緊急訪問薬剤管理指導の算定要件と2024改定のポイント

緊急訪問薬剤管理指導の算定要件とポイント

緊急訪問薬剤管理指導の要点
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2024年改定の変更点

麻薬注射患者等の算定上限が月4回から8回へ緩和

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レセプト記載の必須事項

医師の要請日時や訪問理由の明記が不可欠

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介護保険との優先順位

緊急時は介護認定者でも医療保険での算定となる

緊急訪問薬剤管理指導の算定要件と2024改定の変更点

在宅医療の需要が高まる中、薬剤師による「緊急訪問薬剤管理指導料」の重要性が増しています。この指導料は、通常の定期的な訪問とは異なり、患者の容態急変時などに医師の求めに応じて緊急で訪問を行った場合に算定できる点数です。正確な算定のためには、基本的な要件と2024年度(令和6年度)診療報酬改定による変更点を深く理解しておく必要があります。

まず、基本的な算定要件について詳細を確認しましょう。この指導料は、在宅での療養を行っている患者であって、通院が困難な者に対して算定されます。最も重要な条件は、「医師の求め」があることです。患者や家族からの直接の依頼だけで訪問した場合は算定の対象外となるため注意が必要です。必ず主治医(または連携する医療機関の医師)からの要請があり、その指示に基づいて計画外の緊急訪問を行う必要があります。

具体的な算定要件のポイントは以下の通りです。

  • 医師の要請: 訪問前に必ず医師からの指示(電話等でも可)を受けること。
  • 緊急性: 計画された訪問ではなく、急変等による緊急の必要性があること。
  • 実施内容: 薬学的管理指導を行い、その結果を速やかに医師に文書で報告すること。
  • 算定区分:
    • 緊急訪問薬剤管理指導料1(500点): 計画的な訪問薬剤管理指導を行っている患者に対して実施する場合。
    • 緊急訪問薬剤管理指導料2(200点): 1以外の患者(計画的な訪問を行っていない患者)に対して実施する場合。

    2024年度の改定では、特に重症患者への対応強化と新興感染症対応の観点から重要な変更が行われました。これまで、緊急訪問薬剤管理指導料の算定回数は原則として「月4回」が上限でしたが、末期の悪性腫瘍患者や、注射による麻薬の投与が必要な患者については、この上限が緩和されました。

    2024年改定の主な変更点:

    • 算定回数の緩和: 「末期の悪性腫瘍の患者」および「注射による麻薬の投与が必要な患者」に対しては、算定上限が月8回まで拡大されました。これにより、PCAポンプを使用している患者や、病状が不安定なターミナル期の患者に対して、より手厚い介入が可能となりました。
    • 新興感染症への特例恒久化: コロナ禍での特例措置が見直され、新興感染症等の患者に対して医師の処方箋に基づき緊急訪問した場合、あらかじめ訪問薬剤管理指導の届出や計画がなくても「緊急訪問薬剤管理指導料1」として算定可能となる要件が整理されました。

    参考リンク:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】(PDF)

    このリンク先では、改定の詳細な算定要件や、新興感染症対応に関する記述、麻薬投与患者への回数緩和の背景などが確認でき、正確な情報の裏付けとして非常に有用です。

    特に「注射による麻薬」の患者への回数増加は、在宅緩和ケアにおける薬剤師の役割が拡大していることを示唆しています。在宅療養支援診療所の医師と連携し、痛みのコントロールが難しい局面で薬剤師が頻回に訪問し、流量調整や副作用確認を行うケースが増えています。

    緊急訪問薬剤管理指導と計画的な訪問薬剤管理指導との違い

    現場で頻繁に混乱を招くのが、「緊急訪問薬剤管理指導」と通常の「在宅患者訪問薬剤管理指導(または居宅療養管理指導)」との違いです。これらは目的、プロセス、そして算定のルールが明確に異なります。両者の違いを明確に理解しておくことは、返戻を防ぐだけでなく、適切な医療提供のためにも不可欠です。

