川崎病の症状と診断のポイント

川崎病の症状と診断

川崎病の主要症状
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5日以上続く発熱

38℃~40℃の高熱が平均7~10日、時には2週間以上続き、解熱剤は一時的にしか効きません。

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両側眼球結膜充血

両目の白い部分が充血しますが、目やにはほとんど出ないのが特徴です。

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口唇・口腔粘膜の変化

口唇が乾燥して真っ赤になり、舌がいちご状に腫れ、口腔咽頭粘膜全体が発赤します。

川崎病の主要症状と急性期の特徴

川崎病は1967年に川崎富作博士によって報告された急性熱性疾患で、主として5歳未満、特に4歳以下の乳幼児に多く発症します。この疾患は全身の中型・小型の筋性動脈に血管炎を起こすことが特徴で、6つの主要症状によって診断されます。

参考)川崎病の診断と治療法|小児循環器内科|小児循環器・産婦人科部…


最も顕著な初期症状は発熱で、多くの場合何の前触れもなく突然38℃から40℃の高熱が出ます。この発熱は解熱剤が一時的にしか効かず、平均して7~10日間、時には2週間から1ヶ月にわたって続くことがあります。急性期は発病から約10日目までで、この時期に多くの主要症状が現れるため、全身の炎症を抑える治療を開始することが極めて重要です。

参考)川崎病って何?【川崎病の子供をもつ親の会】


眼球結膜充血は両側性に起こり、目の白い部分の血管が拡張して赤く充血しますが、化膿性結膜炎とは異なり目やにはほとんど出ません。口唇・口腔粘膜の変化も特徴的で、唇がカサカサに乾燥して充血し、口紅を塗ったように真っ赤になります。舌はいちご状に赤く腫れる「いちご舌」を呈し、口腔咽頭粘膜全体がびまん性に発赤します。

参考)川崎病について


体や手足には大小さまざまな形の不定形発疹が現れ、BCG接種痕の発赤も診断の参考となる特徴的な所見です。手足の変化としては、手掌や足底が全体に赤くなり、手足がむくんで硬く腫れ上がる硬性浮腫が見られます。回復期(発病10日目~1ヶ月後)には、熱が下がる頃に指先の皮が膜様にめくれる落屑が特徴的に現れます。

参考)川崎病はうつる?原因・症状と治療方法|つちや小児科クリニック


首のリンパ節腫脹も主要症状の一つで、非化膿性の頸部リンパ節腫脹が認められます。興味深いことに、年長児では発熱よりも頸部痛や頸部リンパ節腫脹が先に出現することがあり、その時点では化膿性頸部リンパ節炎や流行性耳下腺炎と誤診されることもあります。

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国立循環器病研究センターの診断基準では、これら6つの主要症状のうち5つ以上があれば川崎病定型例と診断され、4つでも冠動脈瘤があれば定型例となります。​
国立循環器病研究センター – 川崎病の診断と治療法

川崎病の診断基準と不全型川崎病の見極め

川崎病の診断は、6つの主要症状のうち5つ以上を認める場合に定型例として確定診断されます。しかし、臨床現場では主要症状が4つ以下しか揃わない場合でも、他の疾患が除外され川崎病が疑われる「不全型川崎病」(incomplete Kawasaki disease: IKD)として診断・治療されるケースが増えています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10032064/


不全型川崎病は特に診断が困難で、1歳以下の乳児では特徴的な症状が揃わないことが多く、診断の遅れにつながりやすいという問題があります。実際の研究では、不全型川崎病の患児は定型例と比較して四肢の変化を認める割合が有意に低かったことが報告されています。このような不全型でも冠動脈瘤が発生するリスクがあるため、早期発見と適切な治療介入が求められます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7389855/


診断において重要なのは、心臓超音波検査(断層心エコー検査)で冠動脈に何らかの変化を認め、川崎病以外の病気が除外された場合には、主症状が4つしかなくても川崎病と診断される点です。急性期の血液検査では、白血球数と炎症反応(CRP)の上昇、低ナトリウム血症、ビリルビン値・AST・ALTの上昇、アルブミンの低下などが特徴的に見られます。

参考)川崎病の診断基準はどのようなものですか? |川崎病


診断を補助する追加の症状として、BCG予防接種部位の赤みや腫れ、関節痛、下痢、嘔吐、腹痛などがあり、これらは全身に起こる血管炎症のために引き起こされます。特にBCG接種痕の発赤は川崎病に特徴的な所見として診断の参考になります。

参考)川崎病について – 独立行政法人国立病院機構 四国こどもとお…


医療従事者にとって重要なのは、発熱が5日以上続き解熱剤に反応しない場合、また上記の症状が断片的にでも見られる場合には、積極的に川崎病を疑い、専門医への相談や心エコー検査を検討することです。不全型川崎病の早期診断には、臨床症状の詳細な観察と血液検査データの総合的な評価が欠かせません。​
川崎病診断の手引き 改訂第6版(PDF)

