血液希釈薬一覧と希釈方法について
血液希釈薬一覧と血液凝固阻止薬の分類
血液希釈薬は、血液の粘度を下げて循環を改善する薬剤群です。これらは大きく分けて以下のカテゴリーに分類されます。
- ヘパリン系薬剤
- 未分画ヘパリン:標準的な抗凝固薬
- 低分子量ヘパリン:フラグミン(ダルテパリンナトリウム)など
- 合成ペンタサッカライド:フォンダパリヌクスなど
- 直接トロンビン阻害薬
- アルガトロバン
- ビバリルジン
- ダビガトラン
- Xa因子阻害薬
- リバーロキサバン
- アピキサバン
- エドキサバン
- ビタミンK拮抗薬
- 血小板凝集抑制薬
特に臨床現場で頻用されるフラグミン静注(ダルテパリンナトリウム)は、血液透析時の抗凝固薬として広く使用されています。通常、成人には体外循環開始時、15〜20国際単位/kgを回路内に単回投与し、その後は毎時7.5〜10国際単位/kgを持続注入します。出血傾向を有する患者では投与量を減量し、10〜15国際単位/kgの単回投与後、毎時7.5国際単位/kgを持続注入します。
血液希釈薬一覧と救急カートの希釈が必要な薬剤
救急カートには、緊急時にすぐに使用できるよう様々な薬剤が準備されていますが、その中には希釈が必要な薬剤も含まれています。以下に主な薬剤とその希釈方法を示します。
アドレナリン(エピネフリン)
- 形態:アンプル
- 希釈方法:1mg/1mLのアンプルを生理食塩液19mLで希釈(0.05mg/mL)
- 投与速度:0.01γ=0.6mL/h(γはμg/kg/minを表す)
ドパミン塩酸塩
- 形態:点滴静注液バッグ(600mg/200mL)
- 希釈方法:原液のまま使用可能
- 投与速度:1γ=1mL/h
ニカルジピン塩酸塩
- 形態:注射液(10mg/10mL)
- 希釈方法:原液のまま使用可能
- 投与速度:1γ=3mL/h(0.5〜10γ)
ニトログリセリン
- 形態:静注(5mg/10mL)
- 希釈方法:原液または2V+生理食塩液20mL
- 投与速度:0.1γ=0.6mL/h(原液)、1γ=0.6mL/h(希釈液)
これらの薬剤は、心拍再開後やショック時など、バイタルサインの程度により希釈濃度を変更する必要があります。施設によって救急カートに入っている薬剤の種類や量が異なる場合があるため、所属先の方針に従うことが重要です。
血液希釈薬一覧と輸液製剤の希釈方法
輸液製剤は、血液希釈や循環血液量の維持に重要な役割を果たします。代表的な輸液製剤とその特性について解説します。
ヘスパンダー輸液(ヒドロキシエチルデンプン70000配合剤)
- 特徴:血漿増量剤として使用され、循環血液量の維持に効果的
- 効果:脱血後のイヌに脱血量の1.5倍量を輸注した場合、等量輸注以上の血圧保持効果が認められた
- 血液粘度低下作用:10%デキストラン40と比較して、血液粘度の低下に効果的
- 浸透圧:血漿に近似しているため、赤血球形態に悪影響を及ぼさない
- 電解質組成:細胞外液に近似しており、配合された乳酸塩によりアシドーシスの予防に有効
生理食塩液(0.9%NaCl)
- 特徴:等張液で、細胞外液量の補充に使用
- 希釈用途:多くの注射薬の希釈に使用される基本的な溶媒
- 注意点:大量投与で高塩素性代謝性アシドーシスのリスクがある
5%ブドウ糖液
- 特徴:等張液でエネルギー源として使用
- 希釈用途:カテコールアミン系薬剤など特定の薬剤の希釈に適している
- 注意点:電解質を含まないため、電解質補充には不適
乳酸リンゲル液
- 特徴:電解質組成が細胞外液に近似
- 用途:手術時の輸液や脱水症の補正
- 希釈効果:体外循環の充填液としてヘスパンダーと併用すると効果的
これらの輸液製剤は、患者の状態や治療目的に応じて適切に選択・希釈することが重要です。特に手術時や体外循環時には、循環血液量の維持と適切な血液粘度の確保が患者予後に大きく影響します。
血液希釈薬一覧と凝固因子製剤の使用法
血液凝固因子製剤は、凝固障害の治療や予防に使用される重要な薬剤です。以下に主な製剤とその特性を紹介します。
ファイバ静注用(活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤)
- 効能・効果:血液凝固第VIII因子または第IX因子インヒビターを保有する患者の出血傾向抑制
- 特徴:後天性、先天性の区別なく使用可能
- 禁忌:血液凝固因子インヒビターを有していない患者
- 希釈方法:必要に応じて適切な輸液で希釈可能
新鮮凍結血漿(FFP)
- 用途:凝固因子の補充、大量輸血時の希釈性凝固障害の治療
- 特徴:凝固因子とともに生理的凝固・線溶阻害因子(アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSなど)も補給できる
- 投与量:10~15mL/kgまたは新鮮凍結血漿/赤血球液の適切な比率で投与
- 特記事項:出血症状が前面に現れる産科的DICでは、最優先で投与される
ロミプレート(ロミプロスチム)
