結晶誘発性関節症と診断と治療
結晶誘発性関節症の痛風と偽痛風の鑑別
結晶誘発性関節症は、関節内に析出・沈着した結晶が炎症を誘発して起きる関節炎の総称で、臨床上の中心は痛風(尿酸ナトリウム:MSU)と偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物:CPPD)です。Mindsの「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版」でも、痛風発作は「MSU結晶による結晶誘発性関節炎」と整理され、病因(結晶)で定義される点が強調されています。
偽痛風は高齢者の大関節(特に膝)に多く、急激な疼痛に加えて腫脹・発赤・発熱を伴い得るため、初療では感染性関節炎との区別が常に問題になります。日本リウマチ学会の解説でも、膝関節が半数以上を占めること、X線での軟骨石灰化(chondrocalcinosis)や関節液でのCPPD結晶証明が診断の柱であることが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12038470/
臨床現場でありがちな落とし穴は「尿酸値で痛風を否定する」「石灰化像で偽痛風を決め打ちする」ことです。尿酸は発作時に必ずしも高値とは限らず、逆に高尿酸血症があっても“その関節炎が痛風”とは限らないため、最終的には炎症関節から得た検体(関節液)で結晶を確認する姿勢が安全です。minds.jcqhc+1
鑑別で最優先に置くべきは化膿性関節炎です。偽痛風の解説でも、急性発作時の関節液は強い炎症所見を示すため、グラム染色・培養などで化膿性関節炎を除外する必要があると明記されています。
結晶誘発性関節症の関節穿刺と偏光顕微鏡の実際
結晶誘発性関節症の確定診断は、関節穿刺で採取した関節液を偏光顕微鏡で観察し、結晶の形状と複屈折性からMSUとCPPDを見分けることです。日本リウマチ学会は、CPPD結晶が「菱形または桿状」で「弱い正の複屈折性」を示すことを挙げ、関節液内でCPPDが確認できれば診断確定と説明しています。
MSUとCPPDの“違いが見える”ことは教育的価値が高い一方、検査の品質管理が診断精度を左右します。CRCグループの解説では、結晶検査はMSUとCPPDの鑑別に用いること、ただしCPPD結晶検出の感度・特異度は十分高くないため一般検査や細菌検査を併用すること、さらに手袋粉(タルク)など異物混入が紛らわしい点が注意として挙げられています。
参考)https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/128.html
また、関節液は「結晶を見る」だけで終わりにせず、同一検体で“感染を見落とさない”設計にします。実務的には、細胞数・分画、グラム染色、培養(必要なら結晶鏡検と同時に)をセット化し、抗菌薬投与前に採取するのが原則です(発熱、免疫抑制、高CRP、人工関節などがあれば特に)。日本リウマチ学会も、グラム染色と培養で化膿性関節炎を除外すべきとしています。
あまり知られていないが、実務に効く視点として「検体の保存・搬送条件」があります。関節液中結晶の同定は、採取後の時間経過や保存条件で検出性が揺らぎ得るため、院内の時間外体制や検査部との連携(いつ、どの機器で、誰が鏡検するか)を事前に決めておくと、夜間救急での“診断の空白”が減ります。関節液検体の保存影響を扱った国内報告もあり、現場の手順書整備の根拠として使えます。
結晶誘発性関節症の画像検査と超音波とX線とCT
結晶誘発性関節症の画像は、確定診断そのものというより「穿刺を後押しする情報」「穿刺が難しい状況での補助線」として価値があります。偽痛風ではX線で軟骨石灰化が線状に見えることがあり、典型例では膝半月板の石灰化がポイントになると日本リウマチ学会が解説しています。
痛風側では、関節超音波で尿酸塩結晶沈着を示唆する所見が知られています。国内資料では、軟骨表面に沈着した尿酸塩結晶が線状高エコーとして描出される“double contour sign(DCS)”が尿酸塩沈着として特異的に認められる所見として説明されています。
参考)https://higasiguti.jp/page/pdf/series5.pdf
一方で“DCSが見えた=痛風確定”と短絡しないことも大切です。DCSは結晶性関節炎全体では一定の診断性能を示す一方、痛風とCPPDの鑑別には限界がある、という検討を踏まえた解説もあります(超音波だけで決め切らず、臨床像・採血・穿刺所見を統合する)。
参考)関節エコーのDouble Contour Signは痛風に特…
