結晶誘発性関節症
結晶誘発性関節症の診断と偏光顕微鏡と関節穿刺
結晶誘発性関節症(crystal-induced arthropathy)は「関節内あるいは周囲組織への結晶沈着が炎症を引き起こす病態」の総称で、臨床では痛風(尿酸ナトリウム:MSU)とCPPD結晶沈着症(いわゆる偽痛風)が中心です。関節が腫れて熱感が強い、動かすと激痛、発熱を伴う、という典型像はよく似るため、“症状だけで決め打ちしない”姿勢が安全域を広げます。特に高齢者の大関節(膝など)に急性発作が起きたときはCPPDを積極的に疑うべきだとされています。
診断の王道は関節穿刺(arthrocentesis)で、得られた関節液を「一般検査(細胞数など)+結晶検査+細菌学(グラム染色・培養)」まで一気通貫で評価する流れです。CPPDについては、X線での石灰化像(線状・半月板など)で疑いを強め、関節液でCPPD結晶が確認できれば確定、という整理が日本リウマチ学会の一般向け解説でも明確に書かれています。
参考)https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/gitsufu/
偏光顕微鏡検査は、CPPD結晶が「菱形/桿状」かつ「弱い正の複屈折」、MSU結晶が「針状」かつ「強い負の複屈折」といった“教科書的対比”が基本になります(ただし実際には視野条件や経験差の影響を受けます)。「結晶が見えない=結晶誘発性ではない」と短絡しないことも重要で、結晶量が少ない・小さい・取り扱い不良・観察者の習熟度などで見落としが起き得る点は、結晶検査の現場注意としても指摘されています。
意外と見落とされる実務ポイントは、検体混入(手袋粉のタルクなど)で“結晶っぽい異物”が入り、判断を迷わせることです。検体の採取・取り扱い時に混入を避ける注意喚起がされており、救急外来や当直帯ほど手技の標準化が効いてきます。
また、結晶同定は診断だけでなく「治療戦略の分岐」に直結します。痛風では急性期対応と尿酸管理(慢性期)の二層構造をとり、CPPDでは特異的治療(結晶沈着そのものを除去する治療)が乏しいため、急性炎症をどう安全に鎮めるかが中心になります。
この差は、患者説明でも重要で、たとえばCPPDでは“痛風と違い食事療法が本質的ではない”といった生活指導の方向性にも影響します。
結晶誘発性関節症の鑑別と化膿性関節炎とグラム染色
結晶誘発性関節症の鑑別で最も重要なのは、敗血症性(化膿性)関節炎を落とさないことです。CPPDの急性発作でも、発熱や炎症反応上昇、関節液での強い炎症所見が出るため、臨床像だけだと感染の否定が難しいケースがあります。
そのため、関節穿刺を行った場合は「結晶を探す」だけで終わらせず、グラム染色と培養で感染の除外までセットにする設計が合理的です。
現場で悩ましいのは「結晶が出たら感染は否定できるのか」という問いですが、結晶が見えたとしても感染を完全には排除できない状況はあり得ます(たとえば感染と結晶誘発性の併存を疑うべき臨床経過、免疫抑制、皮膚病変からの波及など)。日本リウマチ学会の解説でも、急性発作時は化膿性関節炎を血液検査・関節液検査などで除外する必要がある、と明確に注意喚起されています。
鑑別の“実装”としては、次のような分岐が実務的です。
- 初発の急性単関節炎(特に高齢者・膝):CPPDを疑いつつ、感染除外の優先度を高く置く。
- 時間外で結晶検査ができない施設:感染否定ができないなら入院で経過観察も一法、という現実的な提案がされています。
- 画像で石灰化があっても:それだけで確定にはせず、可能なら穿刺へ寄せる。
さらに、鑑別の視点を“関節内”から“関節周囲”へ広げるのもポイントです。関節周囲の石灰沈着性病変(例:石灰沈着性腱板炎など)は、腫脹や発赤を伴い、感染・結晶誘発性関節炎と混同され得るため、局在(圧痛点、可動域制限のパターン)と画像で切り分ける姿勢が安全です。
結晶誘発性関節症の画像とX線と関節エコー
画像は結晶誘発性関節症の診療で「診断の近道」に見える一方、役割を整理して使うと強力です。CPPDでは、まずX線で軟骨へのピロリン酸カルシウム沈着により線状の石灰化像が見られ、膝の典型例では半月板石灰化が手がかりになる、とされています。
ただし、X線で石灰化が明瞭でないケースもあるため、「画像が陰性だからCPPDではない」とは言い切れません。
関節エコーは、結晶沈着や滑膜炎、関節液貯留などをベッドサイドで評価でき、穿刺部位の同定にも役立つため、救急・病棟ともに親和性が高いモダリティです。実際、CPPDではX線や関節エコーで沈着を確認でき、診断に有用だが確定できない場合は関節穿刺を行う、という順序が提示されています。
この「確定できないなら穿刺」という一文が、画像偏重にブレーキをかける臨床知として重要です。
また近年は、画像のエビデンス整理や推奨が進んでおり、結晶誘発性関節症(痛風/CPPDなど)における画像の臨床利用をまとめたEULARの推奨も公表されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11103298/
