健康障害の種類と分類
健康障害とは、身体的、精神的、社会的な機能に影響を与える様々な疾患や状態の総称です。 医療従事者にとって、これらの障害の種類と特徴を理解することは、適切な診断と治療を行う上で不可欠です。健康障害は原因や影響する身体部位、症状の特徴によって複数の方法で分類されています。
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世界保健機関(WHO)の国際生活機能分類(ICF)では、健康状態を「疾病の帰結に関する分類」から「健康の構成要素に関する分類」として捉える新しい健康観を提起しています。 これにより、障害を単なる機能的制限としてではなく、個人の生活機能全体の中で評価する視点が重要視されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf
健康障害の身体障害分類による理解
身体障害は身体障害者福祉法により、5つの主要な種類に分類されています。 この分類は医療現場において最も基本的な健康障害の分類方法として広く使用されています。
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視覚障害は、全盲と弱視の2つに大別されます。全盲では視覚を全く使用できませんが、弱視では光を感じることができる場合があります。視覚障害の程度は、視力の測定値や視野の範囲によって7段階の等級に分けられています。
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聴覚・平衡機能障害には、音を聞く機能の障害と、身体のバランスを保つ平衡機能の障害が含まれます。これらの障害は、コミュニケーション能力や日常生活動作に大きな影響を与えることが特徴です。
音声機能・言語機能・そしゃく機能障害は、話すこと、言葉を理解すること、食べ物を噛むことに関わる機能の障害です。これらの障害は、社会参加や栄養摂取に重要な影響を及ぼします。
肢体不自由は身体障害全体の約半分を占める最も多い障害です。 四肢(上肢・下肢)、体幹の機能が先天的または後天的に損なわれ、長期にわたり歩行や筆記などの日常生活動作に困難が伴う状態を指します。
内部障害は「見えない障害」とも呼ばれ、心臓・腎臓・呼吸器・膀胱・直腸・小腸・肝臓の機能障害とHIVによる免疫機能障害の総称です。 これらの障害は外見からは分からないため、理解と配慮が特に重要となります。
健康障害の精神疾患による分類体系
精神障害は、脳の機能や構造の変化によって心に影響が出る状態及び疾患を指します。 精神疾患の分類は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)とアメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5-TR)に基づいて体系化されています。
気分障害には、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、躁病が含まれます。気分の波が主な症状として表れ、うつ状態では気持ちが強く落ち込み、何事にもやる気が出ない状態が続きます。 双極性障害では、うつ状態と躁状態を繰り返すことが特徴的です。
不安症群には、全般性不安症、社交不安症、広場恐怖症、パニック症などが含まれます。 パニック障害では強い不安と動悸や呼吸困難感などが突然出現し、日常生活に大きな支障をきたします。
統合失調症は、主な症状として幻覚・妄想があり、その他に疲れやすさ・集中力の欠如・思考力低下等が見られます。 認知機能の障害も重要な症状の一つとして認識されています。
発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症などがあります。 自閉スペクトラム症では、コミュニケーション能力や社会性に関連する困難があり、特定のことに強い関心・こだわりを持つ特徴があります。
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健康障害の職業性疾患における分類
職業性健康障害は、労働環境や作業内容に起因する疾病として分類され、厚生労働省の「職業病リスト」に基づき8つの主要カテゴリーに分けられています。
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業務上の負傷に起因する疾病は最も多い職業病で、令和4年の調査では7,081件中5,959件が腰痛でした。 重い荷物の持ち運びや同じ姿勢での作業が原因となることが多く、医療従事者においても腰痛は深刻な問題となっています。
物理的因子による疾病には、紫外線、レーザー光線、マイクロ波、電離放射線などが原因となる疾病が含まれます。 これらの因子は眼疾患、皮膚疾患、耳疾患、身体組織壊死などの様々な健康障害を引き起こします。医療現場では放射線被曝や紫外線照射装置の使用による健康リスクが存在します。
参考)https://jp.indeed.com/career-advice/career-development/what-is-occupational-disease
化学物質による健康障害は、有機溶剤、重金属、農薬などの化学物質への曝露により発生します。 医療従事者の場合、抗がん剤や消毒薬、麻酔ガスなどへの職業的曝露が問題となっています。
身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病には、振動障害、頸肩腕症候群、手指前腕の障害などがあります。 医療現場では長時間の立位作業や反復動作による運動器疾患のリスクが高くなっています。
健康障害の生活習慣病による分類システム
生活習慣病は、食事・運動・休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が発症や進行に深く関わる疾患群として分類されています。 これらの疾患は現代社会における主要な健康課題であり、予防可能な疾患として重要視されています。
参考)生活習慣病とは?おもな種類・原因・予防のポイントについて解説
3大生活習慣病は、がん(悪性新生物)、心疾患、脳血管疾患で構成され、日本人の死因の約50%を占めています。 これらの疾患は相互に関連し合い、一つの疾患が他の疾患のリスク因子となることも多いのが特徴です。
参考)生活習慣病とは?3大・7大・8大生活習慣病にどう備える?
7大生活習慣病は、3大生活習慣病に高血圧性疾患、糖尿病、肝疾患、腎疾患を加えたものです。 さらに膵疾患を加えた8大生活習慣病の概念も使用されています。これらの疾患は、生活習慣の改善により予防や進行抑制が可能であることが科学的に証明されています。
糖尿病は、血糖値の慢性的な上昇を特徴とする代謝疾患で、合併症として網膜症、腎症、神経障害を引き起こす可能性があります。 高血圧性疾患は、血圧の持続的な上昇により血管系に負担をかけ、心疾患や脳血管疾患のリスクを高めます。
健康障害の医療従事者特有の健康リスク
医療従事者は、一般的な健康障害に加えて、医療現場特有の健康リスクに曝露されています。 これらのリスクは、患者ケアの質や医療安全にも直接的な影響を与えるため、特別な注意が必要です。
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感染症リスクは医療従事者の最も重要な健康リスクの一つです。血液感染、飛沫感染、接触感染など、様々な経路での感染リスクが存在し、針刺し事故や体液曝露による二次感染の危険性があります。
参考)http://www.shiga-med.ac.jp/~hqpreve/kyouiku/socmed_fw/pdf/2016/2020_3.pdf
メンタルヘルス障害は医療業界で深刻化しており、約5%がうつや不安障害の傾向にあると報告されています。 人命を預かる責任、長時間労働、複雑な対人関係などのストレス要因が重複することで、精神的負担が増大します。
筋骨格系障害は、長時間の立位作業、重い患者の移動、不自然な姿勢での処置などにより発生します。 特に腰痛は医療従事者に最も多い職業性疾患の一つとなっています。
化学物質曝露では、抗がん剤、麻酔ガス、消毒薬、放射線などへの職業的曝露により、発がん性、生殖毒性、呼吸器障害などのリスクがあります。 適切な防護具の使用と曝露防止対策が不可欠です。
睡眠障害と疲労蓄積は、夜勤や長時間労働により引き起こされ、注意力低下、判断力低下、免疫機能低下などを招きます。 これらは医療ミスのリスク増加にもつながるため、労働環境の改善が重要です。
健康障害の分類と理解は、予防医学の観点からも重要です。一次予防(健康増進・疾病予防)、二次予防(早期発見・早期治療)、三次予防(リハビリテーション・再発防止)の各段階において、適切な対策を講じることで健康障害の発症や進行を防ぐことが可能になります。 医療従事者は、これらの健康障害の種類と特徴を深く理解し、患者ケアと自身の健康管理の両面で活用することが求められています。