CT領域ではDual-energy CT(DECT)がMSU結晶を描出し得るとされ、穿刺困難例の補助として期待されます。国内の臨床解説でも、DECTによるMSU結晶描出が偏光顕微鏡と同程度の感度・特異度が期待できる旨が述べられており、特に非典型部位や深部病変で“結晶の存在証明”に寄与し得ます。
参考)https://kounyousan.jp/currentlecture/006.html
結晶誘発性関節症の治療とNSAIDとステロイドと入院判断
治療は「急性炎症を安全に鎮める」ことが第一で、同時に「感染を否定できているか」を常に点検します。偽痛風では、急性発作が1~3日で軽快し得ること、対症療法としてNSAID、冷却、関節液排出、関節内ステロイドが有効であることが日本リウマチ学会により整理されています。
痛風でも急性期はNSAIDやコルヒチン、ステロイドなどが選択肢になりますが、医療安全上の肝は「腎機能」「消化管出血リスク」「抗凝固療法」「感染疑い」を踏まえた個別化です。高尿酸血症・痛風の診療はガイドラインで体系化されており、痛風がMSU結晶による結晶誘発性関節炎である点を踏まえつつ、慢性期は尿酸管理(再発・結節・腎障害予防)を別立てで考える構造が示されています。minds.jcqhc+1
入院判断は「診断がつかないから入院」ではなく、「外来で安全に除外できない鑑別が残るから入院」という発想が有用です。日本リウマチ学会は、施設によっては時間外にCPPD結晶検査ができず化膿性関節炎を否定できない場合、入院して経過観察するのも一法と明記しており、救急外来の現実に即したメッセージになっています。
実務上は、次の状況を“赤信号”として扱うとブレにくくなります。
- 🧫 関節穿刺で膿性、グラム染色陽性、培養待ち(抗菌薬前採取ができたかも含め再確認)。
- 🌡️ 高熱・悪寒、免疫抑制、人工関節、皮膚感染の併存など、感染リスクが高い背景。
- 💉 結晶が確認できても、感染が完全に否定できない(結晶と感染が併存する可能性を意識)。
結晶誘発性関節症の独自視点:検査室運用と関節液の前処理
検索上位の総説は「痛風/偽痛風の教科書的整理」が中心になりがちですが、医療従事者向けブログで差がつくのは“運用設計”です。偽痛風の解説でも、クリニックで関節液内CPPD結晶の検査が困難な場合は紹介が適切とされ、診断が施設機能(偏光顕微鏡・検査技師・時間外対応)に依存する現実が示されています。
そこで、院内でできる工夫を「診療プロセス」として言語化すると、若手や他職種との共通言語になります。
- 🧾 オーダーセット化:関節液(細胞数・分画、結晶、グラム染色、培養)をワンセットにして採取漏れを減らす。crc-group+1
- ⏱️ 時間外フロー:夜間は「結晶鏡検ができない」前提で、感染否定(グラム染色・培養)を最優先に回す。
- 🧤 異物混入対策:手袋粉(タルク)などが結晶と紛らわしいため、採取・塗抹・鏡検の手順を標準化する。
さらに、臨床側が知っておくと得をする“意外なポイント”として、CPPD結晶は炎症が明らかでない関節液でも認められ得る、という報告があります。CPPD関連関節症患者の非炎症性関節から採取した関節液でもCPPD結晶が見られたとする研究があり、症状と結晶所見が必ずしも1対1で対応しない可能性を示唆します(=結晶は“犯人”であると同時に“背景所見”にもなり得る)。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1755314/
最後に、結晶誘発性関節症は痛風・偽痛風以外の結晶(例:ハイドロキシアパタイトなど)も含む概念である点を、チーム内教育として添えると視野が広がります。CRCグループは、結晶成分としてMSU、CPPDに加えてハイドロキシアパタイト(塩基性リン酸カルシウム)なども挙げており、肩の石灰沈着性腱板炎など“関節周囲”の疼痛も広義の結晶誘発性炎症として説明できます。
検査・診断の根拠(痛風の定義・診療の全体像):Minds 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版
参考)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 – Mindsガ…
偽痛風の診断・鑑別(X線所見、関節液、感染除外、時間外の実務):日本リウマチ学会(JCR)偽痛風
関節液結晶鏡検の実務注意(異物混入、CPPDの限界、併用検査):CRCグループ 関節液結晶について
関節液検体の保存と結晶同定(運用改善の根拠に使える国内データ):J-Stage 関節液中結晶の検出・同定に対する保存影響の検討