黄斑と目の病気の症状・原因・治療

黄斑と目の病気について

黄斑疾患の主な種類
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加齢黄斑変性

加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、視力低下や歪みが現れる病気で、日本では失明原因の第4位となっています

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黄斑円孔

黄斑部に小さな孔が開く病気で、硝子体の収縮により引っ張られることが主な原因です

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黄斑浮腫

黄斑部に水分が貯留してむくみが生じ、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などに続発することが多い病態です

黄斑とは何か – 網膜の中心部の重要な役割

黄斑は眼底の網膜の真ん中に位置する、直径約2mmの小さな領域です。カメラにたとえると、眼の内側にある網膜はフィルムにあたる膜で、その中心部が黄斑部と呼ばれています。黄斑部には視細胞が密集しており、細かいものを識別したり、色を見分ける働きを持つ部分で、網膜の中では最も大切な場所です。

参考)知っておきたい加齢黄斑変性—治療と予防—


人が視力1.0を得るには、黄斑部が健全でなければなりません。黄斑部が障害されると、周囲は見えても、細かいものの識別ができなくなります。網膜の感度が最も高く、中心の視力に影響する最も重要な部位であるため、黄斑部の異常は見え方に直結し、一番見たい中心部が見えない、中心が歪むなど著しく見え方の質を低下させます。

参考)黄斑疾患 黄斑前膜(黄斑上膜)、黄斑円孔、加齢黄斑変性、黄斑…


黄斑部には黄斑色素という成分が存在し、特に青色の有害な光線から網膜を守る働きをしています。この黄斑色素を作るために欠かせない材料となるのがルテインという栄養素です。網膜の外側には脈絡膜という血管に富んだ膜があり、この部分の異常も黄斑に影響を及ぼすことがあります。

参考)黄斑疾患・網膜疾患を防ぐ ルテインサプリメント いいめ につ…

加齢黄斑変性の症状と滲出型・萎縮型の違い

加齢黄斑変性は、老化に伴い眼の中の網膜の中心に出血やむくみをきたし、視力が低下する病気です。50歳以上の人の約1%に見られ、高齢になるほど発症率が高くなります。福岡県久山町の健診結果では、50歳以上の発症率が0.87%で、男性に多く発症することがわかっています。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=52


加齢黄斑変性には滲出型と萎縮型の2つのタイプがあります。滲出型加齢黄斑変性は日本人に多いタイプで、突然見えなくなる病気で進行が速く、治療を躊躇していると深刻な網膜の障害を残してしまいます。黄斑部の網膜の下に異常な血管網である脈絡膜新生血管が生えてきて、そこから出血や滲出を起こして網膜を障害し、視力低下や歪んで見えるなどの症状をきたします。

参考)加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)


一方、萎縮型加齢黄斑変性は欧米人に多く日本人に少ないタイプで、黄斑部の視細胞がゆっくりやられていく病気です。黄斑部の網膜が萎縮して障害が起きますが、日本人には稀で、また現時点では有効な治療法がありません。​
症状としては、初期はものがゆがんで見える、中心が見づらい、視界の真ん中がグレーになってかすむなどがあり、進行すると真ん中が真っ暗になって見えなくなります。中心がぼやけたり、歪んで見えたり、暗くて見えにくくなるほか、視力の低下も認められます。多くの場合、症状は片側の目から現れますが、見えにくさは残りの目で補うため、異常に気づくのが遅れる場合があります。​

黄斑円孔が発症する原因と進行ステージ

黄斑円孔は、網膜の黄斑部に小さな孔(直径0.1~0.5mm程度が多い)ができ、視力が悪くなる病気です。50歳以上の中高年者に見られることが多く、若い人にはほとんど見られません。発症率は中高年者の0.09~0.3%程度で、女性の方が男性の2~3倍多く発症し、高齢者や強度近視眼の方が発症率が高いと報告されています。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=41


主な原因は加齢による硝子体の剥がれです。目の中にあるゼリー状の組織である硝子体が、加齢とともに水様となって縮み、網膜から剥がれます。剥がれる時に硝子体と黄斑の癒着が強いと、黄斑を引っ張ることで孔が生じます。加齢に伴う特発性のものが最も多く、硝子体と黄斑の癒着が強い人では、加齢と共に硝子体の収縮や後部硝子体剥離が起こり始めると、黄斑を引っ張るようになり、この引っ張りが強くなると最も薄い黄斑部に孔ができます。

