき多職種連携の重要性

甲状腺疾患の診療では、内分泌専門医を中心とした多職種連携によるトータルケアが不可欠なんです。内分泌専門医は甲状腺機能の管理を担当し、精神科医は心理面のケアを行い、両者が定期的にカンファレンスを開くことで、身体症状と精神症状の相互作用を考慮した最適な治療計画が立てられます。

参考)バセドウ病とメンタルヘルスがメンタルヘルスに与える影響とは?…


看護師は日々の体調管理や服薬指導を行い、心理士はカウンセリングを通じてストレス管理技法の指導を担当します。看護師による定期的な面談を受けた患者の多くは不安の軽減を実感できるというデータもあるんですよね。​
甲状腺専門医への紹介が必要な病態として、ネガティブフィードバックに合致しない検査値異常、難治例、副作用出現例、妊娠時のケア、バセドウ病眼症などが挙げられます。緊急性のある病態には、甲状腺クリーゼ、粘液水腫性昏睡、気道閉塞による窒息の恐れがある状態、抗甲状腺薬による無顆粒球症、心不全などがあります。

参考)外来で見逃さない甲状腺疾患


他科の専門医との連携も重要で、甲状腺外科や頭頸部外科(耳鼻科)は手術が必要な症例、眼科はバセドウ病眼症の評価と治療、放射線科は画像診断や放射性ヨウ素治療において協力します。

参考)やさしく解説 甲状腺疾患の診断と治療 改訂第2版【電子版】


甲状腺機能低下症の治療では、レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS®)という薬を内服し、甲状腺ホルモンの値を調べながら薬の量を調整するんです。甲状腺機能亢進症には、主に抗甲状腺薬(メチマゾール、プロピルチオウラシル)が用いられ、薬物療法、手術療法、放射性ヨウ素治療の3つの治療法があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10873132/


治療中のモニタリングとして、抗甲状腺薬使用中は白血球数や肝機能の定期的なチェックが必要で、副作用として無顆粒球症や肝障害に注意が必要です。レボチロキシン製剤には併用注意薬があり、鉄剤カルシウム製剤などは吸収を阻害するため、服用時間をずらす必要があるんですよね。​
甲状腺疾患診療の基礎知識(日本医事新報社)では、日本甲状腺学会の診断基準に基づいた甲状腺機能低下症の症状として、無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声などが挙げられており、医療従事者が押さえるべき基本的な知識が提供されています。

参考)1.甲状腺疾患診療の基礎知識

甲状腺疾患の疫学と性差

甲状腺疾患は女性に圧倒的に多く、甲状腺中毒症および甲状腺機能低下症の発症率の男女比は約1:10とされています。甲状腺ホルモンの分泌調節を担うTSH値の中央値は年齢とともに上昇し、20代と30代が最も低く、80代が最も高く、女性は男性よりもTSH値が高い傾向があるんです。​
甲状腺癌の罹患率は女性のほうが男性の3〜4倍高いものの、一般的に男性のほうがより進行性であることが多いという特徴があります。甲状腺疾患は女性の罹患率が高く、女性ホルモンの影響や、妊娠や閉経といったライフステージの変化による影響を強く考慮する必要があるんですよね。​
日本における甲状腺疾患の比率は、橋本病が40%、バセドウ病が30%、甲状腺腫瘍が25%、その他疾患は稀とされており、この上位3疾患が臨床的に重要です。

参考)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/201706074422.pdf


世界的には、顕性甲状腺機能亢進症は人口の約0.2〜1.4%、潜在性甲状腺機能亢進症は約0.7〜1.4%に影響を及ぼしており、未治療の甲状腺機能亢進症は心房細動、心不全、骨粗鬆症、妊娠合併症を引き起こす可能性があります。​
甲状腺機能亢進症に伴う周期性四肢麻痺はアジア人の男性に多いという特徴的な所見もあり、民族差や性差を考慮した診療が求められるんです。日本で実施された全国調査に基づく診断基準や治療指針は、日本人の甲状腺疾患の特性を反映したものとして国際的にも注目されています。​