黄体ホルモン薬一覧と特徴
黄体ホルモン薬の種類と分類
黄体ホルモン薬は、その化学構造と作用機序により複数のカテゴリーに分類されます。主要な分類として、天然型プロゲステロンと合成プロゲスチンに大別されます。
天然型プロゲステロン製剤
- プロゲステロン(プロゲホルモン、ルテウム):注射薬として10mg、25mgの規格があり、主に黄体補充療法に使用
- ウトロゲスタン:腟用坐剤400mgで、不妊治療や黄体補充に広く使用
- ルティナス:腟用カプセル200mgで、体外受精後の黄体補充に適応
- ワンクリノン:腟用ゲル90mgで、使用の簡便性が特徴
合成プロゲスチン製剤
- ジドロゲステロン(デュファストン):5mg錠で、プロゲステロンの立体異性体
- 酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA):プロベラ2.5mg錠、ヒスロンH200mg錠
- 酢酸クロルマジノン:ルトラール2mg錠で、抗アンドロゲン作用を有する
- ノルエチステロン:配合剤として使用される19-ノルステロイド系
- レボノルゲストレル:IUD製剤や緊急避妊薬として使用
黄体ホルモン薬の剤形別特徴
剤形により吸収率、副作用プロファイル、患者の利便性が大きく異なります。
経口薬の特徴
デュファストン、プロベラ、ルトラールといった経口薬は、服用が簡便で外来治療に適しています。デュファストンは基礎体温を上昇させない唯一のプロゲスチンで、不妊症や切迫流産の保険適応があります。プロベラは子宮内膜の萎縮作用が強く、ホルモン補充療法(HRT)で子宮内膜の肥厚が問題となる場合に選択されます。
腟坐薬・ゲル製剤の特徴
腟坐薬は肝臓での初回通過効果を回避し、高い子宮内濃度を達成できます。ウトロゲスタンは外因性プロゲステロンをしっかり補充でき、黄体期を適切に維持できます。ルティナスは体外受精後の黄体補充に特化した製剤で、ワンクリノンはゲル製剤として使用の簡便性を向上させています。
注射薬の特徴
プロゲホルモン注射は内因性プロゲステロンを直接補充し、持続的な効果が期待できます。hCG注射は黄体を直接刺激して内因性プロゲステロン産生を促進しますが、皮下注射のため比較的痛みが強いという欠点があります。
黄体ホルモン薬の使い分けと適応
臨床場面における黄体ホルモン薬の選択は、治療目的、患者の状態、副作用プロファイルを総合的に判断する必要があります。
ホルモン補充療法(HRT)での使い分け
HRTにおける黄体ホルモン併用の目的は、エストロゲンによる子宮内膜がんリスクの軽減です。近年、ジドロゲステロンが注目されているのは、他の合成プロゲスチンと比較して乳がんリスクが低いという報告があるためです。
周期投与では、経口エストラジオール1mgに対してジドロゲステロン10mgを14日間投与します。持続投与では、エストラジオール1mgに対してジドロゲステロン5mgを連日投与します。
一方、MPAは子宮内膜増殖症の抑制効果が強く、周期投与では5-10mgを10日間、持続投与では2.5mgと5mgで同等の効果が得られます。ただし、MPAは血栓症リスクとの関連が指摘されており、慎重な使用が必要です。
不妊治療での使い分け
不妊治療における黄体補充では、内因性プロゲステロン産生不足を補うことが目的です。体外受精後の黄体補充では、ルティナスやウトロゲスタンの腟坐薬が第一選択となることが多く、十分なプロゲステロン濃度を維持できます。
経口薬では、デュファストンが黄体賦活作用を有し、不妊症、切迫流産に保険適応があります。hCG注射は内因性プロゲステロン産生を刺激しますが、OHSS(卵巣過刺激症候群)のリスクがある場合は避けるべきです。
月経異常・子宮内膜症での使い分け
機能性子宮出血の治療では、ノルエチステロンを含む中用量配合剤が使用されます。子宮内膜症の治療では、ジドロゲステロンが副作用が少なく長期使用に適しているため、最近見直されています。
レボノルゲストレル放出IUD(ミレーナ)は、過多月経と月経困難症の治療に用いられ、局所的な高濃度プロゲスチン効果により子宮内膜の萎縮を促します。
黄体ホルモン薬の副作用と注意点
黄体ホルモン薬の使用に伴う副作用は、薬剤の種類や投与経路により異なります。
共通する副作用
- 浮腫:ミネラロコルチコイド様作用による
- 不安・抑うつ:中枢神経系への影響
- 乳房緊満感:プロゲスチン作用による
- 不正出血:内膜への影響
薬剤別の特徴的副作用
MPAは脂質代謝に影響し、HDL-コレステロールの増加効果を減弱させます。また、糖代謝にも影響を与え、血糖値を上昇させる可能性があります。マンモグラフィーでの乳腺濃度増加も報告されています。
ジドロゲステロンは他の合成プロゲスチンと比較して副作用が少なく、基礎体温を上昇させない特徴があります。しかし、子宮内膜保護作用がMPAより弱い可能性があり、内膜の肥厚に注意が必要です。
血栓症リスク
プロゲスチン製剤、特にMPAは静脈血栓塞栓症のリスクを増加させる可能性があります。血栓症の既往がある患者や高リスク患者では、慎重な適応判断が必要です。
相互作用
プロゲスチンは肝薬物代謝酵素に影響を与える可能性があり、他の薬剤との相互作用に注意が必要です。特に抗凝固薬、抗てんかん薬、抗結核薬との併用時は効果の減弱に注意が必要です。
黄体ホルモン薬の新薬情報と今後の展望
近年、黄体ホルモン製剤の領域では新しい製剤の導入と既存薬の適応拡大が進んでいます。
新規製剤の導入
天然型プロゲステロン製剤であるエフメノカプセルが日本で発売され、HRTの選択肢が拡大しました。この製剤は天然型プロゲステロンの特徴を活かし、合成プロゲスチンと比較して副作用の軽減が期待されています。
ドロスピレノン(DRSP)を含有する新しい配合剤も注目されています。DRSPは抗アンドロゲン作用と抗ミネラロコルチコイド作用を有し、従来のプロゲスチンとは異なる作用プロファイルを示します。
個別化医療への展開
ゲノム医療の進歩により、個々の患者のホルモン代謝能力に応じた薬剤選択が可能になりつつあります。特に、CYP3A4、CYP2C19などの薬物代謝酵素の遺伝子多型に基づく個別化治療が研究されています。
剤形の改良
経皮パッチ製剤の改良により、メノエイドコンビパッチのようなエストロゲン・プロゲスチン配合パッチが開発されています。これにより、服薬コンプライアンスの向上と副作用の軽減が期待されています。
将来の展望
現在、抗アンドロゲン作用と抗ミネラロコルチコイド作用を有する新しいプロゲスチンの開発が進んでいます。これらの製剤は、従来のプロゲスチンが持つ好ましくない代謝影響を軽減し、より理想的な黄体ホルモン補充療法を可能にすると期待されています。
また、子宮内膜症治療薬として、ジエノゲストの長期使用データが蓄積され、新しい適応症への展開も検討されています。
日本女性医学学会によるホルモン補充療法ガイドライン2024年度改訂版の発行により、最新のエビデンスに基づいた治療指針が提示される予定です。
日本女性医学学会ホルモン補充療法ガイドライン – 最新の治療指針とエビデンス
ミラザ新宿つるかめクリニック – 黄体ホルモン製剤の臨床的使い分け