参考)黄斑円孔の原因・症状・治療法は?|藤沢市辻堂の辻堂神台眼科|…


黄斑円孔は進行に伴いステージ1から4まで段階的に進行します。ステージ1では硝子体に引っ張られた黄斑部の内層に嚢胞が生じ、歪みは出てきますが視力低下はまだそれほど高度ではありません。ステージ2では全層の黄斑円孔が形成されますが蓋がまだ残っている状態で、歪みが強くなり視力低下も高度になってきます。ステージ3では黄斑円孔の蓋がほぼ外れますがまだ後部硝子体剥離は完成していない段階で、症状がさらに強くなります。ステージ4では後部硝子体剥離が完成した段階で、歪みは著明になり視力低下も著しくなります。​
特発性以外には、強度近視に伴うもの、打撲など外傷によるもの、嚢胞様黄斑浮腫などに続発するものがあります。若い方が外傷によって黄斑円孔になった場合は、孔が自然と治ることもあるため、慎重に経過観察していきます。​

黄斑浮腫の原因疾患と発症メカニズム

黄斑浮腫とは、黄斑部に液体が溜まるなどして、むくんでしまう状態です。黄斑部に水分が貯留してしまい、黄斑部の網膜の機能が低下して視力が下がる、歪んで見えるなどの症状を起こす病態です。もっともよく見られるのがかすみ目で、物が霞んで見える、視力低下、物が歪んで見える、コントラスト感度の低下などの症状が現れます。

参考)黄斑上膜・黄斑円孔・黄斑浮腫 |あだち眼科


黄斑浮腫の原因となる病気としては、糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、ぶどう膜炎などがあります。糖尿病が原因の場合、血管の壁がもろくなったり、毛細血管の瘤ができたりして、血管から水分が網膜に漏れ出して黄斑部がむくんでしまいます。​
網膜静脈閉塞症の場合、網膜から心臓に血液を戻す血管である網膜静脈が詰まってしまうことで起こります。詰まった静脈が視神経の内部の中心静脈であれば網膜中心静脈閉塞症に、網膜静脈の枝であれば網膜静脈分枝閉塞症になり、静脈が詰まることで鬱血し黄斑部に浮腫を生じます。​
糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に続いて起こることが多いため、糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった生活習慣病による動脈硬化、さらには生活習慣の乱れが根本的な原因と言えます。発症率は年齢を重ねるとともに高くなっていきます。発症早期であれば黄斑浮腫が改善すれば視力が戻りますが、長期に渡って浮腫が続くと視力低下が戻らなくなってしまいます。​

黄斑上膜(黄斑前膜)の症状と硝子体との関係

黄斑上膜は、黄斑部に線維性の膜が張ってくる病気で、網膜上膜、網膜前膜、黄斑前膜などとも呼ばれます。黄斑の網膜表面に薄い膜が形成される疾患で、膜が縮んでくると網膜自体にも皺ができます。初期のころは無症状ですが、膜は収縮する性質があるため、徐々に網膜が引っ張られて物が歪んで見える(歪視)、左右で物の大きさが違って見える(不等像視)、視力が低下するなどの症状が生じます。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=42


進行すると高度の視力低下や歪視に至ることもあります。原因としては加齢によるものが最も多く、眼内には硝子体というゲル状物質があり、若い頃は網膜に接着していますが、加齢現象で硝子体が網膜から外れる際に、薄い硝子体の膜が網膜の表面に残り、それが増殖して生じると言われています。​
その他の原因として、糖尿病、ぶどう膜炎、網膜裂孔などがあります。進行は緩やかで緊急性はなく、放置しても失明する病気ではありませんが、視力が大きく低下してからの治療は、視力が良い段階での治療と比較して最終的な視力回復が乏しいため、歪みなど症状が出てきた場合は早めの治療が望ましいとされています。​
飲み薬や目薬で黄斑前膜を除去することはできず、治療は黄斑前膜を除去する硝子体手術を行います。50歳以上の方や強度近視の方は白内障手術も同時に行うことが一般的で、一般的な黄斑前膜であれば手術時間は白内障との同時手術で30分程度です。​

