痙性眼瞼内反症 症状と診断と手術治療解説

痙性眼瞼内反症の症状と診断と治療

痙性眼瞼内反症の全体像
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痙性眼瞼内反症の病態

眼輪筋の過剰な収縮により、まぶたと睫毛が一過性または持続的に眼球側へ反り返る状態で、角膜障害や眼痛の原因となる。

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鑑別と診断のポイント

加齢性・先天性・瘢痕性の眼瞼内反症との鑑別に加え、眼瞼けいれんやドライアイの評価が正確な診断に不可欠。

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治療戦略と術後フォロー

保存療法からボツリヌス毒素、各種眼瞼内反症手術までを病態に応じて組み合わせ、再発とQOLの両面を見据えた長期フォローが重要となる。

痙性眼瞼内反症の病態と眼瞼内反症との関係

痙性眼瞼内反症は、眼裂周囲の眼輪筋などの過剰な収縮を主因として、下眼瞼や上眼瞼が一時的または持続的に内側へ巻き込まれる眼瞼内反症の一亜型と位置づけられる。

加齢性眼瞼内反症が「支持組織の弛緩」を主因とするのに対して、痙性眼瞼内反症では「筋の過活動」が病態の中心であり、顔面痙攣や本態性眼瞼けいれん、角膜刺激などの二次的痙攣と関連することが多い。

一般的な眼瞼内反症は、逆さまつげの形で角膜上皮障害を引き起こし、異物感、流涙、充血、羞明などの症状を呈するが、痙性眼瞼内反症では症状の出現・増悪が瞬目や眼精疲労、ストレス負荷時に強くなるという時間的特徴がしばしばみられる。

参考)眼瞼内反症 (がんけんないはんしょう)とは

痙性要素が強い症例では、まぶたそのものの形態異常が軽度でも、眼輪筋の収縮に伴って睫毛が角膜に強く接触し、主観的症状と客観的形態所見のギャップが大きくなる点が臨床上の落とし穴となる。

参考)52.眼瞼内反

痙性眼瞼内反症は、瘢痕性眼瞼内反や熱傷後変形などの器質的内反に二次的に加わることもあり、この場合は「瘢痕性+痙性」の混合型として手術戦略の組み立てが必要になる。

痙攣性要素のみが主体で眼瞼の構造に明らかな異常が乏しい早期段階では、角膜所見やドライアイ評価と合わせて、眼瞼けいれんの初期像として捉えるか、局所的な反射性痙攣とみなすかの判断が治療方針を左右する。

痙性眼瞼内反症の症状と典型的な眼瞼所見

痙性眼瞼内反症では、角膜上皮障害に伴うゴロゴロ感や疼痛、流涙、結膜充血といった眼瞼内反症に共通する症状に加え、「まぶたが勝手にぎゅっと閉じる」「まぶしさが強い」など眼瞼けいれんを疑わせる訴えがしばしば混在する。

また、洗顔時やドライアイ点眼後など、角膜刺激が一時的に増強する状況で症状が悪化することが多く、患者が「水がしみるため洗顔を避ける」「コンタクト装用が困難」など生活行動にまで影響を及ぼす例も少なくない。

診察時には、軽い開瞼状態での眼瞼位置に加えて、自発的瞬目や強い閉瞼時の眼瞼運動を観察することで、痙性収縮により一過性の眼瞼内反が生じているかどうかを確認できる。

角膜フルオレセイン染色では、下方角膜や下方角膜縁を中心に点状表層角膜症がみられることが多く、睫毛接触部位に一致して線状や地図状の傷が出現している場合は、痙性成分の有無にかかわらず眼瞼内反症に起因する角膜障害として積極的に評価すべき所見となる。

参考)眼瞼内反症(がんけんないはんしょう)|丸山眼科医院(大阪府高…

痙性眼瞼内反症では、症状に日内変動があることも特徴で、夕方から夜間にかけて眼精疲労が蓄積する時間帯に症状が増悪しやすく、外来での一時的な所見が軽度であっても患者の生活上の負担は大きいことがある。

こうした症状と所見のギャップを埋めるためには、スマートフォンで撮影した自宅での発作時動画を患者に持参してもらうなど、医療者側が情報を引き出す工夫が有用とされる。

痙性眼瞼内反症の診断と他の眼瞼内反症との鑑別のコツ

眼瞼内反症全体の診断では、先天性、加齢性(老人性)、瘢痕性、痙性といった病型分類を意識しつつ、支持組織の弛緩や皮膚のたるみ、瘢痕の有無を系統的にチェックすることが基本となる。

痙性眼瞼内反症を疑う場合、静的な眼瞼位置だけでなく、強い閉瞼を繰り返させた際にのみ内反が顕在化するか、触診で眼輪筋緊張が亢進していないかを評価することが鑑別のポイントとなる。

加齢性眼瞼内反症では、眼輪筋の収縮が軽度でも、支持組織の緩みで睫毛が恒常的に眼球方向を向いていることが多く、睡眠時も含めて形態の変化が少ない一方、痙性眼瞼内反症では覚醒時の感情や光刺激の影響を大きく受け、症状が波打つことが多い。

参考)高齢者の下眼瞼内反症|眼瞼下垂専門サイト|蘇春堂形成外科

瘢痕性眼瞼内反症は、外傷や手術、熱傷、トラコーマなどに起因する皮膚・結膜瘢痕が特徴で、眼瞼を手指で牽引しても十分に外反しない抵抗性がみられるため、痙性眼瞼内反症との鑑別が比較的容易なパターンもある。

一方で、痙性眼瞼内反症は本態性眼瞼けいれんと同時に存在することがあり、この場合は眼瞼周囲だけでなく眉間や頬部まで巻き込んだ異常運動を呈することがあるため、日本眼科学会などが公開している眼瞼けいれん診療ガイドラインに沿った系統的評価が推奨される。

