桂枝の基礎から処方鑑別まで解説

桂枝の基礎知識と核心ガイド

桂枝を処方評価へ生かす要点

桂枝と桂皮を区別する

桂枝はシナニッケイの小枝、桂皮は樹皮を基本とする生薬であり、名称と実際の製剤構成を確認する。

桂枝湯は表虚を捉える

悪寒や発熱に自然発汗を伴う感冒初期など、体力低下を背景とする病態像を総合的に評価する。

甘草重複を必ず確認する

桂枝湯の安全性評価では、併用漢方薬や甘草含有製剤との重複、血圧と血清カリウム値に注意する。

桂枝とは何か:基原と桂皮との違い

桂枝(けいし)は、クスノキ科のシナニッケイ(Cinnamomum cassia J. Presl)の小枝を乾燥して得る生薬です。生薬ラテン名はCINNAMOMI RAMULUS、英名はCinnamon Twigとされます。一般には径1.5cm未満の小枝が用いられ、暗赤褐色から紫褐色の外面、特異な芳香、甘味にわずかな辛味を特徴とします。漢方医学では、体表に生じた寒邪への対応、発汗の調整、経脈を温める目的などで位置付けられてきました。桂枝は単独の生薬名であると同時に、「桂枝湯」「桂枝加芍薬湯」「桂枝茯苓丸」など、処方名の構成要素としても広く知られています。

一方、桂皮(けいひ)は、同じくシナニッケイに由来するものの、原則として樹皮または周皮の一部を除いた樹皮を用いる生薬です。日本薬局方には桂皮が収載されており、桂枝は日本薬局方外生薬規格に収載されています。臨床現場で「桂枝湯」という処方名に接しても、製剤の生薬組成欄では「桂皮」と記されることがあります。このため、処方名の桂枝と、原料生薬として表示される桂皮を機械的に同一視も完全に別物ともせず、製剤ごとの添付文書・インタビューフォーム・生薬組成を確認する姿勢が重要です。

ケイヒ/新常用和漢薬集 | 公益社団法人東京生薬協会

桂枝(ケイシ)の基原・性状:公益社団法人東京生薬協会

桂枝湯における桂枝の位置付けと構成生薬

桂枝を理解する際には、基本処方である桂枝湯(けいしとう)を押さえることが有用です。桂枝湯は『傷寒論』に記載された代表的な処方の一つで、桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗の5生薬から構成されます。現代の医療用漢方製剤では、製造販売元や製剤規格により原料の表記・配合量・エキス量が異なる可能性があるため、処方名だけで詳細な配合比を断定しないことが大切です。

桂枝湯
桂枝湯は、漢方の古典『傷寒論』の基本処方の1つで、麻黄湯(まおうとう)とともに辛温解表(しんおんげひょう)の代表処方である。主に感冒や感染症などの急性熱性疾患(傷寒)の初期で、人体の体表の抵抗力(衛気)が弱まっている状態(表虚証)に用いる。

漢方医学的には、桂枝湯は辛温解表薬の代表処方の一つで、外感風寒表虚、すなわち急性熱性疾患の初期において、体表の防御機能が弱まり自然発汗を認める病態に用いると解釈されます。桂枝は主薬として、穏やかな発汗を助けながら体表の状態を整える役割を担うと説明されます。芍薬は営陰を保ち、桂枝とともに営衛の調和に関与するとされ、生姜・大棗・甘草は消化器症状や全身状態への配慮を含め、処方全体のバランスを形成します。

構成生薬 漢方医学上の位置付け 服薬支援での着眼点
桂枝または桂皮 解肌発表、温経散寒の中心となる生薬 処方名の桂枝と製剤表示の桂皮を区別して確認する
芍薬 営陰を保ち、桂枝との組み合わせで営衛を調和する 桂枝湯類では芍薬の増減により処方特性が変化する
生姜 桂枝の働きを補助し、胃を整え悪心などに配慮する 生姜・乾姜の表記や配合量は製剤ごとに確認する
大棗 脾胃を補い、処方全体を調和する生薬とされる 体質・食欲・消化器症状を問診する際の補助情報となる
甘草 諸薬を調和し、急迫症状の緩和に関わるとされる アルドステロン症やミオパチー、重複投与に注意する

桂枝湯類の位置付け:公益社団法人日本薬学会

桂枝湯の適応判断:症状だけでなく証を確認する

桂枝湯は「風邪薬」と単純化されがちですが、医療従事者が服薬支援を行う際には、感冒初期という時間軸に加え、患者の体力、発汗の有無、悪寒・悪風、発熱、頭痛、脈状、皮膚や筋の状態、胃腸症状などを総合的にみる必要があります。桂枝湯類は、一般に発汗傾向を伴う表虚の病態を重視します。したがって、強い悪寒があり汗が全く出ない、体力が比較的充実している、筋肉痛や項背部のこわばりが前景にあるといった場合は、同じ感冒初期であっても別の処方が検討されることがあります。