川崎病の合併症と冠動脈瘤のリスク

川崎病の最も深刻な合併症は、冠動脈に炎症が起こることによる冠動脈瘤の形成です。冠動脈は心臓を養っている血管であり、この血管が障害されると血管壁が弱くなり、炎症を起こした場所で血管が膨らんでこぶ(冠動脈瘤)ができます。

参考)川崎病


無治療の場合、約25~30%の患者に冠動脈の拡大性病変が生じることが報告されており、これが心筋梗塞の危険因子となります。しかし、適切な治療により冠動脈瘤の後遺症は大幅に減少し、現在では治療を受けた川崎病患者の100人中2~6人程度に冠動脈瘤が見られる程度まで改善しています。

参考)小児科の病気:川崎病


冠動脈瘤は大きさによって小瘤・中瘤・巨大瘤に分類され、大きいほど重症度が高くなります。小さい瘤は自然に小さくなり正常な大きさに戻ることもありますが、炎症が強い場合には巨大瘤となり、冠動脈の血流が悪化して血栓ができ、まれに心筋梗塞を引き起こすことがあります。冠動脈瘤をもつ患者の長期予後調査によれば、巨大瘤は全体の0.3%に発生しており、これらの患者には継続的な治療と経過観察が不可欠です。

参考)どんな合併症があるの?|川崎病 免疫グロブリン療法を受ける患…


冠動脈以外にも、川崎病は全身の血管に炎症が起こるため、様々な臓器に合併症が見られます。循環器系の合併症としては、心外膜炎、心筋炎心内膜炎、弁膜症不整脈などがあり、全身性の合併症としては麻痺性イレウス胆嚢炎膵炎、脳炎・脳症血球貪食症候群などが報告されています。

参考)川崎病にはどのような合併症がありますか? |川崎病


まれなケースとして「川崎病ショック症候群(Kawasaki disease shock syndrome: KDSS)」と呼ばれる集中治療が必要な重篤な状態が起こることもありますが、これは主に欧米からの報告で日本ではまれです。また、川崎病に関連した合併症として、軽度脳炎・脳症で可逆性脳梁病変(MERS)を伴うケースも報告されており、多くは5歳以上の小児に発症し、頭部MRI検査が早期診断に有用とされています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9385509/


冠動脈の合併症は急性期(発症2~3週ごろ)に発生することが多いため、入院中は心臓超音波検査を繰り返し実施し、退院後も定期的な心エコー検査による長期的なフォローアップが重要です。​

川崎病の治療法と免疫グロブリン療法の役割

川崎病の標準的な治療法は、免疫グロブリン製剤とアスピリンの併用療法です。免疫グロブリン製剤という薬を静脈内に点滴投与することで全身の炎症を抑え、冠動脈瘤の発生を防ぎます。この治療法は、アスピリン単独の治療法と比較して冠動脈瘤の後遺症を大幅に減らすことが可能となり、現在では川崎病患者の90%近くがこの治療を受けています。

参考)https://jskd.umin.jp/info/pdf/globulin2.pdf


免疫グロブリン療法には投与量や投与日数にいくつかの方法があり、通常は1~2日かけてゆっくりと静脈内に点滴で投与されます。日本で使用されている製剤は4種類あり、2003年に発表された「川崎病急性期治療のガイドライン」では、治療目標として「急性期の強い炎症反応を可能な限り早期に終息させ、結果として合併症である冠動脈瘤の発生頻度を最小限にすること」が掲げられています。​
川崎病と診断され発熱がある場合に免疫グロブリン製剤を投与しますが、一部の患者では初回の免疫グロブリン療法に反応せず、「免疫グロブリン不応例」となることがあります。このような不応例の予測には、末梢血リンパ球サブセットや一般的な臨床検査値を用いた予測スコアリングシステムの研究が進められています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10731968/


免疫グロブリン不応例や冠動脈障害を合併している場合には、追加の免疫グロブリン投与やステロイド療法などの追加治療が検討されます。特に、川崎病にマクロファージ活性化症候群(MAS)を合併したケース(KD-MAS)では、肝脾腫大、免疫グロブリン不応、冠動脈障害、川崎病の再発などが見られ、血清フェリチン(SF)、血小板(PLT)、フィブリノゲン(FIB)、乳酸脱水素酵素(LDH)が診断に有用な指標となることが報告されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10321427/


治療開始のタイミングが重要で、急性期(発病から約10日目)のできるだけ早期に治療を開始することで、炎症反応を速やかに抑制し、冠動脈瘤の発生を予防することができます。