さらに、重症ドライアイでは角膜刺激が持続することで反射性に眼瞼痙攣が生じ、結果として痙性眼瞼内反症が悪化する悪循環が形成されることがあり、診断時には涙液量、BUT、角膜知覚などの評価をセットで行う視点が重要となる。

痙性眼瞼内反症の治療戦略と眼瞼内反症手術の実際

痙性眼瞼内反症の治療では、まず角膜保護と症状緩和を目的とした保存的治療を行い、人工涙液やヒアルロン酸点眼、軟膏による夜間保護を組み合わせつつ、眼瞼けいれんを合併する症例では遮光眼鏡などによる羞明対策も検討される。

保存療法で十分な改善が得られない場合や、角膜上皮障害が進行する症例では、眼輪筋の過活動を抑制する目的でボツリヌス毒素A型注射を眼瞼周囲に少量ずつ分割投与する治療が選択肢となるが、効果が一過性である点や過量投与による眼瞼下垂リスクについて患者に説明しておく必要がある。

器質的な眼瞼内反症を合併する、あるいは長期的視機能保護の観点から手術が望ましいと判断される場合には、眼瞼内反症手術が検討される。

下眼瞼では、まつげ直下の皮膚切開と眼輪筋・瞼板筋の処理を行うHotz変法や、そのバリエーションが広く用いられており、過剰皮膚と眼輪筋を切除して瞼板に縫合することで、睫毛根部を外側に回転させることができる。

参考)若い方(子供から大人まで)の逆さまつげ(眼瞼内反症・睫毛内反…

高齢者下眼瞼内反症に対しては、下まぶた皮膚を切開し、内向きに引き込む原因となる瞼板筋を切除した後、眼瞼腱膜を瞼板に再固定し、必要に応じて外眼角固定術で目尻の緩みを補正する方法が報告されている。

一方、解剖学的に「タテ」と「ヨコ」の弛緩を意識した手術として、縦方向の弛緩を矯正するJones変法と、外側靭帯を短縮・再建するLateral Tarsal Strip(LTS)があり、特に逆さまつげを伴う眼瞼内反症では、解剖学的に合理的な術式として解説されている。

参考)【60秒でわかる「眼瞼内反症」】③ 治療法 1 Jones変…

痙性要素が強い症例に対して外科的矯正を行う場合、眼瞼形態の過矯正により眼瞼外反や兎眼を生じるリスクがあるため、術前にボツリヌス毒素により痙性をある程度コントロールし、安定した状態で手術デザインを行うといった段階的アプローチが望ましいとされる。

術後は、内出血や腫脹、再発、眼瞼外反など一般的な合併症に注意しつつ、痙性成分が残存している場合には再度ボツリヌス毒素や薬物療法を組み合わせるなど、形態と機能の両面からフォローすることが重要である。

痙性眼瞼内反症を背景とする症例では、一般的な眼瞼内反症に比べて「手術をしても症状が完全には消えない」「一定期間後に症状が再燃する」ケースがあり、その際に術者・患者双方がストレスを感じやすいため、治療開始前から「痙性=慢性疾患」として長期的なマネジメントが必要であることを共有することが、医療者側の重要なコミュニケーションスキルとなる。

痙性眼瞼内反症と眼瞼けいれん・ドライアイ:見落とされやすい関連と全身疾患の視点

痙性眼瞼内反症の背景には、本態性眼瞼けいれんや片側顔面けいれんといった不随意運動疾患が潜んでいることがあり、日本神経眼科学会や日本眼科学会のガイドラインでは、単なる「逆さまつげ」の範疇にとどまらず、中枢性疾患の一表現型としての評価も求められている。

特に本態性眼瞼けいれんは、中高年女性に多く、羞明、瞬目増加、読書困難などから始まり、進行すると機能的失明に至ることもあるため、眼瞼内反症の診察時にまばたきのリズムや顔面全体の筋活動を観察することが、早期診断のきっかけとなる。

一方、重症ドライアイやコンタクトレンズ長期装用は、角膜上皮障害と知覚亢進を介して反射性眼瞼痙攣を誘発し、痙性眼瞼内反症を悪化させることがある。

この場合、単に眼瞼形態だけを矯正しても、乾燥や角膜刺激が続く限り痙性収縮が持続し、再発の温床となるため、涙液補充、保湿ゴーグル、コンタクトレンズ装用の見直しなど、環境因子を含めた包括的介入が必要になる。

さらに、抗パーキンソン薬や向精神薬の一部は、ジストニア様の不随意運動を誘発し、眼瞼けいれんや痙性眼瞼内反症を悪化させうることが知られており、問診時には内服薬の詳細確認が不可欠である。

糖尿病や自己免疫疾患による末梢神経障害が眼瞼の感覚・運動バランスに影響を与える可能性も指摘されており、単純な局所疾患として扱うのではなく、全身評価を含めた神経眼科的視点が、重症例・難治例のマネジメントにはとりわけ重要となる。

痙性眼瞼内反症では、患者の「見えにくさ」が視力表の数字だけでは捉えきれないことも多く、まぶしさや読書・パソコン作業時間、運転可否など、生活機能を把握する質問票の活用も有用とされる。

こうしたQOL指標を治療前後でフォローすることで、眼瞼内反症手術やボツリヌス治療の効果が患者の生活にどの程度波及しているかを客観的に評価でき、次の治療選択やタイミングの判断材料となる。

痙性眼瞼内反症および関連する眼瞼けいれんの診療指針と評価法の詳細は、日本眼科学会のガイドラインに整理されており、難治例の治療戦略を立てる際に有用な情報源となる。


眼瞼けいれん診療ガイドライン(日本眼科学会)