肝不全の症状と原因、診断から治療まで

肝不全の症状と病態

肝不全の主要症状
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黄疸・掻痒感

血清ビリルビン値3.0mg/dL以上で皮膚や眼球結膜が黄色くなり、末梢神経刺激による強い痒みを伴います。

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腹水・浮腫

血清アルブミン2.5g/dL以下で門脈圧亢進と低アルブミン血症により腹部や下肢に水分が貯留します。

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肝性脳症

血中アンモニア150μg/dL以上で意識障害、失見当識、羽ばたき振戦などの精神神経症状が出現します。

肝不全の初期症状と見逃しやすいサイン

肝不全の初期症状は非特異的で見逃されやすいのが特徴なんです。全身倦怠感、食欲不振、吐き気といった症状は風邪や単なる疲労と間違われることが多く、長期間続いても受診しないケースが少なくありません。

参考)肝機能障害の初期症状を見逃さないためのポイント – 肝臓再生…


肝機能障害は「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の特性により、初期段階では自覚症状がほとんど出ないんです。健康診断でAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなどの数値異常を指摘されても、症状がないため放置してしまう患者さんが多いのが現状です。

参考)肝臓が悪いとどんな症状が出る?~肝臓の数値で指摘された~尾張…


原因不明の倦怠感が続く場合、特に肥満や飲酒習慣、過去の輸血歴がある方は注意が必要です。血液検査で肝機能の数値を確認し、必要に応じて腹部超音波検査を受けることが早期発見につながります。

参考)肝機能障害の初期症状とは?気になるサインと早期発見の大切さ …

肝不全の急性症状と劇症化のメカニズム

急性肝不全は日本で年間約400人が罹患し、その病因はウイルス性肝炎45%、薬剤性肝炎15%、自己免疫性肝炎10%、原因不明30%となっています。ウイルス性肝炎ではB型肝炎が最多で、A型肝炎も重症化しやすいことが知られています。

参考)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/kanhuzen2.pdf


急性肝炎発症後、1〜2%が劇症化し、肝炎症状発現後8週間以内に高度の肝機能障害と肝性昏睡Ⅱ度以上(失見当識、異常行動、羽ばたき振戦)、プロトロンビン時間(PT)40%以下を来たします。病態生理として、肝細胞の広範な壊死、肝の解毒代謝機能の高度な障害、アンモニアや芳香族アミンなどの毒性物質の蓄積、多彩な精神神経症状の出現が見られるんです。​
劇症肝炎では進行性の高度黄疸(総ビリルビン値上昇)をきたし、肝腫大が一転急速に縮小します。これは残存肝細胞の減少により、逆にAST・ALTが低下するという特徴的な所見なんです。多臓器不全を来たすことが多く、救命率は50%以下と予後不良です。​

肝不全の慢性症状と肝硬変の進行

慢性肝不全は肝硬変の進行と共に発症することが多く、日本で年間40〜50万人が罹患し、17,000人が死亡しています。死因の内訳は肝細胞がん70%、肝不全20%、食道静脈瘤等消化管出血10%以下で、その内70%が男性です。​
肝硬変は種々の原因により慢性の肝障害が進行した終末像を示し、広範に肝細胞が壊死し、再生していく過程で線維組織が増生して硬く萎縮した状態になります。本来の肝臓の働きが十分行えない肝機能障害と腹腔内臓器からの肝臓への血流障害による門脈圧亢進症状が出現するんです。​
肝硬変の重症度分類にはChild-Pugh分類が用いられ、脳症、腹水、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン活性値の5項目で評価します。グレードAは代償性肝硬変で肝機能がなんとか保たれている状態、グレードBとCは非代償性肝硬変で様々な合併症が出現します。

参考)https://www.aska-pharma.co.jp/kansikkan/disease/13.html

Child-Pugh分類 脳症 腹水 血清ビリルビン(mg/dL) 血清アルブミン(g/dL) PT活性値(%)
1点 なし なし 2.0未満 3.5超 70超
2点 軽度 少量 2.0〜3.0 2.8〜3.5 40〜70
3点 ときどき昏睡 中等量 3.0超 2.8未満 40未満