黄斑疾患の最新治療法 – 抗VEGF療法と硝子体手術

黄斑疾患の治療法は病気の種類によって異なります。滲出型加齢黄斑変性に対しては、抗血管新生療法(抗VEGF療法)が最も効果的な治療法として確立されています。加齢黄斑変性の原因となる脈絡膜新生血管は、血管内皮増殖因子(VEGF)というたんぱく質によって成長が促進されます。この最も重要な原因物質であるVEGFを抑える薬剤が開発され、硝子体内注射という方法で眼に直接注射します。​
治療のスケジュールは病状により異なりますが、一般的には初めに3回毎月連続で注射を打ち、その後は必要に応じて注射をする、あるいは計画的に投与間隔を決めて注射を行っていきます。治療効果の出方には個人差があり、長期にわたって注射を継続する必要があることもしばしばあります。中断すると再発し、治療前の状態に戻ることもあるため、根気よく治療を続けることが重要です。​
黄斑円孔の治療は硝子体手術が基本です。初期(ステージ1)であれば稀に硝子体がきれいに外れて自然治癒することがありますが、進行すると自然治癒することはありません。ステージ2以降では自然治癒することはまずないため、進行して黄斑円孔が大きくなり視力低下が高度になる前に治療を行います。手術の終了時に眼の中の水をガスと置き換え、ほとんどの場合白内障の手術も同時に行います。​
黄斑円孔は小さいものであれば手術で95%以上治りますが、進行したものや大きいもの、強度近視のものでは治療成績が悪いと言われています。難治性の黄斑円孔の治療成績を上げるため、内境界膜翻転法などの手法が積極的に取り入れられています。​
黄斑浮腫の治療は、原因疾患によって異なりますが、抗VEGF療法、ステロイド局所療法、レーザー治療、硝子体手術などがあります。糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対しては、加齢黄斑変性にも用いられる抗血管新生療法が効果的であることが分かっています。​

黄斑疾患を防ぐ生活習慣とサプリメント活用法

黄斑疾患、特に加齢黄斑変性の予防には生活習慣の見直しが非常に重要です。禁煙が最も大切で、喫煙は加齢黄斑変性の最大の危険因子とされています。たばこがやめられない方は禁煙外来などにかかり、速やかに禁煙することが推奨されています。

参考)加齢黄斑変性の場合、日常生活で気を付けることはありますか? …


太陽光などの紫外線は網膜にダメージを与え、加齢黄斑変性になりやすくなるため、サングラスで眼を日頃から保護することが大切です。特に日射しの強いときにはサングラスを使用し、遮光を心がけることが予防につながります。

参考)加齢黄斑変性に対するサプリメント|社会医療法人三栄会 ツカザ…


食事のバランスも重要で、網膜の細胞を障害する活性酸素の悪影響を軽減するための抗酸化ビタミン(ビタミンE、ビタミンC、ベータカロチンなど)を含む食品、ミカン、大豆、玄米、ニンジン、カボチャなどを積極的に摂りましょう。また抗酸化酵素を構成するミネラル(亜鉛など)を含む食品(牡蠣や海藻など)も有効です。緑黄色野菜、特に黄斑を保護する作用のある色素ルテインを含むホウレンソウ、ケール、ブロッコリーや、オメガ3脂肪酸を含むイワシ、サンマ、アジなどの赤身の魚も積極的に摂るようにしましょう。​
サプリメントに関しては、2001年に発表されたAREDS(Age Related Eye Disease Study)と2013年に発表されたAREDS2という2つのアメリカでの大規模研究により、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、銅、ルテイン、ゼアキサンチンの組み合わせにより加齢黄斑変性の発症頻度を下げることができることが実証されました。​
AREDS2ではルテイン10mg以上、ゼアキサンチン2mg以上で効果が出ることが明らかになっています。ルテインには抗酸化作用があり、網膜の黄斑部分の色素量を増加させることで、光の刺激から目を保護する効果があります。日本眼科学会でもルテインなどのサプリメントは加齢黄斑変性の発症を予防すると勧められています。

参考)サプリメントについて – 保倉眼科|南千里駅すぐ- 白内障 …


サプリメントは病気を治すものではなく進行を抑える補助的な役割ですが、継続的に摂取することで効果が期待されます。特に片目に加齢黄斑変性がある人は、もう片目の発症確率を下げるためにサプリメントの服用が強く推奨されています。肥満や高血圧、脂質異常症も危険因子と考えられているため、これらの生活習慣病の管理も重要です。

参考)加齢黄斑変性とサプリメントについて | 岐阜市の眼科| 真鍋…


日頃から片目をふさいで左右それぞれの目の見え方を自分でチェックし、異変があれば早めに眼科を受診することが大切です。定期的な通院と医師の指導に従った管理が視力を守るカギとなります。​
公益社団法人日本眼科医会の加齢黄斑変性に関する詳細情報

加齢黄斑変性の症状、検査、治療、予防について包括的な情報が掲載されています。

日本眼科学会の加齢黄斑変性の解説ページ

加齢黄斑変性の基本情報と最新の治療法について専門的な解説があります。

日本眼科学会の黄斑円孔の解説ページ

黄斑円孔の原因、症状、診断、治療法について詳しく説明されています。