抗片頭痛薬の種類と使い分け
トリプタンは月10日以上使うと薬物乱用頭痛のリスクが高まります
抗片頭痛薬の治療は、近年大きな進化を遂げています。従来のトリプタン製剤に加えて、血管収縮作用を持たない新しい作用機序の薬剤が次々と登場し、治療選択肢は飛躍的に広がりました。医療従事者として、患者の背景や病態に応じて最適な薬剤を選択することが、片頭痛治療の成否を左右します。
片頭痛は日本国内で約840万人が罹患しているとされ、そのうち多くの患者が日常生活に支障をきたしています。しかし、適切な治療を受けている患者の割合は依然として低く、市販薬に頼りすぎた結果、薬物乱用頭痛に陥るケースも少なくありません。この記事では、医療従事者が押さえておくべき抗片頭痛薬の種類、使い分けの原則、そして意外と知られていない注意点について詳しく解説します。
抗片頭痛薬の基本分類と作用機序
抗片頭痛薬は大きく4つの系統に分類されます。それぞれの作用機序を理解することが、適切な薬剤選択の第一歩です。
第一に、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)とアセトアミノフェンがあります。これらは軽度から中等度の片頭痛発作に使用され、プロスタグランジンの生成を抑制することで鎮痛効果を発揮します。ロキソプロフェンやイブプロフェンは臨床現場でも頻繁に処方されており、発作の早期段階で十分量を使用することが重要です。ただし、月に15日以上の使用を3ヶ月以上継続すると薬物乱用頭痛のリスクが高まるため、使用頻度の管理が不可欠となります。
第二に、トリプタン製剤は片頭痛治療の中心的存在です。セロトニン5-HT1B/1D受容体に作用し、拡張した脳血管を収縮させるとともに、三叉神経からの痛み物質の放出を抑制します。日本ではスマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンの5種類が使用可能です。トリプタンの最大の特徴は片頭痛に対する高い有効性ですが、血管収縮作用があるため心筋梗塞や脳梗塞の既往がある患者には原則禁忌となります。
第三に、ジタン系薬剤であるラスミジタン(レイボー)は、セロトニン5-HT1F受容体に選択的に作用します。5-HT1F受容体は主に神経組織に分布しており、血管には存在しないため、血管収縮作用を持ちません。つまり心血管疾患の既往がある患者にも使用できます。ただし眠気やめまいが出やすく、服用後は運転を避ける必要があります。
第四に、ゲパント系薬剤であるリメゲパント(ナルティーク)は、CGRP受容体拮抗薬です。CGRPは片頭痛の病態に深く関与する神経ペプチドで、血管拡張や神経原性炎症を引き起こします。リメゲパントはこのCGRP受容体をブロックすることで片頭痛を抑制します。最大の特徴は、急性期治療と予防療法の両方に使える点です。急性期には発作時に1回75mg、予防には隔日で75mgを投与します。血管収縮作用がないため、トリプタン禁忌の患者にも選択肢となります。
日本頭痛学会による薬剤の使用過多による頭痛の詳細解説はこちら
抗片頭痛薬のトリプタン製剤における使い分けと特徴
トリプタン製剤は5種類あり、それぞれ薬物動態や剤形が異なります。患者の症状パターンや生活背景に応じた選択が重要です。
スマトリプタン(イミグラン)は、日本で唯一点鼻薬と自己注射製剤が使用できるトリプタンです。点鼻薬は吐き気が強く経口薬を飲めない患者や、朝起きた時点で既に痛みがピークに達している患者に有用です。経口薬と異なり胃からの吸収に依存しないため、胃排出遅延の影響を受けにくいのが利点です。自己注射は効果発現が最も早く、約10分で効果が現れますが、その分トリプタンセンセーション(胸部圧迫感など)が出やすい傾向があります。
リザトリプタン(マクサルト)は、経口トリプタンの中で比較的効果発現が早い薬剤です。最高血中濃度到達時間は約1.5時間で、速やかな鎮痛効果を期待できます。OD錠も使用可能で、水なしで服用できるため外出先でも便利です。ただし重要な注意点として、プロプラノロール(インデラル)との併用が禁忌です。プロプラノロールは片頭痛の予防薬としても使用されるβ遮断薬で、併用するとリザトリプタンの血中濃度が著しく上昇するため、片頭痛予防でβ遮断薬を使用している患者には別のトリプタンを選択する必要があります。