肝性脳症の症状と観察ポイント

肝性脳症は肝臓の解毒機能が低下し、体内に有害物質が蓄積することで発症します。代謝障害によりアンモニアが尿素に転換されず、肝周囲での短絡があるためアンモニアが直接脳に達して症状を引き起こすんです。

参考)肝硬変の看護計画|原因、症状、観察項目から見る看護過程、看護…


症状は軽度の集中力低下から重度の場合は昏睡状態に至ることがあり、初期症状として思考能力の低下、精神錯乱状態、失見当識などが見られます。特徴的な所見として羽ばたき振戦(asterixis)があり、医療従事者は注意深く観察する必要があります。​
肝性脳症を誘発する因子として、アンモニアの増加、消化管出血、たんぱく質過剰摂取、便秘、感染、利尿剤睡眠薬などの投与、多量の腹水穿刺があります。便秘による便の長時間腸内滞留は腸内細菌のアンモニア生産量を増加させるため、予防が重要なんです。​
医療従事者向けの観察ポイントとして、意識レベル・反応、集中力・注意力、気分・感情、見当識・認識力・記憶力、神経症状(羽ばたき振戦、腱反射・筋緊張)、睡眠と覚醒のリズム、血中アンモニア値の変化を継続的にモニタリングすることが求められます。​

肝不全における腹水と浮腫の発生機序

肝硬変における腹水貯留は、低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧低下、門脈圧亢進症のための毛細血管内圧の上昇とリンパ漏、二次性高アルドステロン血症によるNa貯留により起こります。TP 4g/dL、Alb 2.7g/dL以下になると血漿の膠質浸透圧が低下して腹水が貯留するんです。​
血清と腹水のアルブミン濃度差(SAAG)が1.1g/dL以上の場合、肝硬変による腹水である可能性が高くなります。血清アルブミンが2.5g/dL以下になると浮腫がみられるようになり、血液が肝臓に流入しづらくなり血液の流れが悪くなることや、血液の成分が血管外へ染み出して腹部や手足に水が溜まります。

参考)肝硬変の分類・診断と看護ケアのポイント


腹水貯留による腹部膨満呼吸困難を引き起こし、患者の活動性を著しく低下させます。医療従事者は腹囲測定、体重変化、呼吸状態、尿量の観察を継続的に行い、利尿剤投与や腹水穿刺のタイミングを適切に判断する必要があるんです。​

肝不全の凝固障害と出血傾向

肝不全では血液凝固因子の生成が障害され出血傾向となります。門脈圧亢進を起こしている場合は、脾機能亢進による血小板減少により出血傾向が強くなるんです。​
門脈圧が亢進すると、食道静脈は門脈系と上大静脈を結ぶ側副血行路となり、門脈血や脾静脈血が食道静脈を経て上大静脈へ流れ込みます。このため食道静脈内圧は亢進し食道静脈瘤が形成され、拡張してくると破裂・出血の危険性が高くなります。​
食道静脈瘤破裂の前駆症状として胸部不快感、悪心、全身倦怠感などがあり、破裂すると大出血となり出血性ショックに陥ります。ショック状態になると心機能は低下し循環障害が起こり、腎動脈圧が80mmHg以下になると腎血流は低下、血尿や無尿状態となります。肝硬変の出血は出血量が少なくても肝不全を誘発するため、消化管出血のある肝硬変は予後が悪いんです。​

肝不全患者の検査値の解釈と診断基準

肝不全の診断には血液検査、超音波検査、腹部CT、肝生検などが用いられます。血液検査では肝酵素値(AST、ALT)、ビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間、血中アンモニア値などが重要な指標となるんです。