- 分類:トロンボポエチン受容体作動薬
- 効果:血小板産生を促進
- 用法・用量:通常、成人には、ロミプロスチムとして初回投与量1μg/kgを皮下投与し、投与開始後は血小板数、症状に応じて投与量を適宜増減
- 調製方法:1バイアル(375μg)を注射用水0.72mLで溶解し、最終濃度500μg/mLの溶液とする
これらの製剤は、患者の凝固状態や臨床状況に応じて適切に選択・投与することが重要です。特に、アンチトロンビン活性が低下している場合は、新鮮凍結血漿よりも安全かつ効果的なアンチトロンビン製剤の使用を考慮すべきです。
血液希釈薬一覧と薬剤投与時のモニタリング重要性
血液希釈薬や抗凝固薬を使用する際は、適切なモニタリングが患者安全に直結します。以下に重要なモニタリング項目とその意義を解説します。
凝固パラメータのモニタリング
- PT(プロトロンビン時間)/INR:ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬の効果判定
- APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間):ヘパリンの効果判定
- 抗Xa活性:低分子量ヘパリンやXa阻害薬のモニタリング
- 血小板数:ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)のスクリーニング
- フィブリノゲン:消費性凝固障害の評価
臨床症状のモニタリング
- 出血症状:皮下出血、粘膜出血、創部からの出血など
- 血栓症状:四肢の腫脹・疼痛、呼吸困難、胸痛など
- バイタルサイン:血圧低下、頻脈などショック症状
特殊な薬剤のモニタリング
- ミダゾラム(鎮静薬):使用時は必ずモニターを装着し、バッグバルブマスクと救急カートを準備。ベンゾジアゼピン系薬剤のため、せん妄発生や舌根沈下に注意。
- ロミプレート(血小板産生促進薬):血小板数に応じた投与量調整が必要。
- 50,000/μL未満:1μg/kg増量
- 50,000~200,000/μL:治療上必要最小限の用量に調整
- 200,000~400,000/μL:1μg/kg減量
- 400,000/μL超:休薬
希釈薬剤投与時の注意点
- 投与速度:急速投与による副作用(低血圧、アナフィラキシーなど)に注意
- 配合禁忌:薬剤間の相互作用や配合変化に注意
- 電解質バランス:特に大量輸液時は電解質異常に注意
- 腎機能:多くの抗凝固薬は腎排泄のため、腎機能低下患者では用量調整が必要
適切なモニタリングにより、薬剤の効果を最大化しつつ副作用を最小限に抑えることができます。特に高齢者や腎機能障害患者、多剤併用患者では、より慎重なモニタリングが求められます。
血液希釈薬一覧と特殊状況での投与法
特殊な臨床状況では、通常とは異なる血液希釈薬の選択や投与法が必要となります。以下に代表的な特殊状況とその対応を解説します。
大量出血・大量輸血時
- 希釈性凝固障害対策:新鮮凍結血漿の使用(10~15mL/kg)
- 輸血比率:新鮮凍結血漿/赤血球液の比率を適切に保つ
- 低体温予防:加温輸液システムの使用
- カルシウム補充:クエン酸による低カルシウム血症予防
腎機能障害患者
- 低分子量ヘパリン(フラグミンなど):腎排泄のため用量調整が必要
- アルガトロバン:肝代謝のため腎機能障害患者に適している
- 血液透析患者:透析回路内の抗凝固にはナファモスタットやヘパリンが使用される
肝機能障害患者
- ワルファリン:肝での合成が低下するため効果増強の可能性
- 直接経口抗凝固薬(DOAC):重度肝障害では禁忌または慎重投与
- ヘパリン:肝機能の影響を受けにくいが、凝固因子低下に注意
妊婦・産褥期
- ヘパリン:胎盤通過性が低く、妊婦に使用可能
- ワルファリン:胎盤を通過し催奇形性があるため妊娠初期は禁忌
- 産科的DIC:新鮮凍結血漿の投与が最優先
小児
- 体重に応じた厳密な用量調整
- 血管確保の困難さを考慮した投与経路の選択
- 成人と異なる薬物動態を考慮した投与間隔の調整
高齢者
- 腎機能低下を考慮した用量調整
- 転倒リスクを考慮した抗凝固療法の選択
- ポリファーマシーに注意した薬剤選択
これらの特殊状況では、通常の投与プロトコルに加えて、患者個別の状態に応じたきめ細かな投与調整が必要です。また、多職種連携によるモニタリングと迅速な対応が患者安全に直結します。
特に救急領域では、ソル・コーテフ(ヒドロコルチゾン)やソル・メドロールなどのステロイド製剤も、ショックや重症アレルギー反応に対して使用されます。これらは直接的な血液希釈薬ではありませんが、急性循環不全に対して血管保護作用を発揮し、血液希釈薬と併用されることがあります。
以上が血液希釈薬の一覧と希釈方法に関する包括的な解説です。臨床現場では、患者の状態や治療目的に応じて適切な薬剤選択と投与法を選択することが重要です。また、施設ごとのプロトコルや最新の添付文書情報も常に確認するようにしましょう。