エレトリプタン(レルパックス)は、半減期が比較的長く、頭痛のぶり返し(再燃)が少ないことで知られています。片頭痛発作が1日中続く患者や、夜間に再度痛みが出る患者に適しています。ただしCYP3A4で代謝されるため、相互作用に注意が必要です。グレープフルーツジュースやマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)はCYP3A4を阻害し、エレトリプタンの血中濃度を上昇させる可能性があるため、患者への指導が重要です。
ナラトリプタン(アマージ)は半減期が約5時間と長く、効果の立ち上がりは穏やかですが持続時間が長いのが特徴です。月経関連片頭痛など、発作が数日続くタイプの患者に選ばれやすい薬剤です。他のトリプタンと比較してトリプタンセンセーションの頻度が低いとされており、胸部圧迫感が出やすい患者への代替薬としても検討できます。追加投与は4時間以上間隔を空ける必要があります。
ゾルミトリプタン(ゾーミッグ)はOD錠が使いやすい薬剤ですが、味が苦手という患者もいます。効果発現と持続のバランスが取れており、中等度の片頭痛に広く使用されています。
トリプタン製剤全体に共通する注意点として、月10日以上の使用を3ヶ月以上継続すると薬物乱用頭痛を引き起こすリスクが高まります。これは20倍にも上るとされており、頻回使用が必要な患者には予防療法の導入を積極的に検討すべきです。
抗片頭痛薬の新規薬剤と血管収縮を起こさない選択肢
従来のトリプタンが使用できない患者に対して、血管収縮作用を持たない新規薬剤が重要な役割を果たします。
ラスミジタン(レイボー)は、2021年に日本で承認されたジタン系薬剤です。セロトニン5-HT1F受容体に選択的に作用し、血管には作用しないため、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞の既往がある患者にも使用可能です。これはトリプタンが使えない患者にとって画期的な選択肢となります。
臨床試験では、中等度から重度の片頭痛発作に対して、発作後4時間以内の服用で有効性が示されています。効果発現は比較的早く、2時間後の疼痛消失率も良好です。
しかし最大の注意点は、眠気とめまいです。
臨床試験では眠気が約15〜17%、めまいが約9〜14%の患者で報告されており、服用後は自動車運転や危険を伴う機械操作を避ける必要があります。服用後8時間以上経過すれば運転能力への影響は認められないとされていますが、少なくとも服用当日は運転を控えるよう指導することが重要です。
リメゲパント(ナルティーク)は、2025年に日本で承認されたCGRP受容体拮抗薬です。最大の特徴は、急性期治療と予防療法の両方に使用できる点です。急性期治療としては片頭痛発作時に75mgを1回服用し、予防療法としては症状の有無にかかわらず隔日で75mgを服用します。ただし1日の投与量は75mgを超えないことが重要です。
リメゲパントは血管収縮作用がなく、心血管リスクのある患者にも使用しやすい薬剤です。半減期は約11時間と長く、臨床試験では服用後2時間で効果が現れ、48時間後まで痛みが再発しない割合が高かったと報告されています。
つまり再燃が少ないということですね。
ただし相互作用には注意が必要です。CYP3A4の強力な阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)や誘導薬(リファンピシンなど)との併用は推奨されません。またP糖蛋白質の基質でもあるため、ベラパミルやジルチアゼムなどのカルシウム拮抗薬との併用時にも注意が必要です。
これらの新規薬剤により、従来トリプタンが使えなかった患者にも有効な治療選択肢が広がりました。患者の既往歴や生活スタイルを考慮した薬剤選択が可能になっています。
抗片頭痛薬における薬物乱用頭痛のリスクと予防戦略
薬物乱用頭痛(MOH:Medication Overuse Headache)は、片頭痛治療において最も避けるべき合併症の一つです。適切な使用頻度の管理が患者の予後を左右します。
薬物乱用頭痛とは、頭痛薬を慢性的に過剰使用した結果、かえって頭痛が悪化・慢性化する状態です。国際頭痛分類では、3ヶ月以上にわたり月に15日以上頭痛があり、急性期治療薬を定期的に過剰使用している場合に診断されます。具体的には、NSAIDsやアセトアミノフェンは月15日以上、トリプタンやエルゴタミンは月10日以上の使用が続くとリスクが高まります。
興味深いことに、薬物乱用頭痛は片頭痛や緊張型頭痛の患者に起こりやすく、群発頭痛の患者では稀です。また関節リウマチなどで大量の鎮痛薬を長期使用している患者でも薬物乱用頭痛は起こりにくいとされています。これは片頭痛特有の病態が関与していることを示唆しています。