参考)血液検査結果の見方(肝臓中心に)?健康診断で肝機能障害と判定…


AST/ALT比が1未満(AST値よりもALT値が高い)の場合は、肝機能障害がある程度の期間に渡って続いていると推測され、慢性肝炎の可能性があります。逆にAST/ALT比が1以上の場合は、肝硬変や急性肝炎、アルコール性肝障害などが考えられます。​
急性肝不全の診断では、血清トランスアミナーゼ値を正常上限の2倍以下まで低下させることを目標とし、血中アンモニア値を150μg/dL未満に制御します。アンチトロンビンIII活性を70%以上に維持することも重要な治療目標なんです。

参考)急性肝不全 – 消化器の疾患

検査項目 正常値 肝不全での変化 臨床的意義
AST(GOT) 10〜40 IU/L 上昇 肝細胞障害の指標
ALT(GPT) 5〜45 IU/L 上昇 肝細胞障害の指標
総ビリルビン 0.2〜1.2 mg/dL 上昇(3.0以上で黄疸) 肝機能低下の指標
アルブミン 3.5〜5.5 g/dL 低下(2.5以下で浮腫) 肝合成能の指標
PT活性値 70〜130% 低下(40以下で重症) 凝固因子合成能の指標
血中アンモニア 30〜80 μg/dL 上昇(150以上で脳症) 肝解毒機能の指標

医療従事者が知るべき肝不全の原因疾患

肝不全の原因は急性と慢性で大きく異なります。急性肝不全の原因として、B型肝炎ウイルスが最も多く、次がA型肝炎ウイルスで、C型肝炎ウイルスから急性肝不全になるのはわずかなんです。また、薬物アレルギーや自己免疫の異常な反応で急性肝不全となることもあります。

参考)肝不全(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファイル


慢性肝不全の原因として、日本人で最も多いのはC型肝炎ウイルスを原因とする慢性肝炎で、次にB型肝炎ウイルス、アルコール性肝障害となっています。これらの肝炎が長く続くと肝細胞が破壊され、肝臓表面がごつごつと硬くなった肝硬変という状態になり、さらに進行すると肝がんの発症、腹水、肝性脳症、食道静脈瘤破裂など肝不全症状が出現します。​
近年増加しているのがNASH(非アルコール性脂肪肝炎)で、飲酒量の少ない人に起きる肝疾患です。これは肥満や糖尿病を原因とする疾患で、NAFLDの内10〜20%がNASHとなり、5〜10年で5〜20%が肝硬変に移行します。生活習慣病の併存により、従来は予後良好とされたA型でも昏睡例での予後が悪化しているという報告もあります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/9/112_1524/_pdf

肝不全の治療法と医療従事者の役割

急性肝不全の治療では、内科的治療と外科的治療を組み合わせた包括的な医療介入を実施します。内科的治療では肝臓の再生促進と全身状態の安定化を同時に図り、抗凝固療法としてヘパリン(初回投与量5,000単位、維持量10,000〜15,000単位/日)を投与し、アンチトロンビンIII活性を70%以上に維持します。​
高アンモニア血症に対しては、分岐鎖アミノ酸製剤(体重あたり0.5〜1.0g/日)を投与し、血中アンモニア値を150μg/dL未満に制御します。治療期間は重症度によって異なりますが、集中治療室での治療期間は一般的に14〜28日間を要し、この間血液検査を1日2〜3回実施して肝機能の回復を継続的に評価するんです。​
慢性肝不全の治療としては、原因に対する治療、代償性肝硬変の治療と非代償性肝硬変の治療に分けられます。日本人に一番多いC型肝硬変でも、代償性肝硬変(Child-Pugh分類A)であれば、抗ウイルス薬により、ウイルスの排除が可能となり、進行防止ができるようになりました。​

治療薬剤 投与量 目標値
ヘパリン 10,000〜15,000単位/日 APTT 1.5〜2.0倍
アンチトロンビンIII 1,500〜3,000単位/日 活性70%以上
分岐鎖アミノ酸 0.5〜1.0g/kg/日 アンモニア150μg/dL未満