医療従事者向けの実務としては、「穿刺できるなら穿刺(感染除外も含む)」「穿刺が難しい・禁忌・拒否なら、画像と臨床経過を組み合わせて仮説の確からしさを上げ、フォロー設計を厚くする」という二段構えが現実的です。kompas.hosp.keio+1
あまり知られていない“画像の落とし穴”としては、石灰化が「結晶誘発性関節炎」ではなく「関節周囲の急性石灰沈着(periarthritis)」である可能性です。痛風・偽痛風・感染と誤診されやすい病態として報告されており、臨床像の似通いに注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9197888/
関節内のびまん性腫脹より、限局した圧痛点、特定方向の運動で増悪、画像で腱付着部周辺の沈着が強い、などがあれば“関節外”も疑う価値があります。
結晶誘発性関節症の治療とNSAIDsと副腎皮質ステロイド
急性期治療の目的は「炎症を速やかに鎮め、機能を回復し、同時に感染を見落とさない」ことです。CPPD(偽痛風)の治療については、特異的治療はなく、対症療法としてNSAIDs、患部冷却、関節液排出、コルチコステロイド関節内注入が有効、と日本リウマチ学会が整理しています。
ここでのポイントは、内服だけに寄せず、関節液排出(除圧)や局所注入という“局所介入”が選択肢に入ることです。
痛風発作の薬物療法は情報量が多いですが、臨床でまず必要なのは「何を、いつ、どの患者に避けるか」です。NSAIDsが使えないケース(高度腎機能障害など)では副腎皮質ステロイドが選択され得る、という記載があり、併存疾患で安全性が変わる点が示されています。
参考)8.痛風発作の治療
また、痛風ではコルヒチンを前兆期に頓用する、尿酸降下療法開始初期にコルヒチン・カバーが有用、という実務的な使い方も述べられています。
CPPDでも痛風でも、急性期に重要なのは「いつから効かせ、いつまで引っ張らないか」です。CPPDの急性発作は時間経過でも軽快し得る(1~3日で軽快傾向)ため、痛みのピークを越えた後は安静に寄せすぎず、状態に応じて日常生活へ戻す指導が必要とされています。
この“過度な安静を避ける”は見落とされがちで、疼痛が引いた後に廃用を残さないためのチーム介入(リハ、看護の動作指導)が効きます。
なお、治療の裏テーマは「治療反応で安心しすぎない」ことです。NSAIDsやステロイドで疼痛が改善しても感染が隠れることがあるため、穿刺が未実施の症例であれば、発熱経過、CRPの推移、局所所見、再燃を含めたフォローを厚くします。
施設の体制上、当直帯に結晶検査ができない、培養が遅れるといった制約がある場合は、入院で経過をみるのも一法、と明記されている点は現場の判断を支えます。
結晶誘発性関節症の独自視点と検体と教育
検索上位の解説では「関節穿刺して偏光顕微鏡で結晶同定」が繰り返し強調されますが、医療安全の観点からは“手技そのもの”より“運用設計”が結果を左右します。たとえば、結晶検査は結晶誘発性関節炎の鑑別に有用だが、CPPD結晶の感度・特異性は高くないため、一般検査や細菌検査を併せて行う必要がある、と検査サイドからも注意されています。
つまり「結晶検査を出す=終わり」ではなく、「感染を含む鑑別の流れとして、どの検査を同時に走らせるか」が品質を決めます。
意外な落とし穴は、検体の取り扱いと“紛らわしい異物”です。手袋粉(タルク)などが混入すると結晶と誤認し得るため、採取・取り扱いに注意するよう明確に記載されています。
この一点だけでも、手袋選択(粉なし)、採取手順の標準化、スライド作製の流れ、ラベリング、搬送時間の短縮といった、チームで改善できる余地が生まれます。
もう一つの独自視点は「教育と当直体制」です。時間外に結晶同定ができない施設は少なくなく、その場合に“感染否定ができないなら入院で経過観察”という提案が現実的に示されています。
この記載を根拠に、院内で「急性単関節炎パス(穿刺・グラム染色・培養・結晶・抗菌薬開始の判断)」や「検体の優先ルート(夜間は誰が見るか)」を整備すると、属人性が下がり、見落としリスクが減ります。crc-group+1
さらに、画像の推奨が整備されつつある今、超音波やCT/DECTなどを“結晶の代替”としてではなく、“穿刺困難例の補助線”として位置づけると意思決定がブレにくくなります。結晶誘発性関節症における画像の役割を臨床実践向けにまとめた推奨が提示されているため、診療科内の共通言語として参照しやすい点も利点です。
必要に応じて、院内教育やカンファレンスの資料に引用しやすい参考文献(英語・査読付き)。
結晶誘発性関節症での画像の使いどころ(推奨と原則)が整理されています。
必要に応じて、患者説明にも転用しやすい権威性のある日本語リンク(CPPDの症状・診断・治療の要点がまとまっています)。