呼吸器感染症の分類と一覧
呼吸器感染症は、感染部位により上気道感染症と下気道感染症に大別されます 。上気道感染症は鼻腔から喉頭までの部位に病原体が感染することで発症し、主にウイルスや細菌による感冒症候群、急性咽頭炎、扁桃炎などが含まれます 。一方、下気道感染症は気管から細気管支、肺胞までの部位の感染で、より重篤な症状を呈することが多く、気管支炎や肺炎が代表的です 。
参考)呼吸器感染症とは?
呼吸器感染症の原因は、ウイルス、細菌、真菌、非結核性抗酸菌など多様な病原体によるものです 。感染経路は主に飛沫感染や接触感染で、感染者の咳やくしゃみによって放出されるウイルスや細菌が他者の鼻や口から侵入することで感染が成立します 。医療従事者として、これらの基本的な分類と感染経路を理解することは、適切な感染対策と治療方針決定の基盤となります。
参考)https://rcc.nms.ac.jp/visit/maincare/disease06/
呼吸器感染症の上気道感染症の種類と症状
上気道感染症は日常診療で最も頻繁に遭遇する感染症群です 。感冒症候群(いわゆる風邪)が最も多く、ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなどのウイルス感染により発症します 。主要症状は鼻水、くしゃみ、鼻づまり、喉の痛みで、通常1週間程度で自然治癒しますが、免疫機能が低下している場合は重症化する可能性があります 。
参考)上気道感染症
急性咽頭炎は細菌やウイルスが咽頭の粘膜やリンパ組織に急性炎症を引き起こす疾患です 。A群β溶血性レンサ球菌(GABHS)による咽頭炎は特に重要で、適切な抗菌薬治療が必要な細菌感染症です 。扁桃炎は扁桃が細菌やウイルスによって炎症を起こした状態で、高熱、咽頭痛、嚥下困難などの症状を呈します 。
参考)レンサ球菌感染症 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュア…
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)も上気道感染症の重要な病態の一つです 。鼻づまり、膿性鼻漏が持続し、適切な抗菌薬治療や外科的治療が必要となる場合があります。上気道感染症は一般的に軽症とされますが、基礎疾患がある患者では下気道へ感染が波及するリスクがあるため、慎重な経過観察が重要です。
呼吸器感染症の下気道感染症の分類と特徴
下気道感染症は上気道感染症より重篤な経過をたどることが多く、入院治療が必要となる場合も少なくありません 。気管支炎は気管と気管支に細菌やウイルスが感染して炎症を起こす疾患で、急性気管支炎と慢性気管支炎に分類されます 。急性気管支炎はウイルス感染が主因で、咳嗽、痰の産生が主症状となります 。
肺炎は肺胞レベルでの感染症で、病原体により細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、非定型肺炎に分類されます 。肺炎球菌やインフルエンザ菌が代表的な細菌性肺炎の原因菌です 。ウイルス性肺炎はインフルエンザウイルス、RSウイルス、コロナウイルス(SARS-CoV-2を含む)などが原因となります 。
参考)ウイルス性呼吸器感染症の概要 – 13. 感染性疾患 – M…
急性細気管支炎は一般的に24カ月未満の小児にみられる急性ウイルス感染症で、RSウイルスが最も多い原因ウイルスです 。呼吸困難、喘鳴、発熱が主症状で、重症例では酸素投与や人工呼吸管理が必要となることもあります 。下気道感染症では、原因病原体の同定と適切な抗菌薬選択が治療成功の鍵となります。
呼吸器感染症における細菌性感染症の病原体と治療
細菌性呼吸器感染症の主要病原体には、肺炎球菌、A群β溶血性レンサ球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などがあります 。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は莢膜を有するα溶血性グラム陽性双球菌で、中耳炎、肺炎、敗血症、髄膜炎の主要原因菌です 。オプトヒンへの感受性と胆汁酸塩による溶解により検査室で同定されます 。
参考)肺炎球菌感染症 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュアル…
A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は化膿レンサ球菌とも呼ばれ、急性咽頭炎、扁桃炎、蜂窩織炎などを引き起こします 。重篤な場合は劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)に進展し、敗血症性ショックを来すことがあります 。迅速診断検査により早期診断が可能で、ペニシリンが第一選択薬となります。
近年問題となっているのは薬剤耐性菌の増加です 。ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染症では、通常の抗菌薬が無効となるため、バンコマイシンやリネゾリドなどの特殊な抗菌薬が必要となります。薬剤感受性試験の結果に基づいた適切な抗菌薬選択が重要です。
呼吸器感染症における非定型病原体による感染症
非定型肺炎は従来の細菌性肺炎とは異なる病原体により引き起こされる肺炎の総称です 。マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、レジオネラ肺炎が代表的で、これらは通常の細菌性肺炎で有効なペニシリンやセフェム系抗菌薬が効かないという特徴があります 。
マイコプラズマ肺炎はマイコプラズマ・ニューモニエという特殊な病原体により発症します 。発熱、全身倦怠感、乾性咳嗽が主症状で、胸部X線では間質性肺炎パターンを示すことが多いです。治療にはマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系抗菌薬が有効です 。
クラミジア肺炎は異型肺炎の一種で、マイコプラズマ肺炎に似た臨床経過を示します 。発熱がなく、昼夜を問わず持続する咳が特徴的で、血液検査での抗体検査により確定診断されます 。レジオネラ肺炎は重症化しやすく、高熱、呼吸困難、意識障害、下痢などが特徴的症状です 。循環式浴槽や冷却塔などの人工水環境がレジオネラ属菌の感染源となることが多く、エアロゾル吸入により感染が成立します 。
参考)レジオネラ属菌とは?~感染経路やリスク、症状などをわかりやす…
呼吸器感染症の特殊感染症と新興感染症対策
結核は結核菌による慢性感染症で、現在でも重要な感染症の一つです 。長引く咳、血痰、発熱、体重減少が主症状で、胸部X線やCT検査、喀痰抗酸菌検査により診断されます 。治療には複数の抗結核薬を6ヶ月以上併用する必要があり、多剤耐性結核の場合はさらに長期間の治療が必要となります 。
非結核性抗酸菌症、特に肺MAC症は近年患者数が増加している疾患です 。MAC菌(マイコプラズマ・アビウム・コンプレックス)による感染で、水や土壌など自然環境に存在する菌が原因となります 。中高年女性に多く、人から人への感染はありません 。長引く咳、痰、時に血痰を呈し、進行はゆっくりで10年以上の経過をたどることもあります 。
真菌感染症ではアスペルギルス症が重要です 。アスペルギルス属真菌による感染で、免疫不全患者では侵襲性アスペルギルス症として重篤な経過をたどります 。慢性肺アスペルギルス症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、侵襲性アスペルギルス症に分類され、それぞれ異なる治療アプローチが必要です 。抗真菌薬による治療が中心となりますが、薬物相互作用に注意が必要です。
参考)アスペルギルス症 – 16. 感染症 – MSDマニュアル家…
呼吸器感染症の診療においては、病原体の迅速同定、適切な抗菌薬選択、感染対策の徹底が重要です。特に高齢者や免疫不全患者では重症化リスクが高いため、早期診断と適切な治療開始が患者予後の改善につながります。また、薬剤耐性菌の拡散防止のため、抗菌薬の適正使用も医療従事者の重要な責務といえるでしょう。