    最大の違いは「計画性の有無」と「トリガー(きっかけ)」です。通常の訪問薬剤管理指導は、あらかじめ策定された「訪問計画書」に基づいて、月2回や週1回といった定期的なスケジュールで実施されます。一方、緊急訪問薬剤管理指導は、その名の通り「計画外」であり、トリガーは常に「医師からの緊急の求め」です。

    以下の表に、主要な違いをまとめました。

    項目 緊急訪問薬剤管理指導 計画的な訪問薬剤管理指導
    きっかけ 医師からの緊急の要請(急変等) 事前の訪問計画に基づく定期訪問
    実施のタイミング 計画外・随時 計画された日時
    対象患者 急変や緊急対応が必要な患者 在宅療養を行っている通院困難な患者
    算定上限回数 原則月4回(例外あり:月8回) 医療保険:原則月4回(例外あり)介護保険:月4回
    保険の適用 医療保険のみ 介護認定者は介護保険(居宅療養管理指導)優先
    必要な書類 医師の要請記録、実施後の報告書 訪問計画書、医師の指示書、報告書

    特に注意が必要なのは、「緊急訪問薬剤管理指導料2」の存在です。これは、普段その薬局で在宅管理を行っていない患者(計画的な訪問の対象ではない患者)に対して、医師からの依頼で緊急訪問した場合に算定されます。例えば、外来のみで対応していた患者が急に動けなくなり、医師が往診した際に「薬局さん、すぐに薬を届けて説明してほしい」と依頼されたケースなどが該当します。

    また、通常の訪問指導では「契約」や「同意書」に基づく継続的な関わりが前提となりますが、緊急訪問の場合はその緊急性に鑑み、手続きが事後になる場合や、一時的な対応として処理される場合もあります(ただし、説明と同意は必要です)。

    算定時の注意点(違いの深掘り):

    • 距離の制限: 通常の訪問と同様、原則として薬局から半径16km以内の患者が対象です。緊急だからといって無制限に遠方へ行けるわけではありません(絶対的な理由がある場合を除く)。
    • 重複算定の不可: 同じ日に「計画的な訪問」と「緊急訪問」を行うことは現実的には考えにくいですが、仮に午前中に定期訪問を行い、午後に容態が急変して再度訪問した場合は、それぞれの要件を満たせば算定可能なケースもありますが、レセプトでの詳記が求められる可能性が高いです。基本的には、緊急性が高い訪問が優先され、定期訪問の予定を変更して緊急対応した場合は、緊急訪問として算定するのが一般的です。

    このように、両者は明確に区別されていますが、実務上は「定期訪問のついでに、昨日出た臨時薬の説明をした」というようなケースでは緊急訪問は算定できません。あくまで「医師の求め」により「そのためだけに緊急に訪問した」事実が必要です。

    緊急訪問薬剤管理指導の算定における介護保険と医療保険の優先順位

    在宅医療のレセプト請求において最も複雑かつ重要なのが、介護保険と医療保険の優先順位のルールです。通常、要介護・要支援認定を受けている患者に対して薬剤師が居宅療養管理指導を行う場合、原則として介護保険が優先されます。しかし、緊急訪問薬剤管理指導に関しては、この原則が適用されないという極めて重要な例外が存在します。

    結論から申し上げますと、「緊急訪問薬剤管理指導料」は、患者が介護認定を受けているかどうかにかかわらず、常に「医療保険」で算定します。

    介護保険には「緊急居宅療養管理指導費」に相当する区分が存在しないためです。

    このルールを誤認していると、以下のような重大なミスにつながります。

    1. 介護保険の限度額を気にして緊急訪問を躊躇してしまう。
    2. 介護レセプト(居宅療養管理指導費)として誤って請求し、返戻となる。
    3. ケアマネジャーへの報告義務(単位数管理)が必要だと誤解し、給付管理票の作成を待ってしまう。

    なぜ緊急時は医療保険なのか?