医療用の桂枝湯エキス顆粒では、効能又は効果として「体力が衰えたときの風邪の初期」が示されています。一部の製剤では、自然発汗、微熱、悪寒を伴う状態に対し、感冒、頭痛、神経痛、関節・筋肉リウマチ、神経衰弱などが記載されています。ただし、製剤により承認された効能又は効果は異なるため、患者への説明、適応外使用の検討、レセプト・薬歴記載では、採用製剤の最新添付文書を根拠にする必要があります。

参考)www.nikkankyo.org/…/035.pdf

  • 発症時期を確認し、感冒や急性症状の初期段階かを把握する
  • 自然発汗の有無と、悪寒・悪風・微熱・頭痛などの組み合わせを評価する
  • 体格だけで判断せず、体力低下、食欲、疲労、消化機能などを確認する
  • 高熱の持続、呼吸困難、意識変容、脱水、胸痛などがあれば漢方の継続判断より緊急性評価を優先する
  • 自己判断での長期服用を避け、症状の変化に応じて再評価する

桂枝を含む桂枝湯類と類似処方の見分け方

桂枝湯を基礎に、病態に応じて生薬を加減した処方群は桂枝湯類と呼ばれます。桂枝湯の芍薬を増量した桂枝加芍薬湯は、虚弱傾向があり腹部膨満感、腹痛、しぶり腹などを伴う病態で用いられます。また、桂枝加芍薬湯に膠飴を加えた小建中湯は、腹部の緊張や胃腸機能の調整を重視する処方として知られます。処方名に「桂枝」があるからといって、すべてを感冒治療薬と捉えるのは不適切です。

葛根湯も桂皮を含む代表的な漢方製剤ですが、麻黄を含み、一般に発汗が乏しい感冒初期、項背部のこわばり、比較的体力がある状態などで検討されます。麻黄湯も麻黄を含むため、心悸亢進、不眠、発汗、排尿障害、血圧上昇などの副作用に注意を要します。桂枝湯との使い分けを「汗があるか、ないか」だけに還元するのではなく、体力、熱感、悪寒、筋肉痛、項背部の緊張、基礎疾患、併用薬、製剤ごとの適応を合わせて評価することが臨床的です。

桂枝茯苓丸も桂皮を含む処方ですが、婦人科領域を含む瘀血の病態を主な対象とする処方であり、桂枝湯とは治療目的も病態把握も異なります。患者が「桂枝が入っているから前に飲んだ薬と同じ」と認識している場合には、処方名、生薬構成、期待する効果、服用目的が異なることを平易に説明すると、誤用や不適切な自己調整の予防につながります。

ケイ - 近大 薬 植物園内の植物

安全性評価と服薬指導:甘草重複を中心に確認する

桂枝そのものに注目するだけでなく、桂枝湯という複数生薬の漢方製剤として安全性を評価することが不可欠です。特に桂枝湯には甘草が含まれるため、甘草含有漢方製剤、甘草含有医薬品、グリチルリチン酸を含む製剤との併用では、成分重複に注意します。添付文書では、低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液貯留、浮腫、体重増加などを伴う偽アルドステロン症への注意が示されており、必要に応じて血清カリウム値、血圧、浮腫、筋症状を確認します。

ツムラ桂枝湯エキス顆粒(医療用)の基本情報(薬効分類・副作用・添付文書など)|日経メディカル処方薬事典
ツムラ桂枝湯エキス顆粒(医療用)(一般名:桂枝湯エキス顆粒)の薬効分類・副作用・添付文書・薬価などを掲載しています。「処方薬事典」は日経メディカルが運営する医療・医薬関係者向け医薬品検索データベースです。

問診では、降圧薬、利尿薬、ステロイド薬、他の漢方薬、市販薬、サプリメントを含めた使用状況を確認します。患者は処方薬と一般用漢方薬を別のものと考えがちなため、「風邪薬」「胃腸薬」「むくみの薬」などの目的別に尋ねると、甘草を含む市販製剤や他の漢方製剤の併用を把握しやすくなります。発疹、発赤、そう痒などの過敏症状も副作用として報告されているため、服用後に皮膚症状が出現した場合は中止と受診・相談を促します。

医療用医薬品 : 桂枝湯 (ツムラ桂枝湯エキス顆粒(医療用))
漢方製剤; 総称名:桂枝湯; 一般名:桂枝湯; 販売名:ツムラ桂枝湯エキス顆粒(医療用); 製造会社:ツムラ

妊婦、妊娠の可能性がある患者、授乳婦、小児、高齢者、腎機能・心機能に問題のある患者、高血圧患者では、個別のリスク評価が必要です。高齢患者では複数の漢方薬・一般用医薬品の併用が起こりやすく、腎機能低下や低栄養などにより電解質異常の影響を受けやすい可能性があります。服薬指導では、「漢方だから安全」と一律に伝えるのではなく、処方目的、想定される改善時期、継続可否を再確認する目安、副作用の初期症状、重複回避を具体的に共有することが重要です。

参考)www.tsumura.co.jp/…/045.pdf