参考)どんな症状があるの?|川崎病 免疫グロブリン療法を受ける患者…


川崎病と免疫グロブリン療法について(PDF)

川崎病の長期予後と医療従事者の観察ポイント

川崎病の長期予後において最も重要なのは、冠動脈後遺症の有無とその程度です。冠動脈後遺症を持つ患者は年々減少傾向にありますが、巨大瘤を持つ患者が0.3%発生しており、これらの患者には継続的な治療と経過観察が不可欠です。川崎病既往児の多くは青年期に達してきており、これらの患者の長期予後、特に成人期の動脈硬化病変への進展が懸念されていますが、未だ不明な点が多いのが現状です。

参考)http://www.kinki-kawasaki.jp/report_file/2011reportfile_01.pdf


医療従事者が押さえるべき観察ポイントとして、急性期にはバイタルサイン(特に体温・脈拍・血圧・SpO₂)の継続的なモニタリングが基本となります。発疹や粘膜の変化、四肢の腫れや皮膚の剥離、心音・心雑音の有無、呼吸状態、胸痛や動悸の訴えなど、全身状態を多角的に評価する必要があります。

参考)https://ameblo.jp/stroke-rehabilitation-ns/entry-12916177887.html


特に重要な緊急サインとして、発症2週間頃の回復期に手足の指先から皮膚が剥ける膜様落屑が見られることは正常な経過ですが、機嫌が悪く食欲低下がある場合は冠動脈瘤のリスク兆候として心エコー検査の確認が必要です。日常的な観察では、口腔内の乾燥・出血(いちご舌の悪化)や、発熱による脱水リスクに対する水分摂取量のチェックも欠かせません。

参考)https://ameblo.jp/stroke-rehabilitation-ns/entry-12913387084.html


冠動脈瘤の進行や血栓症の早期発見のために、胸痛、呼吸困難、失神、動悸などの訴えには敏感に対応する必要があります。抗血小板薬抗凝固薬を使用している場合は、歯茎出血、血尿、皮下出血などの出血傾向の観察も重要です。免疫力が低下している可能性があるため、感染予防の徹底も必須となります。​
川崎病発症10年後に冠動脈壁肥厚をきたしうる急性期の冠動脈径についての研究も進められており、長期的な予後管理の重要性が認識されています。遠隔期(発病から1ヶ月以降)の経過は急性期の合併症の重症度によって異なるため、個々の患者の状態に応じた継続的なフォローアップ計画が必要です。

参考)川崎病の治療と長期管理に関する研究


症状が急変しやすい疾患であるため、観察・記録・報告の徹底が求められ、患者や家族へのわかりやすい説明と精神的サポートも医療従事者の重要な役割となります。​

川崎病の発症原因と最新の知見

川崎病は1960年頃に日本で発見された疾患ですが、約50年にわたる研究にもかかわらず、その原因はまだ完全には明らかになっていません。ウイルスや細菌、遺伝的な要因など、さまざまな説が提唱されていますが、現時点では特定されていません。

参考)暑さで高まる子どもの川崎病リスク


興味深いことに、川崎病は日本の子どもに多く見られる一方で、海外ではほとんど見られないという地域差があります。また、日本では年々患者数が増加し続けており、最近では年間約15,000人が罹患していることから、子どもの50人に1人が川崎病で入院している計算になります。

参考)不明だった川崎病の原因が解りました。それは抗生剤の内服です。…


最近の研究では、腸内細菌の異常が川崎病の発症に関与している可能性が指摘されています。腸内細菌の異常を引き起こす主な原因として抗生剤の内服が挙げられており、過敏性腸炎などが抗生剤の内服と関連していることが分かっています。川崎病でも腸内細菌の異常が認められることから、抗生剤使用との関連性が研究されています。​
遺伝的な要因についても研究が進められており、川崎病の感受性遺伝子に関する研究では、疾患ゲノム解析が行われています。人種による発症率の違いも報告されており、川崎病ショック症候群(KDSS)が主に欧米からの報告で日本ではまれであることから、発症に人種が関係している可能性が指摘されています。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f139432441f4ef02c8fc5f9cb97c4237654fb38d


環境要因として、暑さが子どもの川崎病リスクを高める可能性も示唆されています。気温や季節性との関連についての疫学研究も進められており、川崎病は先進国で最も多い子どもの後天性心疾患であることから、その原因究明は重要な研究課題となっています。​
COVID-19との関連も注目されており、ヨーロッパとアメリカでCOVID-19が流行して以降、川崎病の発症率が有意に増加したことが報告されています。COVID-19が多臓器の炎症反応を引き起こすことが川崎病の全身性血管炎と類似しており、四肢の皮膚発疹も川崎病に似ていることから、COVID-19と川崎病発症率の増加との関連が研究されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7389629/


暑さで高まる子どもの川崎病リスク – 東京医療保健大学