医療従事者として重要なのは、患者の頭痛日誌や薬剤使用頻度を定期的にチェックすることです。月に10回以上トリプタンを使用している場合は、急性期治療薬を追加するのではなく、予防療法の導入を検討すべきです。予防療法には、従来のカルシウム拮抗薬(ミグシス)、β遮断薬(プロプラノロール)、抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマート)に加えて、CGRP関連抗体薬(エムガルティ、アイモビーグ、アジョビ)という選択肢があります。
CGRP関連抗体薬は月1回または3ヶ月に1回の注射で、片頭痛発作の頻度を約50〜60%減少させることが報告されています。臨床試験では、片頭痛発作が半分以下になった患者が60%以上、完全に発作がなくなった患者が約20%という高い効果が示されています。保険適用の条件は、月に4日以上の片頭痛発作があり、従来の予防薬で効果不十分または副作用で継続困難な場合です。自己負担額は3割負担で約1万円前後となります。
薬物乱用頭痛に陥った場合の治療は、原因薬剤の中止が第一です。中止後2〜10日間は反跳性頭痛(withdrawal headache)が出現しますが、トリプタン乱用の場合は比較的早期に消退する傾向があります。この期間を乗り越えるために、予防薬の併用や、場合によっては短期間の入院管理が必要となることもあります。
患者教育として、「頭痛が起きたらすぐ薬を飲む」という習慣が必ずしも正しくないこと、月の使用日数を記録することの重要性を伝えることが大切です。
抗片頭痛薬の処方における併用禁忌と相互作用の実践知識
抗片頭痛薬の処方において、併用禁忌や相互作用の知識は患者安全の要です。見落としがちな組み合わせを押さえておくことが重要です。
トリプタン製剤で最も注意すべき併用禁忌は、リザトリプタンとプロプラノロールの組み合わせです。プロプラノロールは肝臓の初回通過効果を増強し、リザトリプタンの血中濃度を約70%上昇させます。これは副作用リスクの著しい増加につながるため、絶対的禁忌とされています。片頭痛予防でプロプラノロールを使用している患者には、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンのいずれかを選択する必要があります。
エレトリプタンとナルティークは、CYP3A4で代謝されるため、この酵素の阻害薬との相互作用に注意が必要です。マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、エリスロマイシン)、アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、ケトコナゾール)、HIVプロテアーゼ阻害薬などは強力なCYP3A4阻害薬であり、これらとの併用は推奨されません。また食品ではグレープフルーツジュースがCYP3A4を阻害するため、服用前後の摂取は避けるよう指導すべきです。
ナルティークはP糖蛋白質の基質でもあるため、P糖蛋白質阻害薬との相互作用にも注意が必要です。ベラパミル、ジルチアゼムなどのカルシウム拮抗薬、アミオダロンなどの抗不整脈薬、クラリスロマイシンなどがこれに該当します。これらの薬剤を併用している患者では、ナルティークの血中濃度が上昇する可能性があるため、慎重な経過観察が必要です。
レイボーは運転への影響が最大の注意点です。服用後は自覚症状がなくても客観的に運転能力が低下することが示されており、添付文書では服用後の運転を避けることが明記されています。営業職やトラック運転手など、運転が業務の中心である患者には使用しにくい薬剤です。
トリプタン製剤全般に共通する禁忌として、心血管疾患があります。心筋梗塞の既往、虚血性心疾患、異型狭心症、脳血管障害(脳梗塞、一過性脳虚血発作)、コントロール不良の高血圧、末梢血管障害を有する患者には原則使用できません。初回処方時には必ず既往歴を確認し、必要に応じて心電図やMRI検査で器質的疾患を除外することが重要です。
また、トリプタンとSSRI/SNRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬/セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の併用では、セロトニン症候群のリスクがあります。錯乱、発汗、振戦、高体温などが出現した場合は、直ちに使用を中止し対処する必要があります。
相互作用の確認は電子カルテの相互作用チェック機能だけに頼らず、患者が服用している全ての薬剤(OTC薬やサプリメントを含む)を聴取し、薬剤師と連携して確認することが安全な処方につながります。