    これは、緊急時における医療的な介入の必要性が、介護サービスとしての枠組みを超えているためと考えられます。急変時の対応は、純粋な医療行為の一環として評価され、介護保険の区分支給限度基準額(ケアプランの枠)に影響を与えないように設計されています。これにより、患者は介護サービスの枠を気にすることなく、必要な緊急医療を受けることができます。

    具体的な算定シミュレーション:

    • 患者Aさん(要介護3)のケース
      • 普段:月2回の定期訪問は「居宅療養管理指導費(介護保険)」で算定。ケアマネジャーの給付管理対象。
      • 急変時:医師から「痛みが強くなったので麻薬を開始したい。今すぐ指導に行ってほしい」と依頼あり。
      • 対応:緊急訪問を実施。
      • 請求:この1回分は「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料1(医療保険)」で請求。介護レセプトには含めない。

      注意点:ケアマネジャーへの連携

      算定自体は医療保険で行いますが、ケアマネジャーへの情報提供が不要なわけではありません。患者の病状が急変したこと、新たな薬剤(特に麻薬など)が導入されたことは、ケアプランやヘルパーの対応にも大きく影響します。したがって、請求は医療保険で行いつつ、情報は速やかにケアマネジャーにも共有するという「算定と連携の分離」を意識した対応が求められます。

      参考リンク:厚生労働省 医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項(PDF)

      この資料では、医療保険と介護保険の適用関係、特に訪問系サービスにおける優先順位の例外規定について詳細に解説されており、制度の根拠を確認するのに最適です。

      また、レセプト請求時には「医療保険」の請求用紙(またはデータ)を使用するため、被保険者番号等の記載ミスにも注意が必要です。特に後期高齢者の場合、医療保険証と介護保険証の両方を持っているため、取り違えないようにしましょう。

      緊急訪問薬剤管理指導のレセプト記載事項と麻薬管理の注意点

      緊急訪問薬剤管理指導料を算定した際、レセプト(診療報酬明細書)の「摘要欄」への記載は、審査支払機関における審査の最重要ポイントとなります。記載不備は返戻の直接的な原因となります。また、緊急訪問は麻薬を使用している患者に対して行われることが多いため、麻薬管理指導加算との関係も整理しておく必要があります。

      レセプト摘要欄への必須記載事項

      緊急訪問薬剤管理指導料を算定する場合、以下の事項を摘要欄に具体的に記載する必要があります。定型文だけでなく、個別の事情が伝わるように書くことが推奨されます。

      1. 算定の根拠となった「訪問の実施日」
        • 例:「〇月〇日 緊急訪問実施」
      2. 医師からの要請の詳細
        • 要請があった日付: 訪問日と同日、あるいは直前であることが一般的です。
        • 要請の内容(理由): 単に「指示あり」ではなく、具体的な医学的理由を書きます。
        • 記載例:「令和〇年〇月〇日、〇〇医師より疼痛コントロール不良のため臨時処方の麻薬について緊急の指導依頼あり」
      3. 緊急訪問の必要性(なぜ計画的訪問ではダメだったのか)
        • 記載例:「患者の予期せぬ嘔吐症状により内服困難となり、坐剤への変更に伴う緊急指導を実施」
      4. (該当する場合)連携する医療機関の医師の氏名
        • 主治医以外の医師(当直医など)からの依頼であった場合、その医師の氏名も記録に残しておくことが重要です。

      麻薬管理指導加算との併算定

      緊急訪問時に麻薬の投薬・指導を行った場合、「麻薬管理指導加算(100点)」を併せて算定することが可能です。これは2024年改定でも維持されている重要な加算です。ただし、この加算を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。

      • 麻薬の処方箋に基づき調剤・交付していること。
      • 定期的な訪問と同様に、麻薬の保管管理状況、残薬数、服薬状況(疼痛緩和の程度や副作用の有無)を確認し、指導していること。
      • 指導内容を薬歴および医師への報告書に記録していること。
      • 重要: 訪問薬剤管理指導料(医療保険)の加算として算定します。介護保険の居宅療養管理指導費を算定している月であっても、緊急訪問(医療保険)の際は、医療保険の枠内で麻薬管理指導加算を乗せることができます。

      レセプト記載のテクニック(返戻対策)

      「緊急」の定義は審査側の判断により解釈が分かれることがあります。そのため、摘要欄には「予期せぬ事態」であったことが読み取れるキーワードを含めるのがコツです。「急変」「疼痛増悪」「副作用発現」「退院直後の不安定な状態」などの具体的な状況描写を入れることで、算定の妥当性をアピールできます。