肝不全患者の看護と観察のポイント

肝不全患者の看護では、身体活動性の障害、組織循環の変調、思考の変調という3つの主要な看護診断に基づいたケアが必要です。エネルギー代謝を行っている肝臓の機能が低下することにより、エネルギー代謝障害をきたし、全身倦怠感・易疲労感・食欲不振が生じます。​
医療従事者は肝機能を評価し、全身状態を観察し、電解質バランスをみて、血糖値と腎機能をみるという4つの観察ポイントを押さえる必要があります。バイタルサイン、脈拍の緊張・リズム不整、呼吸状態、口唇・皮膚・爪の色や状態、四肢冷感、尿量の減少、意識レベルの低下などを継続的にモニタリングします。

参考)【肝硬変】症状と4つの観察ポイント、輸液ケアの見極めポイント…


食道静脈瘤破裂の前駆症状として胸部不快感、悪心、全身倦怠感などがあり、吐物の性状・潜血反応、便の性状、貧血症状、検査データの変化に注意を払う必要があるんです。精神神経症状が生じた場合は転落や転倒事故の防止に努め、肝性脳症の初期症状として思考能力の低下、精神錯乱状態、失見当識などを注意深く観察することが求められます。​

肝不全の予後と生存率の実態

肝不全の予後は病型と重症度により大きく異なります。急性肝不全の劇症肝炎では、多臓器不全を来たすことが多いため、肝臓に対する治療のみでなく全身管理が重要ですが、救命率は50%以下と予後不良なんです。​
慢性肝不全では、代償性肝硬変の5年生存率が80%、10年生存率が50%である一方、非代償性肝硬変では5年生存率が50%、10年生存率が30%とされています。肝硬変患者の死因は肝細胞がん70%、肝不全20%、食道静脈瘤等消化管出血10%以下となっており、肝がんへの進展が最も多い死因です。​
日本では年間40〜50万人が肝硬変に罹患し、17,000人が死亡していますが、C型肝炎の治療に格段の進歩がみられ、慢性C型肝炎は治癒する時代となってきました。その結果として、C型肝炎からの肝硬変も著減するものと考えられます。その反面、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)よりのNASH(非アルコール性脂肪肝炎)から肝硬変が増加傾向にあることが注目されています。​

肝不全予防のための医療従事者の啓発活動

肝硬変にならないための予防策として、医療従事者は患者への教育と啓発活動を積極的に行う必要があります。健診等(一般健診、人間ドック等)にて肝機能障害や血液異常(貧血や血小板減少)を指摘された時は、更なる肝機能に関する精密検査や肝炎ウイルス検査、超音波検査などで原因を特定することが重要なんです。​
ウイルス性肝炎や脂肪肝であれば、肝硬変への進行阻止のため、治療や生活習慣の改善を指導します。具体的には、原因に対する治療としてウイルス性肝炎には抗ウイルス薬、アルコール性には禁酒、NASHにはカロリー制限・運動・減量など生活習慣の改善を勧めます。​
肝硬変患者に対しては、症候および合併症への対策・治療をしっかり行い、栄養をバランスよくとり、適度な運動をするよう指導することが求められます。定期的な健康診断を受け、血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPといった肝機能の数値を確認し、基準値内であっても毎年の数値の変化をチェックすることが大切です。​

参考リンク:肝不全の基本的な病態と分類について詳しく解説されています

全国健康保険協会 – 肝不全

参考リンク:肝硬変の看護と観察ポイントについて臨床で役立つ情報が記載されています

ナース専科 – 肝硬変の分類・診断と看護ケアのポイント

参考リンク:急性肝不全の診断基準と治療法について医療従事者向けに詳述されています

丸岡病院 – 急性肝不全

参考リンク:肝機能障害の初期症状と早期発見の重要性について解説されています

斎藤クリニック – 肝機能障害の初期症状とは