結膜下出血とコンタクトの関係
結膜下出血は眼科診療で頻繁に遭遇する良性疾患ですが、患者さんにとっては見た目の派手さから不安を感じやすい症状なんです。特にコンタクトレンズ装用者における結膜下出血は、若年層で増加傾向にあり、医療従事者として正確な知識と適切な患者指導が求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3702240/
結膜下出血の発生頻度は一般集団で約2.9%と報告され、年齢とともに増加する傾向があります。しかし若年患者では、外傷とコンタクトレンズ使用が主要なリスク因子となっており、高齢者における高血圧や糖尿病などの全身血管疾患とは発症機序が異なるんですよ。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11402326/
コンタクトレンズ関連の結膜下出血の発生率は約5.0%と報告されており、1980年代以降、コンタクトレンズ装用人口の増加に伴い、急性出血性結膜炎に代わって主要な原因の一つとなっています。
結膜下出血の原因とコンタクトレンズの影響
結膜下出血は結膜血管の破綻により結膜下組織に出血が生じた状態で、多くは特発性ですが、コンタクトレンズ装用者では特有の発症メカニズムが存在します。
参考)https://www.acuvue.com/ja-jp/memamori/eye-health/316/
コンタクトレンズによる結膜下出血の主な原因として、以下が挙げられますよ。
- レンズの不適切な着脱時における結膜への機械的外傷
- 長期使用による使い捨てレンズの劣化や縁の欠損
- ハードレンズの材質欠陥や表面沈着物
- 不適切な保存やケア不足による衛生問題
- 長い爪や器具使用による着脱時の損傷
Subconjunctival hemorrhage: risk factors and potential indicatorsの研究では、コンタクトレンズ関連の結膜下出血は側頭部の結膜に限局する傾向があり、全身血管疾患に伴う広範囲の出血とは異なる分布を示すことが明らかにされています。
結膜弛緩症とコンタクトレンズの関連も重要です。コンタクトレンズ装用者は非装用者と比較して結膜弛緩症の罹患率が高く、弛んだ結膜がまばたきや眼球運動時に摩擦を起こし、血管破綻のリスクを高めるんですよ。
参考)なぜ?同じ場所で「結膜下出血」を繰り返す原因。早く治す方法は…
結膜下出血
結膜下出血発生時のコンタクト使用可否
結膜下出血が発生した際、コンタクトレンズの使用は基本的に控えるべきです。
参考)結膜下出血の場合、コンタクトの使用は可能ですか? |結膜下出…
医療従事者として患者さんに説明すべき理由は以下の通りですよ。
- 出血そのものは結膜下にあるためレンズが直接悪化させることは少ないが、装用による摩擦や乾燥が治癒を妨げる可能性がある
- レンズの着脱時に無意識に目をこすったり、衛生状態が不十分だと結膜炎などの併発リスクが高まる
- 結膜下出血と診断されても他の疾患が隠れている可能性があり、装用継続が症状を長引かせる恐れがある
アキュビューの医療情報によると、どうしても使用が必要な場合は眼科医と相談のうえ、装用時間を短くしたり清潔を徹底することが重要とされています。
治癒が確認されるまではメガネでの代用が安心であり、1~2週間程度で自然吸収される軽度の結膜下出血でも、この期間はコンタクトレンズの使用を中止するよう指導すべきです。
出血量が多い場合は2~3ヶ月かかることもあるため、長期的な装用中止が必要になるケースもあります。
参考)目の中に赤いできものがある(白目が赤い・瞼が赤く腫れた)にお…
結膜下出血の診断と鑑別診断
結膜下出血の診断は視診で比較的容易ですが、充血との鑑別が重要なんです。
結膜下出血と充血の主な違いを表にまとめました。
| 所見 | 結膜下出血 | 結膜充血 | 毛様充血 |
|---|---|---|---|
| 外観 | 点状または斑状の赤み | 結膜周辺部の赤み | 角膜周辺の青紫色を帯びた赤み |
| 血管走行 | 不明瞭 | 明瞭で拡張した血管が見える | 角膜に近いほど強い充血 |
| 痛み | なし | なし~軽度 | あり(強い) |
| 目やに | なし | あり | なし |
| 視力低下 | なし | なし~軽度 | あり得る |
細隙灯顕微鏡検査により、結膜下出血では血管の破綻部位や出血の広がりを詳細に観察できますよ。