      また、2024年改定で緩和された「月8回」の上限を適用して5回以上算定する場合は、その医学的根拠(例:「注射用麻薬の流量変更に伴う連日の確認が必要であるため」など)を注記しておくと、審査がスムーズになります。

      緊急訪問薬剤管理指導の実践における医師との連携と報告の具体例

      緊急訪問薬剤管理指導の真価は、算定そのものよりも、その後の「医師への報告と次なる治療への接続」にあります。緊急訪問が必要な場面では、医師も次の判断(入院させるか、薬剤を変更するか、看取りの体制に入るか)に迷っているケースが少なくありません。薬剤師からの迅速かつ質の高いフィードバックは、医師の意思決定を強力にサポートします。

      ここでは、単なる「行きました」という報告ではなく、医師が求めている「生きた情報」を提供するための連携ポイントと報告書の具体例を紹介します。

      1. 訪問前の「医師の意図」の確認

      緊急の依頼を受けた際、電話口で医師に以下の点を確認します。

      • 「今回の訪問で一番確認してほしいことは何ですか?」(例:痛みが取れていないのか、薬が飲めていないのか)
      • 「もし〇〇な状況だったら、どう指示すればよいですか?」(例:残薬が大量にあった場合、中止してよいか)

        この事前のすり合わせがあるだけで、訪問時のチェック項目が明確になり、報告書の質が劇的に向上します。

      2. 現場での観察と指導(バイタルサイン以上の情報)

      緊急訪問では、バイタルチェック(血圧・脈拍等)に加え、薬剤師ならではの視点が求められます。

      • 服薬環境の変化: ベッドの位置が変わって水が届かない、家族が疲弊して管理できなくなっている等。
      • 実際の服用動作: 「飲めています」と患者は言うが、実際に見せてもらうと嚥下に数分かかっている等の事実。
      • 副作用の兆候: 麻薬増量後の傾眠傾向、縮瞳、便秘の悪化など。

      3. 医師への報告書(スピードと具体性)

      緊急訪問の報告は、スピードが命です。訪問後、即座にFAXやセキュアなチャットツールで報告します。内容は「SOAP」形式で整理しつつ、医師が知りたい結論を先に書きます。

      【報告書の記載例】

      • 件名: 緊急訪問ご報告(患者氏名:〇〇様)
      • 結論: 疼痛コントロールは改善傾向ですが、便秘による腹部膨満感が強く、下剤の調整が必要です。
      • 詳細(S/O):
        • 痛み: NRS 8/10 → 4/10 に改善。「夜眠れるようになった」との発言あり。
        • 副作用: 3日間排便なし。腹部聴診にて腸雑音減弱。
        • 管理状況: 臨時薬(レスキュー)の使用回数は昨日4回、本日1回。使用方法の手技は家族が理解済み。
      • 提案(A/P):
        • オピオイドによる便秘と推測されます。現在の酸化マグネシウムに加え、刺激性下剤(センノシド等)の追加、または新規便秘薬(ナルデメジン等)の検討を提案いたします。
        • 次回訪問は明後日を予定し、排便状況を重点的に確認します。

        このように、「事実(痛みは減ったが便秘がある)」と「薬学的提案(下剤の追加)」をセットで報告することで、医師は「じゃあ下剤の処方箋を出そう」と即座に行動に移せます。これこそが、緊急訪問薬剤管理指導における「独自視点」の価値であり、チーム医療における薬剤師のプレゼンスを最大化する鍵となります。

        最後に、緊急訪問対応は薬局全体の体制づくりも重要です。特定の薬剤師しか対応できない状況では、24時間の緊急対応は維持できません。報告書のテンプレート化や、緊急時用キット(防護具、簡易懸濁用具など)の準備など、いつ要請が来ても動ける準備をしておくことが、地域医療への貢献につながります。

        参考文献・引用。

        参考リンク:厚生労働省 在宅医療(その5) 参考資料(PDF)

        在宅医療における薬剤師業務の位置づけや、緊急時訪問の評価体系に関する詳細なデータが掲載されており、制度背景の理解に役立ちます。