参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=25040
結膜下出血自体で痛みを生じることは少なく、他人からの指摘や鏡を見て自分で気づき驚いて受診する症例が多いです。特発性の場合、出血の周囲に結膜充血を伴わないことが特徴的で、充血を伴っていれば外傷や感染などの原因疾患を考える必要があります。
結膜下出血を伴う疾患として、急性出血性結膜炎が重要です。エンテロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24型による感染で、突発性の濾胞性結膜炎、粘液性分泌物、流涙、眼瞼浮腫を特徴とし、上眼瞼結膜や上方球結膜に点状出血や広範な結膜下出血を伴います。
こちらの論文では、アデノウイルス8型、11型、19型でも結膜下出血が観察される場合があると報告されています。
結膜下出血の治療と患者指導
結膜下出血の治療は原因により異なりますが、特発性あるいは眼科手術・結膜下注射などにより生じたものに対しては治療不要で、1~2週間で自然吸収されて治癒します。
参考)結膜下出血の治療
医療従事者が患者さんに伝えるべき重要なポイントは以下ですよ。
- 軽度の結膜下出血は10日前後で自然吸収されるため治療の必要はない
- 出血量が多い場合は時間がかかるが必ず吸収される
- 出血は赤色から茶色、そして黄色へと変化しながら消えていく
- 吸収促進の目的で点眼薬が処方される場合がある
- コンタクトレンズ装用者は治癒まで使用を中止する
結膜下出血の原因疾患が明らかな場合は、原因に対する治療を行います。感染性結膜炎であれば抗炎症薬や二次感染予防の抗菌点眼薬などで治療しますが、エンテロウイルスやコクサッキーウイルス、アデノウイルスに有効な抗ウイルス薬は市販されていないため対症療法が中心です。
頻回に再発する症例では結膜弛緩症の有無や重症度を観察し、結膜弛緩症が原因であれば手術を考慮する場合もあります。特にコンタクトレンズ装用者で結膜弛緩症が認められる場合、装用方法の見直しや手術的治療の検討が必要になることがあるんです。
同じ場所で結膜下出血を繰り返す患者さんへの対応も重要で、以下の原因を考慮すべきですよ。
- 結膜弛緩症による慢性的な摩擦
- ドライアイによる血管脆弱性
- コンタクトレンズの誤った使用法
- ストレス過多による血管への影響
- 血液疾患や凝固異常
こちらの医療情報サイトによると、40歳以上で結膜弛緩症による繰り返す結膜下出血が多く見られます。
結膜下出血における全身評価の重要性
反復性または持続性の結膜下出血では、全身性の評価が必要になります。
医療従事者として評価すべき全身因子は以下の通りです。
- 高血圧:50歳以上で最も重要なリスク因子であり、全患者で血圧測定が推奨される
- 糖尿病:血管脆弱性を高め、結膜下出血のリスクを増加させる
- 動脈硬化:加齢とともに結膜血管を含む全身の血管が脆弱化する
- 血液凝固異常:血小板減少症、白血病、貧血などの血液疾患
- 抗凝固療法:ワルファリン、アスピリン、クロピドグレル、ダビガトランなど
Pittsらの研究では、結膜下出血患者の血圧は初診時、1週間後、4週間後のいずれも健康対照群より高く、高血圧の発生率が高いことが示されており、全患者で血圧チェックが推奨されます。
抗凝固療法を受けている患者では、ワルファリン服用者の0.35%に結膜下出血が発生したとの報告がありますが、そのうち3名のみがINR目標範囲を超えていました。治療範囲内のINRでも結膜下出血は発生し得るため、抗凝固療法自体が独立したリスク因子と考えられますよ。
詳細な薬剤歴の聴取も重要で、以下の薬剤が結膜下出血と関連する可能性があります。
- 抗血小板薬:アスピリン、ジピリダモール
- 抗凝固薬:ワルファリン、ダビガトラン(直接トロンビン阻害薬)
- インターフェロン療法:慢性ウイルス性肝炎治療中の患者
- リバビリンとの併用療法:血管性眼科副作用のリスク
参天製薬の医療情報では、出血が止まっても赤目が広範で長引いているひどい場合は、吸収促進の目的で点眼薬が処方されることがあると説明されています。
乳児における両側性の孤立性結膜下出血は、非偶発的外傷(虐待)を強く疑うべき所見であり、特に顔面点状出血を伴う場合は外傷性窒息症候群の可能性を考慮し、小児科医による全身評価が必要です。
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